デンマーク Corti社 – 緊急通話から心肺停止 CPAを判定するAI

心肺停止(Cardiopulmonary arrest: CPA)の緊急通報で、バイスタンダー(bystander)と呼ばれる救急現場に居合わせた発見者・同伴者は、心肺停止の様子を落ち着いて正しくオペレーターに伝えられるだろうか。また、蘇生処置は速やかに開始されるだろうか。 世界経済フォーラム: The World Economic Forumの記事によると、デンマークのCorti社は、コペンハーゲンの公式緊急通話『112』で心肺停止判定AIを試験運用している。通話音声での病状に関する単語や特徴から、心肺停止の有無を識別するニューラルネットワークを構築した。オペレーター単独73%に比べ、AIのサポートにより90%以上の正確さで心肺停止を認識できたという。同システムは欧州の4つの都市に試験範囲を拡大する。 AIが通話の早期に心肺停止を検知すれば、一刻も早い蘇生処置をバイスタンダーに指示できる。システムの誤検知によるリスクに対しては、蘇生処置を躊躇するデメリットが上回ると考えるのが一般的だ。蘇生処置なしで経過した心肺停止は、社会復帰率が1分毎に7-10%程度、急速に低下するといわれる。欧州や米国と比較し社会復帰率の低さが課題とされる日本でも、公的インフラへのAI応用の参考例となるだろう。

路上の心停止患者を救うAIアルゴリズム

スペインの多施設共同研究チームは、致死性不整脈を心電図波形から捉える新しいAIアルゴリズムを開発した。AEDへの搭載により、病院外での心停止症例に対し、より適切な除細動判定を行える可能性がある。 オープンアクセスジャーナル・PLoS ONEにて今週公開されたチームの論文によると、新しいアルゴリズムは従来の畳み込みニューラルネットワーク(CNN)単独ではなく、長短期記憶(LSTM)ネットワークを複合させた深層学習アーキテクチャにより構築されたという。得られた識別器は従来の精度を大幅に上回っており、米国心臓協会(AHA)がAEDに求める「除細動実施のための正確性基準」を十分に満たしているとのこと。 病院外での心停止発生率の世界平均は、1年間で10万人あたり55例と必ずしも稀なものではない(参考論文)。先進国を中心に市街地へのAED普及が進んでいるが、そのデバイスは正確な心電図波形の評価と除細動判定を行えることが、自明の前提として置かれている。高い精度を求める同種のアルゴリズム開発は、今後も積極的に進んでいくに違いない。

心不全治療薬の適切な初期投与量を機械学習で予測

慢性心不全の治療薬ジゴキシンは、最適な血中濃度の範囲が狭く、薬物同士の相互作用(DDI)を受けやすい性質から、臨床で強い注意を必要とする。特に高齢者では中毒症状などの有害反応で入院や死亡に至るケースが多く、課題とされてきた。 Journal of Healthcare Engineering収載の論文は、台湾の医療センター307名の患者でジゴキシンの初期投与量の適切さを機械学習で検討した。複数の機械学習手法を比較し、決定木(decision tree)ベースのランダムフォレスト(RF)や、多層パーセプトロン(MLP)の優位性が示された。血中濃度の測定前に、初期投与量の適切さを予測することは、臨床での意思決定に大きく役立つ。単一施設のデータであり研究の更なる発展が必要と著者自ら指摘するものの、AI応用の臨床研究モデルとしての方向性は興味深い。 ジゴキシン以外にも、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring, TDM)で血中濃度の解析を必要とする薬物は抗てんかん薬・免疫抑制剤・抗菌薬・抗不整脈薬など多岐に渡る。影響を与えるパラメータが複雑で、臨床面では扱いの難しい治療薬として認識されることも多い。特に初期投与のように個人の過去データがない局面では、AIによる予測モデル研究の発展の可能性が高い。

