Apple 独自の医学研究「Apple Heart Study」を展開

Appleは、米スタンフォード大学医学部と連携し、循環器領域における新しい医学研究を推進している。Apple Heart Studyと名付けられた本研究では、Apple Watchアプリを用い心拍をモニターすることで、心房細動を始めとした不整脈発作の発生を捉える。 本研究参加者は、経時的な心拍データを提供し、何らかの不整脈が認められた場合には、医師による無料診察を受けることができる。定期的な病院受診がない人において、無症状であることも多い心房細動は、その存在に気付くことが難しい。一方で、心房細動は高い血栓リスクを持ち、脳梗塞を含む重篤な致死性疾患の温床となる。Appleは、この高度なアルゴリズムとデバイスの開発、および平行した医学研究が、無数の潜在的患者の助けとなることに大きな期待を寄せている。 米ニュースサイトappleinsiderによると、昨年11月に公表された同研究は、2019年1月をもってデータの取得を終えるとのこと。一方で研究参加者に対しては、健康状態についての追跡調査依頼が届いており、ヘルスデバイスとしての有効性の解析へと、研究の段階は着実に進んでいる。

コネクテッド・ビークルとディープラーニングによる交差点での衝突リスクマッピング

ネットワークに常時接続する車両「コネクテッド・ビークル」(CV)は加速度的に台数を増やしているが、そこに搭載される専用ソフトウェアも巨大市場になることが見込まれ、近年競争が激化している。こういったCVとCVソフトウェアが提供する莫大な随時データを活用し、ディープラーニングテクノロジーによって交差点における衝突リスクをマッピングする研究が進んでいる。 米オハイオ州クリーブランドに本拠を置くケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームは、学術ジャーナル Accident Analysis and Preventionに同研究における成果を報告した。研究では、774の交差点におけるリスクレベルを年間衝突率から3段階に定義し、CVデータと交通量データから抽出した24の特徴量をもってディープラーニングモデルによって予測するというもの。得られた最適モデルは高い予測精度を示すとともに、従来手法による交通安全評価のためには3年以上のデータ収集期間を必要としたのに対し、このアルゴリズムでは瞬時の評価および周囲車両との警告情報のリアルタイム共有を実現できるとしている。 研究チームは「事前情報の少ない交差点においても適切に衝突リスクを検出し、事故予防に役立てることができる」とする。日本においても、交通死亡事故のおよそ3分の1が交差点で発生する現実があり、直接的に安全性向上に資する先端技術として潜在的有用性が高い。

胸部CT画像から新型コロナウイルス肺炎を識別するAIツール

マカオ科学技術大学の研究チームは、胸部CT画像から新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎像を識別するAIツールを開発した。 権威ある学術誌Cellにて公開されたチームの研究論文によると、3,777名の患者から取得された胸部CT画像を用いてAIアルゴリズムをトレーニングし、種々の肺炎像および正常所見像から新型コロナウイルス肺炎を高精度に特定するツールを開発したという。4つの異なる医療機関で417名を対象とした検証試験を行ったところ、85%の症例で適切に新型コロナウイルス感染に伴うものを識別することができた。 研究チームは「特に医療システムがオーバーロードとなった場合など、医師の業務負担が急増するケースにおいて、読影医が安定した診断を行うための補助ツールとして活用できる」としている。

