高齢社会の孤独にヒトとAIはどう立ち向かうか

自宅外での活動自粛、対面での各種集会の中止など、新型コロナウイルス感染症による社会情勢への強い圧力が続いている。いわゆるインフォデミックInfodemic(過去記事)によって、情報の非対称性や格差が更なる混乱を招き、世代間の軋轢や不満も増している印象がある。我先にと物資の買い占めに走る姿は最たる例だろう。浮き彫りにされた社会的孤独にAIはどのように貢献できるのか。 英BBCの報道では、高齢者の孤独対策にAIを用いた音声技術が紹介されている。スウェーデンは全世帯の半数以上が一人暮らしであり、欧州で最も高い割合と言われる。その孤独感に対処するため、専用設計の音声アシスタントとスマートスピーカーの社会実験が同国では始められた。スピーカーはユーザーの思い出に対して有意義な会話ができる。例として78歳の高齢者の「世界中を旅した」という会話のきっかけに、スピーカーは「スウェーデンとその他の国でどのような人間関係の違いがありましたか?」と続き、そのスウェーデン人は「個人主義的で独立的な私たちの性格に焦点が当たる」と会話を続け、同国の生活で困難な側面を指摘した。 社会実験に携わっているスウェーデンのエネルギー会社Stockholm ExergのThomas Gibson氏は「彼ら高齢者が自分の話を共有されることを本当に喜んでいたことに驚きました。相手が音声アシスタントやスピーカーであろうとまったく自然なことでした」とインタビューに答えている。同社はこれら会話の一部をポッドキャストで視聴できるようにすることで「世代間差別の解消と社会的包摂: social inclusion(弱者を援護し社会の一員として取り込み支える理念)」につながることを期待している。感染拡大によるストレスで露呈した独善的なヒトの弱さに対して、人々が英知を結集し平穏を取り戻すことができるか、その瀬戸際に立たされているのではないだろうか。

Nanox – CureMetrixとの提携で医療画像プラットフォームにAI機能を追加

イスラエルのNanoxはCureMetrixとのパートナーシップにより、同社が進めるクラウドベースの医療画像プラットフォーム・Nanox.CLOUDにAI機能を追加する。 Medical Buyerの報道によると、Nanox.CLOUDは包括的な医療画像サービスを目指し、画像リポジトリ・放射線科医マッチング・診断レビュー・レポート作成・診断補助AI・医療費請求など、広範な機能を備えることになるという。Nanoxは1月の資金調達ラウンドで2,600万ドルを確保しており、これがシステム開発とその商品化に充てられることになる。 Nanoxは特に乳がんスクリーニングを重視しており、早期発見の重要性を強く訴える。また、マンモグラフィ画像の読影は、高濃度乳房(デンスブレスト)の存在や読影医が限られていることなどによって早期発見が阻害されている状況を指摘し、AIによる補助的画像診断の有効性を強調する。

AIが糖尿病黄斑浮腫の第一治療選択を決める

糖尿病による視力低下・失明原因のひとつに黄斑浮腫がある。網膜血管の透過性亢進によって水分の漏出が起き、網膜に浮腫を起こすものだが、慢性化すると神経細胞に不可逆なダメージをきたす。硝子体への薬物注入療法、特に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬が治療の第一選択として使用されるケースが多いが、すべての症例に効果が期待できるわけではない。抗VEGF薬治療の恩恵を受けられる患者群を予測するAIが米デューク大学のグループから学術誌Biomedical Optics Expressに発表された。 メディアScienceDailyで同研究のアルゴリズムは紹介されており、網膜画像の検査「光コヒーレンストモグラフィー(OCT)」を治療前に1度実施するのみで、抗VEGF薬治療に良好な反応を示す患者を予測できたという。畳み込みニューラルネットワークから構築された同アルゴリズムは、治療前後で網膜の厚みが改善する患者の選別で、平均のAUC 0.866・精度85.5%・感度80.1%・特異度85.0%を達成した。 非侵襲的な画像検査 OCTを自動解析する同研究は、過去の画像や患者記録などを必要とせず、治療前のワンポイント検査のみで第一選択となる治療法を適切に決定できる点を強みとする。研究グループはアルゴリズムが臨床医の意思決定を補佐することを期待し、大規模臨床試験への拡張を計画している。糖尿病性網膜症の画像診断とAIは、良好な相性で様々な実用化が進む注目の領域である(過去記事)。

