GE Healthcare 麻酔器のハッキングリスクを否定

GE Healthcareは、同社の麻酔器がハッカーによる攻撃対象となった場合も、患者に直接的なリスクが及ぶことはないことを明らかにした。サイバーセキュリティファームCyberMDXが昨年、GE Healthcareの麻酔器に深刻な脆弱性があることを指摘したことにより、調査を行なっていた。 Healthcare IT Newsが15日報じたところによると、GE Healthcareは「麻酔器自体に脆弱性はないが、デバイスをネットワークに接続することは一般的に推奨していない」としているという。CyberMDXのGEに対する通達では、GE AestivaおよびGE Aspire 7100/7900において、ハッカーが麻酔薬量やアラーム設定などを遠隔操作できる可能性を指摘していた。 医療におけるAIおよびIoT技術の発達は、クラウドを含むネットワーク連携が一層加速することも意味しており、臨床現場におけるハッキングリスクは過去に例をみない高まりを示す。英国の王立麻酔科医協会(Royal College of Anaesthetists)は公式見解として「当該デバイスの利用に際してパニックとなる理由は何もない」とし、万一不測の事態となっても麻酔科医の対応でカバーできる程度の問題であることを強調している。

熱傷(やけど)でダメージを負った腎臓をAIが超早期に判断する

熱傷による水分バランスや血中老廃物の異常から腎臓が急に機能しなくなる、いわゆる急性腎障害は、致死率80%ともいわれる危険な状態である。救命には一刻も早い診断が必要だが、これまでの尿量や血中クレアチニンのようなバイオマーカー測定には改善の余地があった。機械学習モデルで新しいバイオマーカーを解釈し、急性腎障害の診断までの時間を大幅に短縮する研究が2019年6月に学術誌Burnsに発表された。 Medical Xpressによると、米UCデイビスメディカルセンターのグループが、尿中の好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)という新しいバイオマーカーに着目した機械学習モデルを作った。これまでのバイオマーカーでは平均42.7時間かかっていた診断を、18.8時間にまで短くできたという。さらに診断精度の向上も達成しており、これまで測定値の解釈が難しいとされてきたNGALの弱点をカバーする大きな成果を達成した。 AIによる急性腎障害の超早期診断は、熱傷が起きやすい戦争での死傷者に応用が期待されている。急性腎障害を前線の施設で管理するのは難しく、早期に診断されれば、後方の高度医療機関へ適切な搬送ができるようになる。この流れは民間でも同じである。これまで専門的で解釈が難しいとされてきたさまざまなバイオマーカーに活躍の場面が与えられるようになったのは、機械学習の全盛期ならではの現象といえるだろう。

Apple Watchから電子カルテへの記入を実現するAI技術

電子カルテへの適切な情報入力は、現代の医師にとって最も時間を割く作業のひとつである。医師がApple Watchに話しかけるだけで文書を聞き取り、キーワードから適切な箇所にカルテ入力を行うAI技術が実現している。 Austin Regional Medical Clinicは、米テキサスで47万5千人を超える地域住民にヘルスケアを提供する医療グループである。Healthcare IT Newsの報道によると、同グループはNotable Healthの開発したカルテ入力補助システムを利用することで、医師1名あたり1日1-2時間程度、医療文章の作成時間を短縮することができたという。同システムには自然言語処理の可能なAIアルゴリズムが実装され、患者との会話中やその前後に、医師が装着するApple Watchから患者情報の識別とカルテ入力を行うことができる。 電子カルテは各社が独自フォーマットを持ち、その記述形式も様々だが、Notable Healthが提供するシステムでは、高い汎用性から既存の電子カルテシステムにシームレスな導入を実現しているとのこと。医師の事務作業時間を短縮し、本来的な患者治療に向き合う時間を増やすことは、新技術の有効かつ妥当な利用方法として期待が大きい。

Mindshare Medical 肺がん診断AIでCEマーク認証を取得

Mindshare Medical社は12日、同社の肺がん診断AIシステム「RevealAI-Lung」が欧州におけるCEマークの認証を取得したことを公表した。CTスキャン画像から肺がん診断を行うAIプラットフォームとしては、同製品が最初の認証取得となる。 Mindshare Medicalのプレスリリースによると、RevealAI-Lungの活用により、画像読影における偽陽性の低減と読影時間の短縮が実現できるとしている。これは生検を含む不要な追加検査を避けることにも繋がり、患者にとって負担の大きい「侵襲的検査」の回避と医療費の健全化に資する可能性がある。 欧州において肺がんは男女の主たる死亡原因であり、2017年には37万6千人が命を落としている。これは全がん死亡の20%を占めており、肺がんの正診率向上と一連の検査・診断の効率化は極めてインパクトが大きい。Mindshare Medical CEOのMichael Calhoun氏は「我々の製品がヘルスケア全体に利益をもたらせることを楽しみにしている」と、今後の市場展開に大きな期待を示している。

