AIの台頭を楽観視する英国ヘルスセクター

英国のマーケットリサーチ会社YouGovが行ったオンライン調査から、ヘルス関連セクターで働く英国の労働者たちは、AIの台頭を「職を奪われる危機」ではなく「新しい機会」と前向きに捉えていることが明らかとなった。 PharmaTimes Onlineが報じたところによると、約2000人を対象としたこのオンライン調査では、85%が現在の職務に一切のAIを利用しておらず、半数が次年に新しいAI技術を取り入れる用意もできていないと述べたという。一方で、AIによる医学的判断より人によるものを信じると述べたのは44%にとどまり、その潜在的可能性への期待が大きいことも伺える。さらに医療産業にとってAIは「成長や投資の良い機会」と多くが捉え、AI代替による失職を恐れている傾向はみられなかったとのこと。 医療産業においても、AIを中心としたオートメーション化の波は急速に押し寄せている。倫理的側面の議論不足や法整備の遅れなどによって、医療AIの臨床現場への浸透はいまだ限定的であるものの、近い将来の一般的普及はほぼ間違いない。医療産業の労働者が「AIを恐れない」のは、常にこれを管理し責任を取るべき人の存在が必要だからなのかもしれない。

ヘルスケアAIが悪意を持って利用される可能性

AI技術は医療への多大な貢献が期待され、これまでのあらゆる医療スタンダードを変革しようとしている。一方、米ハーバード大学を中心とした研究チームは、ヘルスケアAIが悪意を持って利用される可能性を指摘し、警鐘を鳴らしている。 学術誌Scienceに22日公開された論文によると、研究チームは、インプットデータに非常に小さく目立たぬような改ざんを加えれば、機械学習アルゴリズムの処理結果をある方向に意図的に導けることを指摘している。つまり悪意ある医療機関などは、より多くの専門検査・治療などを要する結果に誘導することで、利益を増幅しようとする可能性も否定できないというわけだ。 医療の高度な専門性ゆえに、患者にとってあらゆる検査・治療の本質的な意味を全て理解していくことは容易ではない。機械学習自体のブラックボックス問題も、医療的判断の正当性評価を一層難しくする。The New York Timesは、ハッカーによる改ざんリスクなどは低いとしながらも、あらゆる可能性への配慮が欠かせないことを報じている。

AIアルゴリズムが途上国の人々を失明から救うか

Googleが立ち上げたバイオベンチャー・Verilyは、独自に開発した糖尿病性網膜症診断AIシステムの有効性検証を、インドの医療機関の協力を得て大規模に進めている。インドでは、総人口13億人に対して医師が100万人しかいない。貧弱な医療提供体制をAIによって改善できるかにも、大きな注目が集まる。 英The Guardianの報道によると、このAIシステムは、2016年からの実臨床での検証とアルゴリズム改善により、現在では97%を超える精度で糖尿病性網膜症を診断できるという。眼科専門医のRamasamy Kim氏は「人間の医師と同等の診断能力を持つばかりか、ごく早期の人目には分からない変化も捉えられる」と実用性を高く評価する。 糖尿病性網膜症は主たる失明原因の1つであるが、自然に軽快することはなく、早期発見・早期治療が非常に重要となる。したがって、医療体制が整わず受診機会が乏しい途上国においては、同疾患による失明は増加の一途をたどっている。米The Wall Street Journalは、インドでは失明後に来院するケースが後を絶たないことを指摘し、僻地でのスクリーニング施設設立の必要性も報じている。

子どもの肺音を自動分析 – 過剰受診を減らすAI技術

子どもの体調不良において、病院受診のタイミングは非常に難しく、子を持つ親の共通の悩みと言える。ポーランドのStethoMe社は、聴診器型デバイスを使うことで子どもの肺音を家庭で記録でき、独自AIアルゴリズムが呼吸器疾患とその重症度を識別する画期的なシステムを開発している。 Medgadgetが報じたところによると、同社のシステムでは、家庭で録音された肺音データをかかりつけの小児科医とリアルタイムで共有することができるという。医師は肺音データとアルゴリズムによる解析結果を参考にして、患児が一般外来受診をすべきか、救急外来受診をすべきか、あるいは家庭で様子をみることができるのかを判断する。 日本においても時間外を含め、過剰な外来受診はしばしば問題となる。一方で受診判断の拠り所は、その大半を一般感覚とインターネットによる情報に依存しており、受診前に適切な医学的アドバイスを得られる状況は限られている。患者・医療者双方に利益を与え、医療資源の効率運用と小児健康増進の両立を目指す同技術の今後には、各方面から大きな期待が集まっている。

