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「新型コロナウイルスに立ち向かう医療AI」まとめ
2020年は東京オリンピック開催に伴うメモリアルイヤーとなるはずでもあったが、実際は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「試練の1年」として、多くの人々の記憶に刻まれることになった。数え切れないほどの人命が危機に曝されるとともに、医療提供体制の限界と脆弱性も各所であらわになった。ソーシャルディスタンスという言葉が一般的となって人の動きは大きく様変わりし、経済は混乱し、政治は確信の持てない決断を何度も迫られた。2021年となった今も状況は改善することはなく、日本はまさに第3波の脅威の最中にある。
こういったなか、科学コミュニティは自身の研究フォーカスをこの未知の感染症へと移す動きが加速し、結果として短期間に無数の知見が集積した。抗ウイルス薬を始めとした根本解決手段はいまだ得られていないが、多面的な研究アプローチとその成果は、この未曾有の危機を乗り越えるための示唆を与えてくれるものとなっている。
我々のメディア・The Medical AI Timesでは、特に「新型コロナウイルスに立ち向かう医療AI」を題材として多数取り扱い、2020年中には関連する研究開発を中心として約200本の記事をリリースした。ここでは、これらの記事を参照しつつ「新型コロナウイルスと医療AIのこれまで」をまとめておきたい。
A. 診断モデル(画像)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の識別は現在、ウイルス遺伝子を増幅させて検出するPCR法がゴールドスタンダードとなっている。一方で、検査結果が出るまでにかかる時間、人的・物的リソースの制約、検査精度の限界、などが問題となってきた。医療AI領域では、主として画像や血液検査結果、その他の生体試料を活用し、このPCR検査をサポートする診断・予測モデルの開発が1つのトレンドとなった。
画像種は、医療リソースの乏しい国・地域を含めても広く利用されている「胸部単純レントゲン」が最多を占め、次に「胸部CT」によるものが続いた。
画像診断モデルの事例:
1. ノースウェスタン大学
https://aitimes.media/2020/11/26/6642/?3728
Radiologyに収載されたチームの研究論文によると、DeepCOVID-XRと呼ばれるこのAIプラットフォームでは、胸部読影を専門とする放射線科医と比較して診断速度で10倍、正確性で1~6%高い値を示すなど、高度のスクリーニング性能を示した。
2. behold.ai
https://aitimes.media/2020/04/16/4675/?3728
同社の「red dot」プラットフォームは、胸部単純レントゲン写真を「正常と判断する能力」を強みとして、欧州CEマークを2020年4月段階で取得しており、COVID-19のトリアージ迅速化に貢献した。
3. アリババ
https://aitimes.media/2020/06/08/5207/?3728
胸部CTからCOVID-19による異常陰影を識別するAIソフトウェアを開発しており、日本のエムスリーと提携したことでも話題を集めた。
4. Zebra Medical Vision
https://aitimes.media/2020/06/02/5113/?3728
医療画像AIスタートアップの雄は、胸部CT画像からCOVID-19を識別するAIシステムをインド全土の病院群へ展開。
特に胸部CT画像による診断モデルは高い識別精度を示すものが登場し、スクリーニングの域を超えた「十分に診断に寄与する」モデルが提唱されつつある。これには政府・民間を問わず、開発を積極的に後押しする多くの枠組みが生まれたことも大きな役割を果たしている。
枠組みの事例:
1. 米Children’s National Hospital
https://aitimes.media/2021/01/14/7019/?3728
米国立衛生研究所やNVIDIAと協力し、COVID-19を胸部CT画像から診断するAIモデルを競うコンペティションを実施。
2. 米国立衛生研究所
https://aitimes.media/2020/12/24/6880/?3728
COVID-19のスクリーニングや診断、重症度予測のためのAIシステム開発に対して2億ドルの助成金を割り当てるなど、関連研究・開発に対して大規模な助成を進める。
3. Google
https://aitimes.media/2020/09/11/6042/?3728
COVID-19を巡るAI開発とデータ解析を支援するため、2020年9月段階までで世界31組織、850万ドル以上を寄付。
4. NCC-PDI
https://aitimes.media/2020/06/16/5283/?3728
また、英国における保健福祉の執行機関であるPublic Health Englandは、ケンブリッジ大学の要請に対し、匿名化した「新型コロナウイルスの感染患者データ全て」を科学者たちに提供することを早期に決定するなど、これまでにない迅速かつ大胆な判断が研究の活性化を促したことも見逃せない。米国も同様に、新型コロナウイルス感染症対策へのAI活用の重要性を認識しており、Caption Healthの事例では、AIソフトウェアのアップデートに伴うFDA認証をたった25日間のレビューで実現している。
政策的判断の事例:
1. 英国
https://aitimes.media/2020/04/08/4605/?3728
2. 米国
https://aitimes.media/2020/05/13/4875/?3728
B. 診断モデル(画像以外)
画像以外をベースにした診断モデルとしては、一般血液検査項目に基づくものが数多く提案された。ルーチン取得される入院時血液検査結果からスクリーニングする手段は、新規の大規模な医療資源投入の必要がなく、現状の臨床ワークフローを乱さない効率的なものとなるため、臨床現場からの期待も大きい。
一般血液検査に基づく診断モデルの事例:
1....