シンガポールのスタートアップ・Biofourmis デジタルバイオマーカーで3500万ドルを調達

シンガポールのスタートアップ・Biofourmisは、ウェアラブルデバイスから得られた生体データを収集・解析するAIプラットフォーム「Biovitals」で知られる。今回、同社のシリーズBラウンドとして、3500万ドル(約38.6億円)の資金を調達したことを公表した。 Venture Beatが21日報じたところによると、今回の資金調達によりBiofourmisは、米国・アジアにおける宣伝広告および販売の促進、データサイエンス部門の強化、規制対策などに重点投資を行うという。Biofourmisは2015年創業のヘルス系AIスタートアップで、強力な技術力を背景に急激な成長を遂げた。ウェアラブルデバイスによる生体データと既往歴などの患者情報から、各種健康アウトカムを予測する「デジタルバイオマーカー」の生成を目指している。 ヘルスケアAI開発において大きな障壁となるのが、有効な臨床データを利用できるかどうかだ。アルゴリズムのトレーニングに利用できる匿名化済みデータベースのうち、広く利用可能なものは非常に限られており、質の高い自前のデータセットを用意できることが成長の鍵となる。Biofourmisは米メイヨークリニックとの提携を公表するなど、臨床機関との積極的な連携も示してきた。

ラジオとAIが認知症高齢者を救う

英国では近年、認知症高齢者の入院が急増しているが、主な原因は定期内服の失敗や情緒の不安定などで、必ずしも重篤な疾患罹患に伴うものではないとされる。ラジオとAIを利用し、認知症高齢者の生活を変容させることで、入院を避け家庭での豊かな生活を取り戻そうとする取り組みを紹介する。 英プリマス大学が20日公表したところによると、英国の公的研究助成機関の1つ"The Engineering and Physical Sciences Research Council"による270万ポンドの助成を受け、新しい高齢者対象研究が行われるという。AIによるラジオ放送内容の個別最適化により、認知症高齢者の入院率低減を図ろうとするもので、放送内容は個別の服薬リマインダーや治療関連情報の提供だけでなく、嗜好に応じた音楽放送など多岐に渡るとのこと。 IT技術の向上を背景に、Connected Healthcareと呼ばれる「患者情報の統合による個別化医療の実現」が注目を受けるようになった。一方で、特に高齢者においては先端デバイスの導入が壁になりやすい。本研究では、高齢者により馴染みの深いラジオをメインのプラットフォームとして採用していることに大きな新規性があり、関心が集まっている。

ブラジルの手話翻訳アプリ Hand Talk – Google AI Impact Challengeから75万ドルの助成

Googleは世界における社会・人道・環境にかかる重大な問題をAIの活用を通じて解決を図る案を募り、資金の助成と同社による専門サポートを与えるプロジェクト『Google AI Impact Challenge』を開催している。 ラテンアメリカの民間資本投資協会LAVCAの公表によると、ブラジルの手話用リアルタイム翻訳プラットフォーム『Hand Talk』が最優秀プロジェクト20のひとつに選定され、Googleから75万ドルの助成を受けたという。助成金とGoogleの専門家によるサポートで、Hand Talkは手話翻訳の質向上と、国際標準化としてアメリカ手話(ASL)の翻訳サービス開始を目指す。 聴覚障害者のコミュニケーションの壁を破ることが使命のスタートアップHand Talkは、2012年に創設された。同社はポルトガル語からブラジル手話(Libras)への自動翻訳をWebアプリとモバイルアプリで展開している。世界保健機関WHOによると、世界の約3億6千万人の聴覚障害者のうち、約80%が自国の言語を理解できない問題を抱えているという。優良なアクセシビリティを提供する同種のAI技術開発(過去記事)は、重要な社会的使命を果たすことが期待されている。

