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従業員の64%が上司よりロボットを信頼する世界 – AI at Work オラクルの調査

AIが職場における人々とテクノロジーの関係性をいかに変えているか。以前にはフィリップスの Future Health Index というAI医療利用の世界的な調査を紹介した(過去記事)。 2019年10月、米大手ソフトウェア企業のOracleが発表した AI at Work では、従業員の64%がマネージャーよりもAIおよびロボットに信頼を寄せるという結果を示した。人材管理などを専門とする企業 Future Workplace と共同で行った調査は、10か国8,370名の従業員・マネージャー・人事リーダーを対象に行われた。全体平均64%に対して、インド(89%)や中国(88%)は極めて高いロボットへの信頼であり、日本も76%で平均を上回る。 ロボットがマネージャーより優れていると感じる項目については、情報提供の公平さ(26%)、作業スケジュール管理(34%)、問題解決力(29%)、予算管理(26%)という内訳であった。 一方で、マネージャーがロボットより優れていることについては、感情の理解(45%)、コーチング(33%)、職場のカルチャーを生み出すこと(29%)となる。 Oracleの担当者 Emily Heは「過去2年間と比較して、労働者が職場にAIが採用されることやAIが人材管理を行うことに対して楽観的になってきていることがわかってきました。AI主導型の職場における、管理職の役割が再定義されようとしています」と語った。

Ambient Clinical Intelligence – 医師を書類作業から救うAI環境開発

テック大手のMicrosoftは、音声認識で知られている米Nuance Communicationsと提携し、医師の煩雑な書類作業を激減させるAI環境開発を進めている。 Fierce Healthcareの報道によると、Microsoft AzureのクラウドプラットフォームとAI技術に、Nuanceが持つ臨床文書および臨床現場での音声認識に関する専門技術を統合し、Ambient Clinical Intelligence(ACI)の開発を図るという。具体的には、新しいこのテクノロジーは診察中の医師と患者の会話を「聞く」ことで、会話データを電子カルテのコンテキスト情報と併せ、自動的に患者の医療情報を更新することができる。Microsoftでヘルスケア戦略を担当するGreg Moore医師は「コンピュータは大抵の場合で、医師と患者間のやり取りやアイコンタクトの妨げとなり、両者の不満足な体験に繋がる」としている。ACIは医師による積極的な入力作業を要さない極めて静的なシステムであることから、医師は臨床現場でより患者にフォーカスすることができるようになる。 近年の研究では、プライマリケア医は「患者ケア1時間あたり2時間もの電子カルテ作業に追われている」との報告もあり、診療時間後にも書類作業にあたるなど、医療記録の入力作業自体が医師の燃え尽きを助長することが指摘されてきた。

XAIとは何か? – ブラックボックス化しない説明可能な医療AIを目指して

AIが指摘した病変部位や診断について、アルゴリズムの思考過程が説明できない、いわゆるブラックボックス化(過去記事)は常に論点になってきた。AIが出力した情報を補助し、判断根拠を説明するための技術全体を示す用語「XAI(エックスエーアイ): Explainable AI」が、米国国防高等研究計画局(DARPA)の主導するプロジェクトなどから派生し、浸透してきている。 米メディアForbesでは、医療分野特有といえるXAIが求められた背景や今後の方向性を解説している。そもそも医療以外の分野では開発した貴重なAI技術を企業秘密として保持することが許容され、ブラックボックス化を問題とする風潮が少ない。スマートスピーカーの返事に対して、どうしてそのような回答をしたのかと悩む消費者は少数だろう。ところが医学的判断では、その誤りが重大で不可逆的な結果となることを許容しにくい。そうして、医師やFDAなど規制当局が、説明不可能なAIを信頼することが難しくなる。さらには、開発されたAIアルゴリズムは、その後に臨床現場での妥当性の検証を経る必要があるため、末端のユーザーは説明不可能なAIの検証作業に協力できなくなる。 XAIに対する関心は高まり続けている。一方、どのような説明方法が適切か、知見の蓄積は不十分といえる。XAIという言葉をきっかけに、社会的な認知度が高まり意識が共有されることで、改善が進む側面も期待される。XAIは医療における主流なアルゴリズムとなる可能性があり、開発にあたるグループや企業にとっては大きなリソースを当てることがますます重要になるだろう。

股関節の形状から変形性股関節症の将来発症を予測するAIアルゴリズム

オランダ・ユトレヒト大学の研究チームは、レントゲン撮影によって得られる股関節形状から「将来的な変形性股関節症の発症」を予測するAIアルゴリズムを構築した。研究成果はOsteoarthritis and Cartilageに先週公開された。 ベースとなるデータは、前向きコホート研究である"CHECK-study"(平均年齢56歳、84%が女性である1002名を8年に渡り追跡)に基づく。チームの開発した機械学習アルゴリズムは、単純レントゲン写真によって得られた股関節形状を、追跡期間中の変形性股関節症発症データからグレーディングするもの。このShape-Scoreは、検証フェーズにおいても単独指標として十分な予測力を持つことを示したという。 股関節形状のみで将来発症を予測できることは、予防的観点からの早期介入を実現し得る点で非常に意義深い。また、Shape-Score算出に高度な医療設備の導入を必要としないことも、日常診療レベルでの評価を可能としており、追加検証を重ねた上での実臨床利用と普及が期待される。

