NVIDIA 「TensorRT 6」を発表 – ディープラーニング推論を超高速化へ

近年の目覚ましいAI進展は、ディープラーニング技術の向上がこれを支えている。実際にディープラーニングで構築されたモデルを動かすにあたっては、「学習」と「推論」という重要な2つのフェーズがある。例えば、臨床に導入される一般的な医療AI製品は(当然学習済みなので)、このうちの「推論」が動いていることとなる。したがって「ディープラーニングにおける推論の高速化」は、医療AIの実運用と展開において非常に重要なファクターと言える。今週、NVIDIAはディーブラーニング推論の最適化・実行ライブラリである「TensorRT」の最新版をリリースした。 NVIDIA News Centerの公表によると、今回リリースされた「TensorRT 6」では、対話型AIアプリケーション・音声認識・医療向けアプリケーションにおける3D画像のセグメンテーションなどを劇的に高速化する新機能が搭載されているという。新たに追加された最適化機能の利用により、複数のT4 GPUでBERT-Largeモデルの推論をわずか5.8ミリ秒で実行することができるとのこと。快適で魅力的な利用体験を得るためには、BERTのような自然言語理解モデルを10ミリ秒未満で実行する必要があった。今回の劇的な高速化技術は、特に言語ベースのインタラクションを行うユーザーの大幅な体験向上に結びつく。なお、推論のパフォーマンスについてはこちらを参照のこと。

AI利用の現代版配置薬 OKIGUSURIがアフリカで医療改善 – 日本発NPO AfriMedicoの事例

日本の富山を発祥とする「置き薬」は家庭や職場に薬箱を設置して、使用した薬の代金を後払いするシステムである。300年以上の歴史を持つモデルだが、薬事法の制限などから現在の日本では規模は縮小し過去のものとなりつつある。そのビジネスモデルをアフリカの僻地に持ち込み、医療資源の不足、インフラの未整備、医療アクセスの困難さを解決しようとする日本のNPO「AfriMedico」がある。 Tokyo Reviewによると、AfriMedicoのOKIGUSURIは、伝統的な医薬品販売モデルに、センサーとAIを使用して配置された医薬品の使用状況を追跡する。タンザニアの僻地などに配置され、現地のスタッフはスマートフォンで薬品の箱を撮影しサーバーにアップロードする。加えてAIアルゴリズムが使用状況の分析精度を向上させている。団体の創設者である町井恵理さんは薬剤師としてのキャリアののち、アフリカでのボランティア活動を経て、「置き薬」のビジネスモデルを構築した。アフリカの人々の健康への寄与には、配置薬という手段以外にも教育・啓発が必須と考え環境整備を推進している。 ビジネスモデルを輸出する日本にとっても、アフリカで承認される日本の医薬品の種類が増えれば、製薬業界に発展のチャンスがある。また、日本国内で過疎化が進む地域では、十分なサイズの薬局が維持できるかという課題があり、医療インフラが時代に逆行して後退する危機がある。アフリカで発展した技術を逆輸入することで、伝統的な置き薬の価値が復活し、医療過疎地のインフラ整備につながる可能性も秘めている。

米iRhythm 心房細動の管理向上に向けVerilyと提携

循環器モニタリングにおいて、画期的なテクノロジーを創出して注目を集める米iRhythmは、Alphabet傘下のVerilyとの共同研究・開発事業を明らかにした。Verilyの持つ優れたヘルスデータ解析技術を利用し、心房細動の診断・管理向上を狙った新システム開発に繋げる。 Cardiac Rhythm Newsが先週報じたところによると、両社は無症候性(明確な自覚症状を伴わない)や未診断の心房細動に特に重点を置くという。心房細動は放置されると血栓形成を起こしやすく、有意に脳梗塞リスクを高めるため、早期のスクリーニングから正しい診断と治療管理に結びつけることは直接的に患者の生命予後を改善し得る。本年5月に行われた米国心臓病学会(American College of Cardiology)の年次総会では、iRhythmのモニタリングサービスで心房細動の診断を受けた患者群が、モニタリングを受けていないコントロール群に比べて、入院や救急受診の割合が低くなることが発表され話題となっていた。 VerilyのCMOであるJessica Mega氏は「循環器モニタリングのパイオニアであるiRhythmとのパートナーシップをとても楽しみにしている。より効率的な診断・治療のシステムを構築し、心房細動を持つ患者たちを深刻な転機から防ぐ取り組みとしたい」と話す。なお今回の提携に伴い、iRhythmはVerilyにに対して500万ドルの支払いをしており、成果に応じて1275万ドルまでの報酬が設定されているという。