医療過疎地の住民をAIが救う – iFlytekとJF Healthcare 中国農村部での取り組み

都市部と地方での医療の差は万国共通の課題である。人やお金について簡単に埋めることのできない資源の差を、技術で解決しようとする取り組みが世界各地にある。急速な経済発展をみせる中国だからこそ、農村部の医療過疎と格差についての問題意識は強く、遠隔医療がひとつの解決策と考えられている。 China Dailyが2019年7月10日に報じたのは、中国農村部の医療過疎を救うAI技術についての特集である。中国で音声認識技術などを代表するAI大手企業としてiFlytekは知られているが、医療分野への進出も注目されている。同社のAI『Xiaoyi』は、2017年に中国国内で医師向けの適格試験に挑戦し、オフライン環境で合格点を記録して注目を浴びた。そのヘルスケア部門iFlytek Healthが開発した医療アシスタントAIは農村部を中心に配置され、2019年3月までに1200の施設で使用、150万人以上の診断補助を行った。「草の根(grassroots)医師たちの診療時間の短縮、正診率の向上に大きな助けとなっている」と同社のCEOであるTao Xiaodong氏は語っている。 例えば、X線検査機器を導入した農村部の自治体で、それを診断と治療にまで結びつけられる医師がいないことは、近年でも中国では珍しくはなかった。JF Healthcareは、AIと遠隔通信によるオンライン医療サービスを12の省・自治区で1019の施設に提供し、2000万人以上の住民をカバーしている。X線画像は、AIの診断補助を受け、クラウドへのアップロードから10分で専門的な評価がもらえる。草の根医師たちにとってはレポートで自身の診療レベルを向上させる効果もあるという。ある意味では環境が作り上げたとも言える中国の遠隔医療に対する強い取り組みであるが、いまだ方向性がつかみきれていない印象がある日本の遠隔医療と、今後どのように比較されていくだろうか。

米マウントサイナイ医科大学 新しい人工知能研究センターの設立を公表

ニューヨーク・マンハッタンに所在するマウントサイナイ医科大学は、新しい人工知能研究センターを2021年に開設することを公表した。現在の医療革新の中核にある「AI」という世界的トレンドを追うもので、大規模病院を有しながら積極的なイノベーションを推進する同大の新しい目玉として注目を集める。 マウントサイナイ医科大学が11日公表したところによると、新しい研究センターでは、ゲノミクス・疾患モデリング・画像技術・新治療などに重点を置いたAI開発を進め、臨床試験におけるAI導入促進を図る。マウントサイナイ・ヘルスシステムのKenneth L. Davis医師(同CEO)は「AIにはヘルスケアを激変させる潜在能力があり、我々はこれを洗練させ、先導する立場を取りたい」と野心を隠さない。 2019年、世界でAIシステムに投じられる資金は358億ドルにのぼるとされ、これは2018年総額の44%増加にあたる(International Data Corporationより)。医療はAI活用余地の大きい巨大産業のひとつで、開発競争は日々熾烈さを増しているが、大学組織であってもこの例外ではない。

米Koios 乳房超音波のAI診断システムでFDA承認を取得

超音波の診断補助ソフトウェアで知られる米Koios Medicalは9日、乳房超音波のAI診断システムでFDA(米食品医薬品局)の承認を新たに取得したことを公表した。今回のFDA・510(k)取得により、米国内での市販化を目指す同製品が「一定の安全性・効果を持つ」ことが示されたことになり、今後の市場展開への大きな弾みとなる。 Koios DS Breast 2.0と呼ばれるAI診断システムでは、医師による画像からの乳がん診断を補助するとともに、悪性度を自動推定することができる。一連の画像診断システムについてKoiosが強調するのは、アルゴリズムの高い正確性とシステムの導入の容易さで、既存の医療画像管理システムに対してシームレスな機能拡張を実現するとのこと。 マンモグラフィ検査は明確に乳がん死亡率を減少させる、有効なスクリーニング手段として広く利用されている。一方で、乳腺濃度の高いいわゆる「デンスブレスト」では、マンモグラフィで乳がんを識別することは非常に難しい。米国においても4割以上の女性にこのデンスブレストがみられ、マンモグラフィへの代替検査として乳房超音波検査の有効性が取り沙汰されてきた。

