AIの実臨床応用が進む米ローカル病院

近年、AIの台頭によりヘルスケアにおける技術革新は急速に進んでいるが、臨床現場への応用はまだ限定的と言える。一方、米国のローカル病院など、リソースが十分でない医療現場においては、積極的なAI利用により業務効率の改善を図るケースが見られるようになってきた。 米WMBF Newsの報道によると、Conway Medical Centerでは、患者カルテや各種検査結果などが集約される電子診療録(EHR)にAIシステムを導入しており、敗血症など重篤な疾患の発生リスクを医療者に警告できるようになっているという。システムはヒューマンエラーの回避を望めるほか、適切な早期介入の実現によって患者の予後を直接的に改善することができる。 コンサルティングファーム・Accentureのレポートでは、米国でのヘルスケア領域におけるAI活用により、2026年までに年間1500億ドルのコストカットが見込めるとの推算を示している。積極的な先端技術の活用が、医療経済システム向上のための突破口となるかもしれない。

Google アフリカのマラリア・デング熱対策にAI活用

Googleは、2015年に429,000人のアフリカの人々の命が失われたことを受けて、マラリアやデング熱に対処するためにAIの導入を検討している。このAIを活用することで、雄雌の蚊の分別が可能になる。さらにウルバチア菌に感染させた雄蚊だけを野に放つと、菌を持った蚊と交配して、孵化しないようにさせることができるという。同社のヘルスケアAI部門は、これまでにも糖尿病性網膜症による失明を防ぐAI開発など、世界的に必要なヘルスケアAIの開発に取り組んできた。その目的は、医療作業を簡略化し、医療従事者が患者に向き合う時間を増やすことにある。近年IT企業のヘルスケアAI開発は盛んで、IBMはすでにアフリカのマラリア対策のためにAIを提供している。 Googleは、マラリアやデング熱などへの対策に使用できるAIをアフリカへ導入する方法について検討している。Googleの子会社・Verilyが開発したAIは、大量の蚊を孵化させて雄と雌に分別することができる。その後、ウルバチア菌に罹患させたオスの蚊のみを大量に放ち、ほかの蚊との交配をさせると孵化しない卵が生まれる。その結果としてマラリアやデング熱の菌を持つ蚊の個体数を減らすことができると米・ITメディアCNETは解説する。南ア・新聞社Business Dayによると、GoogleヘルスケアAI責任者のKatherine Chou氏は、「私たちはマラリアやデング熱への対策について真剣に取り組み、Googleがどのように支援できるのかを考えてきた」と述べているという。WHOによると、2015年にサハラ以南のアフリカでは、約429,000人がマラリアによって亡くなっている。 Googleヘルスケアチームは、世界的に必要とされるヘルスケアAIの開発に取り組んでおり、糖尿病性網膜症を予測して失明を防ぐためのAI開発をすでに行っている。このAIは、網膜画像から網膜症を識別するための機械学習訓練を繰り返し行い、開発された。ナイアガラ・ビジネスメディアFootprint To Africaによると、同チームは「AIを活用して医療プロセスをより簡単にし、医療従事者が患者を向き合う時間を増やす」ことを目指しているという。IT企業のヘルスケアAI分野への進出は昨今盛んだ。IBMはすでにアフリカのヘルスケア市場に参入しており、アフリカの政策担当者はマラリアに対処するためにIBMのAIを使用している。

Google AI 画像から腫瘍の遺伝子変異を識別

ニューヨーク大学の研究チームは、GoogleのAIアルゴリズムを利用し、医用画像から97%の正確性で肺がんの種別を識別できることを示した。彼らはこれまで病理医の目を通してでさえ識別することが難しかった、腫瘍の遺伝子変異も画像から同時に捉えることに成功した。 米テックメディアVentureBeatの報道によると、研究チームはGoogleの画像認知モデルであるInception v3に1634枚の肺がん関連画像を学習させ、今回の成果を得たという。彼らは「このアプローチを臨床現場に取り入れることで、ルーチンワークが軽減されるだけでなく、高度な意思決定が必要なケースに病理医が集中することができるようになる」と述べている。 米国では、年間20万人が肺がんと診断され、15万人以上が肺がん関連の合併症によって亡くなっている。米WIREDのインタビューに対し、スタンフォード大学のDaniel Rubin教授は「この技術によって、人間が引き出し得る情報以上のものを手に入れることができるようになった」と述べ、肺がん診断と治療の質の向上に期待を寄せている。