米スタートアップ – AI台頭による失職予備軍を医療職・介護職に

米シアトルのスタートアップ・NextStepは、AIの台頭に伴って容易に職を失い得る「専門性のない低賃金労働者」を、医療職や介護職に誘導するプラットフォームの構築に奔走している。 Healthcare Weeklyが9日に報じたところによると、2017年に設立された同社はオンライン教育と介護教育等への深い造詣から革新的なプラットフォーム開発を行い、複数の投資家グループから210万ドルの資金調達に成功しているという。オンラインプラットフォーム上でコースワークの全てを完了ことができ、介護職や医療補助職などの資格取得が可能であるほか、格安での利用を実現している。 AIの急速な発展によって、専門性が低く代替可能な職にある人々は今後大きな失職の危機にさらされる。McKinseyによるレポートでは、45%までの米国労働者が今後12年間に職を失う危険性があるとしている。一方で、米国社会においても高齢化の進展は著しく、医療関連職、特に介護職の人材難の進行が強く叫ばれている。効果的な人材教育と人材配置を実現し得る同プラットフォームには社会的意義が大きく、日本においても同等の動きがみられることを期待したい。

Teladoc Health – カナダ先住民族の医療アクセス改善へ

ファーストネーションズと呼ばれるカナダ先住民族は、多様な社会問題のうちに生きている。登録インディアンの多くは「保留地」と呼ばれる特定地域に住んでいるが、これらは僻地を中心に所在しており、医療アクセスは極めて悪い。近年急速な発展をみせるバーチャルケアが、このファーストネーションズ問題の一端を改善することができるのかもしれない。 オンライン診療サービスのトップリーダーであるTeladoc Healthは先週、Johnston Groupとのパートナーシップを公表した。これにより、同社のオンライン診療サービスはファーストネーションズの一部をカバーし、医療アクセスのギャップを埋めることに役立つとしている。カナダの医師のほとんどが大都市およびその近郊で医療を展開しており、農村部など僻地において日常診療に従事する医師は全体の8%にとどまるため、広大な地域を少数の医師で管理する体制が続いてきた。 COVID-19の感染拡大に伴い、オンライン診療サービスの価値が大きく見直されたが、これは日本も例外ではない(過去記事)。withコロナ時代にあって医療の在り方が大きく変わろうとするなか、先端技術が「少数民族が被る健康格差」への処方箋となるか注目が集まっている。

