CanonのAIがFDA承認- CTの放射線被曝を低減しながら超高解像度画像を再構成

すべてのX線画像検査と同様に、CTスキャンも画質と放射線量はトレードオフの関係にある。特に小児領域を中心として、検査による被曝リスクの低減は課題とされてきた。より低線量のCTで高い診断精度を生み出すAI診断技術は、Googleの研究チームが学術誌Natureに発表したものなどがある(過去記事)。 2019年10月21日、 Canon Medical Systems USAは、放射線量を従来と同等に据え置きながら2倍の超高解像度画像を再構成するAI技術、Advanced Intelligent Clear-IQ Engine (AiCE)で米FDAの認証を受けたことを発表した。畳み込みニューラルネットワークによるAIアルゴリズムがノイズを抑制しながらCTの信号を強化する。 MedTech Diveでは、キヤノンの経営的側面とAI技術戦略について解説を加えている。マクロ経済環境の弱さからキヤノンは医療部門の通期見通しを4690億円と予測、従来予測から10.5%削減した。一方、本拠地日本以外では医療システムの売り上げは増加傾向であり、特に南北アメリカでは第1四半期に21.5%売上高を増加させた。今回FDA承認を受けたことを後押しとして、AIアルゴリズムAiCEが搭載可能なCTシステムAquilionシリーズの海外販売を推進する成長戦略を描いている。CTを取り扱う臨床医にそのパフォーマンスが受け入れられるか注目したい。

新研究 – メラノーマの組織診断でAIが病理医を上回る

ドイツがん研究センター(German Cancer Research Center)のチームは、皮膚組織からのメラノーマ(悪性黒色腫)診断において、深層学習アルゴリズムが病理専門医の診断精度を上回ったことを示した。研究成果はEuropean Journal of Cancerに収載されている。 チームの研究論文によると、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った595の組織標本から畳み込みニューラルネットワークを利用し、メラノーマを識別するAIアルゴリズムを構築したという。追加に用意した100の標本において、11名の病理専門医と診断精度を比較したところ、AIアルゴリズムが感度・特異度・正確度からなる総合評価において、病理専門医を上回っていることが確認された。 近年の研究から、特にメラノーマの組織診断は難度が高く、熟練した専門医の間においても診断の不一致が25%程度にみられることが明らかとなっている。今回の研究成果はあくまで限定的な医師数においての評価だが、AIによる安定した診断精度が病理診断の大きな助けとなる可能性は非常に高いだろう。

ハーバード大学 手術後の退院先を予測するAIアルゴリズムを開発

ハーバード大学を中心とした研究チームは、脊椎すべり症の手術を受けた患者がどのような退院先となるか、機械学習を用いた予測アルゴリズムを開発した。研究成果は3月27日、学術誌European Spine Journalにて公開された。 同チームの研究論文によると、大規模な患者データベース(The National Surgical Quality Improvement Program)を利用し、2009年から2016年までの間に脊椎すべり症に対して外科的手術を受けた患者のデータから、高精度な機械学習アルゴリズムを構築したという。アルゴリズムが予測を行うのは、自宅退院かそれ以外かで、非自宅退院にはリハビリ施設や介護施設などが含まれるとのこと。 脊椎すべり症は、壮年期以降に椎間板が変性することによって引き起こされることが多い。手術後の自宅退院が不可能となる症例では、社会福祉的な対応が欠かせず、退院先調整が難航するケースも少なくない。事前に退院後リスクまでを考慮した治療計画を立てることは、医療者・患者双方にとっての大きなメリットとなる。著者らは、今後他疾患についても同種の研究が加速することを指摘している。