脳とコンピュータの接続技術確立へ – 米 Paradromics社

稀代の実業家のひとりイーロン・マスクが2019年7月に発表した、脳とコンピュータを接続する新システムと企業Neuralinkは世界中に衝撃を与えた(過去記事)。同様の構想でBrain-Computer Interface(BCI)技術を進める研究が多方面から打ち出されてきた。成果のひとつが米国スタンフォード大、および英国のフランシスクリック研究所とユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの共同研究チームから学術誌Science Advancesに発表された。 ScienceDailyが紹介する同研究は、人間の毛髪の15分の1にまで細められたマイクロワイヤー電極を脳内に設置し、脳の電気活動を受診するだけでなく双方向性に電気信号を送ることを可能とする。マウスでは数百本、大型哺乳類では10万本以上まで、動物の大きさに応じて拡張できる設計で、将来的なヒトでの実用の可能性を秘める。脳を電気制御する理論が確立することで、麻痺・感覚障害・治療抵抗性の精神神経疾患によって苦しむ患者に福音となるかもしれない。 同研究は著者のひとりMatthew Angle氏によって創設されたParadromics社での実装化が進められている。脳内への電極埋め込みというコンセプト自体は以前からあった。しかし、課題であった3次元空間の複雑な層状に分布する多数のニューロンの活動を記録するために、極細ワイヤを任意の3次元形状に配置するという解決策を同研究は示した。開発競争が盛り上がることで、ヒトでの実用化がすぐそこまで近づいたことを感じさせられる。

イスラエル – 新型コロナウイルス感染症の隔離治療施設をオープン

イスラエル最大の病院であるSheba Medical Centerは今週、新型コロナウイルス感染症患者のうち、特に重篤な患者の治療を行うための新たな地下施設を開設したことを公表した。 イスラエルメディアNoCamels.comが23日報じたところによると、この隔離ユニットは同医療センターの地下にあり、40を超える追加ベッドと高度な遠隔医療システム・モニタリングシステムを備えるという。医療機器・電気・酸素ラインには独自のインフラで対応し、特に人工呼吸器の利用が必要な患者と高度な集約的治療を要する患者が対象となる。 イスラエル保健省の報告では23日現在、国内1238名に感染があり、24時間で264名の増加が確認されるなど、感染拡大の危険性が示唆されている。イスラエル政府は厳格な隔離措置に取りかかっており、今後同等の施設が拡充される可能性もある。

周囲の咳の音から感染症アウトブレイクを監視 – ポータブルAIデバイス FluSense

インフルエンザあるいは新型コロナウイルス感染症も同様であるが、上気道の感染で発生する咳は臨床症状として注目される。病院の待合室・大規模な公共スペースでは、呼吸器感染症のアウトブレイクを監視・予測するツールに対する需要が高まっている。マサチューセッツ大学アマースト校からの研究成果として、インフルエンザなどの流行状況を予測するポータブルAIデバイス「FluSense」が発表されている。 ScienceDailyによると、FluSenseは低コストのマイクと熱画像センサーで監視環境中の咳の情報を処理するAIデバイスとして紹介されている。研究用のデバイスは大きな辞書ほどの長方形の箱に収められて病院の待合室に複数配置された。35万件以上の熱画像と2100万件の音源を収集・解析して構築されたFluSenseのアルゴリズムは、インフルエンザおよび類似疾患の院内臨床検査結果と強く相関した待合室の患者発生率をとらえることができた。 同研究の目標は個人レベルの疾患発生ではなく集団レベルでの感染症流行予測モデル構築にある。プライバシーにも配慮され、音声データなど個人を特定する情報は保存されない。コンパクトなデバイスが機械学習システムの最先端にありながら安価な点を研究チームは主張している。同研究はマサチューセッツ大学アマースト校のクリニックという試験場所を越えて、他の公共エリアでの実証と技術の一般化が進められる予定となる。大規模流行性の感染症に対抗する公衆衛生学上の画期的なデバイスとなるか、さらなる発展が期待される。