医療AIの最新活用事例とは?医師が解説【2020年版】

近年、AI(人工知能)の活用は非常に多くの分野で急速に進み、AIに関する新しいニュースを見ない日はないほどだ。背景にあるのはDeep Learning(ディープラーニング; 深層学習)技術の発展だが、医療におけるAI活用ももちろん例外ではない。一方、医療は人間の生命を直接的に扱う特殊領域であるため、AIがもたらす影響は他分野とは少し毛色が異なっている。今回は医療という文脈でのAIを広く説明し、AIとはそもそも何か、どういった利益を与えるものなのか、同時にどういった問題が生まれるのか、また、今注目すべき最新の医療AI動向についても紹介したい。 1.医療におけるAIとは? そもそもAIとは何なのか? AI(Artificial Intelligence)は文字通り「人工の知能」を意味するが、その定義は研究者ごとに異なりあやふやなものだ。大まかに言えば、人類が行ってきた論理思考をコンピュータ上に再現するプログラムということになる。これまでは一定のルール下でしか答えを出すことのできない、非常に限られた「知能」であったが、2010年頃からの深層学習技術の高度発達により、プログラムは与えられたデータから自律的に学習することで判断基準を構築できるようになった。これは、人類には明確な基準を示せなかったものでさえ、AIは独自に判断基準を構築し分類できることを意味している。そして、この仕組みを医療に持ち込んだものが、いわゆる「医療AI」である。医療においては、単に疾患だけに注目しても、発症リスク評価・疾患診断・治療法選択・予後評価など多くの判断が必要になるが、個人ごとの状況の違いによって複雑化され、その判断は大抵とても難しい。集積された大量の患者データをもとに判断基準を構築し、例えば個人ごとに最適な治療法を提示してくれるとすれば、医療AIがもたらすメリットは患者・医療者の双方にとって非常に大きいことが想像できるだろう。 深層学習とは何か? 深層学習は近年のAI技術発達の根幹をなすものだが、文字通り日進月歩で新技術が公開されており、その全てにキャッチアップすることは難しい。ここでは、これらの基本となる用語の簡単な説明と、医療における活用例を示しておこう。 20世紀半ばから研究されているニューラルネットワークと呼ばれるアルゴリズム(手順を示したもの)がある。これは人間をはじめとした生物における脳神経細胞をモデルとしたもので、入力層・隠れ層・出力層といった層構造がエッジで結ばれた構造をとる。各層に関数を与え(活性化関数と呼ばれる)、エッジに重みを持たせることで、入力値を分類にかけ、答えを出力するための非常に複雑なモデルを実現している。この隠れ層が多い(深い)アルゴリズムを特に深層学習と呼んでいる。ちなみに機械学習は「与えられたデータから反復して学習し、適切な規則を見出す」ことを指し、深層学習もこれに含まれる。もう少し具体的に言うと、例えば、今の血糖値・血圧・体重の3点から1年後の糖尿病発症を予測するアルゴリズムを構築したいとする。多くの患者データを集めたデータベースから、血糖値・血圧・体重の3点を入力、1年後の糖尿病発症があったかなかったかを出力として設定することで、反復した学習を通してエッジの重みなどを決定する。できあがった最適なアルゴリズムは、この3点さえ与えれば、その人が1年後に糖尿病を発症するかどうかを予測できるようになる。このように入力と出力の関係を学習させるものを、特に教師あり学習と呼び、医療におけるAI開発では頻用されている。 一般的な機械学習では、特徴量(上記の例では血糖値・血圧・体重の3点)を任意で選択して投入するのに対して、深層学習では出力の決定に最も有用となる特徴量さえ自動的に抽出・学習することができる。代表的な深層学習モデルとして知られる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)では、画像そのものを入力として与えるが、やはり具体的な特徴量を指定する必要はない。例えば米メイヨークリニックが開発したアルゴリズムの例では(過去記事)、心電図の波形画像そのものから、無症候性左室機能不全を識別している。もちろん心電図波形から特徴量を取り出し(波形の高さ・幅など)、同等のアルゴリズムを構築することもできるが、任意の項目を選び入力情報を限定してしまっている分(統計分野では「情報を捨てる」と表現する)、CNNによるアルゴリズムの精度を超えない可能性が高い。現在、このCNNが画像診断AI開発の主役となっている。 医療AIは強力だが万能じゃない 人工知能というとまさに人間の知能を模倣したもの、脳機能の代替物という印象を受けるが、これは多くの場合で過剰に捉えられてしまっている。わかりやすく言うと、現時点でのAIは「特定の何かを識別できるもの」であるに過ぎない。つまり、血管を画像から識別できるアルゴリズムであれば、動脈の画像を見せれば「血管だ」と返すし、毛髪の画像を見せれば「血管じゃない」と返すといった具合である。このアルゴリズムに何の改変も加えなければ、新生児と成人を区別することさえできない。したがって、今世間を大きく賑わせているほとんど全てのAIが、人間の「特定の非常に限られた機能」を抽出してコンピュータ上で再現しているだけということになり、要するに万能ではない。 ただし、この再現された機能があまりに強力なため、時として人類の識別能力を大きく上回るケースがある。例えば、電子カルテの記録から小児疾患を識別するアルゴリズムでは、インフルエンザを含む複数の疾患で小児科専門医の診断精度を超えたとの報告がある(過去記事)。