米スタンフォード大 – 個人情報を保護する堅牢なシステムで眼科診断AIを運用

AIの臨床応用には膨大な量の個人医療データが取り扱われる。そのため、ゲノム情報や電子カルテ記録などの重要な機密情報の漏えいリスクは、常に危惧されている。 MIT Technology Reviewによると、個人情報を強力に保護しながら医療データをAIアルゴリズムのトレーニングに提供できるプラットフォームの運用が、スタンフォード大学医学部を中心に始められた。カリフォルニア大学バークレー校発のスタートアップOasis Labsのアプリを通じて、眼科検査結果と健康記録データが提出されると、データと個人情報が紐付けられずにクラウド上に保管される。その後、第三者がそのデータをAIアルゴリズムに対して安全に適用することができる。ブロックチェーン技術が応用されたこのシステムによって、患者はプライバシーを保護しながら医療データの提供が可能となり、ひいては自身もAI技術の恩恵を受けられるようになるという。 医療現場へのサイバーアタックの脅威(過去記事)のように、デジタル化された個人の医療情報が悪意を持って抽出される可能性が高まっている。医療用AIの臨床現場への普及にあわせて、強力なセキュリティ技術の発展も課題となるだろう。

乳がんの転移・再発をAIで予測

乳がん患者のおよそ10-15%が、がんの転移・再発によって亡くなっている。台湾Chang Gung大学の研究チームは、乳がんの転移・再発を予測するAIアルゴリズムを開発した。 学術誌International Journal of Medical Informaticsにて、今月公表された論文抄録によると研究チームは、臨床病理所見と血液検査から乳がんの転移・再発を事前予測するAIアルゴリズムを構築したという。302例の乳がん患者からなる前向きコホートデータを利用しており、最適モデルでは、がん転移の3ヶ月前での高精度な予測が可能であったとのこと。 乳がんの転移・再発を早期に予測し適切な治療介入を行うことは、患者予後を大きく改善する可能性がある。治療後フォローアップの内容や間隔など、重要な医学的判断をサポートするシステムとして期待が集まる。

AI自動運転への過渡期に何を考えるか -高齢ドライバーと軽度認知機能障害 【臨床医が考察】

高齢ドライバーと運転免許に関する問題を、社会全体が痛感する状況が続いている。免許を自主返納するような一部の自主的な努力が及ばず、安全網からの小さな漏れが悲劇的な結末につながってしまう。個人の権利は尊重されるべき一方で、ある程度の強制力をもつ線引きには、活発な議論と現状認識が必要だろう。 近い将来、AIによる運転の完全自動化は確実な流れと考えられる。国土交通省資料に示されているような、いわゆるレベル5近辺の自動運転技術に達する頃には、別の倫理的問題へと変化しているに違いない。しかし、現状は過渡期である。待望の技術進化の達成時期は未知であり、直面した問題に現実的な対応をしなければならない。 『高齢』『運転能力の低下』『認知機能の低下』の視点から、以下の2つの論点を中心に考察する。 1.「高齢者は一律に運転能力が低下するか?」 2.「認知機能低下があれば運転は不適切か?」 「高齢者は一律に運転能力が低下するか?」 高齢者と接する機会の多い医療従事者は臨床現場で日々実感していることだが、認知および身体機能には個人差がとても大きい。これは論点のひとつ、『単純に年齢だけでは運転の可否の境界線を引けない問題』と関わる。そもそも運転能力は多くの要素から影響を受け、個人差が大きいという前提がある。そして、運転能力と一言でいっても様々な解釈がある。 特に私たちの感情を強く刺激するような凄惨な事故、未来への希望が断たれる被害者、理不尽で容認しがたい構造の事故背景をみると、加害者へのバッシングに傾くのも常である。しかし、衝動的な感情が収まるのを静かに待ち、一歩下がって大局の視点に戻ると、専門家のコンセンサスは実は既に得られていることに気がつく。 「安全に運転できる限り、年配の運転者も路上にとどまるべきである」 裏を返すなら、 「安全に運転できないなら、年齢に関係なく路上に出てはいけない」 車社会と高齢社会が高度に共存している米国の例をみても結論はさほど変わらない。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)の高齢運転者に対する評価とカウンセリングの臨床向けガイド『Clinician’s Guide to Assessing and Counseling Older Drivers』を参照とするも、やはり結論は「客観的に評価して、安全に運転できるなら運転を規制できないし、するべきではない」となるだろう。 米国の老年医学研究学術誌Journal of the American Geriatrics Society収載の論文では、医学的理由で運転制限に至る高齢者は15%程度という実情を報告している。このようなデータを、医学的な運転制限が必要な高齢者が潜在的に存在する可能性ととらえるのか、それとも本質的には運転能力低下は医学との関連要素が小さいと解釈するのか?より多くの臨床関係者が、この問題に積極的に意見を示す余地がある。 カナダの老年医学研究学術誌Canadian Geriatrics Journalに掲載の『高齢ドライバー評価に関する合意声明』では、論調が個人の権利よりも社会的要請の側にシフトする。現状の評価方法には課題が多く、医療従事者による積極的関与と協力を強め、多段階的で公正な評価方法へと修正してゆく議論が必要という。そして、社会的には個人の運転から代替する方法への技術開発が望ましいと表明している。 では実際に、客観的な運転能力評価のため現行でも取り得る方策があるだろうか?既に個人の手元に届く技術として、様々なAIアプリケーションに注目してみる。Driving behavior scoreやSafe driving scoreと呼ばれるような、ビッグデータと機械学習モデルから運転技能を点数化するアプリは、目にすることが増えてきたのではないだろうか。商業ベースではMoveXやFICO社などが該当し、国内の身近な例ではYahoo!カーナビの運転力診断(三井住友海上火災保険会社の機能提供)がある。誰もが納得できる公的なAI運転能力診断スコアを、年齢に関係なく運転免許維持の要件とするのはひとつの可能性である。公道での運転評価は、都市と郊外の道路状況の違いを加味する必要もある。そのため、判定を補助する要素とし、VR技術を活用したドライブシミュレーターなども実用に耐え得るものとして期待できる。 「認知機能低下があれば運転は不適切か?」 認知機能低下≠運転能力低下、であることも議論の難しさとなる。日本精神神経学会の『患者の自動車運転に関する精神科医のためのガイドライン』では、「認知症も含めた特定の精神疾患を運転制限に結びつけるのは医学的根拠がない」などとして一律の強制力を働かせた規制には反対の姿勢が強い。 国内外問わず、グレーゾーンとして共通の議題とされているのが『軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment : MCI)』である。学術誌Journal of...