Odonata Health – 妊婦と胎児を守る産科AI

米ミネソタ州ミネアポリスに所在するOdonata Healthは、非侵襲的なウェアラブルデバイスによって妊婦と胎児のバイタルサインをモニターするとともに、胎児心電図をAIによって解析することで胎児ジストレスの発症を早期に予測する取り組みを行っている。 Twin Cities Businessの報じたところによると、Odonata Healthは現在、Microsoftの投資部門「M12」などが開催する「女性創業者コンペティション」のファイナリストに選出されているという。同コンペティションは、優勝したスタートアップに対して100万ドルの資金提供が約束されるもので、女性創業者に対して公平な活躍の場を創生することが狙い。 Odonata Healthはメイヨークリニックを臨床パートナーとしており、妊産婦の罹患率・死亡率低下を主要な目的に掲げる。米国における妊産婦死亡は問題視されているが、CDCの公表によると、特に出産時には年間700名前後の女性が命を落としているという。

脳の蛍光染色画像におけるアストロサイト自動検出AI

トルコ・米の共同研究チームは、脳組織の蛍光染色画像において、グリア細胞の1つである「アストロサイト」を自動検出・セグメンテーションするための深層学習フレームワークを開発した。全てのコードはオープンソースとしてリリースされ、科学コミュニティが自由に利用できるとする。 20日、学術誌Scientific Reportsに掲載された同論文によると、アストロサイト画像を効率的に処理し、複雑な形態学的特徴を定量するための正確なフレームワークを構築したという。これにはマルチスケール方向フィルタに基づく革新的な細胞検出モジュールと、深層学習・スパース表現の活用によりトレーニングデータの必要量を減らしたセグメンテーションルーチンなどが含まれる。 アストロサイトは複雑な星型形状を持つグリア細胞のサブタイプで、過去10年間の多くの研究によって「アストロサイトが基本的な脳プロセスにおいて非常にアクティブな役割を果たしている」ことが明らかとされた。近年では、脳障害や神経損傷を治療するための有望なターゲットとして、アストロサイトへの関心は劇的に高まっている。一方で、アストロサイトの顕微画像における自動解析は、サイズと形態の大きなばらつき・複雑なトポロジ・高度にもつれた細胞ネットワーク、などのためにこれまで特に困難とされてきた。

AIがトリアージする時代へ – 機械学習でCOVID-19死亡リスク予測

新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行するなかで、医療資源の枯渇から治療を優先的に受けるべき患者の選別・トリアージが迫られるケースが増えると指摘される。しかし、最前線で治療にあたる医師にその選別を行わせるには、意思決定の要素が複雑で負担が大きい。中国の研究者グループが血液サンプル分析でCOVID-19患者の生存率を予測するAIツールを発表している。 TheStarの報道によると、湖北省武漢にある華中科技大学(HUST)と同済病院の研究グループが、COVID-19患者400名以上で入院日に採取された血液検体から死亡リスクを予測する機械学習モデルを作成した。成果は非査読研究のプラットフォームMedrxiv.orgで公開中である。COVID-19の予後予測因子として血中の3つのバイオマーカー、LDH・hs-CRP・リンパ球の解析に基づくモデルという。患者の生存可能性を約16日前に90%以上の精度で予測できると同研究グループは主張している。 同研究は、集中治療室や人工呼吸器のような限られた医療資源の分配など、厳しい選択に迫られた現場の医師の意思決定を補助できる可能性がある。しかし、一方でAIが生死の決定にどの程度関与すべきか、多くの倫理的課題を抱えている。AIによるトリアージが一般に受け入れられるか、世界的大禍を過ぎた後にどのような世論が形成されるだろうか。