この研究結果は、権威ある学術誌Nature Medicineで公開され話題を呼んだ。また、AIは人間の目では識別できない微細な変化までを捉えることができるため、悪性腫瘍診断など医療画像との親和性が高く、放射線科領域における技術発達が著しい(過去記事)。さらに、AIは安定した結果をもたらし続けることにも利点がある。特に日本の医療現場においては、人員不足による業務過重、夜間・休日の頻回な呼び出し、当直明け通常勤務、など医師の判断を鈍らせる過酷な現状がある。一定の出力精度を保ち続けるAIによるサポートは、医師にとっての一種の保険ともなり得るだろう。 2.AIの活用できる医療領域とは? 次にAIを活用できる医療領域をみていきたい。医療は大きく分けて、疾患の発症を防ぐ「予防」、既に疾患に罹患している人を見分ける「診断」、診断名を持つ人の転機を改善する「治療」の3ステップがある。AIはこれら主要な3ステップのいずれにも貢献が可能なだけでなく、医療保険制度や医療提供体制を含む医療システムへの活用もみられるようになっており、あらゆる医療領域への活用が期待されている。この背景には、医療職の高度専門性に伴う人的リソース不足があり、AIに活路を見出そうとする国々は少なくない。 画像診断でのAI活用 放射線科、特に医療画像から疾患診断を行うプロセスは、医療AI活用の最たるものとして知られている。医療周辺技術の発達と高齢化の進展によって、施設あたりの読影を要する医療画像数は増加の一途だが、それに伴う放射線科医の増加は十分でない。AIは放射線科医の読影を助けることで、直接的に作業負担を軽減することができる。ただし、現状で正規の医療機器として承認を受けたAIデバイスは非常に限定的であることを知っておく必要がある。つまり、仮にAIが「悪性腫瘍がある」と診断したとしても、医師の確認なしに診断から治療に進むことは現時点でほとんどない。これは後述するAIの問題点にもなるが、アルゴリズムの妥当性の検証が不足していることと、AIを巡る法整備の遅れに起因しており、今現在、画像診断において正規に医師を代替する例はみられていない。 一方で、健康診断における胸部レントゲン読影や心電図解析などは近い将来、AIによって完全に代替される可能性が高い。これはあくまで健康診断での画像読影がスクリーニングであり、後の個別受診で確定診断を得るためである。スクリーニングでは偽陰性(疾患があるにも関わらず「疾患なし」と判断されてしまうこと)が問題となるが、アルゴリズムの調整によって十分にこの問題を回避できる。不眠不休で安定した結果を出し続けることができるAIは、人手とコストの観点からも、この種のスクリーニング実施機関から前向きに受け入れられるだろう。英国・中国における眼科疾患スクリーニングの実用化例は、それぞれ過去にも紹介している(過去記事1・2)。 疾患診断でのAI活用 近年自然言語処理技術の急速な発達により、診療録(カルテ)解析がより一般的となった。結果的に診療録からの疾患診断AIは非常にその精度を高めている。過去に小児疾患の診断AIや(過去記事)、Amazonによるカルテ解析システム(過去記事)なども紹介したので参考にして欲しい。診療録は医師による所見の記載だけでなく、あらゆる検査結果・処方記録などが混在している。患者の病歴が長くなればなるほど診療録は膨大となり、優れた医師であってもその全てを限られた診療時間の間に捉えきることは難しく、患者の病態把握・他疾患リスクの把握などの面からもAIの利用が有効となるだろう。同様に、診療録だけではなく、生体センサーやモニター記録を統合したAIシステムの開発例もある(過去記事)。米フロリダ大学のこのシステムでは、集中治療室(ICU)における重篤な病態変化や致死的疾患の発生を予測するもので、まさにAIの有効な利用例と言える。さらに睡眠時無呼吸症候群など、診断に際して専門検査を要する疾患を、AIを利用することでより簡便に診断する手法の開発も進んでいる(過去記事)。 医療を巡る諸問題へのAI活用 AIの活用は実際の臨床現場におけるものにはとどまらない。医科学の信ぴょう性を揺るがすハゲタカジャーナル問題への活用や(過去記事)、スポーツにおけるドーピング撲滅に向けた活用(過去記事)、果てはバイオテロの防止に向けた取り組みにまで利用されている(過去記事)。 3.医療分野におけるAIの問題点・課題とは? AIの妥当性検証が不足 医学研究者のなかには、AIアルゴリズムに対する懐疑的な目を向け続けるものも少なくない(過去記事)。アルゴリズムの示す高い精度にのみ目を奪われ、本質的な有効性が置き去りにされている、という意見である。 アルゴリズムの構築の際、一般的には1つのデータセットのみを利用する。このデータセットを例えば8割と2割のように二分し、片側をアルゴリズム構築用の学習セット、残りをテストセットとする。つまり、学習セットから導かれたアルゴリズムがテストセットでも同等の精度を発揮するか確認し、精度が保たれていれば妥当なアルゴリズムであると結論づけるやり方である。ただしこの方法だけでは、実は真の有効性は検証されていない。なぜなら、そのアルゴリズムは「ある特定の集団データ」から導かれたものに過ぎず、対象集団を変えてしまうとその精度は保たれない可能性があるからだ。分かりやすい例を挙げると、英国人を中心としたデータセットから得られたアルゴリズムは、日本人において有効であるとは限らないということである。