アルツハイマー病に既存薬再利用を促進するAI研究

認知症のひとつ「アルツハイマー病(AD: Alzheimer’s Disease)」は高齢社会の健康と福祉に多大な負担となっている。そして、念願と言えるADの治療薬開発の多くが有効性欠如か過剰毒性によって苦戦を強いられ、時間とリソースが消費されている。一方、短期間・低コストの利点で注目されているのが、既存承認薬の対象疾患を変えた再利用「ドラッグリパーパシング(ドラッグリポジショニング)」である(過去記事参照)。 米マサチューセッツ総合病院(MGH)のリリースでは、同病院とハーバード大学医学部の研究グループが取り組む「AI/機械学習手法によるADを対象としたドラッグリパーパシング(DRIAD: Drug Repurposing In Alzheimer's Disease)」が紹介されている。同研究は学術誌 Nature Communicationsに発表されており、今後ADに対抗できる可能性のある既存承認薬の抽出を支援する機械学習フレームワークを提唱している。開発中のフレームワーク「DRIAD」は、ある薬剤が投与されたときに人間の脳神経細胞に何が起きるか測定し、薬物による変化が疾患重症度を示す分子マーカーと相関しているかを判断する。結果、脳神経細胞に有害な薬剤と、保護作用を持つ薬剤を特定できたとする。 今回の研究で検証された80種の化合物には、先行研究でAD発生率を低下させる可能性が示唆されてきたJAK阻害薬が多く含まれた。JAK阻害薬は、がんや関節リウマチに用いられている近年隆盛著しい分子標的薬で、AD発症に関与するタンパク質の作用を阻害して抗炎症作用などをもたらすと考えられている。JAK阻害薬のひとつ「バリシチニブ(日本での商品名:オルミエント)」はMGHを中心とした複数の施設において、認知症およびADを対象とした臨床試験がまもなく開始される。論文の著者のひとりでMGHアルツハイマー治療科学センターのMark Albers氏は「研究内で指名された薬物に独立した検証を行うことで、ADのメカニズム解明と新たな治療法につながる可能性がある」と語った。 関連記事: 精神・神経疾患の既存薬再開発「ドラッグリポジショニング」を行うAI手法研究 オハイオ州立大学 - 既存薬に新しい利用用途を見出す深層学習フレームワーク

国立ロボタリウム – ロボット工学とAIの融和する新しい研究施設

スコットランド・エジンバラに本拠を置くヘリオットワット大学は、ロボット工学とAIに関する新しい研究施設の建造を開始した。エジンバラと南東スコットランドの都市地域協定の一環となるプロジェクトで、英国政府から2100万ポンド、スコットランド政府から140万ポンドの支援を受けてオープンを目指す。 ヘリオットワット大学が4日明らかにしたところによると、National Robotarium(国立ロボタリウム)と名付けられたこの研究拠点は、2022年春の稼働開始を目指すという。センターで取り扱う主要分野にはヘルスケアや環境、エネルギー、製造、農業、生活支援などが含まれ、多領域の研究者による横断的コラボレーションが推進される。また、プロジェクトの大きな特徴の一つとして「起業家精神を醸成すること」があり、技術シーズのプロダクト化も積極的に手掛けることとなる。 さらに、インテリジェント・ファサードによって、太陽熱を取り込むことで冬の暖房効率を高めたり、太陽光発電システムや持続可能な都市排水システムを備えるなど、建物自体がエコロジカルデザインともなる。国立ロボタリウムで取り扱う研究プロジェクトは既にその一部が公開されており、英国で最も先駆的な研究拠点として大きな注目を集めている。