精索静脈瘤による男性不妊を予測するニューラルネットワーク

男性不妊症(不妊の原因が男性側にあるもの)も少なくないという事実について、世の中の認識が近年進んできた。精巣静脈瘤という、陰嚢内で精巣に連なる静脈がこぶ状に太く蛇行した状態が、男性不妊の大きな原因のひとつとして、医学的には注目されている。ただし、その重症度と妊娠可能性の関連を予測する臨床指標やマーカーは確立されていなかった。 学術誌BioMed Research Internationalには、精巣内のカンナビノイド系(ECS)と呼ばれる遺伝子発現に注目し、ニューラルネットワークを利用して妊娠可能性を予測する研究が収載されている。実験動物で進められた本研究は、やがてヒトにおいても、精索静脈瘤が関与する不妊症の診断と妊娠可能性に利用できる予測モデルの開発に繋がる可能性を示唆している。 これまでの精索静脈瘤の臨床重症度分類は、必ずしも精液サンプルの質と相関しないといわれ、妊娠可能性との関連には未知の部分が大きかった。そのため臨床現場では、男性不妊に関して重症度分類の解釈に難渋する側面もあり、本研究の発展が期待されるところである。以前に紹介した、体外受精の成功率を高めるDeep Learning(過去記事)など、AIと生殖医療との関わりについては人々の期待も大きく、今後も注目してゆきたいトピックスである。