AIとロボットが薬剤師を調剤から解放する新時代

薬剤師が調剤室に拘束される時代は終わりを告げようとしている。ロボットとAIによる調剤作業の自動化で、薬剤師を単純労働から解放し、医療の最前線に復帰させ、専門知識を有効活用する機運が高まってきた。英国NHSでは2017-2018年で174億ポンドの薬剤が消費され、処方件数は年間11億件(1分間に2000件)と、依然として調剤にかかる負担は大きな課題となっている。新技術は薬剤師の働き方をどのように変えて行くだろうか。 RACONTEURでは、英国で薬剤師と薬局に訪れている変化を報じている。業界への新技術導入は取り組むべき規制や法的要件が膨大であったため、その他の業界に比べ発展が遅かったと指摘される。そのような中、ようやく技術進歩による真のメリットが見られるようになってきているという。 調剤のオートメーション化による時間の節約は、薬剤師が患者と対面して専門的な助言をする時間を生み出した。大衆向けの薬局には患者の変化するニーズに適応する必要がある。特に合併疾患の増加による多剤服用は薬剤同士の相互作用など複雑なもつれを起こしている。NHSの統計では、成人の24%以上が3つ以上の薬を服用しているという。薬剤師が迅速かつ安全に患者に薬を届け、その複雑な状況にアドバイスすることは医療の安全に大きく寄与する。 また、AIアルゴリズムの活用とデータ分析は、複雑な調剤から発生するエラー率を削減する。NHSでは年間約16億ポンドを調剤エラーに費やしていた。AIアルゴリズムは季節性や地域性に変化する医薬品需要を予測する。学術誌Pharmaceutical Journalには、薬局ロボットの設置から4ヶ月以内に調剤エラーを50%削減した事例や、処方量を2倍以上にしながらも患者の待ち時間を10分の1に削減した事例が報告され、恩恵は目に見える形となってきた。 時間の節約は、薬剤師の業務フローのみならず、関係各所にまで影響を及ぼす。患者が正しく服薬できない状況に対して、仕分けされた薬の袋を直接提供するPillTimeというサービスでは、関係部署である看護師が1日90分の時間を節約できたという。 一方で、調剤の自動化は1システムあたり約5万〜50万ポンドという設備コストと保守的な考えにより、施設間の差が生まれてきた。英国の業界団体National Pharmacy Associationの代表Nitin Sodhaは「既に社会から評価されている現在のサービスに、新しい技術は織り込まれていかなければなりません。ローカルに行われてきた薬局のサービスを弱めるのではなく、コミュニティに焦点を合わせ最適化された技術の適用が必要です。私たちは薬剤師という専門家の意見を無視してはならず、薬には病気を癒すだけではなく、傷つける力があることを常に忘れてはなりません」と語った。

Google Cloud AutoML – 専門知識を持たない臨床医が高精度な医療AIを開発

英Moorfields Eye Hospitalに勤務し、AIに関する特段の専門知識を持たない臨床医が、Googleのソフトウェアを利用して高精度な疾患診断モデルを構築した。成果は学術誌The LANCET Digital Healthに公開された。 臨床医たちは、Googleが提供するCloud AutoMLを利用してアルゴリズムを構築したという。Cloud AutoMLは機械学習についての専門知識を持たない場合でも、実際的な機械学習の機能を利用できるよう設計されており、作成したモデルをアプリケーションやウェブサイトに統合するまでを実現している。同病院のチームは、網膜スキャンや胸部レントゲン、皮膚所見などの医用画像からアルゴリズムに学習させ、疾患名を導く5つの診断システムを開発した。このうち4つまでは、AI技術者が開発した診断アルゴリズムと同程度の精度を示したという。 現時点では一般的に、妥当なAI開発には高度の技術的専門知識を要する。一方で、このような背景知識の必要性を大きく押し下げ、広く技術利用を可能とすることで、特に専門性が高いためにAI技術者の介在がなされにくい「医学領域」へも機械学習技術の持ち込みが進む可能性があり、その潜在する利益は計り知れないだろう。

AIが看護師のケアを特別なものへ導くか?