急性腸間膜虚血症による院内死亡の予測モデル

急性腸間膜虚血症は種々の要因によって腸管血流が途絶するもので、炎症の惹起を経て梗塞に至る。適切な診断と早期治療が望まれるが、腸梗塞発生後の死亡率は7-9割にも上るため、検査による精査よりも治療遅延を回避するための臨床診断が重視されている。このような急性腸間膜虚血症による院内死亡を予測するモデルが、中国・四川大学の研究チームから公開された。 International Journal of General Medicineからこのほど公開されたチームの研究論文によると、急性腸間膜虚血症のために集中治療を受けた338名の患者データからこの予測モデルを導いたという。単変量解析によって同疾患の独立した予測因子を抽出し(拡張期血圧・乳酸値・クレアチニン値・年齢・血液pHなど)、古典的な解析方法であるノモグラム、および機械学習モデルによる院内死亡予測を試みた。両者はAUC 0.77、0.83を示し、いずれもが優れた識別とキャリブレーションを達成したと結論付けている。 研究チームは「ノモグラムは簡潔で、比較的正確な予測を可能とする。ノモグラム-機械学習(Nomo-ML)モデルがケアを改善し、急性腸間膜虚血症をめぐる医師の臨床的意思決定を支援する可能性がある」としている。

COVID-19ワクチンの安全性と忍容性をAIプラットフォームで評価

急速で広範囲なCOVID-19ワクチン接種キャンペーンが展開される中、米FDA認可の2種のワクチン(ファイザー/BioNTech製またはモデルナ製)の実世界における安全性を継続的に評価することが重要視されている。「AIプラットフォームにより電子カルテから情報を抽出・解析することで、従来では難しかったリアルタイムのワクチン安全性評価を行う研究」がマサチューセッツ工科大学やハーバードメディカルスクール出身者らで構成された研究者集団「nference」で行われている。 同研究の最新の成果はmedRxivにプレプリント論文として公開されている。米FDA認可の2種のCOVID-19ワクチンを接種した約31,000人および同数の対照群が用意され、「接種後21日以内の受診状況」および「各種有害事象の発生率」について、電子カルテ記録から情報抽出され解析が加えられた。情報処理にはGoogleの自然言語処理モデルBERTをベースとしたAIプラットフォームが用いられている。結果として、ワクチン接種後21日以内の受診割合は、非接種者と同等で有意差を認めなかった。また、7日以内の有害事象報告として高頻度のものから列挙すると、関節痛(初回0.59%・第2回0.39%)、下痢(初回0.58%・第2回0.39%)、紅斑(初回0.51%・第2回0.31%)、筋肉痛(初回0.40%・第2回0.34%)、発熱(初回0.27%・第2回0.31%)であった。 電子カルテに記録された内容という制約があるものの、それらワクチンの臨床試験段階で報告されていた有害事象の発生報告割合と比較すると、実世界での接種後報告割合は著しく低い結果となっている。よって「臨床上注意を必要とするワクチン関連の有害事象は想定より低く、安全性と忍容性が十分なものと再確認できた」と研究者らは主張している。AIプラットフォームによる迅速かつタイムリーなワクチンの安全性追跡調査は様々な形で今後も継続され、人々のワクチンに対する信頼を積み重ねていく助けとなるだろう。 関連記事:米Jvion社 - COVID-19ワクチン接種優先順位づけをAIが支援

