骨粗鬆症を防ぐ大規模AIプロジェクト – EUREKAフレームワークへの採択

欧州における先端技術の共同研究計画を推進する枠組み「EUREKA」において、Storm IDとZebra Medical Visionが新しいパートナーとして採択された。臨床実装を目指す新しいAIシステムは、骨粗鬆症の早期発見・介入により患者ケアの質的向上と医療コスト削減を狙うものだ。 デジタルテクノロジー領域のコンサルティングを手がける英Storm IDは23日、イスラエルの医療AIスタートアップであるZebra Medical Visionとの協力によって、骨粗鬆症の早期発見を目指す新しいAIシステムの開発に取り組むことを明らかにした。これは医療画像と電子カルテ記録から「骨粗鬆症とそれに伴う骨折リスクの高い者」を検出するシステムで、2年間に渡る共同研究と臨床試験を経て、英国およびイスラエルの病院への実装を目指す。またこのプロジェクトはEUREKAフレームワークのもと、英国・イスラエル両国による資金援助が予定されている。 世界的な有病率の上昇を認める骨粗鬆症は、外傷とは無関係に骨折をきたす「脆弱性骨折」の主たる原因で、特に高齢者における脆弱性骨折は深刻な転機を誘発することがあり問題視されてきた。Storm IDのディレクターであるPaul McGinness氏は「潜在的なリスクを事前予測することで、適切な早期介入を実現することができる。これは患者だけでなく、医療システム全体にとっても望ましいことだ」と話す。

米Nuanceの医療用音声書き起こしAI – 米最大級医療グループProvidenceと提携

医師と患者の会話を音声認識から自動で書き起こすAIプラットフォームの開発競争が進んでいる。テック大手とのパートナーシップで各社はシェア拡大を見込むが、なかでも米Nuance CommunicationsはMicrosoft社との提携で注目された(過去記事)。更なる進展としてNuanceは米国最大級の非営利カトリック系医療グループを展開するProvidenceとの協力関係を発表している。 Nuanceのニュースリリースによると、Providenceが米国7州でグループ展開する51の病院や1,085の診療所などでNuanceの音声対応AIプラットフォームを活用していくこととなる。同社のアンビエントセンシング技術は、患者の同意のもとに臨床医との会話を聞き取り、電子カルテ内への文書化を補完していく。その結果、医師を患者のケアに集中させ、医療者の燃えつきの原因のひとつとされる管理業務の緩和促進が期待できる。 ProvidenceのAmy Compton-Philips医師は「Nuanceとのパートナーシップは、医師や看護師が提供する最前線のケアを記録に残すというハードワークを容易なものにします。開発されたツールによって医療者がキーボードではなく患者に集中できるようになるでしょう」と語った。

GE Healthcare – COVID-19患者における気管挿管を支援するAIツールを公表

COVID-19患者のICU治療においては、高頻度に気管挿管による呼吸管理が伴う。集中治療医や麻酔科医にとって挿管手技自体は珍しいものではないが、留置後の挿管チューブ位置確認は欠かせない。種々ある異所挿管の中でも、「片肺挿管」は低酸素血症や肺の圧外傷、気胸など重篤な合併症を引き起こし得る。GE Healthcareはこのほど、気管内チューブの位置を正確に捉えるAIソリューションを公開した。 GE Healthcareが23日明らかにしたところによると、このツールはGEのCritical Care Suite 2.0に含まれる5つのソリューションの1つであるという。気管挿管実施後の胸部レントゲン画像を自動解析することで、気管内チューブを正確に捉えるとともに、適切な配置であるか、追加処置が必要であるかを判断することができる。気管内チューブは上記の合併症を回避するため、気管竜骨より先に進めないことが求められるが、このツールでは症例の94%において、チューブ先端と気管竜骨との距離1.0cm以内までを正確に捕捉することができる。 重症COVID-19の治療においては物的・人的リソースと時間の制約から、挿管患者における気胸・圧外傷の発生増が危惧されている。GE Healthcareは「これらの特定と警告によって、迅速な患者治療の導入も実現する」点に言及し、医療現場をひっ迫させるCOVID-19治療を助ける革新的テクノロジーとして大きな自信を示す。

MIT – ニューラルネットワークをいつ疑うべきなのか?