看護師の思いやりに溢れたケアは、患者と家族の病院での経験にプラスの影響を与える。では、そのケアに対する患者満足度はどのように分析され、看護師らを導いていくだろうか。AIによって看護ケアに対する患者満足度を分析した研究がJournal of Nursing Administrationに発表された。 AI in Healthcareでは、米企業GetWellNetworkのメンバーによって行われた同研究の概要が紹介されている。入院患者がフィードバック用プラットフォームに提出したコメントに対して、自然言語処理・機械学習・感情分析を適用した結果、看護師の行動によって患者に伝わる最重要なテーマが「礼儀と敬意(courtesy and respect)」であると分かった。 著者らは、AIによって患者コメントを定性分析する研究が、患者と家族にとって最も有意義な看護師の行動を明らかにできると結論づけている。また、看護師らが主体的に同様の研究に関わり、医療AIの発展に寄与することを期待している。

axial3D – 医療と3Dプリンティングを繋ぐ英スタートアップ

英ベルファストに所在する医療系スタートアップaxial3Dが先週、The European DatSci Awardsの'Best use of Data Science/AI in Health/Wellbeing’(健康医療分野でのAI利用への表彰)に選出された。 axial3Dは機械学習技術を利用し、臨床医が3Dプリンティングを容易に実臨床に導入できるソフトウェアやサービスを提供している。具体的には、複雑な外科手術に際し、外科医が3Dプリントされたモデルを利用することで事前の精緻なシミュレーションを実現した。また、この種のモデルを患者教育や術前説明に利用することで、患者のより良い理解が得られることは多くの先行研究が明らかにしているという。 同社は本年7月に、シリーズAラウンドとして240万ポンド(約3億2千万円)の資金を調達しており、現在大幅な事業規模の拡大に着手している。医療の質向上に貢献する先端技術利用には今、大きな注目が集まっている。

Triple W社「Dfree」尿失禁対策デバイスで世界進出する日本発スタートアップ

尿失禁は全世界で2億人に影響を及ぼしているとの推算がある。老若男女、様々なタイプの尿失禁症状があり、明確な原因がつかめないことも少なくない。手術・機器埋め込み・電気刺激・薬物療法という強い手段にためらう患者もみられ、現実的な対処はオムツと尿とりパッドとなる。非侵襲的で安全なデジタルウェアラブルデバイスにより、尿失禁を抱える人々をサポートする製品を日本から世界に展開するスタートアップがある。 米メディアHME Businessで報じられている、Triple W(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社)の製品「Dfree」は、患者の下腹部に小型の超音波装置を固定し、膀胱内に溜まった尿のレベルをBluetoothでスマートフォンに送信する。失禁が起きる前に通知する技術はシンプルでありながら堅実である。膀胱が拡がる柔軟性、失禁が発生するタイミングと尿量との関係には個人差があるため、超音波センサーが測定した尿量は空っぽのゼロから満杯の10までの数値に変換されており、通知を受け取るしきい値を個別に設定する。データ集積とAIで排泄タイミングを予測する機能拡充の計画もあるという。高齢者施設を例にとると、トイレのケアにスタッフの時間の30-40%が消費されるともいわれている。同製品が失禁を予防すればスタッフの時間はもとより、オムツやパッド、ベッドリネン交換に要するコスト削減も期待できる。そしてなにより自力での排泄は、個人の尊厳において極めて重要な位置を占める。 ヨーロッパ、そしてアメリカに進出している同製品は、2019年1月の米国エレクトロニクス製品展示会CES、直近では9月にドイツ開催のIFA 2019(過去記事)で、日本のスタートアップとして存在感を示す。HME Businessのインタビューに対して、Triple Wのマーケティング・ビジネス開発担当の高柳氏は「失禁という事故に遭い、何度も繰り返し人々は自信を失います。外出を止めたり、極端な例では水を飲むのをやめてしまう。私たちのデバイスで、人々がアクティブなライフスタイルを取り戻し、自信と尊厳を取り戻せることを目指しています」と語った。