NLPとAI – 患者フィードバック解析についてのシステマティックレビュー

構造化されていないフリーテキストとして提出される患者フィードバックには、臨床的にも有用な情報が豊富に含まれている可能性がある。一方で、これを解析するには人的リソースが過分に必要となるため、自然言語処理(NLP)と機械学習による解析処理の自動化が模索されている。 英インペリアルカレッジロンドンの研究チームは、「フリーテキストの患者フィードバック解析にNLPを用いた先行研究群」をまとめたシステマティックレビューを明らかにしている。研究論文はBMJ Health & Care Informaticsから、このほど公開された。チームは、2000年から2019年までの20年間においてこの種の先行研究を調査したところ、論文の選択基準を満たしたのは19報で、その大部分(80%)がソーシャルメディアサイトからの患者フィードバック解析であったという。また、ソーシャルメディアから抽出されたコメントの解析には教師なしアプローチが用いられ、構造化調査におけるフリーテキストコメントについては教師ありアプローチが用いられていた。また、最もパフォーマンスの高い分類器としては、サポートベクターマシンとナイーブベイズが同定されている。 研究チームは「教師あり・教師なしのいずれものアプローチが、データソースに応じた役割を持つこと、NLPとAIの組み合わせは、非構造化テキストデータの効率的な解析を通して実臨床を支援し得る」ことに言及している。 関連記事: 健康の社会的決定要因を抽出する自然言語処理アルゴリズム 電子カルテの自然言語処理で患者の社会的孤立を検出する取り組み 交通外傷の「防ぎえた死亡」の分析を補助するAI – 米国外科医学会臨床会議 2020 校内暴力のリスクを検出するAI – 米シンシナティ小児病院

SNSが健康の信念に与える感染力はCOVID-19よりも強い?

新型コロナウイルスとの戦いがワクチン接種という次の段階を迎え、SNS上では反ワクチン運動への規制が強化されている。Twitter社が、非科学的な偽のワクチン情報tweetを繰り返すアカウントに対し、永久凍結する方針を表明したことも最近話題となった。不正確で有害な情報拡散の問題として「インフォデミック: infodemic(過去記事参照)」がある。その背景を解明するため、「SNS上でCOVID-19に関連する『健康への信念(health beliefs)』がどのような影響を受けているかAI/機械学習アプローチで解析を行った研究」が米ノースウェスタン大学のグループから学術誌 Journal of Medical Internet Researchに発表されている。 ノースウェスタン大のニュースリリースでは、同研究について紹介している。その方法として、Twitter上で約897万人のユーザーと約9269万件のtweetに対して、健康に関する信念を定量化する4つの指標からなるhealth belief model(HBM)に従って機械学習手法で解析した。その結果、health beliefsに関する投稿を行うユーザー数は基本再生産数R0が7.62と算出された。このR0は感染症疫学でなぞらえると激しい感染力をもっており、インフォデミックが激化する一因と考察される。また、学術発表のような科学的イベントと、政治的演説のような非科学的イベントとでは、SNS上でhealth beliefsの傾向に与える影響力が同等であることも観察された。 同研究は、SNSがCOVID-19そのものより「ある意味での感染力が強い」と主張したユニークな研究である。同論文の著者のひとりでノースウェスタン大の主任AI研究員であるYuan Luo氏は「科学者が科学について人々に伝えることに注力しなければ、無責任な発言をする人たちによって簡単に意見を相殺されてしまう。そして一般ユーザーはTwitterで自身が目にしたものが自分の態度を形成していることに無自覚で、情報の偏りを無視し、事実関係確認・ファクトチェックせずに拡散していることに気付く必要がある」と語っている。   関連記事:新型コロナウイルスの Infodemic: インフォデミックと戦うIT企業たち

Vuno – 韓国における医療AIトップリーダーの現在地点

韓国における医薬品体系の規制当局であるMFDSは、医療AI領域で初めてVunoに承認を与えて話題を呼んだ。韓国における医療AIマーケットは黎明期と言えるが、Vunoの国内トップリーダーとしての地位は揺るぎないものとなっている。 VunoはCTやMRIなどをはじめとする医用画像の解析AIに高い技術力を持ち、8つの医療AIソリューションについてMFDS承認を取得している。韓国電子カルテ市場における主要プレイヤーであるUBcareとパートナーシップを締結するなど、多くの製薬企業・医療機器メーカーとの協調を進めている。また、近年はグローバル展開を加速させており、台湾の大規模ヘルスケアプロバイダー・CHC Healthcare Groupとの提携によって、Vunoのソリューションは台湾の50を超える医療機関群への独占的供給が行われている(過去記事)。日本国内ではエムスリーとの提携でも衆目を集めた(過去記事)。 Vunoは先週、韓国市場において新規株式公開(IPO)を行った(過去記事)。医療AI特化企業がIPOに至るのは世界的にも稀有な例で、今後の動向にも大きな注目が集まっている。

