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カリフォルニア大学サンフランシスコ校 – スマートフォンカメラによる糖尿病スクリーニング
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループは、スマートフォンの内蔵カメラを利用して2型糖尿病を検出する「デジタルバイオマーカー」を開発した。世界で4億5千万人以上に影響を与える糖尿病において、早期発見を狙った疾患スクリーニングは欠かせず、この裾野を広げる画期的技術として研究成果は多大な注目を集めている。
今週、権威ある学術誌 Nature Medicineにて公表されたチームのレター論文によると、iPhoneでAzumioのInstant Heart Rateアプリを使用し、53,870人の患者コホートからデータを取得したという。注目したのは近年モバイルデバイスでも取得が容易となったフォトプレチスモグラフィ(PPG)で、iPhoneが備えるライトとカメラを用いて、各心拍に対応する指先の色の変化をキャプチャしPPGを測定する。
研究チームは、このPPGが糖尿病による血管損傷を反映していると仮定し、PPGから糖尿病の存在を識別するAIアルゴリズムを構築したところ、82%の正確度を示すとともに、アルゴリズムで糖尿病が否定された患者の92-97%が実際に疾患を患っていなかったとのこと。また、このアルゴリズムに年齢や性別、BMI、人種/民族などの変数を追加することで、パフォーマンスはさらに向上することも確認された。
著者らは、疾患スクリーニングや治療モニタリングなど、実際の臨床応用に際しての有効性を正しく評価するため、追加研究の実施を広く促している。失明や腎不全、心血管疾患、脳血管疾患など深刻な疾患群の引き金ともなる糖尿病は、2045年までに7億人近くが罹患することも推算され、手軽で安価なスクリーニング手法は強く待ち望まれてきた。
マウントサイナイ病院 – 入院時の特徴からCOVID-19による院内死亡を予測する機械学習モデル
新型コロナウイルスの感染者数は世界で5000万人を超え、死者は100万人を上回る。適切なリソース分配と高リスク患者の特定のためには、高精度な転機予測モデルが求められている。このほど、米ニューヨーク市マンハッタンに所在するマウントサイナイ病院の研究チームから、COVID-19に伴う院内死亡を予測する機械学習モデルが報告された。大規模な前向き患者コホートから得られた初の知見として、大きな注目を集めている。
Journal of Medical Internet Research(JMIR)に公表されたチームの研究論文によると、本年3月からの3ヶ月間にニューヨーク市内5病院に入院したCOVID-19陽性患者4,098名の診療記録を用い、同モデルの構築と検証が行われたという。実際のモデルトレーニングに使われたのは単一施設の患者1,514名のデータで、その後4施設での妥当性検証、および5月以降は383名に対して前向き調査が実施されている。チームはXGBoost(勾配ブースティング決定木のアルゴリズムを実装したオープンソースライブラリ)を利用し、既往歴やバイタルサイン、入院時検査結果などから入院後3・5・7・10日での高精度な死亡予測モデルを導いた。
依然として危機の続く医療現場において、患者トリアージと効果的なケア計画策定に資する本研究成果は大きな意味を持つ。研究チームは、ツールの普及を見据えた予測モデルの更なる精度向上を狙い、研究計画を継続する旨を明らかにしている。
TECH AND GADGETS
AIは腎臓病と透析導入を予防できるか?