AI画像診断でインドの結核を撲滅 – スタートアップ Qure.ai

結核の流行と薬剤耐性による大きな負担を抱えるインド共和国の事情について、以前にも紹介した(過去記事)。結核診断の遅れは周囲への感染拡大リスクを増大させる大きな課題である。ここでは、AIによる胸部X線画像診断で結核の早期診断に取り組むスタートアップQure.aiを紹介する。 インドでは、健診施設へのアクセスに10km以上歩くことが一般的にある。そして医師一人あたりが医療を提供する人口は11,082人との統計があり、一般に推奨される医師人口比の目安1:1000の10倍以上となる。この著明な医師不足は、結核の早期スクリーニングにも困難をもたらす。インド政府が解決策として参照したのは、かつて同様の流行状態を抱えた1950年代日本の取り組み - X線装置を載せた移動検診車によるスクリーニング - である。検診車の配備は進み、結核の流行地域に移動してのX線撮影が可能となった。そしてその次に現れた課題こそが、医師不足の状況で誰がそのX線画像を読影するかであった。 the better indiaの記事によると、Qure.aiが開発した胸部X線のAI診断システム「qXR」は、インドにおける診断プロセスの短期化を主眼に置く。Qure.aiはX線画像をクラウド上で診断するか、あるいはポケットサイズのデバイスでローカルに診断できるAI診断システムqXRを開発した。同社のアルゴリズムは、ローカルで動くハードウェアのスペック要件を50ドル程度で用意できるシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」に制限している。それにより1スキャンあたりのコストを1ドル未満に抑制することができたという。現地でAI画像診断を行うことで、これまでインドの医療事情から診断までに数週間を要していたスクリーニングを5分以内に短縮できた。 Qure.aiは「最小限のコストで結核を根絶する」目標を掲げている。同社のAIプロダクトは貧困を抱えるインド以外の国にも恩恵をもたらす可能性がある。また、既にかつての発展途上とは異なるが、日本の高コストな医療体質や医療過疎・地域差を考える上で、今一度原点に立ち返る参考にもなるのではないだろうか。

どの知見が医療を大きく変化させるか – 研究インパクトを予測する機械学習モデル

あらゆる医学研究成果は論文化され、科学的知識の集体に加えられることで、将来的な医療発展の礎となる。世界中から無数に生み出される新しい医学的知見のうち、「どの成果が最終的に実臨床を変化させる可能性が高いか」を予測する機械学習モデルが開発された。論文はPLOS Biologyに先週公開されている。 米国立衛生研究所(NIH)のチームは、どの研究成果が将来の医療発展を直接的に促しているのかを予測するため、「ある研究知見が後の臨床試験実施やガイドラインへの取り込みに結びつく程度」をプライマリアウトカムとしたAIアルゴリズムとそれに基づく新指標を構築した。"Approximate Potential to Translate"(APT)と名付けられたこの新指標は、対象とする研究論文と、さらにこれを引用する研究論文群とを併せて評価することで算出される。出版後データはたった2年分を利用することで正確な予測を実現しており、研究者達の迅速な意思決定を可能とすることで、医学の発展速度を上昇させる可能性がある。 APTはデータ主導の意思決定コンポーネントの1つとして、より発展性が高い領域や臨床的な潜在的有効性が高い領域を定量的に抽出することができる。これまでの直感や経験に基づく研究分野選定にAPTを加えることで、限られた研究資源を将来性の高い領域に効率的に投入できるため、医学研究コミュニティに与える影響も極めて大きい。

AIを攻撃する3つの代表的ハッキング手法 – 機械学習全盛期を迎えて

センサーから収集したデータを処理して機械学習を行う。そのような現在のAI開発の基本手法に対して、ハッカーが行う攻撃にはある種のパターンが予想されている。 プリンストン大学のニュースによると、同大学の研究チームは交通システムや健康管理AIアプリに対する3つの代表的な攻撃手法を公表している。攻撃側の戦術を発表することで、システムの脆弱性を開発側が認識し、防衛する手助けとなることを期待する。 1つ目はdata poisoning(データポイズニング)として知られるアプローチである。開発に用いられる学習データに悪意のある偽の情報を挿入することで、出来上がるAIシステムをまったく信頼できないものにしてしまう。従来の単純なdata poisoningから、最近では「model poisoning」とよばれる、AIが出す回答を意図的なモデルあるいはクラスに誘導されるようデータ汚染させる手法も想定されてきている。悪意のある企業が、ライバル製品よりも自社製品の宣伝へ誘導する可能性などを持つ。 2つ目はevasion attackと呼ばれるもので、既に高い精度を達成したAIモデルに対して、システムが誤って認識する抜け穴を作るものである。例えばAIが道路標識を認識する場合、人間が気付かないような特徴がマークされていることがある。そのため、偽のレストラン看板にAIだけが認識する落書きや余分な色を追加して、一時停止標識と誤認させるような騙し方が可能となる。 3つ目がプライバシーに対する攻撃である。機械学習に使用されるデータに紐づけられた他の健康記録やクレジットカード番号、ユーザーの所在地などにアクセスを試みる。もちろん攻撃を想定して匿名化された医療情報などを独立した空間で扱うという考えはあるが、セキュリティに関して天秤にかけることになる。プライバシーを保護するほどに、前述のevasion attackに対しては脆弱となる可能性があるという。その理由として、evasion attackに対する防御戦術は、トレーニングデータの機密情報に大きく依存するためである。 医療におけるAI開発を考えたとき、以上の3点が具体的にどのように患者と医療者を攻撃してくるか、私たちは常に想像力を働かせなければいけないだろう。研究チームのMittal氏は「セキュリティとプライバシーを一緒に考える重要性を私たちの論文では強調しました。機械学習が身の回りのことほぼすべてに組み込まれるような新しい時代に入りつつあります。脅威を認識し、対策法を開発することが不可欠です」と語る。