実際、Amazonが誇る顔認識AI・Rekognitionは、「黒人の女性をうまく識別できないバイアスを持っている」との研究成果をもとにした一大騒動も引き起こしている(参照:米CNN)。対象集団を変えた多施設での解析、前向きの追跡研究など、従来の医学的エビデンス構築に基づいた精緻な検証が求められているのは間違いない。 医療AIを巡る法整備の遅れ この5年ほどの間に、医療におけるAI活用は急速に進んだが、技術発展があまりに急であったため必要な法整備が遅れている。現実問題として、医療AIが示した診断結果をどう取り扱えば良いのかさえ十分な議論がなされていない。現時点では「必ず医師の確認を要する」との文言を付けることで、臨床現場などへのサポートシステムとしての導入がみられる程度にとどまる。本質的に有効なアルゴリズム構築のガイドラインを示し遵守させること、AIシステムが医療機器としての承認に受けるのに必要な要件、承認のないものへの一定の制限、などを明確化することは最低限求められている。有効性の不明な医療AIが、何の制限もなく市場に多く出回る状況は非常に危険である。 医療者のAIに関する知識不足 薬の効果・作用機序を知らずに処方することはできない。同様にして、医師をはじめとした医療者も、ある程度のAIに関する知識が今後必要となる。医学生の基礎教育としてAI科目の必要性が実際に議論され始めており、米ボストン大学の例を以前に紹介した(過去記事)。この先、医療におけるAIがさらに浸透し、あらゆる医療プロセスにAIが関与するようになれば(そしてそうなる可能性が高い)、医療者がAIを避けて通ることは非常に難しい。   4.注目の最新医療AI動向 AIによる創薬 製薬大手のグラクソスミスクラインと英スタートアップ・Exscientiaは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬となり得る化合物を発見したことを発表している(過去記事)。 これはAIによる化合物探索プラットフォームを利用したもので、AI創薬の画期的な一幕になる可能性がある。従来のプロセスに比べると、AIを利用することで薬剤開発を大幅に効率化できるだけでなく、薬剤化できる可能性がありながら見逃されていたターゲットのあぶり出しにも有効となる。AIによる合成経路の自動探索技術については、以前にも紹介しているので参考にして欲しい(過去記事)。 2020年2月、上記Exscientiaと大日本住友製薬は、AIを活用して開発した新薬候補化合物の臨床第1相試験を開始することを公表した。AIによって導かれた化合物がヒトの臨床試験に入ることは、創薬における画期的なマイルストーンと言える。 死亡時画像診断への利用 死亡時画像診断という取り組みがある。死後のCTやMRI撮影から、死亡時の病態や死因を究明しようとするものだ(過去記事)。生体画像ですら人員不足が指摘されている放射線科医にあって、死亡時画像診断における読影までを強いることは現実的とは言えない。加えて、このような特殊領域の読影に長けた放射線科医はそれほど多くはない。こういった場面でのAI活用は極めて有用性が高いと考えられる。実際、AIによる神経変性疾患患者の死後脳MRI画像解析によって、新しい治療法開発につながる可能性も指摘されている。 医療機器への利用 伝統的な医療用ツールである聴診器にも技術革新の波は訪れている。StethoMe社のAI聴診器は、家庭での利用を目的としたEU認証の医療機器として知られる。患者の呼吸音異常を早期に捉え、AIによる診断結果と併せて臨床医に情報が共有されるシステムを構築している。StethoMeは2020年4月、欧州の主要な遠隔医療プロバイダー群との提携を公表しており、更なるシェア拡充が見込まれる(過去記事)。 採血手技をロボットに代替させようとする取り組みも始まった。米ニュージャージー州ラトガース大学の研究チームが開発した採血ロボットは、ディープラーニングを赤外線および超音波イメージングと組み合わせることで、組織内の血管を特定することができる。その後モーショントラッキングなど複雑な視覚タスクを実行し、針を血管に穿刺する。静脈が浮き出ていないような条件の悪い血管であっても、ロボットによる血管アクセスは88.2%の初回穿刺成功率が得られるなど、人の手技と同等あるいは上回っていくことが期待されている(過去記事)。 医療で重要性を増す「エッジAI」 クラウドコンピューティングとIoT化はあらゆる領域で急速に浸透したが、近年はよりシステムの末端に近い場所(エッジ)でデータ処理を行おうという「エッジコンピューティング」が注目されている。現場に近いエッジデバイスにAIモデルを実装したものが「エッジAI」と呼ばれ、クラウドを利用せずエッジ側のみで学習から推論までの処理を完結するものも見られるようになった。 では、医療におけるエッジAI導入の利点はどこにあるのか。まず挙げられるのはネットワークの接続性を改善する点にある。つまり、あらゆる処理をクラウドベースで行うシステムに比較して、膨大な現場データの処理を部分的にエッジデバイスに負わせることにより、上位システムやネットワークに対する直接的な負荷の軽減につなげることができる。ヘルスケアの舞台はITインフラの発達した都市部だけではないため、特に医療過疎となりやすい僻地などにおいてもその有用性が際立つことになる。また、今後益々の発展が予測される遠隔診療やロボット手術においては、レイテンシーの厳密な制御が欠かせない。高度に要求されるその水準をクリアするには、エッジAIの活用が必要となることが容易に想定される。