デンマークのスタートアップ・UNSILO AIによる医学論文評価ツールを開発

医学論文は内容の新規性と重要性はもとより、適切な形式に知見をまとめ、トピックに即した科学ジャーナルで公開することが欠かせず、一連の投稿作業は極めてテクニカルであるとともに多大な時間を要する。デンマークのスタートアップ・UNSILO社は、AIを利用した医学論文評価・投稿支援ツールを開発している。 UNSILO社の公表によると同社の論文評価ツールは、リアルタイム自然言語処理機能を備えたAIアルゴリズムを利用し、論文原稿が一般的な投稿規定に沿った構成をとっているか、追加すべき参考文献、内容に即した適切な投稿先ジャーナル・査読者などを網羅的にチェックし、著者に提案することができるという。 特に医学分野においては、価値ある研究成果は英語論文として国際的学術誌に公表し、より多くの人々に知見を共有することが求められる。一方、学術的な記述形態・構成に落とし込むことはもとより、無数とも言える投稿先候補から最適なジャーナルの選択を行うことは簡単ではない。この種のツールは医学研究者の実務を効率化する大きな助けとなり得、アカデミアをはじめとした業界からの期待も大きい。

前クリーブランドクリニックCEOはなぜGoogleに加わったのか

米国は民間病院の数が圧倒的に多く、常に激しい競争にさらされているためそのレベルも高い。クリーブランドクリニックは、メイヨークリニックやマサチューセッツ総合病院などと比肩する巨大民間病院として知られ、高い医療技術と優れた経営面は安定した評価を受け続けている。2017年まで同院で10年以上に渡りCEOを務めたToby Cosgrove氏は、なぜ突如としてGoogleに加わったのか。 米バージニア大学のメディカルスクールを卒業後、マサチューセッツ総合病院でインターン、ボストン小児病院や英国の有名病院に勤務するなど心臓血管外科医としての華々しいキャリアを築いてきたCosgrove氏。Healthcare IT Newsによる同氏へのインタビューでは、ヘルスケアAIの持つ可能性に大きな期待を示すとともに、「我々はデータの海を泳いでいる。ヘルスケア関連データはたった73日で倍になってしまうんだ」と話し、Google参画はビッグデータ時代のエキサイティングな選択であったことが透けて見える。 Googleは過去に、Google Healthの閉鎖という憂き目を経験しているが、ヘルスケア市場へのAIを用いた積極展開の姿勢を崩していない。AI関連のエンジニアやリサーチャーだけでなく、著名臨床家を多数抱き込むなど、多面的な進出には業界全体からの大きな注目を受けている。

米マウントサイナイ病院 – 前立腺がん手術後の再発予測にAIを活用

前立腺がんはアメリカ男性がん死亡数の第2位で、社会的に注目度が高い。高齢化とセットの典型的ながんで、日本でも罹患数が急増している。手術治療は良好な予後をもたらす選択肢だが、術後の再発率は20-30%前後で、再発リスク評価に発展の余地があった。 Medical Expressによると、米マウントサイナイ病院は術後病理診断に免疫染色画像を分析するAIアルゴリズムを組み込み、リスク分類を再定義した。悪性像の評価指標グリソンスコアと術前腫瘍マーカーPSAによる従来のリスク評価と比較したところ、以前は中等度に分類されていた集団の58%を低リスク、42%を高リスクに再分類したという。Nature Prostate Cancer and Prostatic Diseasesに発表されたこの成果は、術後のフォローアップの厳密性を考える際や、再発が疑われた時の放射線療法やホルモン療法など追加治療を考慮する際など、臨床判断を補助するのに有用となる。 前立腺がんは、適切にフォローアップできた場合には死亡率が大幅に低減する一方で、早期診断や偶発がんを取り扱うにあたり、過剰診断と過大治療がしばしば問題視されている。臨床医の判断を左右する要素が時代とともに繊細に変化するため、より個別化された客観的なリスク評価指標がAIにより確立されることは現場から歓迎されるだろう。