空からお薬 – ドローンによる医薬品デリバリー

いわゆる"last-mile"(物流の最終区間)は、配送の効率化を阻害する要因となりやすい。僻地など交通網の発達が十分でないエリアにおいては、last-mileが医薬品供給の深刻な問題となってきた。近年、ドローンを活用した新しい医薬品配送システムの構築を目指す地域がある。 Modern Diplomacyが報じたところによると、インドのテランガーナ州政府は、地域コミュニティの医療アクセス向上のため、ドローンを利用した医薬品配送システム構築を模索してきたという。拠点からのlast-mile配送にドローンを利用する大規模プログラムの実施を予定しており、配送されるのは医薬品だけでなく、血液や医療サンプルも含まれる。インドの病院チェーンで知られるApollo Hospitals Groupが、世界経済フォーラムと共同で開発したフレームワークを採用しており、本プログラムはドローン配送におけるパイロットプロジェクトとしての役割も果たすとみられる。 情報技術担当大臣であるK.T. Rama Rao氏は「テランガーナは、市民の生活改善を目指した技術利用に関しては、常にパイオニアであり続けた。ドローンを利用し、僻地など交通アクセスが不良なエリアに医薬品を届けることは、社会的にも極めて善と言える技術利用プロジェクトだ」としている。

AIの進展にアジアの学生は何を想うか? – QS AI Report 2019

AmazonやFacebook、GoogleといったテックジャイアントはAI急進時代の今、アジアの拍動を感じ、熱い視線を送り続けている。単なる市場規模の大きさだけでなく、価値あるAIツールやサービスを数多く生み出すだけの土壌がそこにあるからだ。そういったなか、大学評価機関として知られる英Quacquarelli Symonds(QS)社が行った、アジア学生に対するAIへの意識調査結果を紹介する。 QS社による調査は、20のフォーカスグループと50以上の個別インタビューを通し、アジアの5都市(ジャカルタ・クアラルンプール・台北・上海・北京)に住む学生は「AIが世界的な労働市場に及ぼす影響」をどう考えているかを明らかにしている。主要な調査結果は下記の通り: 1. 66%の学生は「2030年までにAIが高度専門職をこなせるようになる」と考えている 2. 一方で、最もAIを脅威と捉えて"いない"のは「医学・ヘルスケア領域」を専門とする学生 3. 「数年のうちにAIが高度専門職を置き換える危機感」を持っているのは北京(72%)・ジャカルタ(68%)・台北(65%)の学生に多い 高等教育における専門選択や、その先の職業選択において「AIの存在とこれによる代替の可能性」を常に意識する現代の学生像が明らかにされている。また、対人に根差す医療の本質と生に対する責任の所在から、医学・ヘルスケア領域において職業代替の危機感が他領域ほどは高くないことも現実的かもしれない。ただし、10年後の医療が新技術による激変を迎えている可能性は非常に高く、ここに携わる者の学び続ける姿勢がこれまで以上に求められていることだけは間違いない。 過去記事: 「AIの普及により放射線科医を目指さない医学生が増加」

AIとピンクリボン – 乳がん超音波診断装置の革新と社会啓蒙

2019年10月、今年も街頭の風景やイルミネーションがピンクに染まっている。乳がん啓発活動であるピンクリボンは2000年代から日本でも機運を強めて、風物詩として定着してきた。乳がんは早期発見・診断・治療の重要性が高く、社会的な認知度と密接に関わるため、ピンクリボンは一定の成功を収めつつあると言えるだろう。AI医療と乳がんの関係性は注目度が高く、乳房に対する超音波検査(過去記事)などで期待を集める。 英メディアPR Newswireでは、AIを活用した乳房用自動超音波画像診断装置(ABUS)の市場規模が2025年までに18億ドルに達すると報じている。レポート内で紹介されるQView Medicalは、2016年にQVCADと呼ばれるABUSで米国FDA承認を受け、AIによる乳がん超音波診断を先行する企業である。GE社など超音波診断装置大手と新興ベンチャー企業が協調しながら、ABUSは技術革新が進む。 乳がんとピンクリボンを取り巻く環境には、疾患の社会認知度を高めるユニークな製品が発表されている。インドのメディアRepublicではアプリ「ABC's of Breast Health」を紹介している。インドを代表する国民的人気の女性バドミントン選手PV Sindhuが、拡張現実(AR)内に登場し乳がんへの取り組みの重要性を説く。乳がん早期発見への社会認知度の低さが問題となるインドならではのアプリである。また、ニュージーランドのメディアNZMEは同国発のアプリ「Pre Check」を紹介する。アプリ画面上のタッチ・視覚・音声・3Dモーションで乳がんの症状について解説し、女性の乳房セルフチェックについて理解が深まる。日本国内からリリースされた同様のアプリは少なく、乳がんとピンクリボンについては、発展の余地を多く残している。

米ノースイースタン大学 医療AI研究所の新設を公表

米ボストンに所在するノースイースタン大学は先週、ヘルスケア領域における問題解決を目指した新しいAI研究所の設立を公表した。"Institute for Experiential Artificial Intelligence"と名付けられたこの組織に対し、大学は5000万ドル(約54億円)の予算割当を表明している。 ノースイースタン大学の公表によると、50名の同大教員や研究者が新組織での活動に取り組むほか、30名の新規雇用によって研究開発スタッフの充実を図るという。AIツールやソリューションの開発には、ヘルスケア産業・政府・NGOなどの各団体と協調した積極的な共同研究の推進を見込んでいる。 ノースイースタン大学学長であるJoseph Aoun氏は「AIの真の将来性は人の能力を置き換えることではなく、人類の活動を最適化することだ」と話し、特にヘルスケア領域におけるAI技術が人類繁栄の手段となり得ることを強調する。

AIが事務作業を削減すると医師の仕事に魅力が生まれるか?