AIが睡眠の評価と管理を激変させる

生涯の3分の1以上を費やす”睡眠”は、健康の維持・増進にとって非常に大きな因子となる。近年の研究から、睡眠時間の短いことが糖尿病や高血圧を始めとする慢性疾患発症、さらにうつ病などの精神疾患発症との関連が深いことも示唆されている。また、睡眠の質が低いこと(中途覚醒が多いなど)や過多睡眠の健康影響についても研究の蓄積が進み、適切で良質な睡眠の確保は、疾患予防の観点と併せてその重要性を高めている。 スイス・ベルン大学の研究チームは、睡眠の自動スコアリング手法に関するレビュー論文を、このほど学術誌Sleep Medicine Reviewsに公表した。現在の代表的な睡眠評価手法は、ポリソムノグラフィ検査と呼ばれ、睡眠中の脳波や血中酸素飽和度、呼吸運動センサー、心電図などを組み合わせたものだが、検査結果の正確な解釈と臨床判断には専門医の目が欠かせない。昨今の深層学習技術の普及・向上に伴い、AIを利用した全自動スコアリングシステムの開発は急速に進んでいるが、いまだ実臨床の場における利用はほとんど見られない現状が指摘されている。これは日常臨床へのルーチン導入に多くの壁があるためで、今後は精度向上や妥当性検証を重ねるのみならず、臨床利用を前提とした「容易な導入と利用が可能で、十分に非侵襲的な」システム開発が望まれている。 睡眠の評価と管理が医学的に軽視される時代は過去のものとなったが、依然として正確な睡眠評価には専門的設備と専門医の存在が重要で、健常者を含む一般市民にとって身近なものとはなっていない。一方、医療AIの進展や、ウェアラブルデバイスなど小型端末の高機能化は、睡眠評価を激変させる可能性を多分に持っている。これは気軽な日常測定を通して、エビデンスに基づいた高精度な疾患予防を実現するもので、個別化医療達成への一助としても期待が大きい。

ベルリンに集う日本のスタートアップ – IFA 2019 エレクトロニクス製品見本市

ドイツ・ベルリンで9月6日から世界最大級のエレクトロニクス製品見本市「IFA 2019」が開催される。世界各国のスタートアップが集う特設エリア「IFA NEXT」には、日本から20社が出展する。 米メディアForbesでは、日本らしい優しさが組み込まれたマシンインターフェースを出展する2社が紹介されている。Langualess社による愛犬の心の状態を色で示す犬用ウェアラブルデバイス「INUPATHY(イヌパシー)」、もうひとつは音声から感情を解析するAI「Empath」である。 INUPATHYは、愛犬に着せられたハーネス型装置が心拍変動解析(HRV)を行い、リラックス・ドキドキ・ハッピー・興味・ストレスという5種類の感情を色で示す。蓄積されたデータは犬の健康管理の役割も果たす。ペットと心を通わせるための優しさに溢れたユニークな製品であるが、そのHRVなどの方向性はヒトにおけるウェアラブルデバイスの大本命Apple Watchに通じるところも感じられる(過去記事)。 Empathは音声から喜怒哀楽や気分の浮き沈みを判定するAIで、喜び・平常・怒り・悲しみの4つの感情と快活の度合いを解析して色で示す。企業と連携し従業員のストレス軽減や労働効率向上に取り組んだ事例が紹介されている。このように音声から精神状態を診断するアルゴリズムは医療AIのひとつのトレンドである(過去記事)。 コミュニケーションにおける調和と共感を善とする日本的発想。そこから生み出された製品たちは、量よりも質で海外の人々の心を捉えるだろうか。IFA 2019は9月11日までの開催予定である。

AI創薬スタートアップ Insilico Medicine たった21日で有効な薬剤を設計

香港に所在するAI創薬スタートアップ Insilico Medicineは、fibrosis(繊維組織の増殖)などへの治療薬剤候補となる化合物を、深層学習システムを利用することによりたった21日間で設計することに成功した。研究成果は学術誌Nature Biotechnologyにて、このほど公開された。 米Forbesが今週報じたところによると、同社はGENTRL(Generative Tensorial Reinforcement Learning)と呼ばれる深層学習システムを利用し、新しい薬剤候補となる化合物を21日間のうちに設計したという。これらの情報をもとに、最も有効となり得る候補化合物の動物実験にも成功しており、この検証までを含めても46日間で完了した。従来の一般的な薬剤開発プロセスにおいては薬剤候補の開発に8年以上、数億円規模の投資が必要であることを考えれば、数週間の開発期間と1600万円のコストは桁外れに効率的と言える。 InsilicoのCEOであるAlex Zhavoronkov氏は、2014年に同社を創立した。元来のバックグラウンドはコンピュータサイエンスであったが、キャリアの中途でバイオテック研究へとシフトし、米Johns Hopkins Universityと露Moscow State Universityから学位を得ている。Insilico Medicineは約26億円の資金調達にも成功するなど、まさにAI創薬における時代の寵児となろうとしている。