Deep Learningで脳動脈瘤の発見を手伝う – 米スタンフォード大 『HeadXNet』

脳の動脈がコブ状にふくらんだ状態『脳動脈瘤』は、やがて破裂して命にかかわる危険性がある。まだ破裂していないコブを見つけて治療すれば致命的な脳出血を避けられる。コブは様々なサイズでトリッキーな角度のことがあり、膨大な画像を繰り返しスクロールしてコブを見落としなく拾うことは、放射線科医にとって最も手間のかかる重要な仕事であった。 スタンフォード大のプレスリリースによると、同大のチームが開発したAIアルゴリズム『HeadXNet』は、脳動脈瘤の可能性の高い場所を赤いハイライトで強調して診断医に知らせるツールである。このツールを利用することで、100画像あたり6個の脳動脈瘤を追加的に見つけられるレベルにまで、医師の診断能力を引き上げるという。研究成果はJAMA Network Openに報告された。 脳動脈瘤をみつけるAIは様々なかたちで報告されている(過去記事)。その中でHeadXNetの強みは、AIの現場への応用を考えて慎重に設計されたところにある。プログラムには設計の長所と短所が必ず含まれ、過剰な診断能力は臨床にとって時にマイナスとなりかねない。HeadXNetは医師の脳動脈をみつける能力を引き上げながら、一方で、スクリーニング検査にとって大事な、コブがないという『不在を診断する能力』に害を与えない設計と検証がなされた。例えば半透明のハイライト表示は医師の画像チェックに配慮したものである。まさに人間の診断プロセスをAIがいかに支援するかという関係を示した好例と言えるだろう。

あなたに最適な放射線治療をAIが決める – クリーブランド・クリニック発の新研究

放射線治療は、がんの基本的な治療のひとつとして効果を上げている。一方で照射する放射線量は、がんの種類と臓器によって一定量に決められており、がんの特徴や患者個人の状況を必ずしも反映していない。「AIが個別の違いを理解し、肺がんに対する放射線量を決め、治療が失敗する確率を5%未満に減らす」研究が、2019年7月にThe Lancet Digital Healthに載せられた。 Medical Expressによると、米クリーブランド・クリニックの放射線科が中心となり、患者のCT画像と電子カルテ記録から、がんに照射する放射線量を個別に決めるAIフレームワークを開発した。944名の肺がん患者データでディープラーニングを利用し、治療失敗の確率が5%未満となる最適な放射線量『iGray』を決めることができた。 肺がんの放射線治療は、手術ができない患者で、がんを長い期間にわたって抑え込める優れた方法である。特に治療の失敗が予想される一部の患者においては、個別に放射線量を調整することも考えられてきたが、近年のがん遺伝子に注目したディープラーニング適用でも、目立った進歩は得られずにいた。そのような中で、画像からのアプローチで治療成績を高めた同研究は飛躍的な成果であり、AIを利用した好例である。著者らは肺がん以外にも成果が応用されることを期待している。

中国の医療はAIで効率化できる – Ping An Technologyが目指す未来

中国国内の医療機関では、提供する医療サービスの質に格差が大きいことがしばしば話題となる。実際、中国国民の半数以上は、たった8%しか存在しない「三ツ星グレード」の病院にかかっている。結果として長い待ち時間とごく短い診察時間となり、そこに勤める医師は過度な長時間労働を強いられるという非効率な現状がある。 米CNBCの取材に対し、Ping An Technology(平安科技)のCEO Ericson Chan氏は「中国の非効率な医療は、医療者・患者の双方に負担感を与えており、ある種の摩擦を生んでいる」と指摘する一方、「AI技術による現状の打開が十分に可能」としている。Ping An Technologyは、何らかの症状が発現する前に慢性疾患への罹患を予測するAIシステムや、高精度な感染症診断アルゴリズムで知られている。 AIは疲れ知らずの安定した精度をもって、医師の煩雑な作業の一部を補える可能性が高い。一方で、AIの実臨床利用への壁は小さくないが、「医療AIは既に現実的な価値を示している」とChan氏は述べる。医師の恵まれない労働環境から、優秀な学生の医学部離れも加速する中国で、AIが国内医療の抜本的改革を引き起こすか、注目が集まる。