医師の労働時間の半分が、電子カルテへの入力と事務書類に費やされている。患者と向き合う時間は27%に過ぎない。そのような推計を示された時、果たして医師という仕事は魅力的だろうか?電子カルテが医療プロセスを簡略化するとして導入されたにもかかわらず現場では不満が募る。電子カルテは正しい方向に向かっているだろうか?医師の時間を節約するAI技術開発はそれらの問題を解決する可能性を示す。 MedPageTodayでは、医療の事務処理を削減する様々なAI技術を紹介している。筆頭に挙げられるのはAmazon Web Servicesであり、AIを使用したクラウドベースの医療記録サービスを提供し、機能の一例として臨床記録からデータを抽出してインデックスを自動生成する。次に、AthenaHealthではFAXのメッセージをAIが分類して医療システム全体から年間300万時間を省略できたという。また、AugmedixはGoogle Glassによって医師が患者の診察中にコンピュータに向き合う必要がなくなり、医療記録はリアルタイムで自動生成される。 医師や看護師にとって最も適切な仕事は、患者に対する共感とケアであり、事務作業ではないことは自明である。単調な繰り返し作業は医療業務の創造性を阻害し続けている。あらゆるAI技術によって医療の事務作業が削減されたとき、医師の仕事が再び魅力的に思える時代となるだろうか。

欧米放射線医学会 AI利用の倫理ガイドライン策定を求める共同声明を発表

米国・カナダ・ヨーロッパなどの主たる放射線医学会は共同し、「医療画像へのAI活用における倫理的利用ガイドラインの策定」を求める共同声明を発表した。 学術誌Journal of the American College of Radiologyにて先週公開された同提言によると、 - 急速に広まりを見せる医療AIテクノロジーは常に長所と短所を備えること - 放射線科領域(特に画像診断)における自立したAIシステムは、潜在的なエラーと健康格差増大を助長する可能性があること を指摘しており、AI開発者も医師と同じく「do no harm(害を与えない)の原則」を遵守すべきとした上で、関連する倫理規範の策定が急務としている。 医療分野におけるAIスタートアップが乱立する昨今、画像解析を核としたプロダクト開発に取り組む企業は2019年も増加の一途を辿る。先月には、AIの画像診断能力が医師に劣らないことを示すメタアナリシスの成果も示されたが(過去記事)、人類の多様性を度外視するなど「適切に妥当性の検証がなされていないAIアルゴリズム」が普及することの危険性はあまりにも大きい。

Biofourmis デジタルバイオマーカーがもたらす医療革新

シンガポールのスタートアップBiofourmisは、ウェアラブルデバイスによって収集する生理学的データから疾患発症予測・管理を行う「デジタルバイオマーカー」の生成を目指している。Biofourmisは3日、同社のBiovitals Analytics Engineが「医療機器カテゴリーにおいてFDA(米食品医薬品局)の承認を受けたこと」を発表した。 臨床医への高度専門情報と最新ニュースの提供を手がけるMD Magazineが3日報じたところによると、Biofourmisが今回認証を受けたのは"FDA 510(k)"と呼ばれる市販前認可であるという。市場に合法的に流通する同等機器と有効性を同じくしているか、安全性が十分に保たれているかなどを主要な判定要素とするもので、「医療機器」の米国内における販売への認可を受けたこととなる。同社がFDA認証を取得するのは2つ目で、米メイヨークリニックとの提携で臨床研究を加速させるなど、臨床的有効性の評価を重視してきた背景がある。 Biovitals Analytics Engineは、リアルタイム計測で得られた心拍数や呼吸数、活動量などの生理学的データから新しい指標であるBiovaitals Indexを算出する。心不全の増悪など深刻な病態変化を早期に捉え、治療介入までの時間を大幅に削減することができるという。同社CEOのKuldeep Singh Rajput氏は「この重要な認証を取得することは、我々の革新的なヘルスケアソリューションを一層加速させるものだ」とし、米国の市場展開への期待の大きさをうかがわせている。

マイクロソフト AI創薬におけるノバルティスとのパートナーシップを発表

米マイクロソフトは1日、AI創薬分野においてスイスの製薬大手ノバルティスと提携することを発表した。これに伴い、ノバルティスは新しいAI研究所を創設した上で、同社開発事業へのAI活用を急速に進める。 Microsoft News Centerの公表によると、この提携は複数年を見込み、共同研究事業をスイスのノバルティス本社、アイルランドのNovartis Global Service Center、英国のMicrosoft Research Labを中心に行うという。当初は3つの分野、1.加齢黄斑変性の個別化治療、2.遺伝子細胞治療、3.薬剤設計を取り扱う予定。 マイクロソフトCEOのSatya Nadella氏は「我々の戦略的提携関係は、ノバルティスの持つライフサイエンスへの高度専門性とマイクロソフトが誇るAIテクノロジーを融合させるものだ」とし、ヘルスケア領域、特に薬剤開発へのAI活用の優位性を強調する。