自転車乗りをブラックカーボンから救え

ブラックカーボンは大気中のエアロゾル成分の1つであり、地球温暖化促進因子として大きな注目を集めている。このブラックカーボンは、ディーゼルエンジンの排気ガスや石炭の燃焼などから発生するが、実は発がん性をはじめとした深刻な健康影響も指摘されている。今回はAI技術を利用し、サイクリストをブラックカーボンから守ろうとする取り組みを紹介する。 学術誌・Science of The Total Environmentにて今月公表された研究報告によると、ブラジルの道路上でのブラックカーボン濃度をモニタリングし、サイクリストの曝露状況を予測するAIアルゴリズムを構築したという。最も強力な予測因子として示されたものは、1時間あたりの「酷使された車両通行量」であったとのこと。研究チームは、サイクリストの健康を守るため、公共バスの刷新・修繕を求めるとともに、自転車専用レーンの設置による隔離の必要性を訴えている。 先進各国を中心にactive commuting(徒歩・自転車などによる健康的な通勤方法)が取り沙汰されるなか、自転車通勤が逆に健康被害をきたす切実な状況にある地域が存在する。全地球的な環境問題は当然重要だが、個別の健康事例に落とし込んでの積極的な研究実施もまた非常に大きな意味を持っている。

肥満手術の術後合併症を予測するAIアルゴリズム

スウェーデン・エレブルー大学の研究チームは、肥満手術に伴う重篤な手術合併症を予測するAIアルゴリズムの開発に取り組んでいる。 学術誌・Journal of Clinical Medicineに今週掲載されたチームの論文によると、スウェーデンで肥満手術を受けた38000例に及ぶ患者の臨床データを利用し、教師あり学習による29のアルゴリズム構築を行ったという。いずれも90%を超える高い正確性と特異度を示したが、テストサンプルによる検証では、十分な感度が確保できず臨床的な有用性を示すには至らなかったとのこと。今後チームは、オーバーサンプリングを含めたモデリングと再検証を行い、有効なアルゴリズムの構築を目指す。 成人肥満の増加は世界各国における深刻な公衆衛生学上の課題と言えるが、肥満手術は特に高度肥満に対する長期的な減量効果のあることが示されている。日本においても、継続した内科治療によって改善のみられない高度肥満に対し、保険適応による肥満手術が施行されている。手術合併症は栄養吸収障害や腸閉塞から、深部静脈血栓・心筋梗塞まで非常に多岐に渡り、事前のアセスメントによる合併症リスクの把握は非常に価値が高い。

Instagram インスタグラム – 反ワクチン運動を取り締まるAI搭載ポップアップの実装を計画

ワクチン接種は医学史上、個人の健康と公衆衛生の向上に圧倒的な貢献をしてきた。しかし近年、脆弱な科学的根拠でワクチン接種に反対し、人々に接種をためらわせる、反ワクチン運動(通称anti-vax)が盛んである。世界保健機関WHOも反ワクチン運動を2019年の健康への最大の脅威として対抗措置を強めている。 tubefilterによると、Instagramは新しいAI技術により反ワクチン運動コンテンツを取り締まるポップアップの実装を計画しているという。ユーザーが反ワクチン関連の用語を検索した際などにAIがフラグを立て、ポップアップで警告するような機能が予想される。BuzzFeedによると、既に#VaccinesCauseAIDS(ワクチンがエイズの原因)のような悪質なハッシュタグはブロックされている。反ワクチンのすべての投稿を取り締まる考えではなく、科学的に検証可能な情報は尊重しながらも、陰謀論的な情報の拡散を制限したいとの考えだ。 反ワクチン運動の取り締まりを目指すプラットフォームはInstagramに限らない。YouTubeは反ワクチン動画の非音声化を発表しており、AmazonはPrime Videoからすべての反ワクチンドキュメンタリーを削除、Twitterも追従する動きを見せている。

医療現場はサイバーアタックの脅威が増していく

AI関連技術の発展もさることながら、通信環境の劇的な向上を背景として、医用画像・臨床データのクラウド保存や医療機器のIoT化は急速に進もうとしている。今後、医療現場がサイバーアタックの脅威に曝される機会が増すことには、もはや一切の疑いの余地がない。 英ヘルスIT系メディア・Digital Health Newsの報道によると、英国民保健サービス(NHS)が展開する現行のシステムにおいても、特にIoT化されたデバイスがサイバーセキュリティ上の深刻な脆弱性を持つという。外部機関に委託して行われた検査では、特定の超音波診断装置に容易な不正アクセスができ、画像データベースの完全な抽出ができてしまったとのこと。未だにWindows 2000をOSとして利用しており、最新のソフトウェアアップデートが受けられない状態にあった。 医療情報は究極の個人情報でもあるため、その漏洩は深刻な問題となる。さらに、診断・治療に関わるような情報の改ざんは直接的に個人の生命に影響を与えるため、その種のサイバーアタックを看過することは決してできない。一方、医療者およびシステム管理者側も相応のITリテラシーを持ち、技術向上に応じた知識のアップデートを随時行う姿勢を持つことも当然欠かせない。