抗菌薬の正しい使い方を教えてくれるAI – 尿路感染症治療は個別化の時代へ

抗菌薬の発明で人類は感染症に勝利したかと思われた。しかし、抗菌薬が使われ過ぎたことで薬の効かない耐性菌が増え、死亡率・医療費・入院期間の増加が問題となっている。WHOは現代医学における最大の脅威として薬剤耐性菌について警告する。そのような中、イスラエルの研究者たちが開発したAIアルゴリズムでブレイクスルーが期待されている。『個人の病歴で尿路感染症の耐性菌を予測する』機械学習ベースの研究成果が、2019年7月4日Nature Medicineに報告された。 International Business Timesによると、研究グループは70万件の尿路感染症における細菌培養結果、および過去10年間で500万件の抗菌薬購入履歴から、耐性菌発生と推奨される抗菌薬を予測するアルゴリズムを開発した。1年間の試験で、現在の標準治療よりも大幅に治療のミスマッチを減少させることがわかった。治療の有効性を高めるだけではなく、適切な抗菌薬が短期間かつ最小限使われることで将来の耐性菌出現を防ぐことも期待されている。更には、新しい抗菌薬開発に役立つ可能性も示された。 これまで軽い膀胱炎などの状況では、細菌培養と薬剤感受性試験が行われずに、データに基づかない『経験的』な処方が繰り返されてきた。最初の抗菌薬が効かなければ、根拠なしに次の種類の処方を試す。そのような乱雑な抗菌薬使用によって、有効な薬の選択肢はどんどん狭まってきた。今回のAI応用研究は、考え方そのものは感染症治療の基本に忠実である。膨大なデータ利用と、個別化されたAI予測モデルによって、抗菌薬という貴重な医療資源をもう一度私たちの手に取り戻そうとする未来志向の研究と言えるだろう。

AIとロボティクスが創る内視鏡検査の未来

消化器内視鏡検査は、組織の性状を直接観察できるため非常に情報量の多い検査のひとつである。また、必要な場合には診断や治療を目的として、その場で組織を切り取ることさえできる。ただし、施行部位を問わずその痛みや不快感は多大で「低侵襲な検査」とは言いがたい。今回は、AIとロボティクスによる消化器内視鏡検査の未来を紹介する。 学術誌Science Roboticsに掲載された論文によると、英リーズ大学を中心とした研究チームは、磁気を利用した小型カプセルロボットを消化管モデル内で適切に誘導することに成功したという。この小型カプセルには、磁石・LEDライト・超音波トランスデューサー・カメラが組み込まれ、消化管モデル内壁の構造を外部コンピュータに転送できた。特筆すべきは、カプセルの操作には専門的技術を要さないこと、AIを利用した適切な部位の撮影および移動ルートの確保を実現していること、などが挙げられる。 本研究での消化管モデルは豚などが用いられ、現時点で動物実験の域を出ないが、人体に対する技術的応用は困難ではない。Becker's Health IT & CIO Reportの報道では、研究を率いたSandy Cochran教授の言葉として「近い将来、この技術が日常診療レベルに取り込まれ、消化器疾患の早期発見とモニタリングに使われることを望んでいる」と述べた。

Women in AI awards at Transform 2019 – AI分野の女性リーダーたちが一堂に会する

米メディアVentureBeatによるAIのビッグイベント『Transform 2019 』が7月10日-11日にサンフランシスコで行われる。なかでも今年から始まった目玉企画のひとつ『Women in AI award』には、政策・技術・教育など各分野でAIの発展に貢献した女性リーダーたちが招かれる。 VentureBeatのプレスリリースによると、『責任と倫理』『起業家』『リサーチ』『女性のメンターシップ』『ライジングスター(先見性)』の5部門で受賞候補者がノミネートされている。医療関係に注目すると、以前に紹介した、AIによる医療費削減を目指すスタートアップKenSci(過去記事)のCarly Eckert氏、医療用AIプラットフォームを開発するMedical Informatics CorpのEmma Fauss氏らが名を連ねている。 性別や人種に対してAIアルゴリズムが不適切な偏りをみせる問題(過去記事)がしばしば取り上げられる。AIにも多様性が重視される中で、時代を切り拓く女性リーダー達への期待は大きい。日本のAI人材についてはどうだろうか?

