医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例AIとロボットが薬剤師を調剤から解放する新時代

AIとロボットが薬剤師を調剤から解放する新時代

薬剤師が調剤室に拘束される時代は終わりを告げようとしている。ロボットとAIによる調剤作業の自動化で、薬剤師を単純労働から解放し、医療の最前線に復帰させ、専門知識を有効活用する機運が高まってきた。英国NHSでは2017-2018年で174億ポンドの薬剤が消費され、処方件数は年間11億件(1分間に2000件)と、依然として調剤にかかる負担は大きな課題となっている。新技術は薬剤師の働き方をどのように変えて行くだろうか。

RACONTEURでは、英国で薬剤師と薬局に訪れている変化を報じている。業界への新技術導入は取り組むべき規制や法的要件が膨大であったため、その他の業界に比べ発展が遅かったと指摘される。そのような中、ようやく技術進歩による真のメリットが見られるようになってきているという。

調剤のオートメーション化による時間の節約は、薬剤師が患者と対面して専門的な助言をする時間を生み出した。大衆向けの薬局には患者の変化するニーズに適応する必要がある。特に合併疾患の増加による多剤服用は薬剤同士の相互作用など複雑なもつれを起こしている。NHSの統計では、成人の24%以上が3つ以上の薬を服用しているという。薬剤師が迅速かつ安全に患者に薬を届け、その複雑な状況にアドバイスすることは医療の安全に大きく寄与する。

また、AIアルゴリズムの活用とデータ分析は、複雑な調剤から発生するエラー率を削減する。NHSでは年間約16億ポンドを調剤エラーに費やしていた。AIアルゴリズムは季節性や地域性に変化する医薬品需要を予測する。学術誌Pharmaceutical Journalには、薬局ロボットの設置から4ヶ月以内に調剤エラーを50%削減した事例や、処方量を2倍以上にしながらも患者の待ち時間を10分の1に削減した事例が報告され、恩恵は目に見える形となってきた。

時間の節約は、薬剤師の業務フローのみならず、関係各所にまで影響を及ぼす。患者が正しく服薬できない状況に対して、仕分けされた薬の袋を直接提供するPillTimeというサービスでは、関係部署である看護師が1日90分の時間を節約できたという。

一方で、調剤の自動化は1システムあたり約5万〜50万ポンドという設備コストと保守的な考えにより、施設間の差が生まれてきた。英国の業界団体National Pharmacy Associationの代表Nitin Sodhaは「既に社会から評価されている現在のサービスに、新しい技術は織り込まれていかなければなりません。ローカルに行われてきた薬局のサービスを弱めるのではなく、コミュニティに焦点を合わせ最適化された技術の適用が必要です。私たちは薬剤師という専門家の意見を無視してはならず、薬には病気を癒すだけではなく、傷つける力があることを常に忘れてはなりません」と語った。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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