AIが10秒で肺炎診断 – スタンフォード大学 CheXpert

救急部門で肺炎が疑われた患者に胸部X線検査が行われた際、撮影から放射線科医師の読影診断まで一定の時間を要する。救急部門には電子臨床意思決定支援ツールが配備されていないことも多く、臨床医にAIが診断情報を直接提供できるローカルのシステムに対する希望は強い。 Medical Design & Outsourcingは2日、スタンフォード大学の機械学習グループによって開発されたAIシステム「CheXpert」を紹介している。同システムは診断精度を担保しながら、AIを利用することで、肺炎診断から治療に至る診療プロセス全体の時間短縮を実現した。核となる肺炎の識別アルゴリズムは、計20万におよぶ胸部X線画像からの構築と妥当性検証を行ったという。従来、20分程度を要した画像撮影後のプロセス(放射線科医による読影 - 読影レポートの受け取り・解釈 or 自然言語処理 - 治療開始)を、このシステムでは10秒未満に短縮することに成功した。 肺炎の診断から抗菌薬治療開始までの時間が短縮されることで、臨床上のメリットがどの程度生まれるか。この秋からのシステム実装後に検証が進められてゆくこととなる。

スタンフォード大学 植込み型医療機器の安全性向上にAIを活用

スタンフォード大学医学部(Stanford Medicine)の研究チームは、電子カルテデータベースを利用し、植込み型医療機器の安全性向上を図るAIアルゴリズムを開発した。同大の運営する医療系メディアScopeにて先週公開された。 研究チームは、同施設で治療を受けた患者の匿名化医療データベースを利用し、特定の植込み型デバイスを利用した際の感染率や入れ替えまでの期間、患者の痛みレベルなどを推定するAIアルゴリズムを構築したという。アルゴリズムの有効性をテストするため、人工股関節置換術の患者で検証を行なったところ、患者ごとの合併症を正確かつ効率的に推定することができた。 研究の詳細は、オープンアクセスのオンラインジャーナルnpj Digital Medicineへの研究報告から確認できる。HIT Infrastructureによる研究者へのインタビューでは、「医療記録は隠れた情報で満ちている。集積と解析を繰り返すことで、どのデバイスがどの場面で最も信頼に足るかまで予測できるようになる」と述べた。

AI医療の革新に不可欠な患者の声 – 遠隔医療スタートアップ CirrusMDが提唱する未来像

遠隔医療の世界市場規模は直近で383億ドル、2025年までに1,305億ドルに上昇する予想がある。Becker Hospital Reviewの調査ではアメリカ人の75%以上が医師の診察にリモートでの参加を希望した。VentureBeatでは、遠隔医療分野で投資家の注目を集めるスタートアップCirrusMDを紹介している。 CirrusMDの提供する遠隔医療プラットフォームは専用のチャットウィンドウで1分以内に患者から医師へのアクセスを可能とする。患者と医師のリアルタイムコミュニケーションこそが医療の結果を改善する最大の要素のひとつとして、CirrusMDは「chat-first(会話が第一)」という理念を掲げる。同社によると健康問題の84%以上がバーチャルの診療で解決し、2%未満が緊急治療室(ER)のフォローアップに誘導、ER受診を40%削減できたという。 STAT Newsのインタビューに対し、CirrusMDの共同設立者Blake McKinnery医師は、これまでAIが思ったほどの革命を医療にもたらすことができていない主な理由として「患者の物語」に電子カルテ(EHR)が対応できていないことを挙げる。「検査機器がサンプルを分析するの同様に、AIが人間の言葉を分析することこそが医療の最大の課題を解決するでしょう。従来の電子カルテの限られた不完全なデータから学習したAIではなく、患者自身の声と経験がAIエンジンの基礎となったとき、現代医学の変革は起きえます」とMcKinney氏は結語している。

戦場での生死をAIが判断する

トリアージとは、患者の疾病・外傷などの重症度に基づいて行われる「選別」のことで、特に災害時など負傷者多数の現場において重要となる観点だ。戦場における(負傷兵に対するトリアージを含めた)救護活動は、これまで衛生兵の経験と直感に依存するものであったが、AIの台頭はこのあり方を大きく変えようとしている。 米メディア企業Atlantic Mediaが運営する「Defense One」の報道では、米軍外科研究部門を率いる医師Jerome Buller中佐へのインタビューを紹介している。兵士に装着した生体センサーから得られるデータに、個人の医療データやトレーニングデータ、ARレンズを通した視覚情報などを組み合わせることで、衛生兵は十分に安全な距離を取ったまま、戦場における兵士の健康状態を正確に評価できるようになるという。このことは、実際に患者を診察する前に詳細な情報を取得できることを意味し、戦場におけるトリアージをより効率的に実施することができるようになるという。 米軍は高度に構築された外傷データベース(DOD trauma registry)を持ち、特定の部位に特定の外傷を負った場合の転機についても非常に豊富な参照情報がある。リッチなデータベースと機械学習技術が戦場におけるトリアージの質的転換をもたらそうとしているが、限られたリソースを最大限有効活用するこの技術は、医療現場における患者モニタリングと介入レベルについての医学的な意思決定と本質を同じくしており、一般市民にとって必ずしも「別世界の技術発展」というわけではない。 過去記事「戦場の外傷患者を救うAIテクノロジー」

