最新アーカイブ

中皮腫のCT診断AI – Canon Medicalとグラスゴー大学

建材などに使用されてきたアスベスト(石綿)関連の健康被害として、肺の悪性腫瘍である「中皮腫」がある。スコットランドでは、英国の主要産業として造船・建設でアスベストが多く使用されてきた経緯から、国際的にも中皮腫の発生率が高い地域として知られる。そのスコットランドを拠点としたCanon Medical Research Europeとグラスゴー大学は、中皮腫のCT診断に焦点を当てたAIツールを開発している。 グラスゴー大学のリリースによると、中皮腫のCT診断AIは腫瘍専門医の教師データから学習し、病変の検出と測定を正確に行う。同ツールは、がんに対するイノベーション技術に資金提供するスコットランド内のプログラム「Cancer Innovation Challenge」の一環で開発され、検証結果の発表を予定している。中皮腫は、一般的な腫瘍のように球体ではなく、組織表面上で「皮」のように複雑な成長をみせるため、CTでの診断が難しいがんの1つとされる。また、中皮腫の治療法は限定的で、今後の新規臨床試験も不可欠であるため、AIによる腫瘍検出・測定の効率化および自動化は臨床試験をより低コスト・短時間・高精度にする可能性も期待されている。 Canon Medicalの主席研究員であるKeith Goatman氏は「AIのスピードと精度は中皮腫の治療に幅広い影響を与える可能性があります。正確な腫瘍体積の測定は手作業では時間がかかり過ぎます。測定の自動化は腫瘍体積のわずかな変化も検出し、新しい治療法への臨床試験の道を拓くでしょう」と述べている。アスベスト使用は既に各国で禁止されたものの、中皮腫患者の発生では数十年という単位での時間差をみせている。英国のみならず、日本における中皮腫による死亡数も増加の一途であり、国際的に死亡者数のピークはまだ先にあるとも予測される。当該AIツールではその先を見据えた開発が進められている。

バングラデシュにおける子供の発育阻害を明らかにするAI研究

生後初期の慢性的な栄養欠乏によって、その後年齢相応の身体および認知機能の発達が得られなくなるものを「発育阻害(stunting)」と呼ぶ。1億を超える未就学児が発育阻害に曝されるが、その90%以上がアジア・アフリカの子どもたちとなる。豪キャンベラ大学などの研究チームは、バングラデシュにおける小児発育阻害のリスク因子探索に、機械学習アプローチを用いた研究を行っている。 Informatics for Health and Social Careからオンライン公開されたチームの研究論文によると、2014年のバングラデシュにおける健康調査データを利用して、5歳未満の小児における発育阻害を予測する機械学習モデルの構築、およびリスク因子の探索を行ったという。結果から、バングラデシュにおける発育阻害への高い説明力を持つリスク因子は順に、小児の年齢、家庭の経済状況、母親の学歴、妊娠期間、父親の学歴、世帯規模、初産時の母親の年齢などが明らかにされている。 著者らは「研究成果によって、バングラデシュにおける発育阻害を理解するためには、社会経済的因子に加え、栄養および環境要因の観察が重要であることを明らかにした」としており、事態改善を目指した取り組み・政策立案への示唆を本研究知見が提供する事実を強調している。 関連記事: 機械学習で自閉スペクトラム症の血中バイオマーカーを特定 糞便から食生活を予測するAI研究 発熱した乳児にその検査と治療は必要か? – 低リスク患児を特定するAIモデル アクションゲームがADHD向けデジタル治療としてFDA認証を取得

産後うつ病を予測する機械学習アルゴリズム

産後うつ病は出産経験女性の10%が罹患し、時に患者自身または子に対して深刻な転帰をもたらす重要疾患とされている。うつ病の既往は主要なリスク因子として知られているが、明確な病因は未だ明らかにされていない。スウェーデン・インド・ドイツなどの国際共同研究チームは「産後うつ病の発症を予測する機械学習アルゴリズム」を構築した。 Scientific Reportsから12日公開されたチームの研究論文によると、スウェーデン・ウプサラにおいて2009年から2018年までの間に実施された前向きコホート研究から、ベースとなるデータが収集されたという。4,313名の臨床データ・属性データ・心理測定データなどから産後うつ病の発症を予測する機械学習アルゴリズムを導いたところ、精度73%・感度72%・特異度75%と臨床的に有用と言えるパフォーマンスを示していた。一方、出産以前にメンタルヘルスの問題が無かった女性については、予測精度が64%へと低下する事実も認めている。また、産後うつ病の発症予測に対して高い説明力を示した変数は、妊娠中のうつ病と不安、回復力、性格に関連する変数などであった。 産後うつ病は、その罹患リスクを見過ごすことができない程度に高い頻度でみられる一方、適切な診断と治療介入を受けているのは一部に過ぎない。研究チームは、予測モデルに基づく個別フォローアップと費用対効果の高い管理指針策定を目指し、アルゴリズム精度の向上と個別リスク因子の有効利用を検討している。 関連記事: うつ病と双極性障害を鑑別する機械学習アルゴリズム AIとメンタルヘルス – がん患者におけるうつ病リスクの自動評価 妊婦の感情と精神状態へのAI応用に発展の余地 – セビリア大学からのレビュー論文 スタンフォード大学 – 機械学習手法による妊娠高血圧腎症の早期予測