犬の嗅覚を模倣した人工嗅覚システムで前立腺がん検出

訓練されたイヌの嗅覚が、がんを含む様々なヒトの病気を検出できることが研究で示されてきた。しかし、イヌを診断センサーとして十分な数に増員することは現実的ではない。「機械による嗅覚システムとイヌの嗅覚のもつ能力を統合して前立腺がんの検出を行う研究」がマサチューセッツ工科大学(MIT)などの研究グループによって発表されている。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナル PLOS ONEに発表された同研究では、ガスクロマトグラフィー質量分析で揮発性有機化合物を分析する人工嗅覚システムによって、尿の匂いから前立腺がん患者を検出するシステムが構築された。前立腺がんの特徴を検出する人工ニューラルネットワークの訓練には、訓練を受けた2頭のイヌの嗅覚機能がデータとして用いられている。同研究で用いられた2頭のイヌはグリソンスコア9の前立腺がんを感度71%・特異度70-76%ほどの能力で検出できていた。それらの訓練データから構築されたシステムは結果として、グリソンスコア9の前立腺がんに対してAUC 0.935の識別能力を達成することができた。 MIT Newsでは、同論文の著者のひとりでMITの研究員Andreas Mershin氏のインタビューが掲載されている。同氏によると「小型化された人工嗅覚システムは実際にはイヌの200倍以上の感度をもっているが、その結果の解釈は『間抜け』です。今回の研究ではAI /機械学習によってイヌの嗅覚を模倣することでがんの検出能力をある程度再現できると証明しました」と語っている。 「AIで人間の嗅覚をモデル化」した研究に関しては過去記事を参照いただきたい。

Perimeter – 術中に病変微細構造を確認できるOCTシステムでFDA認証を取得

カナダ・トロントに本拠を置くPerimeter Medical Imaging AIは1日、同社の光干渉断層撮影(OCT)システムが米食品医薬品局(FDA)の510(k)認証をクリアしたことを明らかにした。FDA 510(k)は米国内で医療機器販売を行うために必要となる市販前認可で、同製品によって今後、外科医は術中の病変微細構造をリアルタイムに確認しながら手術プロセスを進められるようになる。 Perimeterが明らかにしたところによると、このOCTシステムは摘出された組織標本から微細構造を視覚化するとともに、AIによるレビューによって医師の臨床的意思決定を支援することができるという。悪性腫瘍は一定のマージンを取って摘出することが求められるが、外科医による目視での識別には限界がある一方、術中の迅速病理診断には多くのリソースを要する。OCTシステムによってマージン不足や遺残をリアルタイムで捉えることは、患者予後の改善とともに外科医療を巡る経済面の効率化への期待も大きい。 同社CEOのJeremy Sobotta氏は「臨床開発全体を通じて、我々はユーザーの声に耳を傾けてきた。今回の認可によって、現在の術中ワークフローへの合理化された統合が可能になる。我々の目標は医療システムのコストを削減しながら、患者一人一人の長期予後を向上させていくことだ」としている。