スタンフォード大学 – 脳画像読影へのAIサポートの有効性

スタンフォード大学の研究チームは、頭部CT血管造影法(CT Angiography)の画像読影において、AIサポートによって放射線科医のパフォーマンスが大幅に向上することを明らかにした。 学術誌JAMA Network Openに掲載されたチームの論文によると、662名の患者における脳スキャン画像から、脳動脈瘤の可能性が高い部位をハイライトする機械学習アルゴリズムを構築したという。HeadXNetと呼ばれる同アルゴリズムによるサポートを利用した際、放射線科医の脳動脈瘤識別における感度・正確度に5%前後の明らかな向上を確認したほか、100スキャン画像あたり平均6例の追加的な症例捕捉に繋がっていた。 AIによる疾患診断は放射線科領域を中心に急激な技術革新がみられているが、アルゴリズムの妥当性と法整備の問題などから、実臨床利用はまだ限定的な状況にある。病変部位を可能性ごとにハイライトして指し示すアルゴリズムは、単に診断名を与えるAI診断システムに比べて柔軟な利用が可能であり、比較的新技術に懐疑的な組織であっても、AI導入の取っ掛かりとなる可能性がある。

NVIDIA – IVA Summit in Osaka

NVIDIAは1月30日(木)、グランフロント大阪北館B2Fコングレコンベンションセンター・ルーム3にて「IVA Summit in Osaka」を開催する。Intelligent Video Analytics(IVA)に関する先端技術と先進導入事例などが紹介される予定とのこと。 NVIDIAのAIコンピューティングプラットフォームが提供する高度な画像認識技術は、IVA領域においても大きな注目を集めている。AIによるカメラの映像解析は、不審者や迷子の検知、交通状況の予測や管理など、便利で安全なまちづくりに貢献するほか、無人店舗の管理や店舗での販売状況の予測・分析などによって、人手不足の解消や事業の効率化も期待されている。本セミナーでは、課題解決とその先の付加価値創出に向けてIVAを活用するユーザーの、先進的導入事例などが紹介される。 イベントページ: https://www.macnica.co.jp/business/semiconductor/events/nvidia/133874/

英大学 NVIDIAのAI画像診断技術を導入

英ロンドン大学キングスカレッジ(KCL)は、NVIDIAのAIによる医用画像診断技術「Clara プラットフォーム」の導入を決めた。KCLは、4つの関連病院にこのプラットフォームを導入し、画像診断の質および迅速性の向上を通して、800万人に及ぶ患者の治療効果改善に寄与したいと考えている。 Claraプラットフォームは、放射線科医が行う画像診断をAIによって補助するのみでなく、従来画像の撮影高速化や、3Dイメージを含めたより詳細な画像への再構成を実現する技術だ。英テクノロジーメディアThe Inquirerの報道によると、KCLとNVIDIAは、これらの病院に研究者やエンジニアを配置し、臨床医と共同して、効率性の最大化と新しい知見の探索に努めるとしている。 英国では、診断すべき医用画像が年16%の割合で増加しているにもかかわらず、放射線科医は1%しか増えず、深刻な専門医不足が社会問題化している。NVIDIAは、KCLのSebastien Ourselin教授の言葉として、「我々の専門知識とNVIDIAのテクノロジーが、英国における患者ケアの現状を大きく改善するだろう」としている。

捜査官を心のトラウマから守れ – AIで児童虐待の証拠資料を選別

児童虐待の捜査で集められた証拠資料は、担当する捜査官の心の健康に悪い影響を与える。暴力や性的な内容で傷つけられた被害者の画像データが携帯電話やコンピューターの中に大量に見つかることは少なくない。秘密を守る義務から、内容について誰かと相談しにくい事情もある。トラウマとなってしまい、虐待の被害者と似たような心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えてしまう例も報告されている。 オーストラリアのモナシュ大学のプレスリリースによると、同大の情報技術学部のグループはオーストラリア連邦警察(AFP)と協力し、大量の捜査資料をスキャンして素早く分類する機械学習アルゴリズムの実用化に取り組んでいる。『法の執行と地域安全のためのAI(AiLECS)ラボ』と名付けられた研究室は、2019年7月1日に正式発表となった。その取り組みによって、捜査官が不意にショッキングな画像にさらされずに済むことが期待されている。さらに画期的なのは、機械学習アルゴリズムの開発段階で研究者たち自身も暴力的な画像にさらされずに済むシステム『Data Airlock』である。まずは児童虐待がテーマとなり、今後はテロ事件の内容もカバーする方針とのことだ。 同じようなテーマは世界的に広がりを見せており、ロンドン警視庁の法医学部門でもAIが利用されている。またGoogleが2018年に公開した『Content Safety API』も児童ポルノ関連のデータに対抗するAIツールのひとつである。有害な画像データの取り扱いに専門家のチェックは最低限必要であり、できるだけ心の健康に配慮したAIサポートの動きが広がることを期待したい。