UAEが見据える未来 – 積極的AI戦略の現在

アラブ首長国連邦(UAE)は先端技術の利用に際し、非常に柔軟かつ積極的な取り組みを展開してきた。2017年、世界に先駆けてAI担当大臣を据えたことは大きな話題となったが、1990年生まれのOlama大臣は現在、同国の強力なAI戦略の象徴的存在ともなった。 UAEが政府公式サイト上や政府公認メディアで示すAI戦略は多岐に渡るが、なかでも - 医療やセキュリティサービス分野へのAIの完全な統合 - AI利用による政府支出の半減 - 100万人以上のAI人材を育成 などが目を引く。これらを絵空事に終わらせることはなく、大規模な人的・物的リソースを要していた「ビザ取得や就労などに必要となるメディカルチェック」においては、AIとロボットによる自動化を今年実現した(過去記事)。また、政府によるスタートアップ支援は功を奏しており、医療AI分野においてもイニシアチブを取ろうとする同国企業が多数存在する。 UAEは優秀な学生を世界中から集めるため、大学授業料の無償化や手厚い奨学金システムなどを多数提供する。世界初となるAI特化の研究志向型大学院も昨年開学した。機械学習や自然言語処理、コンピュータビジョンに関するPhDおよびMScコースを展開する。学費負担のないことに加え住居も提供されることから、大学院レベル教育は米国・英国などに求めることの多かったコンピュータサイエンス領域の構図を大きく書き換える可能性がある。10年先の立ち位置を確かに見定め、UAEは具体的で実効性のある戦略を日々推し進めている。