種々のAIシステムは人々の健康から安全管理、利便性向上まであらゆる場面に活用されるようになった。一方で、複雑で重要な意思決定の場において、盲目的に信用できるほどの高い信頼性を得ているシステムは未だ限定的である。米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、利用データの質からニューラルネットワークが示す結果の確からしさを評価する新しい手法を開発した。 MITが20日明らかにしたところによると、deep evidential regressionと名付けられた同手法では、何らかの答えを生むネットワークの構築に際して、1回のみの実行結果からその決定の確からしさをサポートする"エビデンス"の確率分布を生成する。evidential distribution(証拠分布)は予測モデルの信頼性を直接的に評価していることとなる。この確率分布はニューラルネットワーク自体を微調整することで不確実性を減らすことができるかどうか、または入力データにノイズが多いのかどうかを判断する拠り所ともなる。 ニューラルネットワークの不確実性分析は新しい技術ではない。しかし、ベイジアンディープラーニング以前のアプローチでは、信頼性評価がニューラルネットワークの実行とサンプリングに過度に依存していたため、そのプロセスには多大な時間とメモリを必要とした。今後、ニューラルネットワークはさらに大規模になることが予想されており、時として数十億のパラメータで溢れるモデルが扱われることになる。研究チームが開発した単回の実行結果から確からしさを評する技術は、今後その重要性を高める可能性から研究者コミュニティからの大きな注目を集めている。

AIは投薬のエラーを予防できるか?

医師の投薬オーダーのミスを減らす様々な技術の開発が進んでいる。その一方で現状のアルゴリズム開発が現場の投薬ミスを正確に認識できるかについて限界も示されている。カナダのモントリオールにあるラバル大学と、大規模小児医療センターのCHU Sainte-Justineで行われた共同研究では、投薬オーダーの異常を検知する機械学習モデルの臨床的な有用性が検証された。 プレプリント版としてarXivで公開中の同研究によると、2005年から2018年まで284万件以上の投薬オーダーから訓練された異常な投薬オーダーを検出する機械学習モデルについて、前向き研究が2020年4月から8月まで実施された。その間にオーダーされた12,471件の投薬に対して25名の薬剤師がモデルの性能を評価したところ、異常検出の精度F1スコアは0.30と低いパフォーマンスを示した。一方で処方箋内に「何らかの非定型な異常オーダーが含まれる」という予測であれば、F1スコアは0.59と満足できる精度を達成できた。 著者らによると、このモデルにおける個々の投薬オーダーの異常検出については薬剤師の信頼に及ばなかったが、どの処方箋に異常が含まれるか特定することについては満足できる結果であった。今後は、臨床の意思決定支援ツールとして利用するもののひとつとして、予測の質を向上させていくことが有益であると述べられている。

名前と場所から民族情報を予測する機械学習研究 -カナダの疫学データベースを補強

カナダは民族的な多様性のある移民の国として知られる。しかし、国内の大規模データベースに民族情報が不足していることが、民族間の健康要因を検討する際に公衆衛生学的課題とされていた。いわゆるアボリジニ(カナダ先住民であるファースト・ネーション、イヌイット、メティらの総称)が社会的不平等から健康上の課題を抱えている可能性は常に指摘がある。「民族情報を名前と居住地から機械学習アプローチにより予測する」研究がカナダ・アルバータ大学のグループによって査読つきオープンアクセスジャーナル PLOS ONEに発表されている。 アルバータ大学のニュースリリースでは同研究を紹介している。カナダにおける1901年の国勢調査にある480万人の「名前」と「位置情報」を分析する機械学習フレームによって、その個人が13の民族グループのいずれに属するかを予測した。民族・言語グループによって、名前の響き・文字数・母音の数・固有の文字列などに特徴が現れることに着目している。名前だけでも特に中国人・フランス人・日本人・ロシア人にルーツをもつ個人の識別に優れたパフォーマンスを発揮できたが、アボリジニについては位置情報も含めることで予測精度が向上した。 筆頭著者のWong氏によると「米国の医療記録には民族情報に関する質問が含まれる傾向があるが、カナダのデータベースでは一貫して収集されていない」という。Wong氏は特に多民族性の強いノースウエスト準州で疫学調査ポストに就いていた際、先住民の健康に影響を与える医療の社会的不平等に関心をもった。費用と時間を要する国勢調査レベルのものを新たに実施するより、同研究のアプローチでは既存の記録から多くのことを学べる点に優位性がある。将来的にはカナダの疫学調査において、同研究のような民族性で補強されたエビデンスが応用されていくことを研究グループは期待している。