AI医療の最新活用事例とは?医師が解説【2019年版】

近年、AI(人工知能)の活用は非常に多くの分野で急速に進み、AIに関する新しいニュースを見ない日はないほどだ。背景にあるのはDeep Learning(ディープラーニング; 深層学習)技術の発展だが、医療におけるAI活用ももちろん例外ではない。一方、医療は人間の生命を直接的に扱う特殊領域であるため、AIがもたらす影響は他分野とは少し毛色が異なっている。今回は医療という文脈でのAIを広く説明し、AIとはそもそも何か、どういった利益を与えるものなのか、同時にどういった問題が生まれるのか、また、今注目すべき最新の医療AI動向についても紹介したい。 1.医療におけるAIとは? そもそもAIとは何なのか? AI(Artificial Intelligence)は文字通り「人工の知能」を意味するが、その定義は研究者ごとに異なりあやふやなものだ。大まかに言えば、人類が行ってきた論理思考をコンピュータ上に再現するプログラムということになる。これまでは一定のルール下でしか答えを出すことのできない、非常に限られた「知能」であったが、2010年頃からの深層学習技術の高度発達により、プログラムは与えられたデータから自律的に学習することで判断基準を構築できるようになった。これは、人類には明確な基準を示せなかったものでさえ、AIは独自に判断基準を構築し分類できることを意味している。そして、この仕組みを医療に持ち込んだものが、いわゆる「医療AI」である。医療においては、単に疾患だけに注目しても、発症リスク評価・疾患診断・治療法選択・予後評価など多くの判断が必要になるが、個人ごとの状況の違いによって複雑化され、その判断は大抵とても難しい。集積された大量の患者データをもとに判断基準を構築し、例えば個人ごとに最適な治療法を提示してくれるとすれば、医療AIがもたらすメリットは患者・医療者の双方にとって非常に大きいことが想像できるだろう。 深層学習とは何か? 深層学習は近年のAI技術発達の根幹をなすものだが、文字通り日進月歩で新技術が公開されており、その全てにキャッチアップすることは難しい。ここでは、これらの基本となる用語の簡単な説明と、医療における活用例を示しておこう。 20世紀半ばから研究されているニューラルネットワークと呼ばれるアルゴリズム(手順を示したもの)がある。これは人間をはじめとした生物における脳神経細胞をモデルとしたもので、入力層・隠れ層・出力層といった層構造がエッジで結ばれた構造をとる。各層に関数を与え(活性化関数と呼ばれる)、エッジに重みを持たせることで、入力値を分類にかけ、答えを出力するための非常に複雑なモデルを実現している。この隠れ層が多い(深い)アルゴリズムを特に深層学習と呼んでいる。ちなみに機械学習は「与えられたデータから反復して学習し、適切な規則を見出す」ことを指し、深層学習もこれに含まれる。もう少し具体的に言うと、例えば、今の血糖値・血圧・体重の3点から1年後の糖尿病発症を予測するアルゴリズムを構築したいとする。多くの患者データを集めたデータベースから、血糖値・血圧・体重の3点を入力、1年後の糖尿病発症があったかなかったかを出力として設定することで、反復した学習を通してエッジの重みなどを決定する。できあがった最適なアルゴリズムは、この3点さえ与えれば、その人が1年後に糖尿病を発症するかどうかを予測できるようになる。このように入力と出力の関係を学習させるものを、特に教師あり学習と呼び、医療におけるAI開発では頻用されている。 一般的なディープニューラルネットワーク(DNN)では、特徴量(上記の例では血糖値・血圧・体重の3点)を任意で選択して投入するのに対して、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)では、画像そのものを入力として与えることができる。例えば米メイヨークリニックが開発したアルゴリズムの例では(過去記事)、心電図の波形画像そのものから、無症候性左室機能不全を識別している。もちろん心電図波形から特徴量を取り出し(波形の高さ・幅など)、DNNで同等のアルゴリズムを構築することもできるが、任意の数値を選び入力情報を限定してしまっている分、CNNによるアルゴリズムの精度を超えない可能性が高い。現在、このCNNが画像診断AI開発の主役となっている。 医療AIは強力だが万能じゃない 人工知能というとまさに人間の知能を模倣したもの、脳機能の代替物という印象を受けるが、これは多くの場合で過剰に捉えられてしまっている。わかりやすく言うと、現時点でのAIは「特定の何かを識別できるもの」であるに過ぎない。