発展途上国の視力問題に取り組む技術と活動

低所得国における失明に関する現況調査から、視力低下した人々の多くは単に眼鏡が必要であることが明らかとなっている一方、その解決は容易ではない。途上国では深刻な眼科医の不足によって、眼鏡作成のための視力検査と処方箋が得られず、また眼鏡を買う金銭的余裕もない(過去記事: 途上国の失明問題に取り組むAIツール)。感染症がまん延するような地域では、視力矯正の優先度が低く取り扱われる現状もある。一方で、視力低下による経済損失は大きく、視力矯正で識字率向上や交通安全などを通した生産性向上と収入増も期待できる。

Natureの記事では、Peek Acuityというスマートフォンアプリを利用した取り組みが紹介されている。スネレン視力表という古典的な検査法に基づき、字を読めない人であっても年齢を問わず直感的で簡易な操作を通して、視力スクリーニングを行うことができる。妥当性の検証試験では、ケニアにある50の学校に通う2万人の子どもを対象に、アプリを利用したスクリーニング検査を実際に行ったという。アプリの有効性はもとより、使用方法を教師などに教えることで、医療関係者を現地に送る必要性もないことが確認されている。また、ソーラー電池を用意し遠隔地に持ち込むことで、さらに多くの人々に技術を届ける努力が続けられているとのこと。

視力測定の問題の次には、低価格の眼鏡にアクセスできるような社会的取り組みにつなげられてゆく。米企業のVisionSpringや、NPOのEYEllianceによる活動があり、ここではマラリア対策やきれいな水を確保する資金・労力の1%未満というレベルで、眼鏡が提供できると広報されている。途上国における視力問題の解決に向け、活動の輪は着実に広がっている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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