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「新型コロナウイルスに立ち向かう医療AI」まとめ
2020年は東京オリンピック開催に伴うメモリアルイヤーとなるはずでもあったが、実際は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「試練の1年」として、多くの人々の記憶に刻まれることになった。数え切れないほどの人命が危機に曝されるとともに、医療提供体制の限界と脆弱性も各所であらわになった。ソーシャルディスタンスという言葉が一般的となって人の動きは大きく様変わりし、経済は混乱し、政治は確信の持てない決断を何度も迫られた。2021年となった今も状況は改善することはなく、日本はまさに第3波の脅威の最中にある。
こういったなか、科学コミュニティは自身の研究フォーカスをこの未知の感染症へと移す動きが加速し、結果として短期間に無数の知見が集積した。抗ウイルス薬を始めとした根本解決手段はいまだ得られていないが、多面的な研究アプローチとその成果は、この未曾有の危機を乗り越えるための示唆を与えてくれるものとなっている。
我々のメディア・The Medical AI Timesでは、特に「新型コロナウイルスに立ち向かう医療AI」を題材として多数取り扱い、2020年中には関連する研究開発を中心として約200本の記事をリリースした。ここでは、これらの記事を参照しつつ「新型コロナウイルスと医療AIのこれまで」をまとめておきたい。
A. 診断モデル(画像)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の識別は現在、ウイルス遺伝子を増幅させて検出するPCR法がゴールドスタンダードとなっている。一方で、検査結果が出るまでにかかる時間、人的・物的リソースの制約、検査精度の限界、などが問題となってきた。医療AI領域では、主として画像や血液検査結果、その他の生体試料を活用し、このPCR検査をサポートする診断・予測モデルの開発が1つのトレンドとなった。
画像種は、医療リソースの乏しい国・地域を含めても広く利用されている「胸部単純レントゲン」が最多を占め、次に「胸部CT」によるものが続いた。
画像診断モデルの事例:
1. ノースウェスタン大学
https://aitimes.media/2020/11/26/6642/?3728
Radiologyに収載されたチームの研究論文によると、DeepCOVID-XRと呼ばれるこのAIプラットフォームでは、胸部読影を専門とする放射線科医と比較して診断速度で10倍、正確性で1~6%高い値を示すなど、高度のスクリーニング性能を示した。
2. behold.ai
https://aitimes.media/2020/04/16/4675/?3728
同社の「red dot」プラットフォームは、胸部単純レントゲン写真を「正常と判断する能力」を強みとして、欧州CEマークを2020年4月段階で取得しており、COVID-19のトリアージ迅速化に貢献した。
3. アリババ
https://aitimes.media/2020/06/08/5207/?3728
胸部CTからCOVID-19による異常陰影を識別するAIソフトウェアを開発しており、日本のエムスリーと提携したことでも話題を集めた。
4. Zebra Medical Vision
https://aitimes.media/2020/06/02/5113/?3728
医療画像AIスタートアップの雄は、胸部CT画像からCOVID-19を識別するAIシステムをインド全土の病院群へ展開。
特に胸部CT画像による診断モデルは高い識別精度を示すものが登場し、スクリーニングの域を超えた「十分に診断に寄与する」モデルが提唱されつつある。これには政府・民間を問わず、開発を積極的に後押しする多くの枠組みが生まれたことも大きな役割を果たしている。
枠組みの事例:
1. 米Children’s National Hospital
https://aitimes.media/2021/01/14/7019/?3728
米国立衛生研究所やNVIDIAと協力し、COVID-19を胸部CT画像から診断するAIモデルを競うコンペティションを実施。
2. 米国立衛生研究所
https://aitimes.media/2020/12/24/6880/?3728
COVID-19のスクリーニングや診断、重症度予測のためのAIシステム開発に対して2億ドルの助成金を割り当てるなど、関連研究・開発に対して大規模な助成を進める。