つまり、血管を画像から識別できるアルゴリズムであれば、動脈の画像を見せれば「血管だ」と返すし、毛髪の画像を見せれば「血管じゃない」と返すといった具合である。このアルゴリズムに何の改変も加えなければ、新生児と成人を区別することさえできない。したがって、今世間を大きく賑わせているほとんど全てのAIが、人間の「特定の非常に限られた機能」を抽出してコンピュータ上で再現しているだけということになり、要するに万能ではない。 ただし、この再現された機能があまりに強力なため、時として人類の識別能力を大きく上回るケースがある。例えば、電子カルテの記録から小児疾患を識別するアルゴリズムでは、インフルエンザを含む複数の疾患で小児科専門医の診断精度を超えたとの報告がある(過去記事)。この研究結果は、権威ある学術誌Nature Medicineで公開され話題を呼んだ。また、AIは人間の目では識別できない微細な変化までを捉えることができるため、悪性腫瘍診断など医療画像との親和性が高く、放射線科領域における技術発達が著しい(過去記事)。さらに、AIは安定した結果をもたらし続けることにも利点がある。特に日本の医療現場においては、人員不足による業務過重、夜間・休日の頻回な呼び出し、当直明け通常勤務、など医師の判断を鈍らせる過酷な現状がある。一定の出力精度を保ち続けるAIによるサポートは、医師にとっての一種の保険ともなり得るだろう。 2.AIの活用できる医療領域とは? 次にAIを活用できる医療領域をみていきたい。医療は大きく分けて、疾患の発症を防ぐ「予防」、既に疾患に罹患している人を見分ける「診断」、診断名を持つ人の転機を改善する「治療」の3ステップがある。AIはこれら主要な3ステップのいずれにも貢献が可能なだけでなく、医療保険制度や医療提供体制を含む医療システムへの活用もみられるようになっており、あらゆる医療領域への活用が期待されている。この背景には、医療職の高度専門性に伴う人的リソース不足があり、AIに活路を見出そうとする国々は少なくない。 画像診断でのAI活用 放射線科、特に医療画像から疾患診断を行うプロセスは、医療AI活用の最たるものとして知られている。医療周辺技術の発達と高齢化の進展によって、施設あたりの読影を要する医療画像数は増加の一途だが、それに伴う放射線科医の増加は十分でない。AIは放射線科医の読影を助けることで、直接的に作業負担を軽減することができる。ただし、現状で正規の医療機器として承認を受けたAIデバイスは非常に限定的であることを知っておく必要がある。つまり、仮にAIが「悪性腫瘍がある」と診断したとしても、医師の確認なしに診断から治療に進むことは現時点でほとんどない。これは後述するAIの問題点にもなるが、アルゴリズムの妥当性の検証が不足していることと、AIを巡る法整備の遅れに起因しており、今現在、画像診断において正規に医師を代替する例はみられていない。 一方で、健康診断における胸部レントゲン読影や心電図解析などは近い将来、AIによって完全に代替される可能性が高い。これはあくまで健康診断での画像読影がスクリーニングであり、後の個別受診で確定診断を得るためである。スクリーニングでは偽陰性(疾患があるにも関わらず「疾患なし」と判断されてしまうこと)が問題となるが、アルゴリズムの調整によって十分にこの問題を回避できる。不眠不休で安定した結果を出し続けることができるAIは、人手とコストの観点からも、この種のスクリーニング実施機関から前向きに受け入れられるだろう。英国・中国における眼科疾患スクリーニングの実用化例は、それぞれ過去にも紹介している(過去記事1・2)。 疾患診断でのAI活用 近年自然言語処理技術の急速な発達により、診療録(カルテ)解析がより一般的となった。結果的に診療録からの疾患診断AIは非常にその精度を高めている。過去に小児疾患の診断AIや(過去記事)、Amazonによるカルテ解析システム(過去記事)なども紹介したので参考にして欲しい。診療録は医師による所見の記載だけでなく、あらゆる検査結果・処方記録などが混在している。患者の病歴が長くなればなるほど診療録は膨大となり、優れた医師であってもその全てを限られた診療時間の間に捉えきることは難しく、患者の病態把握・他疾患リスクの把握などの面からもAIの利用が有効となるだろう。同様に、診療録だけではなく、生体センサーやモニター記録を統合したAIシステムの開発例もある(過去記事)。米フロリダ大学のこのシステムでは、集中治療室(ICU)における重篤な病態変化や致死的疾患の発生を予測するもので、まさにAIの有効な利用例と言える。