中国電子科技大学 機械学習による外傷性脳損傷の生存率予測

中国のIT研究・開発と人材育成を牽引する電子科技大学は、外傷性脳損傷患者の生命予後を予測する機械学習アルゴリズムを構築し、古典的な統計モデルとの精度比較を行っている。 チームが学術誌Journal of Critical Careに公表する研究論文によると、22の機械学習モデルと、オーソドックスな統計的回帰モデルであるロジスティック回帰モデルを利用し、重症の外傷性脳損傷患者の生存率予測における精度を比較した。ロジスティック回帰モデルにおけるAUCが83%であったのに対し、機械学習モデルにおいては86.3~94%とより高い精度を示した。他指標においても機械学習モデルの優位性がみられていた。 外傷性脳損傷の予後予測モデルには臨床利用可能なものが複数提唱されているが、機械学習アプローチによる新しい予後予測がより有効である可能性が示唆される。過去記事からも、機械学習モデルを活用した「高齢者の予後予測」、「乳がん患者の予後予測」なども紹介しているのでご覧頂きたい。

新型コロナウイルスの Infodemic: インフォデミックと戦うIT企業たち

日本では新型コロナウイルスに関連し、インターネット上で不確かな情報・デマが拡散され、特定の商品が店頭から姿を消す問題などが発生している。世界保健機関 WHOは、不正確な情報を含む情報過多で信頼できる情報が得にくくなる問題を「インフォデミック(infodemic)」と呼び、警鐘を鳴らす。 ロンドンの調査会社 GlobalDataは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への各国IT企業らによる人工知能: AIの活用状況を報じた。カナダ発スタートアップBlueDotについては過去記事でも紹介しているが、ニュースやSNS、政府情報など複数の情報ソースを分析するAIが新型コロナウイルス感染の集団発生を中国・米国の関係当局より早期検出して話題となった。 記事では日本のスタートアップも紹介されている。株式会社ビースポーク(東京都)は、訪日外国人にAIチャットボットを通じて、新型コロナウイルス感染症に関する信頼性の高い最新情報の提供を始めた。訪日外国人は言語の壁などで正確な情報を入手することが難しく、いわゆる災害弱者となりやすい。ビースポークのようなAIスタートアップが新型コロナウイルスとの「情報戦」で果たす役割にも期待が高まっている。
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ヘルスケアネットワークとサイバーセキュリティの脅威

米カリフォルニア州・サンタクララに本拠を置くサイバーセキュリティ企業Palo Alto Networksは、その最新レポートで医療機関におけるネットワークセキュリティの深刻な脆弱さを指摘する。 Venture Beatが当該レポートについて報じたところによると、医療機関では古いオペレーティングシステムが常用され、ライフサイクルの長さのために医療IoTデバイスで時代遅れのセキュリティレベルが維持されているという。ヘルスケアネットワークに対するサイバーアタックにおいては、主としてネットワーク上に接続されたデバイスをスキャンし、マルウェアの拡散源となる脆弱性が検索されている。 National Cybersecurity Center of Excellence(NCCoE)は過去に、医用画像システムの83%が既知の脆弱性を持つことを報告し、これはWindows7のサポート終了に伴い56%もの増加をみた結果であるとしている。医療機関が完全に閉ざされたネットワークを利用した時代は過去のものとなっており、世界基準と潮流に適合した適切な対策と体制の維持が求められている。