外科手術後の重篤な合併症を予測するウェブベースのAIツール

米ペンシルベニア州フィラデルフィアに本拠を置くトーマス・ジェファーソン大学の研究チームは、外科手術後の脳卒中や腎不全といった重篤な合併症の発現を予測するAIモデルを開発した。各リスク予測モデルは現在、ウェブベースのツールとして無償公開されている。 トーマス・ジェファーソン大学が先週明らかにしたところによると、研究を率いたSang Woo准教授らは、220万人を超える外科患者の臨床データベースを分析し、重篤な合併症に至るリスク因子を検討した。ここから導いた8つの予測因子を用い、140万人を超える患者データから機械学習モデルのトレーニングを行い、どの患者が腎不全を発症し得るかを正確に予測することに成功したという。また、同様にして術後患者の脳卒中や心血管疾患、死亡といった深刻なイベントのリスク予測モデルも構築しており、脳卒中でAUC 0.87、死亡で0.92という高い識別精度を示していた。 これらモデルはウェブベースのツールとして提供されており、医師らによる術前評価の一種としてベッドサイド利用の進むことが期待されている。Woo准教授は「今回の成果によって深刻な合併症の発症を客観的、かつ正確に評価するツールを開発することができた。次はこれらリスクを効果的に低減するための方法を調査していきたい」としている。

うつ病と双極性障害を鑑別する機械学習アルゴリズム

精神疾患である気分障害は、うつ病(大うつ病性障害)と双極性障害を2つの主要な類型としており、世界人口の約3.9%が影響を受けているとの推計がある。双極性障害は躁病とうつ病を繰り返すが、うつ病エピソードの間に医療の助けを求める可能性が高いため、躁病の状態が未診断となり、疾患の区別がつけられず診断の遅れと治療の方向性を誤り得ることが問題であった。 「問診と血液バイオマーカーから機械学習アルゴリズムによってうつ病と双極性障害の2つの疾患を鑑別する研究」がケンブリッジ神経精神医学研究センターで実施され、学術誌 Translational Psychiatryに発表されている。同研究にはうつ病と診断されたことがある双極性障害患者126名と、うつ病患者187名から、オンライン問診表(WHO WMH-CIDI または CIDI)と血中バイオマーカー(タンパク質120種からのペプチド203種)が解析された。それらのデータから機械学習手法のエクストリーム勾配ブースティング(XGBoost: Extreme Gradient Boosting)によって診断アルゴリズムが構築され、2つの疾患群を鑑別する精度はAUC 0.92となった。さらに気分障害と診断されたことのない被験者による追加検証では、うつ病と双極性障害の鑑別はAUC 0.89を達成した。 2つの疾患の鑑別に重要な役割を果たした予測因子の上位30項目には、26項目がオンライン問診表、4項目が血中バイオマーカーであった。問診による症状とバイオマーカーを組み合わせた診断アルゴリズムの実証として同研究は大変ユニークである。研究グループによると、この概念実証研究がより一般化され、双極性障害患者がうつ病と誤解されず迅速で正確な診断につながるよう、臨床現場での応用が進むことを期待している。

思春期早発症リスクを識別する機械学習アルゴリズム

通常よりも早期からみられる性的成熟を思春期早発症と呼ぶ。なかでも中枢性思春期早発症(CPP)は女児に高頻度にみられ、下垂体からのゴナドトロピン放出が早期に行われることで引き起こされる。CPPは一過性に身長の急激な伸びを認めるが、正常児に比べて最終的には低身長となりやすいことも知られている。下垂体や視床下部に発生する腫瘍を原因とすることもあり、早期の発見と適切な原因検索、治療が欠かせない。 中国・広州医科大学の研究チームは、CPPリスクの高い女児を識別するため、機械学習アプローチを用いた研究に取り組んでいる。JAMIA Openに掲載されたチームの研究論文によると、8歳より前に第二次性徴があり、GnRHテストを受けた女性患者の血液検査結果・画像データを含む臨床データからこのアルゴリズムを導いたという。機械学習モデルにはXGBoost分類器が用いられ、患者をCPPまたは非CPPと識別するできるようトレーニングを行った。マルチソースデータに基づくこのアルゴリズムはAUC 0.88を達成しており、GnRHテストを行う前に一般的な臨床データからCPPリスクを推定できる可能性を示唆していた。 当該アルゴリズムは児童を対象とした健康診断システム等に組み込むことにより、専門検査を行うことなく、効果的なCPPスクリーニングを実現する可能性がある。深刻なケースでは知的発達の遅れをきたすこともある本疾患への、有望な技術的アプローチとして期待が大きい。