がん患者へのAIによるリスク層別とその経済効果

救急治療室の受診はその66%もが回避可能とされる一方で、平均コスト2,032ドルによって米国医療費にとって年間320億ドルもの負荷を上乗せしている(参照論文)。そういったなか、がん患者による救急治療室受診も主要な割合を占めており、適切なリスク層別による不要受診の回避が求められてきた。 Healthcare Financeが19日報じたところによると、米国テキサス州に所在する「がん・血液疾患センター(CCBD)」ではAIシステムを利用し、がん患者のリスク層別を通した不要な救急治療室受診の回避によって、医療提供者と患者双方の時間・費用の節約を実現しているという。CCBDが導入するAIシステムはJvionが開発したもので、患者情報から4,000に及ぶ変数を取り込み、状態の悪化や救急治療室を受診するリスク、入院リスク、精神疾患リスク、および30日以内の死亡リスクなど、多面的な結果をまとめた週次レポートを送付する。システムは医師に対し、この中で特に問題があると特定される患者のアラートを送るとともに、原因となる特定の要素を解決し得る臨床オプションも提示する。 技術は3年前に実装されたが、当該AIシステムの導入後、約300万ドルのコスト削減に成功しているという。種々のベンチマークで特に改善がみられたのは、最終的な患者転機・うつ病の識別・ゲートキーパー機能の強化とのこと。実際、CCBDはがん患者における疼痛管理とうつ病治療のために専門医を紹介するケースが有意に増加した。CCBDを率いるRay Page医師は「AIが患者管理における相加的な役割を果たし続ける」ことを強調している。

AIでオピオイド使用障害を早期発見

オピオイドへの依存・乱用を示す「オピオイド使用障害(OUD)」は、世界1600万人の罹患が推定されている。OUDはその疾患特性・社会背景から診断の遅れと見逃しが問題となってきた。イスラエル・アリエル大学の研究チームは、OUDの早期診断を実現する機械学習アルゴリズムの構築を目指している。 Pharmacology Research & Perspectivesに16日掲載されたチームの研究論文によると、2006年から2018年までにレセプトデータベースに収集された55万人の患者記録から、1000万件もの医療保険請求データを分析することで本アルゴリズムを導いたという。436の予測因子候補を、患者属性・全身状態・診断・投薬・医療費・エピソードなど6つの機能グループに分類した上で、Word2VecとGradient Boostingtreesによるモデル構築を行った。得られた最良のモデルではc統計量として0.959、感度0.85、特異度0.882を示していた。 チームは本アルゴリズムの利用によって「OUD診断までの期間を平均で14.4ヶ月短縮できること、罹患率・死亡率を低減する可能性と、これらを通した医療費削減効果」を強調している。2003年から2013年までの10年間においても、米国ではOUD患者が50%増加するなど急速な事態悪化をみており、本ツールが有効な技術的対策の一つとなるか注目が集まっている。

進行性メラノーマに対する免疫療法での治療反応を予測するAI研究

皮膚がんのひとつメラノーマによって米国では年間6,800人ほどの患者が亡くなっている。転移し進行したメラノーマの治療として「免疫チェックポイント阻害剤」が広まってきたが、どの腫瘍が治療に反応するか、正確な予測は一般化に至っていない。ニューヨークのランゴーン医療センターを中心に行われた研究「進行性メラノーマの免疫療法における機械学習アルゴリズムを用いた治療反応予測」が学術誌 Clinical Cancer Researchに発表されている。 ランゴーン医療センターのプレスリリースによると、同病院などで免疫チェックポイント阻害剤治療を受けた転移性メラノーマ患者121名から採取された302枚の組織標本によって、病勢進行のリスクが高いか低いかを分類するアルゴリズムが構築された。その検証結果ではAUC0.8前後が達成され、5例中4例で進行性メラノーマの免疫療法に対する治療反応が予測できる見込みとなった。 同研究は比較的画像の枚数が少ないという限界があり、さらに多くのデータを収集し精度を高めることが期待されている。ランゴーン医療センターのDr. Osmanは「現在の精度でも治療前に詳細な検査を受けるべき患者のスクリーニングには使用可能だが、臨床利用のために90%程度まで精度を高められるよう準備したい」とする。