新研究 – 医療画像において医師とAIに診断精度の違いはない。ただし・・・

近年の深層学習技術の発達により、医療画像からの疾患診断AIは急速な発展をみせた。関連する研究報告数もここ数年で加速度的に増えているが、この度「医師とAIの診断精度を比較した論文」を対象としたメタアナリシス(複数の研究報告を統合解析するもので、高いエビデンスを持つ報告とみなされる)が初めて示された。研究成果は学術誌The Lancet Digital Healthにて25日公表された。 EurekAlert!の報道によると、研究チームは2012年から2019年の間に公表された2万を超える関連研究論文を精査したという。しかし、研究デザインをはじめとするアプローチそのものに難があるものがほとんどで、主張を十分に支持するだけの"頑健な"手法に裏打ちされた研究報告はわずか1%に満たなかった。一方、ごく少数の高品質な研究においては、疾患の種類を問わずに「専門医による診断精度とAIによるものに大きな差はみられなかった」とのこと。 かねてより、AI医学研究において妥当性の検証が不十分であることは度々指摘されてきたが(過去記事)、今回の研究チームが行なったレビュープロセスの結果においてもこれに違わない。画像診断AIの潜在的有用性は十分に明らかにされていることから、今後は外的妥当性の検証(アルゴリズムを他集団、特に実臨床現場においても比較検証すること)を重点化することで、将来性の有望な技術の「確かな発展」に繋がるものとなるだろう。

LED光で尿意を抑える – 過活動膀胱を改善する光遺伝学インプラントデバイス

過活動膀胱は頻繁で切迫する尿意と排尿パターンが日常生活を煩わせる疾患で、米国で3300万人、日本で800万人以上という有病者数の推定がある。薬物・運動・電気刺激・行動認知による治療が行われるが、決定的な改善が得られないケースもあり、次世代の治療法に対する期待は大きい。そのような中、2019年の学術誌Natureに、ラット体内に埋め込まれたLEDデバイスの光で膀胱の神経細胞を制御して排尿パターンを正常化させる、光遺伝学による新技術が発表されている。 Science Newsの報道では、米国イリノイ州のノースウェスタン大学から発表された同技術を紹介している。過活動膀胱を人為的に引き起こす薬物シクロホスファミドを注射したラットで、インプラントデバイスは試験された。ラットに無毒なウイルスが導入されることで、膀胱の神経細胞には光で活性化されるarchaerhodopsin(Arch)というタンパク質が生成できるようになる。そのタンパク質は膀胱の過剰な尿意が脳に伝達されるのを抑制する。光遺伝学的アプローチと呼ばれる手法が応用された同試験では、ラットの頻繁な排尿を膀胱に巻きつけられたセンサーが検出するとLEDが点灯、Archタンパク質が活性化され、ラットの排尿パターンは正常になった。 従来の治療法のひとつ、電気刺激療法もインプラントデバイスで活用されてきたが、膀胱以外にも周囲の神経を刺激してしまい、隣接する臓器の機能を妨げたり、継続する電気刺激による不快感が合併症となった。排尿に関わる神経のみを選別する新技術はそれらの欠点を改善するかもしれない。新しいインプラント技術は短期的な有効性で大きな感銘を受けるものだが、長期的な治療の合併症はこれから明らかになる可能性もある。やがて安全性が証明された場合は、過活動膀胱に苦しむ多くの人々に福音となるだろう。また、同様の光遺伝学インプラントは心臓・肺・筋肉の疾患に応用される期待も高まっている。

Kheiron Medical シリーズAラウンドにて2000万ユーロを調達

ロンドンの医療AIスタートアップであるKheiron Medical Technologiesは、シリーズAラウンドとして2000万ユーロ(約24億円)の資金調達に成功したことを公表した。同社はごく早期の乳がんを捉えるAI画像診断システムで知られる(過去記事)。 Kheiron Medical TechnologiesのMiaは、乳がんのスクリーニングを目的とした画像診断AIで、マンモグラフィの高精度な分析を実現した。同製品はヨーロッパにおけるCEマーク認証を受けているほか、米FDAの承認申請も進んでいるという。Miaは単に優れたアルゴリズム精度を誇るだけではなく、ヨーロッパ・米国・アジアにおける大規模な臨床試験を通し、システムの臨床的有効性と安全性の確認を続けてきた地道な経緯もある。 EU-Startupsによると、今回の投資を主導したAtomicoのIrina Haivas氏は「私たちがKheironに投資したのは、彼らが世界有数の機械学習開発チームを有していることと、放射線医学および臨床的妥当性の検証に深い造詣を持つからだ」としている。Miaを担当する開発チームは、ICL・UCL・The Royal Marsden・エディンバラ・オックスフォードなどの優れた学術研究機関、およびGEやPhilipsなどにバックグラウンドを持つ研究者たちが集っている。

脳卒中のAI画像診断で虚血も出血もカバーする完全パッケージ – Aidocの新リリース

イスラエルのAI画像診断ツール開発企業Aidoc(過去記事)は、米国でFDA認証を次々に進めているファーストランナーである。今回、9月にリリースされたのは、いわゆる脳卒中を包括的にCTから特定するパッケージである。 NeuroNewsでは、同社の最新版ツールのリリースを報じている。脳卒中と呼ぶ場合、虚血あるいは出血を起こしている病態に大きく分かれる。新実装のパッケージは、そのどちらも関係する血管閉塞に対してフラグを立てるのが特徴で、脳卒中を多面的に診断できる。救命科や放射線科の画像診断ワークフローに組み込まれ、バックグラウンドで「常時オン」のツールが継続的に分析を続け、虚血性と出血性の脳卒中患者が発見され次第、最優先でリストに順位づけされるという。 「time is brain(時は脳なり)」という医学の標語にもあるように、脳卒中の迅速な診断と治療は、転帰の改善に不可欠である。また米国脳卒中協会(ASA)と米国心臓協会(AHA)は「door-to-needle(ドアから針まで)」すなわち脳卒中発生のdoorから血栓除去治療のneedleまでの時間短縮に焦点を当てたケアプログラムを実施している。AidocのAI診断ツールにはパッケージが随時追加され、放射線医学の規制をクリアしながら、臨床での社会実装が続けられている。さらにリードを固めてゆく同社のツールには業界水準となる可能性が高まっている。