The Orsini Way – 医師の「共感力」を高めるデジタルプラットフォーム

米フロリダ州オーランドの医師Anthony Orsini氏は、医師のコミュニケーション能力を高め、患者とその家族に対する「共感力」を強化するデジタルプラットフォームを開発している。Orsini氏が率いるThe Orsini Way社は、同プラットフォームによる患者満足度の向上と健康アウトカムの改善を狙う。 医療メディアHIT Consultantが報じたところによると、Orsini氏は小児科専門医として20年以上のキャリアを誇る一方、患者に対する悲劇的な結果の報告や治療法選択の提示の仕方ひとつで、患者満足度が大きく変わるばかりか、人生への影響も深刻となる様をみてきたという。The Orsini Wayが提供するデジタルプラットフォームでは、医師の適切な共感力を育み、効果的な患者コミュニケーションを実現するプログラムを種々提供する。これには単なるオンライン学習コースだけでなく、プロの俳優によるロールプレイやワークショップなども含まれている。 世界的影響力を持つ医師で、AI医療とその未来について積極的な発言を行うEric Topol氏は自身の著書で、「AIの台頭が医師をより人間らしくさせる」ことを過去に予言している(過去記事)。ここで人間的医療の中心となるのは「医師-患者コミュニケーション」であり、The Orsini Wayが提供する革新的なプラットフォームは、今後の臨床現場における中核的需要を見定めたものであるかもしれない。

猫の捕食本能を抑えるAI? – 感染症予防の観点から

飼い猫であっても、ネズミをはじめとした小動物への捕食本能は必ずしも揺るがない。多くの動物に感染する原虫「トキソプラズマ」は、猫に感染した場合のみ、その糞便中に虫体を含むオーシストとして排泄され感染性を持つ。 Amazonのある社員が興味深いAIアルゴリズムを開発し、話題を呼んでいる。BBCの報道によると、猫の捕食本能を抑制するため、AIを用いた画像認識により口に獲物を加えた状態ではキャットフラップ(ドア下部に取り付けられた猫用の通路)が開かないシステムを構築したという。23000枚に及ぶ飼い猫の画像を開発者自身で分類し、「獲物を加えた状態」「加えていない状態」など、状況別にアルゴリズムに学習させた。 開発者の主眼は「猫に殺傷を行わせない」ことにあるが、特に妊娠可能性のある家庭などにとって感染症予防の観点からも有用となる可能性がある。経胎盤感染によって引き起こされる先天性トキソプラズマ症は、胎内死亡や流産、水頭症などの原因ともなる。このシステムでは、外で獲物を食べてしまう癖がつけば本質的に無意味だが、感染症予防の観点からは、家庭に動物の死骸を持ち込ませないメリットも少なくない。ただし、十分な手洗いと猫の糞便処理では手袋を着用するなど、一般的な対策が最も有効であることは言うまでもない。

急加速する診療記録電子化 – 潮流は世界へ

診療録の電子化は、究極的には施設横断的に個人の生涯に渡る健康記録を共有することができ、予防・診断・治療・予後追跡を含むあらゆる局面で強力な健康増進に繋げることができる。また、近年の加速度的なAI技術・データ処理および解析技術の向上によって、多くの新しい医学的知見が生まれ、個人の健康に還元できる時代となっており、電子診療録がこれに果たす役割はとても大きい。 Healthcare IT Newsの報道によると、マレーシアの厚生大臣は同国全ての公立病院に電子カルテシステムを導入する意図を明らかにしているという。現時点で145の公立病院のうち、電子診療録を導入済みの機関は35(25%)にとどまり、1703の公立クリニックでは118(7%)に過ぎない。未整備の全ての機関に導入する場合、必要な費用は15億マレーシア・リンギット(日本円でおよそ390億円)と見積もられる。 東南アジアから中近東にかけての国々では、古くからPersonal Health Recordと呼ばれる「健康記録の自己管理」が文化的に根付いている。一方で、近年のデータ関連技術向上を背景に、マレーシアのように電子診療録と健康データの集積管理の導入を目指す国々は急速に増えている。ただし先進国であっても、電子カルテシステムは各社全く異なった様式で入り乱れるケースが多いことなど、今後に向けての課題も少なくはない。

赤ちゃんの泣き声からその意味を識別するAIアルゴリズム

赤ちゃんの泣き声からその意図を識別できるのか - 米ノーザンイリノイ大学の研究チームは、非常に興味深いこの命題に対し、AIアプローチによる解決を目指している。研究成果は学術誌IEEE/CAA Journal of Automatica Sinicaに収載されている。 Becker's Health IT & CIO Reportが報じたところによると研究チームは、赤ちゃんの"cry signals"を解釈するため、乳幼児の泣き声パターンとその特徴を分析するAIアルゴリズムを構築しているという。研究を率いるLichuan Liu博士は「特別な言語かのように、泣き声には健康に関連した情報さえ多く含まれている」としている。 明確な意図や特定の健康状態の補足に繋げるには、シナリオごとの泣き声データが必要になる。現時点では十分数を確保できていないが、著者らは医療機関との連携を進めることで必要なデータの確保に努めることを明示している。どのような答えが待っているのか、研究の行く先に大きな関心が集まる。