機械学習で自閉スペクトラム症の血中バイオマーカーを特定

行動・興味関心・社会的コミュニケーションなどに障害をともなう「自閉スペクトラム症(ASD: Autism Spectrum Disorder)」の診断は、米国で少なくとも59人に1人の割合、診断時の平均年齢は4歳といわれる。ASDを抱える児童の早期診断のために、血液中のバイオマーカーを特定する研究が展開されており、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター(UTSW)の研究者らは「機械学習アプローチでASD診断と強く相関する9種のタンパク質を特定した」ことを発表している。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナルであるPLOS Oneに発表された論文によると、154名の男児(ASD群76名・定型発達群78名)の血液から1,125種のタンパク質がバイオマーカーの候補として検証された。機械学習手法のランダムフォレストによって解析した結果、5種のコアとなるタンパク質(MAPK14・IgD・ DERM・ EPHB2・suPAR)と、それに追加することで予測精度をさらに向上させる4種のタンパク質(ROR1・GI24・elF-4H・ARSB)が特定された。また、それらタンパク質の発現レベルはASDの重症度とも相関していた。 同研究は男児のみの登録で性差の検証には至っていないという限界があり、特定されたバイオマーカーパネルの価値について大規模な検証研究が待たれる。UTSWのニュースリリースによると、同論文の著者のひとりで精神医学教授であるDwight German博士は「血中バイオマーカーを用いてASD児の発症リスクを早期に判定することができれば、子どもがコミュニケーションや学習を最適化するスキルを前もって身に付けられるよう、介入できるようになるでしょう」と語っている。以前紹介したAIによる自閉スペクトラム症のサブタイプ特定についても参照いただきたい(過去記事)。

AI支援が変形性膝関節症の治療意思決定をより良いものにする

変形性関節症(OA: Osteoarthritis)は高齢化と相まって有病率が増加し医療費の増加要因とされている。膝のOAに関しては、治療選択肢が手術療法の他に減量・理学療法・関節内注射など多岐にわたるため、医療者と患者がエビデンス知識を共有して治療方針を決定するSDM: shared decision-makingが重視される。膝OAで人工膝関節置換術(TKR)を受ける患者の意思決定に「AIデータ解析で支援を受けることの有用性」についての研究がJAMA Network Openに発表されている。 米テキサス大学オースティン校の研究者らは、膝の痛みを訴える129名の患者において無作為化比較試験を行った。ここでは、AIによる分析を統合して治療意思を決定した69名の介入群と、通常の患者教育資料を用いて治療意思を決定した60名の対照群に割り付けた上で、TKRの手術療法に進んでいる。意思決定の質を評価する指標としてKnee OA Decision Quality Instrument(K-DQI)が用いられ、介入群の方が平均で20%良好な結果であった。SDMのレベルや満足度についても介入群が有意に上回り、診察時間やTKR実施率に影響を与えることはなかった。 膝OAの患者ごとに「パーソナライズされたAIデータ解析を治療意思決定の支援に用いることの有用性」が同研究では示されている。患者特有の身体的・感情的・社会的な側面まで網羅した治療意思決定は今後ますます重要なものとされ、AIによる支援の場はさらに増えていくだろう。

