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声から冠動脈疾患リスクを評価するAI研究

音声の特徴をバイオマーカーとして疾患リスクを予測する技術が進歩を遂げつつある。米メイヨークリニックのチームは、心臓の動脈にプラークが蓄積する「冠動脈疾患(CAD: coronary artery disease)」について、音声バイオマーカーからそのリスクを評価する研究を行っている。

米国心臓病学会(ACC)は、4月2日から開催されるACC22で発表予定の同研究を紹介している。本研究では、CAD評価のため冠動脈造影検査が行われた患者108名を対象として、米Vocalis Health社のスマートフォン用アプリで音声サンプルを収集した。研究参加者は30秒間の音声サンプルを3回収録するよう求められ、最初は用意されたテキストを読み上げる、2回目はポジティブな体験を、そして3回目ではネガティブな体験についてを自由口述するというもの。Vocalis Healthのアルゴリズムは、イスラエルで収集された1万件以上の音声サンプルから、周波数・振幅・ピッチ・ケイデンスなど80以上の特徴を解析するようトレーニングされている。研究チームはこれまでにCADと関連の強い音声の特徴6つ特定しており、それらの特徴を独自スコアにまとめ、-1〜+1という数域で表現した。患者全体の3分の1を高スコア群、3分の2を低スコア群に分類したところ、高スコア群はCAD関連の主要なイベント発生リスク(胸痛による救急受診および入院、急性冠症候群の発症)が低スコア群に比べて2.6倍高く、負荷試験陽性または冠動脈造影でCADの存在が確認されるリスクが3倍高いことが示された。本研究の成果はACC22での発表と合わせ、Mayo Clinic Proceedingsに収載されている。

声の特徴がCADリスクの指標になる理由を本研究では結論付けていないが、自律神経系の関与が検討されている。自律神経系には、声帯機能ならびに心拍や血圧など循環器系の要素が多く含まれており、これによって声と循環器系疾患の関連が生まれていると著者らは考察している。また、本研究は米国中西部の英語話者を対象としており、このアプローチが言語・国・文化に関わらず一般化して拡張できるかについては、さらなる検証を必要としている。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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