協和発酵キリン 最先端のAI研究を行うInveniAI社と共同で創薬研究

AIや機械学習について最先端の研究を行うInveniAI社は、日本でバイオテクノロジーを中心に創薬を行う協和発酵キリンと共同研究を行うことを発表した。この共同研究は、協和発酵キリンの技術を生かした上で、InveniAI社のAIシステムを創薬研究に使用することが目的だという。 InveniAI社は、主にデータ処理を行うAIシステムであるAlphaMeldを持っている。InveniAI社のサイトによると、AlphaMeldは1度に大量の情報を処理し、分析できるシステムだという。また、このAIシステムは創薬以外にも病院の医療データやマーケティングなど様々な分野に応用することが可能で、データの中から特異性のある情報や、新たな発見につながるような情報を検出することなどが可能である。今回の研究では、協和発酵キリンのバイオテクノロジーの技術を生かしてこのAIシステムを駆使し、さらに短時間・低コストで有用な医薬品の開発を目指すという。 AP通信によると、InveniAI社のCEOであるKrishnan Nandabalan氏は、協和発酵キリンと共同研究ができて光栄だと述べた上で、AIで薬品と病気の関係を解明して創薬の流れを機械化することで、新薬の開発をよりスムーズに行えるようにしたいと述べたという。一方、協和発酵キリンの副社長である佐藤光男氏は、AIの導入によって創薬のスピードが上がるだけでなく、研究に必要な資金も大幅に削減できるだろうと期待を示している。

AI研究 – 乳がん患者の生存率を規定するもの

乳がんは比較的頻度の高い悪性疾患であり、早期発見と適切な医療介入が欠かせない。マレーシア・マラヤ大学の研究チームは、機械学習アプローチを利用し、乳がん患者の生存率を規定する因子を探索した。結果は22日、BMC Medical Informatics and Decision Makingにて公開された。 研究チームの論文によると、マラヤ大学医療センターが保有する8066名分の乳がん患者データベースを利用し、どのような因子が乳がん患者の生存率に影響を与えているかを、機械学習アルゴリズムを用いて検証したという。結果として、乳がんのステージや腫瘍径、転移リンパ節の数、除去した腋窩リンパ節数、初期治療方法、診断法などが主要な規定因子と認められたとのこと。 研究から得られた規定因子自体はおおよそ既知のもので、妥当な結果と言える一方、目新しい成果ではない。ただし、今後他疾患についても広く同種の研究を進めていくことで、高度に個別化された適切な医学的判断の推進に役立つに違いない。疾患発症予測や画像診断への応用にとどまらないAI技術の利用は、この先も続いていくだろう。

ロレアル 肌診断を行うAIシステムを開発

化粧品会社最大手のロレアルは、消費者が自身のセルフィー画像をアップロードすることで、肌診断と適切なトリートメント法の提案を行うことのできるAIシステムを開発した。本システムは、ロレアルでの15年に渡るエイジング研究に基づく成果であるという。 ビジネスメディアRetail Diveの報道によると、このAIアルゴリズムは、ロレアルの研究経過から蓄積された6000の臨床画像と、4500もの多人種からなる女性のセルフィー画像を学習させることによって得られたものであるという。新しい肌診断システムは、ロレアルのウェブサイトを通じ、順次世界公開が予定されているとのこと。 医療画像における疾患診断はAIとの親和性が高く、急速な普及が進んでいる。先月のNature Medicineからは、顔画像のみから稀な遺伝性疾患を識別するAIが公開され、大きな話題となった。医学的視点に立ったとき、顔骨格・表情・肌が持つ情報量は意外に多く、人目に識別できない差異さえも捉えるAIは、今後もその利用の幅を広げていくだろう。

米Koios 乳房超音波のAI診断システムでFDA承認を取得

超音波の診断補助ソフトウェアで知られる米Koios Medicalは9日、乳房超音波のAI診断システムでFDA(米食品医薬品局)の承認を新たに取得したことを公表した。今回のFDA・510(k)取得により、米国内での市販化を目指す同製品が「一定の安全性・効果を持つ」ことが示されたことになり、今後の市場展開への大きな弾みとなる。 Koios DS Breast 2.0と呼ばれるAI診断システムでは、医師による画像からの乳がん診断を補助するとともに、悪性度を自動推定することができる。一連の画像診断システムについてKoiosが強調するのは、アルゴリズムの高い正確性とシステムの導入の容易さで、既存の医療画像管理システムに対してシームレスな機能拡張を実現するとのこと。 マンモグラフィ検査は明確に乳がん死亡率を減少させる、有効なスクリーニング手段として広く利用されている。一方で、乳腺濃度の高いいわゆる「デンスブレスト」では、マンモグラフィで乳がんを識別することは非常に難しい。米国においても4割以上の女性にこのデンスブレストがみられ、マンモグラフィへの代替検査として乳房超音波検査の有効性が取り沙汰されてきた。

AIで病院と研究施設を繋げるネットワークを形成

AIを利用した創薬を行うOWKIN社は、AIを基盤にして医療施設を結ぶネットワークを作ると発表した。このネットワークは、アメリカとヨーロッパにある合計44もの病院や研究施設、すなわち数百人の医者や研究者をつなぐもので、集められたビッグデータをAIでまとめて知識を共有することが可能になるという。 GlobeNewswireによると、OWKIN社はAIの機械学習を利用して創薬・医療に関する研究を行うスタートアップで、今回の計画もそうした研究を促進するためのものであるという。この計画は、製薬企業や研究施設と医療施設をつなげることで、ガン・心臓疾患・神経疾患・自己免疫疾患の研究環境を向上させるのが目的だという。具体的には、患者に関する大量のデータを共有することで、ある特定の薬物の組み合わせが人体にどのような影響を及ぼすのかなどを、研究室での予測の枠を超えて実証することが可能になる。また、病院間でデータを共有することで、ほかの病院の医療データを参考にして、治療に生かすこともできる。 MedCity Newsによると、OWKIN社のCEOであるThomas Clozel氏は、この計画によって医療データが創薬に生かされることで、製薬企業はこれまでより新薬を臨床現場に応用しやすくなるだろうと述べ、これは創薬研究のまったく新しい方法だと自信を示しているという。
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画像から大腿骨頚部骨折を識別するAIアルゴリズム