ホワイトハウス – コロナウイルスに関するリサーチデータベースを無償公開

米ホワイトハウスは、MicrosoftやAllen Instituteなどと協同し、コロナウイルスに関する学術論文データベースを無償公開した。 Venture Beatの報じるところでは、COVID-19 Open Research Dataset(CORD-19)と名付けられた同データベースには、コロナウイルスに関する29,000を超える学術論文が収められているという。医学系および自然言語処理技術系などの研究者コミュニティによる利用を想定し、テキストデータのマイニングによって、COVID-19への有効な対策を導くのが狙い。 ホワイトハウスCTOのMichael Kratsios氏は「AIは科学者が情報を分析するにあたって、非常に強力な助けになる」と述べ、AIの積極利用を推進するとともに、同データベースがMicrosoftのAIツールによって索引付け・マッピングされていることも明らかにしている。

AIバーチャルアシスタントにCOVID-19対応機能追加 – スタートアップGYANT

一般消費者向けの健康管理AIチャットボットとして立ち上げられたGYANTは、次第にB2Bモデルに移行して医療機関や保険会社との提携プログラムを提供するようになった。その一環として、イリノイ州拠点の医療機関OSF HealthCare(OSF)が「新型コロナウイルス感染症 COVID-19のスクリーニングと患者教育を提供するアシスタント機能」を緊急追加している。 Becker’s Health ITではGYANTからの3月17日付けのリリースを報じている。OSFは以前からGYANTにサービスを提供しており、その機能のひとつとしてCOVID-19対策アシスタントClareを実装した。ClareはCOVID-19の症状とリスクに関する正確な情報をユーザーに伝え、質問に回答し、患者を適切なケアと機関へ誘導する。感染症流行により急増したコールセンターの負担が軽減されている。今後もCDCとWHOのガイドラインに基づきプログラムはアップデートし続けるという。 AIアシスタントClareの実装から最初の2日間でCOVID-19に関する14000件のやり取りが行われ、患者の85%が肯定的にとらえている。OSFのシニア・バイス・プレジデントJennifer Junis氏は「この医療危機と言える状況では、Clareのようなフレンドリーで高い接続性が不可欠でしょう。患者らは私たち医療関係者とコミュニケーションすることを望んでいるのです」と語っている。

中国における2019年医科学系ベストトピック

中国国内紙Health Newsは、2019年に話題となった医科学系トピックのトップ10を公表した。選出にあたっては、政府健康委員会や疾病管理予防センターの専門家、臨床医学系および公衆衛生領域の科学者らが招待された。 中国主要メディアChina.org.cnは昨日、このランキングを報じている。リストのトップ2を占めるのは、権威ある学術誌The New England Journal of Medicineに掲載された2つの研究について。いずれの論文も、慢性腎臓病(CKD)に伴う貧血を対象とした治療薬・ロキサデュスタットの臨床試験に関するもので、上海の研究チームが報告している。 3番手として示されたのが、眼疾患の診断支援を行うAIプラットフォームで、広東省の中山大学中山眼科センターの医師が構築したもの(関連論文)。同システムでは、87%という高精度診断と高速診断を実現したとして話題となった。その他には、複数の大規模疫学研究や、脳血管疾患・肝がん・肺がん・ジカ感染に関する新規治療法の開発などが含まれていた。