Zebra Medical Visionが新たなマイルストーン – クラウドベースの画像AIを大規模展開へ

Zebra Medical Visionはイスラエル発の医療AIベンチャーで、複数のモダリティにおいて多くのFDA認証を取得するなど、業界を牽引する存在として注目を集めてきた(過去記事)。また近年は、Canon Medical Systems USAをはじめ、医療画像領域におけるトッププレイヤーとも協調することでその価値を飛躍的に向上させている(過去記事)。 Zebra Medical Visionはこのほど、イスラエル最大のヘルスケアプロバイダーであるClalit Health Servicesとの提携を公表し、クラウドベースの医療画像AIを大規模展開することを明らかにした。イスラエル在住者は、4つの保健維持機構(HMO)のいずれかを選択する必要があり、国民の100%が保険でカバーされている。Clalitは世界第2位・国内最大のHMOで、加入者は全イスラエル国民の実に60%以上となる。過去6年間に渡るClalitとの戦略的パートナーシップに基づき、Zebraは大規模な臨床データ提供を受けてきたが、これをベースとして確立されたAIアプリケーションの導入においてもClalitが大きな役割を果たす形となった。 今回のシステム導入に伴い、Clalitは「クラウドベースのAIソリューションを実装する世界初のHMO」となる。ClalitのArnon Makori医師は「我々は"予防は治療に勝る"と信じているが、人々の健康管理においてAIが果たす役割こそ、この信念を支えるものだ」とし、Zebraと達成する新しいイノベーションに大きな期待を寄せる。

Google HealthのAI研究 – 前立腺がん病理診断のパフォーマンス向上

前立腺がんの生検に対する病理診断AIの開発が各方面で進んでいる。しかし、そのアルゴリズムを病理医のワークフローへ統合した際の影響は十分に解明されていない。Google Healthの研究者らは「AIが病理医を補助して前立腺生検の診断精度・効率・一貫性を向上させる」という研究成果を学術誌 JAMA Network Openに発表した。 同研究は、20名の病理医による240例の前立腺生検での診断について検証された。病理医は泌尿器科領域専門と非専門の者が参加している。その際、病理診断に対してAI支援ツールを使用することで、前立腺がんの悪性度を分類するグリーソングレードグループ(GG)の病理医間での一致率が、GG1-5までの全体で70%→75%に上昇、特にGG1では72%→79%に上昇した。また、AI支援によって腫瘍検出パフォーマンスは向上し、感度と特異度が上昇、生検1件あたりの時間は13.5%減少して診断効率がアップした。 米国内で年間100万件を超えるといわれる前立腺生検において、結果の多くはGG1に分類される。そのため、GG1における診断パフォーマンスの向上は特に重要な意味をもつ。また、泌尿器科領域の専門性を有する病理医の数は大量の前立腺生検をすべて担当するには不十分であるため、専門性をもたない病理医との間で診断に一貫性が担保されることが望まれていた。AI支援ツールが現場の課題を本当に解決できるか、Google Healthの研究者らは実際のワークフローでのAIの利用価値に着目した成果を示し始めている。

