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乳がん識別AI – 人の学習過程を模倣したAIが放射線科医のパフォーマンスを凌駕
乳がんは依然として世界的な課題であり、2018年には世界で60万人以上が乳がんのために命を落としている(参照論文)。死亡率を低減させる有効な取り組みとしてマンモグラフィによるスクリーニングが推奨されているが、増加する撮影済み画像数に対して読影専門医の増加が十分でないこと、偽陽性率および偽陰性率が見逃せない程度に高いことが問題となってきた。
11日、Nature Medicineに発表された研究論文では、上記の課題に対応するため新しい深層学習モデルの構築方法を明らかにした。より有効性の高いモデルを得るために重要となる点として、ラベル付きトレーニングデータを大量に取得すること、および母集団・機器・モダリティの全体で一般化を確実にすること、にフォーカスしている。チームは人間の学習過程を模倣するアプローチを採用しており、AIモデルを段階的にトレーニングし、各フェーズで学習した事前情報を活用していくことで高度にラベリングされたデータへの依存を減らし、正確に乳がんを検出するモデルの導出に成功したとのこと。
研究チームが構築したマンモグラフィのスクリーニングAIを5人の読影専門医と比較したところ、ツールは5人全てのパフォーマンスを上回り、感度は平均14%向上したことが示された。また興味深いことに、欧米人のデータからトレーニングされたこの深層学習モデルが、中国人集団においてもAUC 0.971を示すなど、モデルの高い一般化可能性も併せて明らかにしている。チームの着想が乳がんスクリーニングのあり方を変革させるものとなるか、期待は大きい。
FDAがアップデートした5つの方針「AI/MLベースSaMDへのアクションプラン」
FDA: Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)はデジタルヘルス機器の安全性と有効性に対して規制当局の立場から承認を与えている。特に昨今の「AI/機械学習をベースとしたSaMD: Software as a Medical Device(医療機器としてのソフトウェア)」開発においては、革新的な技術をFDAがどう監視していくか、一挙手一投足が注目され医療機器市場の動向を左右している。AI/機械学習が前例のないブレイクスルーを起こす可能性から、承認対象となる機器の利害関係者らと継続的な対話およびフィードバックを歓迎する方針をFDAは表明してきた。
FDAの12日付リリースでは「AI/機械学習ベースSaMDへのアクションプラン」が発表され、今後FDAが同分野に対して実施していく方針が概要として5つ示された。1.ソフトウェアの経時的な学習に関して事前策定する変更管理計画のガイダンス案発行、2.機械学習アルゴリズムの評価と改善に適したプラクティスの開発支援、3.デバイスの技術的透明性など患者中心のアプローチ促進、4.機械学習アルゴリズムを評価し改善する手法の開発、5.実世界でのパフォーマンスを監視するパイロット手法の発展、という5項目が挙がっている。
今回のアクションプランは、FDAから2019年4月に示された「AI/機械学習ベースSaMDの修正に関する規制枠組案」に対して各利害関係者からのフィードバックを受けて出されたものである。FDAではアクションプランが最新の状態を維持し、患者の安全性に対処し、有望な技術へのアクセス向上のために進化し続けることを期待している。
TRAVEL GUIDE
AIが「がん細胞における人種差」を明らかに
米オハイオ州に所在するケースウェスタンリザーブ大学の研究チームは、がん細胞に対するAIを用いた画像分析により、黒人男性と白人男性の前立腺がんに重要な組織学的差異があることを示した。研究成果は先週、学術誌Clinical Cancer Researchにて公開された。
チームは、前立腺がん手術後の再発リスクが高く「補助療法の恩恵を受ける可能性の高い患者」を、画像単独で識別するためのAIアルゴリズムを開発した。当初、患者データは約80%が白人であったため、データセット全体から導いたモデルには強いバイアスが内包されていた。一方、人種ごとのモデルを作成すると、特に黒人患者における再発リスク予測の精度が6倍に向上し、人種間のがん細胞における組織学的差異のあることが考えられた。さらに腫瘍自体の評価だけではなく、間質の画像評価も行ったところ、化学療法や免疫療法といった治療法ごとの再発率予測における精度にも向上がみられたという。