さらに睡眠時無呼吸症候群など、診断に際して専門検査を要する疾患を、AIを利用することでより簡便に診断する手法の開発も進んでいる(過去記事)。 医療を巡る諸問題へのAI活用 AIの活用は実際の臨床現場におけるものにはとどまらない。医科学の信ぴょう性を揺るがすハゲタカジャーナル問題への活用や(過去記事)、スポーツにおけるドーピング撲滅に向けた活用(過去記事)、果てはバイオテロの防止に向けた取り組みにまで利用されている(過去記事)。 3.医療分野におけるAIの問題点・課題とは? AIの妥当性検証が不足 医学研究者のなかには、AIアルゴリズムに対する懐疑的な目を向け続けるものも少なくない(過去記事)。アルゴリズムの示す高い精度にのみ目を奪われ、本質的な有効性が置き去りにされている、という意見である。 アルゴリズムの構築の際、一般的には1つのデータセットのみを利用する。このデータセットを例えば8割と2割のように二分し、片側をアルゴリズム構築用の学習セット、残りをテストセットとする。つまり、学習セットから導かれたアルゴリズムがテストセットでも同等の精度を発揮するか確認し、精度が保たれていれば妥当なアルゴリズムであると結論づけるやり方である。ただしこの方法だけでは、実は真の有効性は検証されていない。なぜなら、そのアルゴリズムは「ある特定の集団データ」から導かれたものに過ぎず、対象集団を変えてしまうとその精度は保たれない可能性があるからだ。分かりやすい例を挙げると、英国人を中心としたデータセットから得られたアルゴリズムは、日本人において有効であるとは限らないということである。実際、Amazonが誇る顔認識AI・Rekognitionは、「黒人の女性をうまく識別できないバイアスを持っている」との研究成果をもとにした一大騒動も引き起こしている(参照:米CNN)。対象集団を変えた多施設での解析、前向きの追跡研究など、従来の医学的エビデンス構築に基づいた精緻な検証が求められているのは間違いない。 医療AIを巡る法整備の遅れ この5年ほどの間に、医療におけるAI活用は急速に進んだが、技術発展があまりに急であったため必要な法整備が遅れている。現実問題として、医療AIが示した診断結果をどう取り扱えば良いのかさえ十分な議論がなされていない。現時点では「必ず医師の確認を要する」との文言を付けることで、臨床現場などへのサポートシステムとしての導入がみられる程度にとどまる。本質的に有効なアルゴリズム構築のガイドラインを示し遵守させること、AIシステムが医療機器としての承認に受けるのに必要な要件、承認のないものへの一定の制限、などを明確化することは最低限求められている。有効性の不明な医療AIが、何の制限もなく市場に多く出回る状況は非常に危険である。 医療者のAIに関する知識不足 薬の効果・作用機序を知らずに処方することはできない。同様にして、医師をはじめとした医療者も、ある程度のAIに関する知識が今後必要となる。医学生の基礎教育としてAI科目の必要性が実際に議論され始めており、米ボストン大学の例を以前に紹介した(過去記事)。この先、医療におけるAIがさらに浸透し、あらゆる医療プロセスにAIが関与するようになれば(そしてそうなる可能性が高い)、医療者がAIを避けて通ることは非常に難しい。   4.注目の最新AI医療動向 AIによる創薬 製薬大手のグラクソスミスクラインと英スタートアップ・Exscientiaは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬となり得る化合物を発見したことを発表している(過去記事)。 これはAIによる化合物探索プラットフォームを利用したもので、AI創薬の画期的な一幕になる可能性がある。従来のプロセスに比べると、AIを利用することで薬剤開発を大幅に効率化できるだけでなく、薬剤化できる可能性がありながら見逃されていたターゲットのあぶり出しにも有効となる。AIによる合成経路の自動探索技術については、以前にも紹介しているので参考にして欲しい(過去記事)。 死亡時画像診断への利用 死亡時画像診断という取り組みがある。死後のCTやMRI撮影から、死亡時の病態や死因を究明しようとするものだ(過去記事)。生体画像ですら人員不足が指摘されている放射線科医にあって、死亡時画像診断における読影までを強いることは現実的とは言えない。加えて、このような特殊領域の読影に長けた放射線科医はそれほど多くはない。こういった場面でのAI活用は極めて有用性が高いと考えられる。実際、AIによる神経変性疾患患者の死後脳MRI画像解析によって、新しい治療法開発につながる可能性も指摘されている。