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インド政府は結核撲滅にAI活用を推進

結核は世界の10大死因のひとつであり、所得の低い国で流行する特徴をもつ。そのため、新興国では社会全体の健康を脅かし続けている。WHOが結核撲滅のキャンペーンを掲げ、流行を防ぐことが理論上可能にもかかわらず、未だ終息が見えていない。10万人あたりの結核罹患率が100名を超える高蔓延国のひとつにインド共和国がある。同国の保健家族福祉省は、結核との戦いにAIを応用すべく、慈善団体ワドワニ財団が運営するAI研究所との連携を始めた。 米メディアOpenGovでは、同省が結核撲滅に向け採用を検討するAI技術を紹介している。結核治療は複数の抗菌薬を組み合わせ約半年もの長期に渡る。そのため、支援が不十分であれば治療から脱落し、感染拡大と薬剤耐性が問題となる。厳密な服薬を支援する技術として、モバイル機器による服薬遵守ツール「Pill-in-Hand」、電話による自動音声応答とショートメッセージサービス、携帯電話網に接続され圧感知センサーを備えた自動配薬ボックス、治療計画を守っていることを患者が報告するモバイルアプリなどが挙げられている。 以前紹介したフィリップスのFuture Health Index: 未来の医療環境指数調査(過去記事)によると、インドの医療AI利用率は46%で世界15カ国平均を超えている。同調査では、デジタル技術に支えられた医療を歓迎するインドの風潮がみられる。例えば、電子カルテの個人データに医療従事者が積極的にアクセスすることを希望(87%)、モバイルアプリで医学的アドバイスを受けることに不安を感じない(67%)といった意識調査結果がある。これらの国民意識に支えられ、インド政府はAIを活用し、2025年までに結核の流行を終わらせる計画を進める。一方、先進国でありながら中蔓延国に分類される日本の特殊な結核流行事情はよく話題となる。2つの国で将来的にどのような成果が出てくるだろうか?

Optovueの網膜疾患診断AI 多施設臨床試験を完了

赤外線を利用することで眼底三次元画像を得られる光干渉断層撮影(OCT)は、眼科診断領域での普及が進んでいる。網膜の断面を画像化することで、浮腫の程度や出血の範囲・深度などを正確に把握することができる。この度、OCT画像から網膜疾患を識別することで話題を集めたAIシステムが、その臨床試験を完了した。 オンライン光工学メディア・Optics.orgの報道によると、米Optovueと中国Ping An Technologyが共同開発したこのAIシステムに関する臨床試験は、昨年12月、上海に所在する3つの大学病院で開始されたものだという。試験結果では、OCT検査からシステムによるレポートが生成されるまでに3分しかかからないこと、病変部位の特定精度が98.6%、緊急性の評価精度が96.7%と、その迅速性と高い識別精度などが確認されたとのこと。 昨年、学術誌・British Journal of Ophthalmologyに掲載された論文では、眼科疾患の多くがAIによる正確な診断評価が潜在的に可能であることが指摘された。一方、アルゴリズムのトレーニングデータにおける多様性の不足、深層学習モデルのブラックボックス性などから、正規の手続きにより大規模な臨床試験に至る例はまだ限られていた。

医療AI研究を守るのもまたAI – メリーランド大学のサイバーセキュリティ技術提携

個人情報の宝庫である医療機関の患者データに、サイバーアタックの脅威が迫っている(過去記事)。メリーランド大学は、ボルチモア校(UMB)とボルチモア郡校(UMBC)の間で協定を結び、医療データと医療機器をサイバーアタックから保護するためにAIを活用することを発表した。 Healthcare Innovationの報道によると、ボルチモア校の医学知識と、ボルチモア郡校のサイバーセキュリティ技術を組み合わせることで、医療データの安全性を高める計画が進められる。同大学の大規模データセットから機械学習モデルを設計する際には、関連する医療デバイスとシステム上のセキュリティリスク自体をAIが発見するという。 「今後の臨床研究プロジェクトは、その一部にサイバーセキュリティを含むものでなければいけない」と、ボルチモア校の担当者は述べる。医療AI研究のためデータ収集するデバイスやシステムの経路が増えるほどに、セキュリティに抜け道が生じることも自明である。従来のセキュリティホール探索に限界が生じたとき、そこにもまたAI活用の余地があるだろう。

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