COVID-19検査の偽陰性率を評価する分析モデル

ワクチンが十分な割合で国民に届くまでの間、世界各国では「あらゆる公共スペースにおける安全開放の是非はCOVID-19検査に依存する」と信じられている。ただし、例えば米国においては、昨年6月段階で85を超えるテストキットやアッセイに緊急使用承認を与えているものの、それぞれの臨床感度は曖昧なままとなっている。 米ベスイスラエル・ディーコネスメディカルセンターの研究チームは、各検査ごとの臨床感度をモデル化する分析ツールを開発し、Clinical Infectious Diseasesから論文を公表している。クラス最高のアッセイでは、「輸送媒体1mlあたり100コピー」というウイルスRNAの検出限界(LoD)を持つ。一方で、現在承認されている検査はそれぞれで、LoDが1万倍以上異なることがあり、LoDが高いアッセイでは感染した患者を容易に見逃してしまう事実がある。 研究チームは、このLoDをプロキシとして特定のアッセイの臨床感度を推定できることを明らかにした。仮に1mlあたり1,000コピーのものでは、COVID-19患者の75%しか検出されず、4人に1人が偽陰性となる。実際、緊急使用承認の得られている検査の1つにおいては、真の陽性症例の最大60%を見逃す可能性がある点にも言及する。チームは、市場に流通する検査キットの結果を鵜呑みにすることの危険性、および検査法間の相互比較を可能にするため、LoDを標準ベンチマークとして用いることの必要性を指摘している。

握力低下に苦しむ人々を手助けするAIグローブ

手の筋力低下に苦しむ患者は、加齢・多発性硬化症・脳卒中・関節リウマチ・手根管症候群など多岐にわたり、英国内では250万人程度との試算がある。それら握力低下を支援するため、AIベースのロボットグローブを開発するスコットランドのスタートアップ「BioLiberty」がある。現在BioLibertyはエジンバラにあるヘリオットワット大学を拠点とし、エジンバラビジネススクールのインキュベーター支援を受けて開発をすすめている。 ヘリオット大学のニュースリリースでは、BioLibertyのAIロボットグローブについて紹介している。その軽量グローブはユーザーの筋電図を測定し、握ろうとする意図を検出するアルゴリズムによって、ユーザーに必要な握力を与えることができる。瓶を開ける・運転する・お茶を注ぐといった日常の幅広い作業に対応しており、一部の特定動作の握力にのみ対応していた市場の従来製品と差別化されている。 BioLibertyの共同創業者であるRoss O’Hanlon氏は、自身のおばが多発性硬化症と診断されて動作困難となったことを会社立ち上げのきっかけとしており、「おばのような人々が自立性を維持するためにテクノロジーを用いた課題解決に取り組むことを決めました」と語る。同氏は「BioLbertyが支援を受けているようなインキュベータープログラムが、他の起業家にも次のステップを踏み出すきっかけとなることを願っている」とする。

グリオーマ患者へのAIベース言語マッピング

神経膠腫(グリオーマ)は神経膠細胞から発生する悪性脳腫瘍で、浸潤性発育を特徴とする。腫瘍細胞が浸み広がるこの浸潤性発育により、グリオーマはしばしば機能的再構成を誘発するが、言語影響の仔細には未知の部分が多かった。中国科学技術大学(USTC)などの研究チームは、病変トポグラフィーデータからの言語マッピングに取り組んでいる。 Brain Imaging and Behaviorから22日公開されたチームの研究論文によると、左脳言語ネットワーク領域のグリオーマ137症例(うち81例は低悪性度、56例は高悪性度)に対し、術前トポグラフィーから機械学習手法による病変言語マッピング分析を行ったという。背側と腹側、両方の言語経路に影響を与える左後部中側頭回に位置する腫瘍では、自発的発話と命名に欠損が確認された。また、低悪性度グリオーマでは有意な結果は認められていないという。 研究チームはこれらの発見について、グリオーマ患者における「脳と行動の関係を調節するマクロ構造の可塑性メカニズム」がグリオーマのグレードに依存することを示唆するとして、研究成果の重要性を強調している。