AIが予測した「バリシチニブのCOVID-19治療効果」を実証する最新研究

関節リウマチ治療薬の「Baricitinib: バリシチニブ(製品名オルミエント)」が、AI手法により新型コロナウイルス感染症の治療薬候補に挙げられていたことは以前に紹介した(過去記事)。このAIの予測を実証するものとして、英国のインペリアル・カレッジ・ロンドンとスウェーデンのカロリンスカ研究所のグループによる「バリシチニブがCOVID-19の罹患率と死亡率を低下させる」可能性を示した研究成果が学術誌 Science Advancesに発表された。 インペリアル・カレッジ・ロンドンのニュースリリースによると、同研究では「オルガノイド」と呼ばれる幹細胞の培養で形成されたミニチュア臓器によって肝臓の環境が再現され、バリシチニブのCOVID-19に対する効果が調べられた。結果、バリシチニブが炎症による臓器損傷を軽減し、ウイルスがヒト細胞内に侵入するのをブロックする作用機序が明らかになった。またCOVID-19が血小板の遺伝子活性を増加させ血栓を形成させることに対して、バリシチニブがその活性を低下させることも示された。これらのプロセスでバリシチニブ投与がCOVID-19からの生存率を上昇させていることが同研究から示唆されている。 共同執筆者であるカロリンスカ研究所のVolker Lauschke教授は「この研究はAIが予測していたことや、投与患者の症例報告から得られていた情報を確認するものです。バリシチニブが細胞レベルでどのように私たちをCOVID-19から守ってくれるのかに光を当てています。この手法は他のタイプの薬についても有益かそうでないかを理解し、COVID-19の治療法を特定することに役立つでしょう」と語った。

出生前情報からAIで新生児薬物離脱症候群を予測

米テネシー州ナッシュビルに本拠を置くヴァンダービルト大学の研究チームは、出生前の曝露情報から新生児薬物離脱症候群(NAS)の発症を予測する機械学習モデルを開発した。妊婦による薬物・嗜好品の摂取はその一部が胎盤を通過するため、出生後の新生児に薬物離脱に伴う禁断症状を誘発することがあり、これをNASと呼ぶ。米国ではオピオイド乱用が広範にみられるため、オピオイド曝露に伴うNASが社会問題となってきた。 The Journal of Pediatricsに掲載されたチームの研究論文によると、計21万にも及ぶ妊婦とその出生児記録から同アルゴリズムの構築を行ったという。データセットのうち、実際にNASを発症した新生児も3,000を超える。研究チームは、妊婦基本属性のほか、出産前30日間における薬物や嗜好品などの曝露共変量からNAS発症を予測する機械学習モデルを導出した。生成した2種のモデルはいずれもAUCで0.89と十分に高い識別精度を示し、著者らは特に低リスク新生児の検出効果を強調している。 米国小児科学会(AAP)の推奨では、オピオイド曝露が考えられる新生児はNAS発症を監視するため、通常より3-4日程度入院期間が延長される。この標準的アプローチは入院に伴うコストの増加と初期の母子間コミュニケーションの過度な短縮、適切なリスク層別を伴わない非効率などが問題視されてきた。研究チームによる新しいリスク評価モデルは、周産期医療の質的向上と、新生児管理の効率化を通した医療費の適正化に資することが期待されている。

KenSci – KLASレポートで最高評価を獲得

シアトルに本拠を置くKenSciは、2015年にワシントン大学のデータサイエンス研究チームから生まれた医療AIスタートアップだ。デジタルヘルス向けの独自AIプラットフォームを提供しており、巨額の資金調達とともにMicrosoftが主催するHealth Innovation Awardsにも選出されるなど、創立以来、業界の注目プレイヤーであり続けている。 KLAS Researchがこのほど公表した「Decision Insights Report」においてKenSciは、評価対象となった全てのヘルスケアAIプロバイダーの中で最高評価となるスコア90.7を示した。これは47の医療機関におけるAI購入状況を調べ、購入済み・検討対象・置き換え対象のベンダーとプロダクト、そのAIソリューションを選択する理由などから評価したもの。 医療業界ではAI導入のロードマップが次第に明確化されてきており、「とりあえず試してみる」フェーズから「実用性と効果を求めるフェーズ」に移行しつつある。KenSciのAIプラットフォームは、AIへの投資収益率を加速させるよう強力に設計されており、医療機関の客観的な新システム導入基準をクリアしやすいことも支持される要因の一つと考えられている。