研究に携わった同大学のPatrick Leo博士は、Medical Xpressの取材に対し「全てを一緒くたにしたモデルを作成するだけでは、少数派の患者のパフォーマンスが低下するリスクがある。母集団に固有の側面を慎重に含めることが欠かせない」とし、細胞レベルでの研究にも多様性を考慮する必要性に言及している。
サウジアラビア – AI開発についてHuaweiとのパートナーシップを公表
サウジアラビアの国立人工知能センター(NCAI)は、同国における国家的AI開発戦略において、中国の通信機器大手・Huaweiとのパートナーシップを公表した。NCAIはAI開発や戦略を実行する主導機関であり、Huaweiはサウジアラビアにおけるヘルスケアや都市管理、エネルギー、製造、輸送、ロジスティクスなど500に及ぶ多彩なAIプロジェクトに関与することが期待されている。
このほどHuaweiが行ったニュースリリースによると今回のパートナーシップは、サウジアラビアが積極的に進める「民間セクターが保有する先端ソリューションとグローバルな視野の取り込み」の一環であるという。サウジアラビアはAI領域に関して企業・研究機関など適切なテクノロジーパートナーを多方面に求めており、独自の人材プール強化を通した「AIによる新しい成長戦略の確立」を目指す。
Huawei Middle EastのCharles Yang社長は「当該機関との協力によってこれら技術ドメイン全体で新しい価値を創造し、地元のAI開発者や業界パートナーとの協力を通して、サウジアラビアをデータ主導型経済に変革することを楽しみにしている」と述べた。
PHONES & DEVICES
米Jvion社 – COVID-19ワクチン接種優先順位づけをAIが支援
新型コロナワクチンの接種が世界的に開始されているが、他国と比較し米国でのワクチン接種が想定より進んでいない現状が伝え聞かれる。米国でのワクチン接種は行政単位ごとに、CDCガイドラインに基づいた優先順位がつけられている。効果的な優先順位づけのため、医療AI開発企業のJvionは「AIを適用したCOVID-19ワクチン接種優先順位指数(VPI: Vaccination Prioritization Index)」の提供開始を発表している。
Jvion社の19日付プレスリリースによると、同社の提供するVPIは昨年春から発表してきたCOVID-19に対する地域脆弱性マップに更新を加え、CDCガイドラインと社会経済的脆弱性に基づき、地域のワクチン接種優先度を指標化したものである。ワクチン接種優先順位は、郡と郵便番号ごとに1から6までのスケールで評価するレイヤーがマップ上に示され、公衆衛生当局がワクチンの優先順位の高いエリアを地域社会の構造に基づいて絞り込むのを支援する。VPIツールはMicrosoft Azure上に構築された「Jvion CORE」という機械学習と予測分析を行うJvionの基幹AI技術で実装されている。2020年3月の公開以来Jvionのマップは、ホワイトハウスタスクフォース・連邦緊急事態管理庁(FEMA)・各軍組織・州および地方自治体のメンバーを含め、200万回以上閲覧されてきた実績を持つという。
日本においてもCOVID-19のワクチン接種計画が次第に明らかにされてきたが、初期の接種対象者である医療従事者の間でも計画に対する不安は否めない状況にある。COVID-19の打開策として期待される第一歩のワクチン接種が効果的に進むか、優先順位づけを含む各国の計画の推移に注目していきたい。
精子の細胞内pHから「体外受精の成功」を予測する機械学習アルゴリズム
体外受精(IVF)は不妊治療の1つで、取り出した卵子と精子から体外で受精卵を作り、これを子宮に移植するものだ。米ワシントン大学やノースウェスタン大学などの共同研究チームは、正常精子のpHからIVFの成功を予測する機械学習アルゴリズムを構築した。
Fertility and Sterilityからオンライン公開されているチームの研究論文によると、IVFを受ける男性で、精子に異常のみられない76名のデータからこのアルゴリズムを導いたという。ここではIVF成功予測のための主要な決定因子として、精子の細胞内pHを仮定している。精子pHおよび膜電位、臨床データから構築した勾配ブースティングによる機械学習アルゴリズムは、AUC 0.81、感度0.65、特異度0.80でIVFの成功を予測していたという。
研究チームは、臨床パラメータとともに精子pHなど受精能のマーカーを利用することで、IVFを受けている正常精子男性からの受精成功を予測できると結論づけている。生殖領域における機械学習手法の有用性にも言及しており、対象集団を拡張した研究継続とエビデンスの蓄積が期待されている。