Apple 摂食障害研究にApple Watch1000台を提供

米ノースカロライナ大学の研究チームは、摂食障害を持つ患者のケアマネジメント改善を目指す新しいmHealthスタディを立ち上げた。この研究の根幹となるウェアラブル端末として、AppleはApple Watch4を1000台寄贈したとのこと。研究参加者は、このApple Watchを装着することで、日常における食行動と生活習慣が正確に把握され、摂食障害の診断・治療技術の向上に寄与する可能性がある。 米CNBCが報じたところによると、「BEGIN」と名付けられたこの新しい研究計画では、摂食障害の既往歴がある18歳以上の参加者1000名に対し、Apple Watchによる心拍数のモニターが一定期間行われる。担当研究者は「摂食障害のイベント前には何らかの生物学的な予兆がみられる可能性があり、我々はそれを定量的に捉えたい」としている。 米ヘルスメディアxtelligentは、昨年Appleがスタンフォード大学にもApple Watch1000台を提供していること、また武田薬品が英国でApple Watchアプリを用いたうつ病関連の研究プログラムを立ち上げていることにも触れており、スマートウォッチを活用した慢性疾患管理は、ヘルスケアにおける一大トピックとなりつつある。

AIによる感染制御 – 腸内細菌叢研究

人間はおびただしい数の微生物と共生しているが、相互作用として重要な役割を果たすのが細菌である。ヒトに定着した細菌の9割は消化管におり、特に腸内細菌叢は各種疾患との関わりで、近年大きな注目を集めている。今回は、腸内細菌叢のAIによる解析を通した感染制御研究の一例を紹介する。 米ボストン・Brigham and Women's Hospitalの公表によると、同院の病理医でHarvard Medical Schoolの助教・Georg Gerber氏は、AIを利用した腸内細菌叢の解析により、どの種の細菌がどのようにC. difficile(院内感染の原因菌として広く知られる)の感染を抑制するのかを研究しているという。研究チームが開発した機械学習アルゴリズムは、C. difficileへの感染リスクが高い患者を識別し、感染・反復感染の予防に役立てることができるとのこと。 日本においても、病院や介護施設などでのC. difficileの集団感染が時折みられ、問題となっている。多くは軽度の下痢など深刻な病態とならず軽快するが、高齢者や免疫能の低下した者においては致死的となることもある。手洗い・うがいだけでない、多面的な感染制御法の開発が期待されている。

米大学、ヘルスデータからAIが個人を特定する危険性を指摘

米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、医学ジャーナルJAMA Network Openにて公表した新研究において、近年のAI技術によってヘルスデータから個人情報を容易に特定できることを明らかにした。その上で、現在の法規制では個人情報保護が十分でないことを指摘し、警鐘を鳴らしている。 The Weekによると、研究チームは、活動量計やスマートウォッチ・スマートフォンなどのデバイスから集積される日常のヘルスデータをAIによって解析することで、個人を特定できることを指摘したという。研究を率いたAnil Aswani教授は、「たとえばFacebookのような詳細な個人記録を入手し、ヘルスデータと抱き合わせることで、高度な個人情報として市場に売ることさえ可能である」とし、早急な規制整備の必要性を強調している。 近年、ヘルスケア分野におけるAIの進展は目覚しいが、特にウェアラブル端末などから得られた生体情報の取り扱いを規定する法整備は世界的に遅れており、事実上メーカー側の良心に委ねられている現状がある。オンライン科学メディアScience Xの報道では、企業経営者や不動産管理業者、クレジットカード会社などが、AIを使って詳細な個人情報を取得するケースが増えれば、深刻な差別問題にも発展するとしている。