VRで医学教育を拡張 – 英 Oxford Medical Simulation社

仮想現実(VR: Virtual Reality)の医学トレーニングへの適用が進んでいる(過去記事)。シミュレーションによる医学学習という概念自体は以前からあるものの、精巧なマネキンあるいは献体の必要があった。その学習法は高価かつ手順は複雑で、学習に参加できる人数も限定されてきた。英国では医療資源の不足をVR学習による教育リソース拡充でカバーする動きがある。 英メディア The Guardianでは、医学教育VRソフトウェア開発のOxford Medical Simulation(OMS)を紹介している。AIの専門家らによって設計されたVR環境で、医学生はヘッドセットを装着し、患者の病室に入るところからシナリオを開始、仮想空間には心電図モニターなどが設置され、視界を巡らせると聴診器や注射器に手を伸ばすことが出来る。一般開業医が行うような患者の病歴を調べる・体温を確認する・聴診器を背中に添わせて胸部を聴診する・のどを懐中電灯で照らすといった医学行為がシミュレート可能である。膨大なシナリオには敗血症・尿路感染・脳卒中・心不全・糖尿病などが網羅されている。OMS社によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで医学生の臨床研修が休止されている状況から、安全に訓練できる同製品に対する需要は急増しているという。 OMS社はイギリス国民保健サービス NHSの医師であったJack Pottle氏らによって創業された。VRは医学生の学習曲線を短縮、あるいは外科医の手技を改善し、NHSが抱える医療資源の不足を補うことを期待されている。VRが従来のシミュレート教育より相対的に安価でアクセスしやすいのみならず、より効果的であるとの証明も進む。オックスフォード大学の2019年調査では、VRの教育効果は従来法と同等か上回るという報告が出されている。そのリアリティから倫理的にも医学生が患者に対する真の義務感を感じるようになったのではないか、と教育にあたる講師らは実感しているそうだ。

スマートグラスが切り拓く視覚障害者支援 – 蘭Envisionの最新AI

メガネ型ウェアラブル端末「スマートグラス」は、2012年に製品テスト開始のGoogle Glass(過去記事)で耳目を集めた。しかし、撮影機能によるプライバシーの懸念などから、Google Glassは一般消費者用の開発を中止。普及が進まず流行は下火となる。一方、製造現場ではAIやIoTによるスマート工場化で、スマートグラスの活用が模索された。また医学領域でも、手術中にハンズフリーで患者情報を視野に投影するような活用法で需要が続いている。 テックメディアSilicon Canalsでは、視覚障害者向けAIを提供するオランダ発スタートアップ「Envision」の新製品を紹介している。Google Glassに搭載される同社のAIは、周囲の風景・人の顔・食品ラベル・手書きの文章などを60以上の言語で認識し、状況や内容を音声で読み上げてくれる。今年3月、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)主催の障害者アクセシビリティに関する世界最大級の国際会議で同製品は発表された。 AIに職が奪われるという昨今の議論には、AIによる人間の能力拡張の観点が不足する。ハンディキャップを抱えた人々をサポートするAIの多面的発達は、さらなる就労支援を切り拓く可能性もある。現在Google以外にもAmazon・Microsoft・Facebookがスマートグラスの開発を行っており、普及の機運が再び高まっている。Envisionの取り組みが視覚障害者支援の未来を形作ることを期待したい。

新型コロナウイルスによって急増する外来受診者数 – バーチャルケアの可能性

遠隔診療をはじめとした「バーチャルケア」のグローバルリーダーとして知られる米Teladoc Healthは、新型コロナウイルス感染症への懸念から米国で急速に増加する外来受診者数に関連し、同社プラットフォームの利用者も急増していることを公表した。 Teladoc Healthの発表によると、同プラットフォームでは先週1週間に100,000件ものバーチャル診療を提供しており、実数として前週比で50%増であるという。インフルエンザの流行ピーク時の需要さえ日々上回るが、これは広範な医療提供体制への負担軽減にも直結する。米政府の公衆衛生当局は、国民にバーチャルケアサービスの利用を奨励する背景もあり、今後も需要の加速は続くと考えられる。 一般的に、コミュニティの医療システムは突発的な受診者数スパイクに脆弱で、不測の感染症アウトブレイクによって過度の圧力を受けた場合、早晩に瓦解してしまう恐れがある。バーチャルケアはこのような医療システムへの負荷を緩和するとともに、患者集積によって医療機関が感染源となるリスクを避けることもできる。今後同様のプラットフォームへの関心と有効性の再認識は強まっていくに違いない。