LATEST TRENDS
放射線科医とAIの協調による高精度乳がんスクリーニング
米ニューヨーク大学(NYU)の研究チームは、マンモグラフィ画像の読影において、放射線科医とAIの共同作業が高精度な乳がんスクリーニングを実現できることを示した。
チームの研究報告によると、この乳がんスクリーニングAIは、20万枚を超えるマンモグラフィ画像から構築されており、放射線科医の読影と併せることで90%の乳がん識別精度を達成したという。同大学の公表によると、論文の著者であるKrzysztof J. Geras博士は「AIは人間の目で見ることのできないピクセルレベルの変化を検出することができるが、逆にAIが持ち得ない推論を人間が行うことによって、乳がんスクリーニング全体の精度が補完される」としている。
米国では年間4000万件ものマンモグラフィ検査が実施されているが、偽陽性(本来的に乳がんを持たないが検査上は乳がんを疑われる症例)もしばしば問題となる。これは確定診断のためには生検(外科的に組織サンプルを採取して調べる検査)が必要となることから、健常者に対する侵襲性としては決して低くないためだ。AIと放射線科医の協調により、精度の高い乳がんスクリーニングを実現することは、現実的で価値の高いAI活用法として期待が大きい。
口腔がんの治療選択を個別最適化するAIシステム
米オハイオ州クリーブランドに所在するケースウェスタンリザーブ大学などの研究チームは、口腔がんの治療法選択を患者ごとに個別最適化するためのAIシステム開発に取り組んでいる。中心となる研究センター・CCIPDは、特にがん治療分野を中心として60を超える特許を保有するなど、精密医療におけるAI活用の先導的地位を確立している。
研究チームは6日、同大学公式ウェブサイトを通じ、米国立がん研究所(NCI)から5年間で330万ドルの研究助成を受けて、今回のシステム開発を加速させることを明らかにした。チームのテクノロジーは高度なコンピュータビジョンおよび機械学習技術に基づくもので、デジタル化された口腔がんの組織スライドから「がんと免疫細胞、および細胞間の空間パターン」を認識する。ここから、がんの悪性度や手術適応、化学療法および放射線治療の必要性などを識別するAIの開発に結びつけている。
これまでの治療法選択は限られたパラメータに基づく、比較的大枠での分類であったため、手術単独療治療が適応となる群にも、本来は放射線治療を加えるべきサブセットが一定数混じることなどが問題となってきた。口腔がんは米国におけるがん罹患の3%を占め、世界では年間40万人の新規症例が報告されている。チームの新しいAIシステムが潜在的に果たす役割は大きく、治療戦略策定を根本から書き換えるものとなる可能性もある。
REVIEWS
米Jvion社 – COVID-19ワクチン接種優先順位づけをAIが支援
新型コロナワクチンの接種が世界的に開始されているが、他国と比較し米国でのワクチン接種が想定より進んでいない現状が伝え聞かれる。米国でのワクチン接種は行政単位ごとに、CDCガイドラインに基づいた優先順位がつけられている。効果的な優先順位づけのため、医療AI開発企業のJvionは「AIを適用したCOVID-19ワクチン接種優先順位指数(VPI: Vaccination Prioritization Index)」の提供開始を発表している。
Jvion社の19日付プレスリリースによると、同社の提供するVPIは昨年春から発表してきたCOVID-19に対する地域脆弱性マップに更新を加え、CDCガイドラインと社会経済的脆弱性に基づき、地域のワクチン接種優先度を指標化したものである。ワクチン接種優先順位は、郡と郵便番号ごとに1から6までのスケールで評価するレイヤーがマップ上に示され、公衆衛生当局がワクチンの優先順位の高いエリアを地域社会の構造に基づいて絞り込むのを支援する。VPIツールはMicrosoft Azure上に構築された「Jvion CORE」という機械学習と予測分析を行うJvionの基幹AI技術で実装されている。2020年3月の公開以来Jvionのマップは、ホワイトハウスタスクフォース・連邦緊急事態管理庁(FEMA)・各軍組織・州および地方自治体のメンバーを含め、200万回以上閲覧されてきた実績を持つという。
日本においてもCOVID-19のワクチン接種計画が次第に明らかにされてきたが、初期の接種対象者である医療従事者の間でも計画に対する不安は否めない状況にある。COVID-19の打開策として期待される第一歩のワクチン接種が効果的に進むか、優先順位づけを含む各国の計画の推移に注目していきたい。