シンガポール、ヘルスケア産業での医療データを「統合」へ。

シンガポールのヘルスケア産業では、現在、AIの導入が積極的に進んでいる。業界をリードするのは、2018年7月に国立大学ヘルスケアシステム(NUHS)のNgiam Kee Yuan教授により開発されたサービス「Discovery AI platform」だ。 シンガポールメディアのChannel NewsAsiaによると、Discovery AI platformとは、病院に入院するすべての患者のデータを一元管理するプラットフォームで、これを参照することで、医師が診断の参考にしたり、病気の再発時期の予測が可能になるという。Discovery AI platformにより、医師が入院患者に対して適切な時期に適切な治療を施すことができるようになると期待され、実際に、シンガポールのある病院では試験段階として導入が開始されている。 Discovery AI platformの開発者であるNgiam教授は、Channel NewsAsiaの取材に対し、「これまでの医療では、複数の医療団体がクリニックに対して個別でコンタクトを取っていたが、医療組織間の横のつながりはほとんどなかった。しかしこれからのトレンドは統合 (integration)である。各自業者が持っているノウハウやデータベースをAI技術で統合をし、医師の仕事にどんな良い影響を与えられるか、考えていかなければならない。まずは2019年末までに医療現場での活用を目指し、研究を進めている」と語ったという。

アリババ AI利用でマカオのインフルエンザを予測

Eコマース界の巨人・アリババは、AIの活用によって中国の大都市群を「スマート化」するという野望を持っており、現在その対象がマカオだ。アリババは、現地のインフルエンザ流行に関する予測を立てている。 Syncedによれば、アリババはマカオと互いに戦略的パートナーシップを結び、2021年までに各分野でのデジタル開発を進める予定だ。この戦略にはスマートヘルスケアも含まれ、インフルエンザ予測もその一環だ。過去データを用いて機械学習モデルを駆使し、2週間分の流行の度合いや感染のリスクを予測した。マカオ保健局長は、「このプロジェクトは当地の医療基準にも合致しており、地元の医療機関に展開されるだろう」と語る。 このスマートヘルスケア技術は、アリババの包括的AIシステムであるET Medical Brainにより医療業界向けに開発されたものだ。2017年に完成したET Medical Brainは、AlibabaCloudによれば、医薬品開発から病院マネジメント、AI画像処理による病巣診断まで幅広いソリューションを提供する。自動監視と医療データ分析で人的ミスによる医療事故を大幅に減少させ、独自のAIプラットフォームで医療機関が最新技術に素早くアクセスできるようにもなっている。また、ビッグデータ利用により医療ニーズと患者の活動を予測し、患者が円滑に適切な医療サービスを受けられるよう、医療ソースを最適化することができるという。

Sanofi社 AIの言語処理技術を用いて希少な病の治療薬開発

現代の創薬においてAIの役割はますます重要なものになってきており、最近では独自のアルゴリズムやAIの機械学習などによって創薬に挑む企業も増えてきた。フランスの製薬企業 Sanofi社もその中のひとつで、独自の自然言語処理技術をはじめとしたAI技術によって多発性硬化症の治療薬開発を進めている。 Outsourcing-pharmaによると、Sanofi社が開発した自然言語処理の技術は、病気を治療する際に標的となる部位の特定や、治療の効果の優先順位付けの際に重要な役割を果たすという。例えば、特定の言語で記述された膨大な量の臨床データから、機械的に情報を抽出し、薬の動きを予測することができるのである。また、同様の技術をDNAの配列分析に用いることも可能であり、非常に応用性が高いといえるだろう。Sanofi社はこれらの手法を用いて多発性硬化症の治療薬を開発中で、従来の治療薬よりも効果の大きい新しい化合物の発見・合成を目指しているという。 CISIONによると、Sanofi社は患者数の少ない遺伝性疾患の研究に関して、国際シンポジウムで研究成果を発表しており、注目に値する企業だと言えるだろう。AIの発展によって創薬の効率が上がることで、希少な病気の治療も進むことが期待されているが、Sanofi社がそれを実現するかもしれない。
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Samsung AIによる画像診断システムを公開

韓国電子メーカー大手Samsungは、シカゴで行われた北米放射線学会(RSNA 2018)で、AIアルゴリズムを利用した複数の画像診断システムを公開した。医師の画像診断をサポートするこのシステムは、超音波画像、単純レントゲン画像、CT、MRIと、幅広い医用画像の正確な読影を実現している。 Samsung Newsroomが11月26日報じたところによると、これらの画像診断システムは、従来の撮像機器に直接搭載され、診断機能を付加して提供されるという。目玉となるのは超音波画像の診断システムで、AIによる医師へのガイド機能を持ち、超音波検査の経験が浅い医師でも良質な画像を得ることができる。Samsung MadisonのDongsoo Jun CEOは「病院や医療専門家らと共同して、我々の持つAIテクノロジーの強化を続けていく」と、ヘルスケア分野におけるAI活用を積極的に進める姿勢を明らかにしている。 画像診断領域におけるAIの躍進は目覚ましく、すでに専門医と同等の診断能力を持つアルゴリズムも日々公開されるようになり、その覇権争いは熾烈さを増している。英ロイター通信によると、Samsungは2020年までにAIテクノロジー開発に対して220億ドルを投資することを明らかにしており、ヘルスケアはその主要なマーケットの1つと考えられている。