NVIDIA 「TensorRT 6」を発表 – ディープラーニング推論を超高速化へ

近年の目覚ましいAI進展は、ディープラーニング技術の向上がこれを支えている。実際にディープラーニングで構築されたモデルを動かすにあたっては、「学習」と「推論」という重要な2つのフェーズがある。例えば、臨床に導入される一般的な医療AI製品は(当然学習済みなので)、このうちの「推論」が動いていることとなる。したがって「ディープラーニングにおける推論の高速化」は、医療AIの実運用と展開において非常に重要なファクターと言える。今週、NVIDIAはディーブラーニング推論の最適化・実行ライブラリである「TensorRT」の最新版をリリースした。 NVIDIA News Centerの公表によると、今回リリースされた「TensorRT 6」では、対話型AIアプリケーション・音声認識・医療向けアプリケーションにおける3D画像のセグメンテーションなどを劇的に高速化する新機能が搭載されているという。新たに追加された最適化機能の利用により、複数のT4 GPUでBERT-Largeモデルの推論をわずか5.8ミリ秒で実行することができるとのこと。快適で魅力的な利用体験を得るためには、BERTのような自然言語理解モデルを10ミリ秒未満で実行する必要があった。今回の劇的な高速化技術は、特に言語ベースのインタラクションを行うユーザーの大幅な体験向上に結びつく。なお、推論のパフォーマンスについてはこちらを参照のこと。

AI利用の現代版配置薬 OKIGUSURIがアフリカで医療改善 – 日本発NPO AfriMedicoの事例

日本の富山を発祥とする「置き薬」は家庭や職場に薬箱を設置して、使用した薬の代金を後払いするシステムである。300年以上の歴史を持つモデルだが、薬事法の制限などから現在の日本では規模は縮小し過去のものとなりつつある。そのビジネスモデルをアフリカの僻地に持ち込み、医療資源の不足、インフラの未整備、医療アクセスの困難さを解決しようとする日本のNPO「AfriMedico」がある。 Tokyo Reviewによると、AfriMedicoのOKIGUSURIは、伝統的な医薬品販売モデルに、センサーとAIを使用して配置された医薬品の使用状況を追跡する。タンザニアの僻地などに配置され、現地のスタッフはスマートフォンで薬品の箱を撮影しサーバーにアップロードする。加えてAIアルゴリズムが使用状況の分析精度を向上させている。団体の創設者である町井恵理さんは薬剤師としてのキャリアののち、アフリカでのボランティア活動を経て、「置き薬」のビジネスモデルを構築した。アフリカの人々の健康への寄与には、配置薬という手段以外にも教育・啓発が必須と考え環境整備を推進している。 ビジネスモデルを輸出する日本にとっても、アフリカで承認される日本の医薬品の種類が増えれば、製薬業界に発展のチャンスがある。また、日本国内で過疎化が進む地域では、十分なサイズの薬局が維持できるかという課題があり、医療インフラが時代に逆行して後退する危機がある。アフリカで発展した技術を逆輸入することで、伝統的な置き薬の価値が復活し、医療過疎地のインフラ整備につながる可能性も秘めている。

米iRhythm 心房細動の管理向上に向けVerilyと提携

循環器モニタリングにおいて、画期的なテクノロジーを創出して注目を集める米iRhythmは、Alphabet傘下のVerilyとの共同研究・開発事業を明らかにした。Verilyの持つ優れたヘルスデータ解析技術を利用し、心房細動の診断・管理向上を狙った新システム開発に繋げる。 Cardiac Rhythm Newsが先週報じたところによると、両社は無症候性(明確な自覚症状を伴わない)や未診断の心房細動に特に重点を置くという。心房細動は放置されると血栓形成を起こしやすく、有意に脳梗塞リスクを高めるため、早期のスクリーニングから正しい診断と治療管理に結びつけることは直接的に患者の生命予後を改善し得る。本年5月に行われた米国心臓病学会(American College of Cardiology)の年次総会では、iRhythmのモニタリングサービスで心房細動の診断を受けた患者群が、モニタリングを受けていないコントロール群に比べて、入院や救急受診の割合が低くなることが発表され話題となっていた。 VerilyのCMOであるJessica Mega氏は「循環器モニタリングのパイオニアであるiRhythmとのパートナーシップをとても楽しみにしている。より効率的な診断・治療のシステムを構築し、心房細動を持つ患者たちを深刻な転機から防ぐ取り組みとしたい」と話す。なお今回の提携に伴い、iRhythmはVerilyにに対して500万ドルの支払いをしており、成果に応じて1275万ドルまでの報酬が設定されているという。