マンモグラフィー検査でAIが放射線科医をサポート

ラドバウド大学医療センター(オランダ)の研究チームは、放射線科医がAIによるサポートを受けることで、マンモグラフィーの読影における乳がんの診断精度が上がるとの研究成果を公表した。AIのサポートによって乳がんの種類や重症度にかかわらず、診断率が高まる一方で、読影にかかる時間が延びることはなかったという。 医学誌Radiologyに今月20日掲載された論文によると、14名の放射線科医が240名のマンモグラフィー画像を、AIによるサポートがある場合とない場合とでそれぞれ読影を行い、その診断率に差があるかを検討したという。研究に用いたのは米Transpara社のAIシステムで、マンモグラフィー画像から乳がんを単独で診断する機能もすでに備えている。 マンモグラフィーの読影作業は極めて専門性が高く、比較的手軽に行える検査であるにもかかわらず、十分な診断能力を持つ医師が不足していることが課題とされてきた。Health Imagingによる、マサチューセッツ総合病院放射線科Manisha Bahl医師へのインタビューでは、「マンモグラフィー画像からの乳がん診断において、AIアルゴリズムはすでに専門医と同等のレベルにある」と述べ、AI利用の有効性が強調されている。
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心電図波形から低血糖イベントを検出するAI – 針を使わない血糖コントロールへ

糖尿病患者の血糖コントロールのためには、定期的なフィンガープリック(手指に針を指す)による血糖値測定が欠かせない。1日複数回ともなると痛みや不快感は大きく、生活の質(QOL)低下の一因となる。一方で、非侵襲的に血糖値を推定する手法は種々検討されているものの、フィンガープリックを完全に代替する簡便な手法は未だ得られていない。 英ウォーリック大学の研究チームは今月、非侵襲的なウェアラブルセンサーで取得した心電図波形から、ディープラーニングによって低血糖イベントを適切に検出できることを公表した。研究成果は学術ジャーナルScientific Reportsに収載されている。本研究は少数の健常ボランティアを対象としたパイロットスタディではあるものの、アルゴリズムの精度はCGM(NHSで標準的に利用される、小さな針を備えたデバイスを用いた持続モニタリング手法)に匹敵するという。 糖尿病患者における低血糖イベントは、時に意識障害などをきたし得る深刻な病態の1つと言える。Science Dailyの報道によると、研究を率いたLeandro Pecchia博士は「私たちのイノベーションにより、睡眠中を含むあらゆる状況において、心電図波形から低血糖を自動検出できる可能性を示した」としている。 AIの適用により、心電図波形は「元来想定されていた以上の情報を含んでいること」が次第に明らかとされている。循環器領域を中心に、心電図波形が持つ疾患発症への予測力など、研究計画の余地は多分にあるため、今後医療AI研究の1つのトピックとなる可能性が高い。 関連記事: 「凪いだ海から昨日の嵐を見分ける目 - 隠れた心房細動を識別するAI技術」