3. Google
https://aitimes.media/2020/09/11/6042/?3728
COVID-19を巡るAI開発とデータ解析を支援するため、2020年9月段階までで世界31組織、850万ドル以上を寄付。
4. NCC-PDI
https://aitimes.media/2020/06/16/5283/?3728
また、英国における保健福祉の執行機関であるPublic Health Englandは、ケンブリッジ大学の要請に対し、匿名化した「新型コロナウイルスの感染患者データ全て」を科学者たちに提供することを早期に決定するなど、これまでにない迅速かつ大胆な判断が研究の活性化を促したことも見逃せない。米国も同様に、新型コロナウイルス感染症対策へのAI活用の重要性を認識しており、Caption Healthの事例では、AIソフトウェアのアップデートに伴うFDA認証をたった25日間のレビューで実現している。
政策的判断の事例:
1. 英国
https://aitimes.media/2020/04/08/4605/?3728
2. 米国
https://aitimes.media/2020/05/13/4875/?3728
B. 診断モデル(画像以外)
画像以外をベースにした診断モデルとしては、一般血液検査項目に基づくものが数多く提案された。ルーチン取得される入院時血液検査結果からスクリーニングする手段は、新規の大規模な医療資源投入の必要がなく、現状の臨床ワークフローを乱さない効率的なものとなるため、臨床現場からの期待も大きい。
一般血液検査に基づく診断モデルの事例:
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乳がん識別AI – 人の学習過程を模倣したAIが放射線科医のパフォーマンスを凌駕
乳がんは依然として世界的な課題であり、2018年には世界で60万人以上が乳がんのために命を落としている(参照論文)。死亡率を低減させる有効な取り組みとしてマンモグラフィによるスクリーニングが推奨されているが、増加する撮影済み画像数に対して読影専門医の増加が十分でないこと、偽陽性率および偽陰性率が見逃せない程度に高いことが問題となってきた。
11日、Nature Medicineに発表された研究論文では、上記の課題に対応するため新しい深層学習モデルの構築方法を明らかにした。より有効性の高いモデルを得るために重要となる点として、ラベル付きトレーニングデータを大量に取得すること、および母集団・機器・モダリティの全体で一般化を確実にすること、にフォーカスしている。チームは人間の学習過程を模倣するアプローチを採用しており、AIモデルを段階的にトレーニングし、各フェーズで学習した事前情報を活用していくことで高度にラベリングされたデータへの依存を減らし、正確に乳がんを検出するモデルの導出に成功したとのこと。
研究チームが構築したマンモグラフィのスクリーニングAIを5人の読影専門医と比較したところ、ツールは5人全てのパフォーマンスを上回り、感度は平均14%向上したことが示された。また興味深いことに、欧米人のデータからトレーニングされたこの深層学習モデルが、中国人集団においてもAUC 0.971を示すなど、モデルの高い一般化可能性も併せて明らかにしている。チームの着想が乳がんスクリーニングのあり方を変革させるものとなるか、期待は大きい。
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スマートスピーカーとの会話で自殺予防
Amazon echoに搭載されたAIのAlexa、Apple社のSiri、彼女たちと会話することで、精神疾患を抱える患者たちが自傷・自殺の危機にあるかを選別できるようになる。そのようなメンタルヘルスサービス計画を、英国の国民保健サービス(NHS)が発表した。
英Telegraphによると、回復途上の精神疾患患者に提供されるこのサービスでは、スマートスピーカーとの会話から自殺の警告サインを鋭敏に捉えられるという。既にFacebookでも、自殺をほのめかす投稿を拾いあげるなど、同様の技術が活用されている。
NHSは、社会の高齢化と医療資源・資金の不足から、医師が業務過重になりつつある現状を危惧している。技術革新で医療スタッフの限りある時間を節約し、患者との有意義な時間を増やしたいとするNHSの報告書をAI NEWSでは紹介している。英国ではこれまでも、Skype遠隔診療をはじめ、AIによるバーチャルアシスタントなど強力な医師支援策を次々と打ち出してきた。