BioBase – 精神疾患予防に取り組む医療AIアプリの事例

WHOは世界で4億5000万人が精神疾患の影響を受けていると推定し、21世紀最大の健康課題のひとつとされる。しかし、不安・うつ・依存症といった精神状態の人々の3分の2が専門医療の助けを求められていないという指摘があり、負のイメージや差別が根強いことも理由のひとつと考えられる。 Forbesでは、AIによってメンタルヘルスに対する認識をより広く変化させようと取り組むロンドンの企業BioBeatsを紹介している。創業者のDavid Plansは、自身が2003年に過労とストレスから意識不明となり救急搬送された経緯をもつ。彼はインタビューに対して「メンタルヘルスを無視するリスクを直接知って、自身の考えが間違っていたことを確信しました。AI研究者であった私は、同じようなことが二度と起こらないよう警告するシステムを構築しようとしました」と語った。 アプリBioBeatsは、睡眠・身体活動・心拍の変動などをウェアラブル機器から収集、ストレスを分析することで精神疾患の予防に取り組む。ユーザーが自身の精神状態に対して取り組むヒントを提供し、潜在的な危険を掘り起こす。「技術だけでは精神疾患は解決せず、人々の病気に対する意識を変容させることが願いです」とDavidは強調して更なる開発を進めている。

米メイヨークリニック 英国進出の鍵は「AIを活用した予防医療の加速」

メイヨークリニックは米国病院ランキングトップの常連で、世界中から患者が集まり1兆円を超える年間売上をあげるなど、ヘルスケアプロバイダー界の巨人として知られる。医療の質の高さは言うに及ばず、独自の強力な経営戦略はたびたび話題を集める。今月、メイヨークリニックは初めての英国進出を果たすが、この鍵は「AIによる予防医療の加速」にありそうだ。 3日、Healthcare IT Newsが報じたところによると、英ロンドンに開設される新しいクリニックは、メイヨークリニックとオックスフォード大学との共同事業であるという。プライマリケアの充実・医学研究の促進・患者アウトカムの向上などを設立の目的に挙げているが、積極的なテクノロジー導入による予防医療の拡充にも大きな関心を持つ。開設されるクリニックではCerner社の電子カルテが導入されるが、同社はAmazon(特にAmazon Web Services: AWS)との積極的な協力体制を7月に表明しており、CEOのBrent Shafer氏は「Cernerがもたらす次なるヘルスケアイノベーションの核はAIにある」ことを隠していない。 英国は国民保健サービス(NHS)による中央管理的な医療提供体制のもと、総合診療医(GP)による強固なゲートキーパー機能を確立した。近年の医療費高騰を背景に予防医療に対する政府の関心は非常に高く、プライマリケアレベルへのテクノロジー導入によって有効に医療費を抑制できるかにも大きな注目が集まっている。

インド政府は結核撲滅にAI活用を推進

結核は世界の10大死因のひとつであり、所得の低い国で流行する特徴をもつ。そのため、新興国では社会全体の健康を脅かし続けている。WHOが結核撲滅のキャンペーンを掲げ、流行を防ぐことが理論上可能にもかかわらず、未だ終息が見えていない。10万人あたりの結核罹患率が100名を超える高蔓延国のひとつにインド共和国がある。同国の保健家族福祉省は、結核との戦いにAIを応用すべく、慈善団体ワドワニ財団が運営するAI研究所との連携を始めた。 米メディアOpenGovでは、同省が結核撲滅に向け採用を検討するAI技術を紹介している。結核治療は複数の抗菌薬を組み合わせ約半年もの長期に渡る。そのため、支援が不十分であれば治療から脱落し、感染拡大と薬剤耐性が問題となる。厳密な服薬を支援する技術として、モバイル機器による服薬遵守ツール「Pill-in-Hand」、電話による自動音声応答とショートメッセージサービス、携帯電話網に接続され圧感知センサーを備えた自動配薬ボックス、治療計画を守っていることを患者が報告するモバイルアプリなどが挙げられている。 以前紹介したフィリップスのFuture Health Index: 未来の医療環境指数調査(過去記事)によると、インドの医療AI利用率は46%で世界15カ国平均を超えている。同調査では、デジタル技術に支えられた医療を歓迎するインドの風潮がみられる。例えば、電子カルテの個人データに医療従事者が積極的にアクセスすることを希望(87%)、モバイルアプリで医学的アドバイスを受けることに不安を感じない(67%)といった意識調査結果がある。これらの国民意識に支えられ、インド政府はAIを活用し、2025年までに結核の流行を終わらせる計画を進める。一方、先進国でありながら中蔓延国に分類される日本の特殊な結核流行事情はよく話題となる。2つの国で将来的にどのような成果が出てくるだろうか?