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インテル 表情で操作できるAI搭載した車椅子を開発

インテルは、ブラジルのベンチャー企業Hoobox Roboticsと共同で、顔の表情だけで操作できる電動車椅子を開発した。従来の電動車椅子は、指先で操作するものが主流だったが、四肢麻痺の患者は指先で操作ができないため、新たな操作方法が求められていた。 INQUIRE.NETによれば、開発された電動車いすには、「Wheelie7」と呼ばれるAIシステムが搭載されており、利用者は笑顔や眉間にしわを寄せるなど、10種の異なる表情と車椅子の動作を結びつけることができる。システムは、Intel 3D RealSense Depth Cameraを通じて利用者の表情を3次元に認識し、リアルタイムで車椅子を操作するという。 engadgetによると、Wheelie7システムは現在市場に出ている車椅子の95%に取り付け可能だという。現在アメリカでは、プロトタイプの試験が四肢麻痺、筋萎縮性側索硬化症、または加齢による障害を有する患者60名に対して行われているようだ。アメリカの国立脊髄損傷統計センター(National Spinal Cord Injury Statistical Center)によれば、アメリカ国内には約28万8000人の脊髄損傷患者がおり、毎年約1万7700人が新たに患者になると報告されている。

AIはドーピングを撲滅できるか?

スポーツでのドーピングとその隠ぺい技術は巧妙化し、アンチ・ドーピング活動はイタチごっこを強いられている。造血剤(EPO)や自己血輸血での心肺機能強化、ステロイドでの筋力増強、興奮作用薬などに関して、不正使用と検査逃れのテクニックは後を絶たない。コスト増大と人的資源の不足に対処するため、AIによるアンチ・ドーピング技術に期待が集まっている。 英メディアiNewsの報道によると、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は、アスリート達の生体検査履歴(通称: 生体パスポート)へのAI分析の実用化を目指している。分析担当者の負担を軽減し、ドーピング検出率と正確性の向上で、競技の健全化と運営コスト軽減を期待する。 生体検査でのドーピング検出とは異なるアプローチも始まっている。仏Allianz Partnersは、フランス国立科学研究センター(CNRS)が異常な競技パフォーマンスの向上を検出するAIアルゴリズムを開発したと報じている。AIのいわゆるブラックボックス問題(過去記事)などから、アルゴリズム単独でドーピングを完全に証明するのは容易ではない。生体検査対象とするアスリートの検出・絞り込みによりコストの集中と軽減をねらいとしているとのことだ。

Apple Women’s Health Study – ハーバード大学とアップルが女性の健康研究を再定義する

ハーバード大学は1976年以降、看護師を主な対象として女性の健康に関する世界で最大かつ最長の研究を主導してきた。骨粗鬆症の予防にホルモン補充療法が有効であることなどを証明してきたその大規模研究には、のべ275,000人以上の参加者が登録された。2019年11月、ハーバード大学はさらに野心的な計画として、Appleと共同で取り組み10年で100万人の女性を登録する次世代の研究Apple Women’s Health Studyを発表している。本年6月にWWDC 2019で発表した計画を実行に移したかたちとなる(過去記事)。 The New York Timesの報道によると、Apple Women’s Health Studyに参加した女性は月経周期・妊娠・更年期障害など健康に関する定性的な情報を提供できる。また調査用アプリを通じて、iPhoneやApple Watchから収集したフィットネス・心拍数など定量的データを自動同期して提供もできる。ハーバード大学 T.H.Chan School(公衆衛生大学院)の学部長Michelle A. Williams氏は「現在使用している女性の健康に関する多くの臨床意思決定や診断のプロトコルは社会環境が異なっていた50年前からのデータに由来します。かつてない方法で女性の月経周期情報を収集できることに興奮しています」と語った。 ハーバード大学が取り組むApple Women’s Health Studyは、Appleの新しい3つの大規模研究の1つにすぎない。Appleという世界最大のハイテク企業は医学研究のあり方を再定義しようとしている。「Apple Hearing Study」はミシガン大学と共同で、ヘッドフォンとiPhoneアプリから騒音レベルのデータを収集し、長期の騒音曝露が聴覚に与える影響を調べる。また「Apple Heart and Movement...

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