ディープラーニングロボットが採血と点滴を変革する

血管から採血し点滴することは、診断と治療に重要な最初の一歩である。検査・輸液・薬物投与・ステント留置・モニタリングといった医療行為がそこには含まれる。しかし、血管へのアクセスが決して容易ではないことに、医療現場を知る者は同意するだろう。学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された「ディープラーニングロボットのガイド下での自動血管アクセス」では、デバイスによる自律システムが人の手による血管アクセスを上回るパフォーマンスの可能性が示唆されている。 科学メディアScienceDailyでは、Nature Machine Intelligence収載の米ニュージャージー州ラトガース大学の研究チームが開発した採血ロボットに関する研究成果を紹介している。同ロボットはディープラーニングを赤外線および超音波イメージングと組み合わせ、組織内の血管を特定・分類・深さの推定を行う。その後モーショントラッキングなど複雑な視覚タスクを実行し、針を血管に穿刺する。静脈が浮き出ていないような条件の悪い血管でもロボットによる血管アクセスは88.2%の初回穿刺成功率が得られているなど、人の手技と同等あるいは超えることが期待されている。 小児・高齢者・血管の状態が悪い慢性疾患患者らでは、初回穿刺の成功率が50%未満となったり平均5回以上の穿刺が必要といった報告もある。医療従事者は冷や汗をかき、一方で患者は痛みと不安に耐えながら日々の血管アクセスを確保している。血管アクセスがうまくいかないことは、人々の時間とエネルギーを拘束し、現場の医療資源を損なっている。そのような現場の風景にAIとロボティクスによる変革が訪れるのはさほど遠くはなさそうだ。

ヘルスケアネットワークとサイバーセキュリティの脅威

米カリフォルニア州・サンタクララに本拠を置くサイバーセキュリティ企業Palo Alto Networksは、その最新レポートで医療機関におけるネットワークセキュリティの深刻な脆弱さを指摘する。 Venture Beatが当該レポートについて報じたところによると、医療機関では古いオペレーティングシステムが常用され、ライフサイクルの長さのために医療IoTデバイスで時代遅れのセキュリティレベルが維持されているという。ヘルスケアネットワークに対するサイバーアタックにおいては、主としてネットワーク上に接続されたデバイスをスキャンし、マルウェアの拡散源となる脆弱性が検索されている。 National Cybersecurity Center of Excellence(NCCoE)は過去に、医用画像システムの83%が既知の脆弱性を持つことを報告し、これはWindows7のサポート終了に伴い56%もの増加をみた結果であるとしている。医療機関が完全に閉ざされたネットワークを利用した時代は過去のものとなっており、世界基準と潮流に適合した適切な対策と体制の維持が求められている。