内視鏡検査をAIがサポート – 日本発ベンチャーの取り組み

上部消化管の内視鏡検査は施行件数・技術ともに、日本が世界を大きくリードする。一方、熟練した医師であっても全ての病変を漏れなく抽出することは難しく、内視鏡によるスクリーニングでは約2割の前がん病変が見落とされているとの報告もある。日本発のAIベンチャーが、内視鏡検査によるスクリーニングをサポートするAIシステムの開発に取り組んでいる。 NVIDIAのプレスリリースによると、日本の医師によって創業されたAIM(AIメディカルサービス)では、NVIDIAのGPU(TITAN Xp、Quadro P6000など)を利用し、内視鏡検査支援のAIシステムを開発しているという。同社のディープラーニングツールでは、内視鏡から送られる映像をリアルタイムで分析し、リスクの高い病変部を指摘することができる。ピロリ菌胃炎判定では医師の平均を上回る正解率を示すなど、そのアルゴリズムは高い精度を誇っている。 過去の記事でも紹介したように、米中においてもリアルタイムAIを利用した内視鏡検査支援システムの開発は進んでいる。AI時代においてもなお、日本の十八番を日本の技術が先導することができるか、大きな注目が集まる。

AIがわかる病院リーダーはわずか半数 – Oliveの米国内調査

医療分野でAI技術を評価できる人材の重要性(過去記事)はあらゆる場面で繰り返し提唱されている。では実際のところ病院を率いるリーダーはAIに対してどのように向き合っているだろうか。米国AI関連企業のOliveが全米115名の病院責任者・役員に調査したところ、AIあるいは類似概念RPA: Robotic Process Automationについてよくわかっていたのはわずか半数であった。 Health IT Analyticsの報道では、リーダーの半数以上がAI/RPAの提供会社や解決手法を自ら指名することができておらず、AIに対する理解が意思決定に大きな影響を与えていることが解説されている。また、同分野に投資しようとしているリーダーは全体の23%、そのうち半数が導入予定時期を2021年までとしている。米国でも全体として医療業界はAI導入の初期段階にあることが示唆された。 米国に限らず、今回のAIブームをきっかけに新しく取り組む医療関係者は目に見えて増えた。一方、保守的な姿勢を続ける人との二極化は進む印象がある。もちろん、医療におけるAI活用の難しさは過熱したブームの後を追う形で指摘が続いている。きちんとした科学的検証をせずに先端技術に飛びつくのは賢明とは言えないだろう。しかし、よく理解した上で懐疑的で慎重になることと、知ろうとしないこととの間には深い断絶がある。果たして日本における病院のリーダー達はどうだろうか?

顔の3D画像から睡眠時無呼吸症候群を識別するAIアルゴリズム

オーストラリアにおける医療システムでは、睡眠障害が年間50億ドルのコスト負担につながっており、その半分以上が睡眠時無呼吸症候群に関連したものとされる。睡眠時無呼吸症候群は単に睡眠障害を惹起するだけではなく、糖尿病や心血管疾患、うつ病などとの関連も指摘されており、疾患管理の重要性を高めている。西オーストラリア大学(UWA)の研究チームは、機械学習アルゴリズムを利用し、人の三次元顔画像から睡眠時無呼吸症候群の存在を識別するシステムを開発した。 Healthcare IT Newsが27日報じたところによると、三次元顔画像から得られるランドマーク間の2点距離群を機械学習アルゴリズムに学習させ、睡眠時無呼吸症候群を持つ患者とコントロールの健常者との識別を行わせたという。学習済みアルゴリズムは91%の正確性で両者を識別できるようになった。 研究を率いたUWAコンピュータサイエンス・ソフトウェアエンジニアリングのSyed Zulqarnain Gilani博士は「アルゴリズム構築の上で最も大きな課題は、どのようにデータを収集するかだった」と話す。チームは2016年初頭から睡眠時無呼吸症候群を有する患者のデータを収集するとともに、コントロールとして、疾患を持たない一般集団から三次元顔画像を集めており、その労苦は非常に大きいものだったとのこと。チームは今後、学習データの規模を大きくして精度を高めるとともに、安価で容易に利用できるシステムの開発を目指すという。