Google – ミネソタ州の新拠点でメイヨークリニックとの連携を強化

Googleはこのほど、ミネソタ州ロチェスターに新拠点をオープンし、メイヨークリニックとの連携を強化することを公表した。Googleとメイヨークリニックは2019年、10年に及ぶ長期戦略的パートナーシップを締結しており、両者はAI技術を軸とする「医療におけるデジタルトランスフォーメーションの推進」を目指す。 Googleによるニュースリリースでは、新しい拠点の稼働開始を明らかにしている。メイヨークリニックとのパートナーシップにおける最初の1年半では、同クリニックが保有する医療データをクラウド上に移行するのを支援した。また、医師による放射線治療計画の策定を効果的に支援するAIシステムなど、新規研究プロジェクト(過去記事)も立ち上げ、積極的なコラボレーションのあり方を示してきた。 メイヨークリニック本部は同じくロチェスターに所在しており、新しい拠点には同クリニックの医師・情報技術スタッフ・データサイエンティストらが出入りし、Googleのエンジニアとの協調によって物理的な連携の強化が見込まれている。また、ミネソタ州のTim Walz知事も本件に言及しており、新規拠点を通して「Googleが同州全体に与える経済的メリット」への期待も明らかにしている。

COVID-19迅速抗原検査をAIで識別 – Laipac Technology社「LooK SPOT」

アフターコロナの経済活動において、過去のインフルエンザと同様に迅速キットによる抗原検査は一定の地位を占めると予想される。迅速検査キットに付き物の手作業とヒューマンエラーを排除するため、人間の目に識別困難な色信号をAIが識別して低レベルの陽性結果でも拾い上げるシステム「LooK SPOT」 を提供しているのが、カナダ拠点のLaipac Technology社である。 同社が21日報じたところによると、Laipac Technologyはアラブ首長国連邦のYAS Pharmaceuticals社およびPure Health社との提携を発表し、AI迅速抗原検査システム「LooK SPOT」を国際的に展開していくという。同検査システムは2月21日〜25日にアブダビで開催の国防産業技術展「IDEX(International Defence Exhibition & Conference)2021」で展示発表されている。鼻腔内からスワブで採取されたSARS-CoV-2由来のタンパクを定性検出する検査キットは、AIによる陽性識別によって感度97.4%・特異度98.3%・5-8分以内の検査結果取得を謳っている。イギリスと南アフリカで確認された変異ウイルスも検出可能という。 LooK SPOTのシステムはApple・Googleストアからダウンロードするアプリ「LooK PASS」によってスマートフォンで検査結果を受け取ることができる。検査結果が陰性の場合、アプリ上にQRコードが生成され、施設・イベント・集会・交通機関などにおける入場パスとしての利用が想定されており、様々なアプリとのリアルタイムでの連携が可能となる。COVID-19 LooK SPOTの日本語解説動画はYouTube上の Laipac Technology公式チャンネル内で視聴可能である。

The AI Podcast – Qure.aiが描くヘルスケアの未来

NVIDIAはAIをテーマとした音声配信、「The AI Podcast」を2016年から展開している。関連領域で先端研究を行う研究者や業界をリードする経営者・起業家など、多様なバックグラウンドを持つゲストスピーカーの「声」には、The Medical AI Timesの読者も大きな刺激を受けられることと思う。ぜひお勧めしたい。 このThe AI Podcastに18日登場したゲストスピーカーが、2016年にインド・ムンバイを拠点として設立された医療AIスタートアップ・Qure.aiのPooja Rao氏だ。Rao氏は医師・データサイエンティスト・起業家として、Qure.aiの創設メンバーの1人にあたる。現在は同社の研究開発責任者を務め、医用画像解析AIの開発を率いている。 このエピソードでは、Qure.aiの画像解析AIがこのほどFDAの承認を取得したこと、またこの技術が「特に医療専門職が不足するエリアにおいて結核診断に資する技術」としてWHOから公式の認証を受けていること、限られたリソースからAIを構築するために「最高品質でない画像」からの学習システムを構築していること、グローバルツールとするために多集団データによるトレーニングを行っている点などに言及している。 本エピソードを通して、Qure.aiの思想と共に、彼らが描くヘルスケアの未来を感じ取ることができるだろう。