腎臓は健康寿命との関わりが強い臓器である。その病気を考える上で高精度なリスク評価分類は重要となる。急性期の診断と治療介入から、慢性期の機能維持と透析治療回避、そして予後の予測まで、従来法を上回る個人に適した評価法の発展には、AIが大きな可能性を秘めている。
学術誌Critical Care Medicine収載の研究は、電子カルテからの機械学習で急性腎障害のリスクを予測するアルゴリズムである。人口統計・バイタルサイン・血清クレアチニン値などを判定要素として、差し迫った急性腎障害を高精度に予測することができ、早期の治療介入を可能とするという。重症化で透析治療に至る慢性腎臓病は、腎臓の針生検標本の病理診断が基礎にある。学術誌Kidney International Reportsに発表された研究では、畳み込みニューラルネットワーク(CNN) の利用で腎臓の生存期間を針生検標本の繊維化所見から予測するという。従来の病理医による繊維化の評価分類よりも腎生存率の正確な推定が可能であったと報告されている。
生活習慣と高齢化が密接に反映される腎臓病は、透析治療の多大な医療負担を回避する観点からも、今後の日本にとって積極的に取り組むべき領域である。かかりつけ医から腎臓専門医までを強力にサポートする体制づくりのためにも、AIが果たす役割は拡大するだろう。
TRAVEL GUIDES
FASHION AND TRENDS
医療画像AIの学習のために
オーストラリア・アデレード大学の人工知能研究機関Australian Institute for Machine Learning(AIML)は、豪州のAI研究をリードする重要拠点の1つだ。同大学のJohan Verjans氏とLuke Okaden-Rayner氏が監修した書籍「Artificial Intelligence in Medical Imaging」が、現在無償で提供されている。
370ページを超える同書籍は、こちらからPDF版として入手できる。医療画像分野におけるAI利用の手法や余地、応用例、リスクなどが具体例を挙げて詳細に記載されており、医療画像AIへの参入を目指す研究者や開発者にとって価値あるものと言えるだろう。
総合医療の初期診断AI 医師と同等の正確さ
米国 ヘルスケアスタートアップのBabylon Health は、総合医療での初期診断において、医師と同程度に正確な診断を下すことができるAIを開発したと発表した。さらに、患者の重症度に応じて治療の優先度を決定するトリアージという作業においては、同社が開発したAIが、医師よりも的確な判断を下したという。
同研究では、100種類のケースについて、7名の医師とAIがチャットボットを通じて診断を実施。AIの診断正答率は80.0%、医師の診断正答率は平均で83.9%だった。しかし、医師によって正答率にはばらつきがあり、最低正答率は64.1%で、最高正答率は93.8%だったという。
さらに、トリアージという作業においては、AIの正答率は医師の平均値を上回った。AIの正答率は97.0%で、医師の診断正答率は平均値93.1%(最低正答率88.2%、最高正答率100%)だった。
参考文献: A comparative study of artificial intelligence and human doctors for the purpose of triage and diagnosis
Photo: ipopba / iStock
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米Jvion社 – COVID-19ワクチン接種優先順位づけをAIが支援
新型コロナワクチンの接種が世界的に開始されているが、他国と比較し米国でのワクチン接種が想定より進んでいない現状が伝え聞かれる。米国でのワクチン接種は行政単位ごとに、CDCガイドラインに基づいた優先順位がつけられている。効果的な優先順位づけのため、医療AI開発企業のJvionは「AIを適用したCOVID-19ワクチン接種優先順位指数(VPI: Vaccination Prioritization Index)」の提供開始を発表している。
Jvion社の19日付プレスリリースによると、同社の提供するVPIは昨年春から発表してきたCOVID-19に対する地域脆弱性マップに更新を加え、CDCガイドラインと社会経済的脆弱性に基づき、地域のワクチン接種優先度を指標化したものである。ワクチン接種優先順位は、郡と郵便番号ごとに1から6までのスケールで評価するレイヤーがマップ上に示され、公衆衛生当局がワクチンの優先順位の高いエリアを地域社会の構造に基づいて絞り込むのを支援する。VPIツールはMicrosoft Azure上に構築された「Jvion CORE」という機械学習と予測分析を行うJvionの基幹AI技術で実装されている。2020年3月の公開以来Jvionのマップは、ホワイトハウスタスクフォース・連邦緊急事態管理庁(FEMA)・各軍組織・州および地方自治体のメンバーを含め、200万回以上閲覧されてきた実績を持つという。
日本においてもCOVID-19のワクチン接種計画が次第に明らかにされてきたが、初期の接種対象者である医療従事者の間でも計画に対する不安は否めない状況にある。COVID-19の打開策として期待される第一歩のワクチン接種が効果的に進むか、優先順位づけを含む各国の計画の推移に注目していきたい。