オックスフォード大学とユトレヒト大学主導 – AI予測モデルに関する新しいガイドライン策定へ

ヘルスケアのデジタル化が、機械学習などAIの進歩によって強力に推進される状況が続いている。しかし、そのイノベーション的な側面と、誇大広告とを区別するのは容易ではない。臨床医学におけるAIは、方法論での不完全さと再現性の乏しさが問題となる。予測モデル研究についてもその不完全性は指摘が多い。 Regenerative Medicine Utrechtは、機械学習に特化した予測モデル研究のガイドライン策定を、オックスフォード大のGary Collins教授とユトレヒト大のCarl Moons教授が主導すると発表した。新ガイドライン(通称TRIPOD-ML)は、これまでに確立された予測モデル研究についてのガイドライン『TRIPOD声明』に、機械学習などAI研究で新しく生まれた専門性を取り込み、適切な方法論に準拠したAI予測アルゴリズム研究をサポートする。 AI医学研究では、妥当性の検証不足が常に指摘されている(過去記事)。臨床医学が目の前のAI革命に対して、盲目的に魅了されることがないように、戒める意見は少なくない。日本国内向けのTRIPOD声明などを参考として、関連する研究者たちは原点に立ち返る姿勢が重要となるだろう。

Zebra Medical Vision 気胸診断AIのFDA承認を取得

高い医療画像解析技術によって大きな注目を集めるイスラエルのスタートアップ・Zebra Medical Visionは昨日、胸部レントゲン写真から気胸の存在を警告できるAIシステムに関し、米食品医薬品局(FDA)からの承認を受けたことを公表した。 医工学系メディア・FierceBiotechの報道によると、同アルゴリズムは数百万に及ぶ胸部レントゲン画像を利用して構築されており、医師は従来より80%以上早く、自信を持った診断にたどり着けるとしている。Zebra Medical VisionのCEO・Eyal Gura氏は「我々の製品に重要な付加価値を与えられ、多忙な放射線部門への助けともなれることを嬉しく思う」とコメントしている。 特に急性期の現場など、時間的制約のあるなかでの胸部レントゲン読影には大きなストレスが伴う。同メディアによると、実際米国では、気胸の誤診・診断の遅れによって年間74000人が影響を受けているとし、熟練の放射線科医においても利用価値が高いことを指摘している。

Google 肺がんの超早期発見AIアルゴリズムを開発

先週、米国カリフォルニア州で開催された年次開発者向け会議(Google I/O)で、Googleが「超早期肺がんをCTから識別するAIアルゴリズム」を開発したことを公表した。このアルゴリズムにより、放射線科専門医による読影でも見逃されがちな微小変化を、がん病変として正確に捉えることができる。 英The Telegraphの報道によると、これはGoogleのAIチームと、Alphabet傘下のライフサイエンス部門・Verilyとの共同研究成果であるという。放射線科医の6人に5人が見落とす早期変化を捉え、通常診断の1年前でのがん識別を実現するとのこと。Googleのリサーチャー・Lily Peng氏は「1年もの早期発見により、生存率は40%程度も向上し得る」とインパクトの大きさを強調する。 肺がんの早期変化を適切に捉えることは難しく、読影を行う放射線科医の技量差も少なくない。アルゴリズムの診断精度が多面的に検証され有効性が確認されれば、画期的な医療ブレイクスルーとなる可能性がある。The MassDeviceによると、この研究成果は学術誌・Nature Medicineにて公開予定とのこと。