心電図で健康寿命がわかる時代へ – 生理的年齢をAIが解析

1901年にWillem Einthovenによって発明された心電図は、人々の健康管理を長らく支えてきた。その基礎的な検査方法には、AI解析の新時代を迎えたことで新たな可能性が見出されてきている。従来では読み取るのが難しかった疾患を特定したり、患者のリスクを正確に分類するなど、患者にとって検査の負担が少ない心電図で分かることが増えてきた(過去記事)。 アメリカ心臓協会(American Heart Association)の学術誌Circulation:Arrhythmia and Electrophysiologyに発表された新研究では、心電図のAI解析で、患者の性別を特定し、さらに「生理的年齢」を推定できることが示された。「生理的年齢」は単に時間経過を示す実年齢とは異なり、個人差のある老化や基礎疾患を反映して健康状態の指標となる年齢の考え方である。 同研究では、畳み込みニューラルネットワークを使用したシステムでAUC0.97の高い精度で男女の性別を識別し、心電図に差が出ると言われてきた男女の性差を証明した。そして、患者の実年齢と約7年未満の誤差で生理的年齢を推定し、7年を超える差がみられた患者集団では心臓の駆出率低下・高血圧・冠動脈疾患が相関をもって含まれた。このことから、AIによって推定された生理的年齢は、患者の全体的な健康状態の尺度として役立つ将来性が期待される。 Medical Xpressでも、同研究の高い価値が紹介されている。メイヨークリニック研究グループの医師Kapa氏はインタビューに対して「AIで強化された心電図解析は他の検査方法で気づくことができなかった疾患検索も可能とします。心電図が生理的年齢の情報を含むという本研究は、驚くべき潜在的な役割を果たし、生物学の基礎を理解するための新しい科学領域を育てるかもしれません」と語った。

中国上海 – 受診患者の待ち時間を大幅に減らすAIシステムを導入

以前に紹介したように(過去記事)、中国ではごく一部の”三ツ星グレード病院”に国民の半数が受診し、結果的に長い待ち時間と非常に短い診察時間に至る、非効率な医療の現状がある。中国上海の市中病院では、新しいAIシステムの導入により、この長い診察待ち時間を短縮しようとする取り組みが始まっている。 中国メディアChina Dailyが27日報じたところによると、上海の小児病院ではYitu Healthcareの開発した新しいAIシステムが導入されるという。このシステムでは、外来受診プロセスの全てにAIが関与・管理するというもので、受診予約からオンラインでの事前診断(pre-diagnosis)までを含んでいる。受診前の段階から、患児の親が具体的な症状をオンライン入力することで、緊急性のアドバイスや受診すべき診療科、必要な検査などをAIシステムから提案される。 上海小児医療センターのZhao Liebin氏は、China Dailyによるインタビューの中で「このAIシステムは患者の診察待ち時間の大幅な削減と、患者体験の向上につながる。Yitu Healthcareとの協力を進め、診断精度の向上と他地域への適用拡大も図っていきたい」としている。

アルツハイマー病を予測するAI

認知症の6-7割を占めるといわれるアルツハイマー病は、高齢化にともない罹患数増加が著しい。米国においても580万人がこの疾患とつきあっており、2050年には1400万人近くに達すると推定されている。 より早期の正確な診断が予後に大きく影響するが、AIの活用も模索されている。HPC wireが報じたところによると、カナダのマギル大学のグループがアルツハイマー病と認知機能低下を予測するAIアルゴリズムを開発した。MRI検査、遺伝学的検査、臨床データから学習したアルゴリズムは、今後5年間でのアルツハイマー病に向けた悪化の可能性を予測する。オープンジャーナルPLOS Computational Biologyに研究成果が報告されている。 アルツハイマー病では、個人と家族への影響はもちろんのこと、社会的なコスト増も課題となる。2019年にはその他のタイプの認知症も含め2900億ドルの負担と推定、2050年には1.1兆ドルに上昇する可能性がある。治療方法が限定されている現状では、病気の初期段階を遅らせる予防効果への取り組みが進められ、AIによる予測が社会全体の負担を軽減することも期待されている。