患者を起こさない – 夜間バイタルサイン測定不要な患者を分類するAI

入院中の患者は、体温・血圧・心拍数といったバイタルサイン(VS)の測定のため夜間であっても平均して4-5時間毎に睡眠から起こされてしまう。VSのモニタリングを中断することのリスクを考えると、どの患者が夜間起こされる必要がないか特定する必要があった。オープンアクセスのピアレビュージャーナルであるnpj Digital Medicineに掲載された研究では「入院患者の一晩の安定性を予測する」深層学習型予測ツールを開発し、課題を解決しようとした。 「患者を起こさない(Let Sleeping Patients Lie)」というタイトルを銘打った同研究は、米ニューヨークのファインスタイン医学研究所のグループによって行われた。213万人の入院患者と2429万回のVS測定をデータセットとして開発されたアルゴリズムは、一晩の睡眠を中断させずに患者を放置できるか安全性を予測する。このモデルは10,000人あたり2人未満の誤分類という低いリスクを達成した。たとえ誤分類された患者であっても、VS測定を行わない通常のナースラウンドによる目視で発見可能な内容であり、看護ガイドラインの一部でもそのような対処が標準的となりつつあるという。 夜間の休息を安全に確保することは患者ケアにとって重要な要素で、VS測定による睡眠の乱れは回復や退院を遅らせる可能性や、苦情につながっていた。また、病院スタッフの仕事量緩和に役立つ可能性も高い。看護師はVS記録の文章化に勤務全体の20-35%を費やし、勤務シフト時間の約10%はVS収集に充てられている推算があるという。この分野でのAIの利用は「臨床現場における身近な課題への取り組み」でありながら、一方で一連のワークフローに大きな変革をもたらす可能性を秘めている。

DORGE – がん進行に影響を与える遺伝子を検出するAIアルゴリズム

悪政新生物(がん)は、細胞分裂とアポトーシスのバランスを崩す遺伝学的変化の蓄積でもある。正常細胞のがん化を促す「がん遺伝子」と、がん発生を抑制するタンパク質をコードする「がん抑制遺伝子」は、がん発生の理解において重要な役割を果たしている。米カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の研究チームはこのほど、独自のAIアルゴリズムを利用し、これまでに検出されていなかった新しいがん遺伝子の特定に成功した。 Science Advancesにて先週公開された研究論文によると、DORGEと呼ばれるこのアルゴリズムによって予測されたがん遺伝子が、既知のものだけでなく、これまでに報告されてこなかった新しい遺伝子を含むことを示している。また、DORGEは、一部の遺伝子を「がん遺伝子とがん抑制遺伝子としての両方の機能を有する二重機能遺伝子」と予測しており、これがタンパク質間相互作用および薬物・化合物遺伝子ネットワークのハブで高度に濃縮されている事実も発見した。DORGEは既存の10の分析アルゴリズムと比較し、がん遺伝子予測機能について最高精度を示している。 今月JAMA Oncologyに発表されたメイヨークリニックのチームによる研究報告では、広範な遺伝子検査によって遺伝子変異を特定することは、がん患者における精密医療を加速できる可能性が強調されるなど、遺伝学とビッグデータ解析によるデータアプローチによって今、がん医療に巨大なイノベーションがもたらされようとしている。

Avicenna.AI – 脳卒中検出AIでキヤノンメディカルシステムズと提携

CTスキャンから脳卒中を検出するAIは各メーカーで導入が進む。優れた性能を達成したAIは大手メーカーと提携し、既存のシステムとワークフローに統合される。以前、脳卒中検出AIの米FDA承認について紹介した「Avicenna.AI(過去記事参照)」が、キヤノンメディカルシステムズとのパートナーシップ締結を発表している。 Avicenna.AIの12日付けニュースリリースによると、脳内出血と主幹動脈閉塞をCTから検出する同社のAIシステム「CINA Head」がキヤノンに提供されることとなった。米国内検証済の検出能力は、脳内出血で精度96%・感度91.4%・特異度97.5%、主幹動脈閉塞で精度97.7%・感度97.9%・特異度97.6%を達成している。システムは20秒以内の自動検出と優先順位付けで読影者に警告を発する。 Avicenna.AIの共同創設者でCEOのCyril Di Grandi氏は「キヤノンメディカルシステムズのような医療画像検査のリーダーとの提携は、優れた検証データの証でもある。私たちのAIが救急救命室とその先の医療に恩恵をもたらすことを楽しみにしている」と語った。AIベンダーからメーカーへの技術提供が画像検査の業界地図をどう変えていくか、今後も目が離せない。