捜査官を心のトラウマから守れ – AIで児童虐待の証拠資料を選別

児童虐待の捜査で集められた証拠資料は、担当する捜査官の心の健康に悪い影響を与える。暴力や性的な内容で傷つけられた被害者の画像データが携帯電話やコンピューターの中に大量に見つかることは少なくない。秘密を守る義務から、内容について誰かと相談しにくい事情もある。トラウマとなってしまい、虐待の被害者と似たような心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えてしまう例も報告されている。 オーストラリアのモナシュ大学のプレスリリースによると、同大の情報技術学部のグループはオーストラリア連邦警察(AFP)と協力し、大量の捜査資料をスキャンして素早く分類する機械学習アルゴリズムの実用化に取り組んでいる。『法の執行と地域安全のためのAI(AiLECS)ラボ』と名付けられた研究室は、2019年7月1日に正式発表となった。その取り組みによって、捜査官が不意にショッキングな画像にさらされずに済むことが期待されている。さらに画期的なのは、機械学習アルゴリズムの開発段階で研究者たち自身も暴力的な画像にさらされずに済むシステム『Data Airlock』である。まずは児童虐待がテーマとなり、今後はテロ事件の内容もカバーする方針とのことだ。 同じようなテーマは世界的に広がりを見せており、ロンドン警視庁の法医学部門でもAIが利用されている。またGoogleが2018年に公開した『Content Safety API』も児童ポルノ関連のデータに対抗するAIツールのひとつである。有害な画像データの取り扱いに専門家のチェックは最低限必要であり、できるだけ心の健康に配慮したAIサポートの動きが広がることを期待したい。

脳波でロボットアームを操作 – 四肢麻痺患者を救うAI技術

米カーネギーメロン大学とミネソタ大学の研究チームは、体表から測定した脳波を利用し、ロボットアームを自分の意思通りに動かすシステムを開発した。腕を動かす際に現れる脳波変化をAIに学習させ、どのような運動意図があるかを解釈することに成功しており、脳梗塞後など深刻な四肢麻痺を持つ患者への応用が期待される。 学術誌Science Roboticsに掲載された研究チームの論文によると、同技術はBrain-Computer Interface(BCI: 脳とコンピュータを繋ぐ装置)のひとつと解釈され、革新性はその「非侵襲性」にあるという。つまり、脳波測定はヘルメットのようなデバイスを被るだけで行うことができ、電極などのセンサー類を埋め込む外科的な処置を一切必要としない。オンラインでのロボットアーム操作でも高い精度を示しており、医療にとどまらない応用範囲の広さが示唆される。 脳血管疾患をはじめとして、後に深刻な運動障害を残す疾患は少なくない。日常生活動作の多くが制限を受けるため、リハビリによる十分な機能回復が見込めない場合は元来の生活環境に戻ることも難しくなる。AIによるBCI関連技術の向上は、今後の医療における大きなキーワードのひとつとなるだろう。

無反応な脳損傷患者の活動はAIだけが知っている?

脳に損傷を受けた患者が、指示に無反応であっても、脳だけが活動している場合がある。思考と運動の解離(cognitive motor dissociation)として知られるその状態を、機械学習アルゴリズムで脳波から見つけ出し、回復の見込みについて検討した研究が、2019年6月27日にNew England Journal of Medicineに報告された。 米メディアDocWire Newsによると、コロンビア大学とニューヨーク大学の共同チームが、「手を動かせ」という指示に無反応な脳損傷患者104名の脳波記録に機械学習を応用した。16名に脳の活動がみられ、8名(50%)が退院前には指示に従うことができるレベルに回復した。脳の活動がみられなかった88名は23名(26%)が回復。1年が経ったあと、「日中に8時間自立して過ごせる」程度までの回復で比較すると、脳活動あり7名/16名(44%)と脳活動なし12名/84名(14%)であった。 この研究から、脳損傷の初期で昏睡状態にみえる患者の脳活動を正しく調べ、将来的な回復の見込みをある程度予想できる可能性が示された。中国発の「昏睡からの回復を予測するAI(過去記事)」と比較してみるのも興味深い。