台湾・Chang Gung大学を中心とする研究チームは、画像から大腿骨頚部骨折を高精度に識別し、骨折部を明確に指摘できるAIアルゴリズムを開発した。研究成果は1日、学術誌European Radiologyにて公開された。 研究チームの論文によると、畳み込みニューラルネットワークを利用したこのアルゴリズムは、25000以上に及ぶ下肢画像を学習させることで得られたという。アルゴリズムの精度は91%、偽陰性率(実際には骨折があるにも関わらず、骨折がないと判断される割合)2%と、非常に優れたパフォーマンスを示している。 大腿骨頚部骨折は高齢者の転倒に伴う骨折として頻度が高く、寝たきりに移行する契機としてもよく知られている。早期の治療介入は患者の予後を著明に改善できるため、わずかな骨折線であっても見逃されるべきではない。医師の診断を補助する画像システムとして、今後臨床現場への普及が期待されている。

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Google AI 画像から腫瘍の遺伝子変異を識別

ニューヨーク大学の研究チームは、GoogleのAIアルゴリズムを利用し、医用画像から97%の正確性で肺がんの種別を識別できることを示した。彼らはこれまで病理医の目を通してでさえ識別することが難しかった、腫瘍の遺伝子変異も画像から同時に捉えることに成功した。 米テックメディアVentureBeatの報道によると、研究チームはGoogleの画像認知モデルであるInception v3に1634枚の肺がん関連画像を学習させ、今回の成果を得たという。彼らは「このアプローチを臨床現場に取り入れることで、ルーチンワークが軽減されるだけでなく、高度な意思決定が必要なケースに病理医が集中することができるようになる」と述べている。 米国では、年間20万人が肺がんと診断され、15万人以上が肺がん関連の合併症によって亡くなっている。米WIREDのインタビューに対し、スタンフォード大学のDaniel Rubin教授は「この技術によって、人間が引き出し得る情報以上のものを手に入れることができるようになった」と述べ、肺がん診断と治療の質の向上に期待を寄せている。

中国医療AIにおける「4つの機会と4つの危機」

近年、人工知能はますます医療界で実用されるようになってきた。医療商品の開発に貢献しているだけでなく、医師の人手不足といった社会問題の解決にも一役買っている。中国医療科技網によると、中国動脈網は、医療AIの治験分野における「4つの機会と4つの危機」について分析したという。 今後、AIの導入が期待される「4つの機会」とは、「(1)治験の第II相における基準設定、(2)治験の第II相における臨床活動の識別、(3)非構造化テキストからのサンプルの抽出、(4)事務作業の自動化」だという。また、4つの危機とは、「(1)臨床においてAIが学習し続けられる能力、(2)AIの判断や識別の安全性、(3)AIの医療技術についての審議、(4)患者の個人情報やセキュルティーなどのシステム管理」だとされる。 これらの危機を克服し、機会を十分に活用できれば、人工知能が医療の発展の大きな一助となることは間違いないだろう。中国衛生局の関係者も、医療AIにはまだまだ潜在能力があると考えているようだ。現段階では、人工知能を医療分野でうまく扱っている国は少なく、まだまだ課題も多い。中国医療科技網は、今後はAIの開発に注力するだけでなく、そこからもたらされる変化にも適応していく必要があると指摘している。

AIによるモニタリングで妊婦と胎児の死亡率低下を実現

米ベイラー医科大学は、PeriGen社製のAIによる周産期モニタリングシステムの導入により、母体と新生児の死亡を含む重篤な健康リスクを大幅に低下させることができたと公表した。このシステムの導入により、新生児集中治療室からの早期離脱や、帝王切開率が低くなることも確認されており、今後産科における一般的システムとして普及する可能性もある。 Healthcare IT Newsの報道によると、このシステムではAIが胎児心拍を常時モニター・解析し、正確に異常パターンの出現を捉えて医師に警告することができる。ベイラー医科大学産婦人科のSteven Clark教授は「医師が1人の妊婦に付きっきりで対応することは現実的でない。このシステムは不眠不休で働き、医師をサポートすることができる強力なバックアップだ」としている。 米国における出産関連死、特に妊産婦の死亡率は他の先進国と比較しても非常に高く、毎日2人の女性が出産時に亡くなっている計算となる。米テックメディアSanvadaによると、このAIシステムは、血中のオキシトシンモニタリングを付加的に行うことで、さらなるリスクの軽減にもつながっており、米国の周産期を巡る危機的状況の打開へと期待が集まっている。

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