マウントサイナイ病院 – 入院時の特徴からCOVID-19による院内死亡を予測する機械学習モデル

新型コロナウイルスの感染者数は世界で5000万人を超え、死者は100万人を上回る。適切なリソース分配と高リスク患者の特定のためには、高精度な転機予測モデルが求められている。このほど、米ニューヨーク市マンハッタンに所在するマウントサイナイ病院の研究チームから、COVID-19に伴う院内死亡を予測する機械学習モデルが報告された。大規模な前向き患者コホートから得られた初の知見として、大きな注目を集めている。 Journal of Medical Internet Research(JMIR)に公表されたチームの研究論文によると、本年3月からの3ヶ月間にニューヨーク市内5病院に入院したCOVID-19陽性患者4,098名の診療記録を用い、同モデルの構築と検証が行われたという。実際のモデルトレーニングに使われたのは単一施設の患者1,514名のデータで、その後4施設での妥当性検証、および5月以降は383名に対して前向き調査が実施されている。チームはXGBoost(勾配ブースティング決定木のアルゴリズムを実装したオープンソースライブラリ)を利用し、既往歴やバイタルサイン、入院時検査結果などから入院後3・5・7・10日での高精度な死亡予測モデルを導いた。 依然として危機の続く医療現場において、患者トリアージと効果的なケア計画策定に資する本研究成果は大きな意味を持つ。研究チームは、ツールの普及を見据えた予測モデルの更なる精度向上を狙い、研究計画を継続する旨を明らかにしている。

AI revolution in medicine

米ハーバード大学が運営する公式ニュースサイトで「The Harvard Gazette」というものがある。同大学の取り組みや関連情報だけでなく、サイエンスにおけるイノベーションを掘り下げた特集記事などを取り扱い、読み応えのあるメディアとなっているためThe Medical AI Times編集部も愛読している。このThe Harvard Gazetteに11日、「AI revolution in medicine」と題した興味深い記事が公開されているのでここで紹介したい。 同記事は、次世代に果たすAIの役割とその落とし穴を調査するシリーズの3番目と位置付けられる。今回は医学におけるAIが持つポテンシャルとリスクについて、ハーバードコミュニティの高度専門知識を紡いだ総説を提供している。生物医学情報学分野のMarion V. Nelson教授は「既に医療AIは特定の医学分野では止められない列車となっており、真の専門家レベルのパフォーマンスに到達している」と話す一方、AIの潜在的リスクはあまりにも巨大であることを指摘する。文化的偏見を反映するデータセットからトレーニングされたアルゴリズムには大いなる死角が組み込まれ、金儲けを意図して設計されたAIはコスト削減ではなく増加させる可能性さえ持つ。 直近10年間において医療におけるデータ量も指数関数的に増加した。「心理学領域の考えでは、人間は4つの独立変数を同時に処理できるが、5つ目になると途端に分からなくなってしまう」と生命倫理を専門とするRobert Truog教授は話す。AIは絶好のタイミングでやってきた。それはつまり、AIが医療データの過負荷から我々を救い出す可能性もあるからだ。これから10年、医療が大きく様変わりすることは間違いない。ただし、10年後にAIをどのように評価できるかは、まさにこれを取り扱う一人一人の手に委ねられている。

AIで医療現場はもっと生産的になれる – Googleが医療文書用ツール公開

COVID-19に取り組む医療従事者の努力に光が当たった一方、ヘルスケアデータや構造化されていない医療文書の管理に課題が浮き彫りとなっている。医療文書が労働集約的なプロセスに支えられているため、データ収集のミス、患者との関係性の問題、現場の燃え尽きが発生している。これら課題解決のため、Googleは新しいAIツールの一般公開を始めた。 Google Cloudの記事では、2つのツール「Healthcare Natural Language API」と「AutoML Entity Extraction for Healthcare」を紹介している。前者のヘルスケア用自然言語処理は、構造化されていない医療文書を読み込み、そこから処置・投薬・患者のバイタルサインや状態に関する情報を抽出できる。情報の見落としを防ぐことで、無駄な検査の回避・コスト削減・患者との関係性向上を促進する。 後者のAutoMLツールは、医療文書用のAI開発に取り組むユーザーが、最小限のコーディングで目標物を得られるよう支援するプラットフォームである。これらツールの提供が医療現場の燃え尽きを防ぎ、生産性を向上させることをGoogleの開発チームは期待している。