台湾の新型コロナウイルス初期対応に世界的な高評価

各国の新型コロナウイルス感染症 COVID-19 への初期対応が振り返られるなか、台湾の感染率の低さ(3月8日までに45件)が注目されている。中国との関係性から人的な往来が盛んであり、感染者数が世界第2位になるだろうという周囲の予測を完全に覆したことは学術的にどう評価されるか。権威ある米国学術誌 JAMAに米スタンフォード大の王智弘 准教授(Dr. Wang)らが執筆した「台湾のCOVID-19対応」が掲載された。 米国の金融関連メディア TheStreetには、Dr.Wangに対するメールインタビューが掲載されている。台湾の45件という発症数が検査数不足ではなく初期の予防対策に由来するとDr. Wangは強調する。いち早く開始された渡航者の検疫とそれを支えた電子システム、国民健康保険と統合したビッグデータ解析、渡航歴や臨床症状からの感染リスク分類、隔離措置、マスクなど防護設備・各種医療資源の適確な配分、国内への公衆衛生教育と周知など、全方位的な施作が台湾では有効に機能した。同インタビューでは、米国での国民保険プログラムの欠如そのものが今後のCOVID-19対策の主要な論点ではないと触れている。米国でもハイテク企業・州知事・政府機関の連携で対処できる十分な潜在能力があると結語した。 台湾がかつて経験したSARS(重症急性呼吸器症候群)の蔓延は、今回の対策へ確実に活かされている。Dr. Wangは携帯端末の普及とAI・機械学習技術で迎えた公衆衛生の革新の時であるとも語っている。先端技術が独り歩きするのではなく、運用する人材と組織、そこにある強力な意志こそが重要であると、台湾の事例から学ぶことは多い。

ドイツでの有識者懇談会 – AI技術の信頼性向上へ

昨今あらゆる領域でのAI開発と利用が進み、市民からの注目も大きくなっている。そういったなか、「AIに対する信頼を強化するものが何であるか」を正しく捉え、技術の健全発展を狙う取り組みも始まった。 ドイツ連邦議会が定める人工知能研究委員会(AI委員会)は10日、経済や科学領域の専門家、民間団体の有識者に対し、AIに関する懇談会への参加を呼びかける声明を発表した。同委員会は特に、技術の信頼性と透明性・医療データを含む個人情報・データ保護に強い関心を持ち、これらに対するコメントをステークホルダーが自由に投稿できるウェブサイトを用意している。 AIのブラックボックス問題や元データ特性によるバイアスの内在など、技術そのものへの疑問視・危険視も根強く残る。これらを克服することは、先端技術の健全発展には不可欠と言え、各国政府レベルが主導する取り組みも今後増えていくことが予想される。

Project Gesundheit – Amazonによる風邪の治療法開発計画

Amazonは現在、コードネーム「Gesundheit」と呼ばれるプロジェクトにおいて、一般的な風邪ウイルスによる感染症の治療法開発を進めているという。 米CNBCの報道によると、Amazonはこの隠れプロジェクトにおいて、ライノウイルスをはじめとする一般的な風邪ウイルスによる感染症の治療薬・ワクチン開発に取り組んでいるという。2003年にミシガン大学より公表された著名な研究成果によると、米国において、一般的な感冒に伴う生産性の低下とそれによる経済的影響は年間400億ドルと推算され、これを完全にコントロールすることのメリットは計り知れない。 一方で、対症療法を除く、風邪ウイルスへの直接的な対抗手段の開発には複数の障壁がある。風邪の原因微生物の大多数はウイルスであるが、そもそも風邪ウイルスは200種類以上とも言われ、原因ウイルスの正確な特定が難しい。また代表的なウイルスであっても多くの型を有し、極めて早いスパンで変異を起こすため、感染に伴って(あるいはワクチン接種によって)得られた免疫も長期的には意味を持ちにくい。ここに、抗風邪ウイルス薬やワクチン開発の主たる難しさがある。 また同時に、風邪自体が数日から数週間の経過ではほぼ完全に治癒することも治療法開発を困難にする。つまり、放置しても重篤化せず治癒するものであるからこそ、その治療薬やワクチンには「いかなる副作用の存在も容認されにくい」ことになる。現実的にあらゆる側面で副作用を持たない治療法開発は極めて困難で、このことも長年科学者たちが風邪の対症療法以外の対抗手段を見出せない理由のひとつである。 Amazonが途方もなく大きなマーケットに目を向けていることは間違いない。積年の未解決課題を技術でクリアできるのか、期待は大きい。