AIとロボットが薬剤師を調剤から解放する新時代

薬剤師が調剤室に拘束される時代は終わりを告げようとしている。ロボットとAIによる調剤作業の自動化で、薬剤師を単純労働から解放し、医療の最前線に復帰させ、専門知識を有効活用する機運が高まってきた。英国NHSでは2017-2018年で174億ポンドの薬剤が消費され、処方件数は年間11億件(1分間に2000件)と、依然として調剤にかかる負担は大きな課題となっている。新技術は薬剤師の働き方をどのように変えて行くだろうか。 RACONTEURでは、英国で薬剤師と薬局に訪れている変化を報じている。業界への新技術導入は取り組むべき規制や法的要件が膨大であったため、その他の業界に比べ発展が遅かったと指摘される。そのような中、ようやく技術進歩による真のメリットが見られるようになってきているという。 調剤のオートメーション化による時間の節約は、薬剤師が患者と対面して専門的な助言をする時間を生み出した。大衆向けの薬局には患者の変化するニーズに適応する必要がある。特に合併疾患の増加による多剤服用は薬剤同士の相互作用など複雑なもつれを起こしている。NHSの統計では、成人の24%以上が3つ以上の薬を服用しているという。薬剤師が迅速かつ安全に患者に薬を届け、その複雑な状況にアドバイスすることは医療の安全に大きく寄与する。 また、AIアルゴリズムの活用とデータ分析は、複雑な調剤から発生するエラー率を削減する。NHSでは年間約16億ポンドを調剤エラーに費やしていた。AIアルゴリズムは季節性や地域性に変化する医薬品需要を予測する。学術誌Pharmaceutical Journalには、薬局ロボットの設置から4ヶ月以内に調剤エラーを50%削減した事例や、処方量を2倍以上にしながらも患者の待ち時間を10分の1に削減した事例が報告され、恩恵は目に見える形となってきた。 時間の節約は、薬剤師の業務フローのみならず、関係各所にまで影響を及ぼす。患者が正しく服薬できない状況に対して、仕分けされた薬の袋を直接提供するPillTimeというサービスでは、関係部署である看護師が1日90分の時間を節約できたという。 一方で、調剤の自動化は1システムあたり約5万〜50万ポンドという設備コストと保守的な考えにより、施設間の差が生まれてきた。英国の業界団体National Pharmacy Associationの代表Nitin Sodhaは「既に社会から評価されている現在のサービスに、新しい技術は織り込まれていかなければなりません。ローカルに行われてきた薬局のサービスを弱めるのではなく、コミュニティに焦点を合わせ最適化された技術の適用が必要です。私たちは薬剤師という専門家の意見を無視してはならず、薬には病気を癒すだけではなく、傷つける力があることを常に忘れてはなりません」と語った。

Google Cloud AutoML – 専門知識を持たない臨床医が高精度な医療AIを開発

英Moorfields Eye Hospitalに勤務し、AIに関する特段の専門知識を持たない臨床医が、Googleのソフトウェアを利用して高精度な疾患診断モデルを構築した。成果は学術誌The LANCET Digital Healthに公開された。 臨床医たちは、Googleが提供するCloud AutoMLを利用してアルゴリズムを構築したという。Cloud AutoMLは機械学習についての専門知識を持たない場合でも、実際的な機械学習の機能を利用できるよう設計されており、作成したモデルをアプリケーションやウェブサイトに統合するまでを実現している。同病院のチームは、網膜スキャンや胸部レントゲン、皮膚所見などの医用画像からアルゴリズムに学習させ、疾患名を導く5つの診断システムを開発した。このうち4つまでは、AI技術者が開発した診断アルゴリズムと同程度の精度を示したという。 現時点では一般的に、妥当なAI開発には高度の技術的専門知識を要する。一方で、このような背景知識の必要性を大きく押し下げ、広く技術利用を可能とすることで、特に専門性が高いためにAI技術者の介在がなされにくい「医学領域」へも機械学習技術の持ち込みが進む可能性があり、その潜在する利益は計り知れないだろう。

AIが看護師のケアを特別なものへ導くか?

看護師の思いやりに溢れたケアは、患者と家族の病院での経験にプラスの影響を与える。では、そのケアに対する患者満足度はどのように分析され、看護師らを導いていくだろうか。AIによって看護ケアに対する患者満足度を分析した研究がJournal of Nursing Administrationに発表された。 AI in Healthcareでは、米企業GetWellNetworkのメンバーによって行われた同研究の概要が紹介されている。入院患者がフィードバック用プラットフォームに提出したコメントに対して、自然言語処理・機械学習・感情分析を適用した結果、看護師の行動によって患者に伝わる最重要なテーマが「礼儀と敬意(courtesy and respect)」であると分かった。 著者らは、AIによって患者コメントを定性分析する研究が、患者と家族にとって最も有意義な看護師の行動を明らかにできると結論づけている。また、看護師らが主体的に同様の研究に関わり、医療AIの発展に寄与することを期待している。

axial3D – 医療と3Dプリンティングを繋ぐ英スタートアップ

英ベルファストに所在する医療系スタートアップaxial3Dが先週、The European DatSci Awardsの'Best use of Data Science/AI in Health/Wellbeing’(健康医療分野でのAI利用への表彰)に選出された。 axial3Dは機械学習技術を利用し、臨床医が3Dプリンティングを容易に実臨床に導入できるソフトウェアやサービスを提供している。具体的には、複雑な外科手術に際し、外科医が3Dプリントされたモデルを利用することで事前の精緻なシミュレーションを実現した。また、この種のモデルを患者教育や術前説明に利用することで、患者のより良い理解が得られることは多くの先行研究が明らかにしているという。 同社は本年7月に、シリーズAラウンドとして240万ポンド(約3億2千万円)の資金を調達しており、現在大幅な事業規模の拡大に着手している。医療の質向上に貢献する先端技術利用には今、大きな注目が集まっている。