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住所がない人に住所を、FacebookとMITの試み

Facebookとマサチューセッツ工科大学メディアラボは、住所のない所に住んでいる人たちに住所を割り当てるシステム開発をはじめたと発表した。世界の約40億の人は、辺鄙な場所に住んでいるなどの理由から住所がなく、郵便配達や選挙などの住所登録ができず困っている。この解決策として、マサチューセッツ工科大学はFacebookと共同で、衛星画像から住所を割り出す、または作り出すディープラーニング・アルゴリズムの開発に取り組む。 MITテクノロジー・レビューは、住所を割り出す方法として次のように報じている。まず、訓練したディープラーニング・アルゴリズムに衛星画像から道路のピクセルを認識させる。次に別のアルゴリズムを使い、認識させたピクセルを道路ネットワークにつなげる。密度や道路の形によりそれぞれの地域に区分けし、最も密集している場所はその地域の中心部となる。中心部の周りの地域を東西南北に分け、方位や中心部からの距離により通りの名前や番地を決める。 テクノロジーブログサイトのエンガジェットによると、問題は住所を割り当てる作業ではなく、割り当てられた住所をいかに行政や市民に受け入れてもらうかということだという。それぞれの国の文化への配慮や、行政への不信感によりあえて住所が欲しくない人への対応など、課題が残る。

AIを用いて薬物同士の相互作用を予測

米スタンフォード大学は、複数の薬物による相互作用を予測するAIシステム「Decagon」を開発した。Decagonは、FAERSと呼ばれる副作用の情報を集めたビッグデータを元に、薬が生体内の様々なタンパク質とどのように作用し合うかを整理することで、新たに460万通りもの副作用を予測することができる。 米スタンフォード大学によると、現在市場には5000種類もの薬が存在する上に、1000種類もの副作用が知られており、考えられる相互作用は1兆通りを軽く超えるという。もちろんその相互作用を人間が予測することは不可能であるが、今回開発されたDecagonは、それを可能にする力を秘めている。この研究プロジェクトの中心となった同大学博士研究員のMarinka Zitnik氏によると、薬物間、または薬物・生体間の相互作用をAIによって予測できれば、薬を処方する医者や薬剤師が副作用などの危険を予測する手助けになるだろうという思いから研究を始めたという。 近年、患者が1度に多くの薬を処方される「ポリファーマシー」という状況が問題になっているが、DecagonをはじめとしたAIの活用が、この問題を解く鍵になりそうだ。ポリファーマシーの問題にはIBMも興味を示しており、同社によると、蓄積された臨床データをもとに副作用を含む薬物間相互作用を予測した上で、患者とコミュニケーションをとりながら納得のいく治療を進めていくのが理想だという姿勢を示している。

スマートスピーカーとの会話で自殺予防

Amazon echoに搭載されたAIのAlexa、Apple社のSiri、彼女たちと会話することで、精神疾患を抱える患者たちが自傷・自殺の危機にあるかを選別できるようになる。そのようなメンタルヘルスサービス計画を、英国の国民保健サービス(NHS)が発表した。 英Telegraphによると、回復途上の精神疾患患者に提供されるこのサービスでは、スマートスピーカーとの会話から自殺の警告サインを鋭敏に捉えられるという。既にFacebookでも、自殺をほのめかす投稿を拾いあげるなど、同様の技術が活用されている。 NHSは、社会の高齢化と医療資源・資金の不足から、医師が業務過重になりつつある現状を危惧している。技術革新で医療スタッフの限りある時間を節約し、患者との有意義な時間を増やしたいとするNHSの報告書をAI NEWSでは紹介している。英国ではこれまでも、Skype遠隔診療をはじめ、AIによるバーチャルアシスタントなど強力な医師支援策を次々と打ち出してきた。

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