機械学習による舌がんの個別化予後予測

舌がんは口腔発生のがんで最も頻度が高く、治療の遅れが死亡者増へとつながり、治療に伴う言語障害や嚥下障害も問題となる。舌がんのリスクを適切に層別化し、再発や全生存期間など転帰を予測する機械学習ツールが、フィンランドのヴァーサ大学から発表予定である。 フィンランドのメディア Mediiuutiseteでは、同研究と著者のRasheed Alabi氏を紹介している。Alabi氏の博士論文「Machine learning for personalized prognostication of tongue cancer」は来る4月15日にヴァーサ大学で審査される予定であり、その予測モデルは治療後の舌がん再発率を88.2%の精度で予測している。舌がん患者の全生存期間の予測についても、従来の病期分類やノモグラムを上回る結果を示したという。 同研究はフィンランドの5つの教育病院、およびブラジルのA.C.Camargoがんセンター、米国立衛生研究所の患者データが用いられた。従来のTNM分類は、がん患者の予後を予測する客観的で普遍的なツールであるが、特に早期舌がんに対する予測力には限界があることが指摘されてきた。より予測精度の高いシステムによって、口腔機能に影響するような、効果の乏しい治療や過剰な治療を防ぐことが期待される。

Microsoftの医療AI進出 – Nuanceを197億ドルで買収

Microsoftは12日、Nuance Communicationsを197億ドル(約2兆1555億円)で買収することを明らかにした。買収額は全額現金で支払われ、Microsoftは医療AI事業への本格参入を実現する。 速報記事:Microsoft - 米Nuanceの買収交渉か? Microsoftの発表によると、Nuanceの現CEOであるMark Benjamin氏はCEO続投となり、Microsoftでクラウド・AI事業を率いるScott Guthrie副社長の直属となる。Microsoftは今回の買収を、2020年に立ち上げたMicrosoft Cloud for Healthcareをさらに成長させ、業界固有のクラウド戦略を目指す重要なステップと捉えている。 NuanceのAIソリューションは音声認識によって電子カルテ記録の自動化を進めるもので、現在、米国医師の55%以上、放射線科医の75%以上によって使用され、米国病院の実に77%において採用されている。Microsoftはついに、ヘルスケア領域における比類のない資産を手に入れた。 関連記事: 米Nuanceが医療用文書作成自動化AIのSaykaraを買収 米Nuanceの医療用音声書き起こしAI – 米最大級医療グループProvidenceと提携 Ambient Clinical Intelligence – 医師を書類作業から救うAI環境開発

非接触型バイタルサイン監視という新潮流 – イスラエル「Donisi」

脈拍数・心拍数・呼吸数といったバイタルサインを、非接触型のリモートセンシング技術によってモニタリングすることが新たな潮流となってきた。イスラエルのテルアビブ拠点で非接触型モニターを開発する「Donisi Health」は、センサーシステム「Gill Pro」でFDAのDe Novo申請(市販前審査の一種)で機器承認を得た。 MobiHealthNewsでは、Donisi社のGill Proについて紹介している。Gill Proは卓上に設置した機器が、光学センサーとAIアルゴリズムの組み合わせで人の体表レベルの微動を遠隔監視し、脈拍数・心拍数・呼吸数・呼吸速度を推定することができる。Gill Proはさらに心房細動を識別する機能へ適応拡大を目指し、FDAの申請プロセスを進めているという。 COVID-19のパンデミック以降、従来の接触型センサーから、非接触型モニターへ移行する大きな流れが鮮明となっている。スマートスピーカーで心拍をモニタリングするシステム(過去記事)や無線によるリモートセンシングでの服薬管理(過去記事)など、非接触型生体監視デバイスの大きな可能性を感じさせる発表が相次いだ。Donisi社のCMOである Sagi Polani氏は「今回の機器承認は、ライフスタイルを変えずに生活を変える、という私たちの使命を果たすためのエキサイティングな一歩です」と述べた。 関連記事: スマートスピーカーを利用した心拍モニタリングシステム 投薬自己管理のエラーを防ぐリモートセンシング技術

2021年最新「世界の有望AIスタートアップ Top 100」

米CB Insightsによる、AIスタートアップ6,000社以上を対象としてトップ100を選出する調査「AI 100」が今年も発表された(過去記事2020年版)。 同調査が最も代表的なカテゴリーに掲げる「ヘルスケア」には最多の8社が選出されている。それらスタートアップは私たちのメディアに登場したものもあり、以下順不同で紹介する。 1. 「Caption Health」AIガイド超音波診断(過去記事) 2. 「theator」手術支援AI(過去記事) 3. 「insitro」AI創薬 4. 「Overjet」歯科X線画像診断AI 5. 「Unlearn.AI」AIによるデジタルツイン構築で臨床試験支援 6. 「Olive」医療機関の業務効率化AI(過去記事) 以下2社は昨年に続き2021年も選出 7. 「Recursion Pharmaceuticals」AI創薬(過去記事) 8. 「Owkin」研究者向けAIプラットフォーム(過去記事) 医療関連はヘルスケアのカテゴリー以外にも含まれ、特に日本からはOTHER R&Dのカテゴリーに「エクサウィザーズ」が選出されている。同社は介護や医療の領域においてAIプロダクトを開発している。その他、日本からは法務・リーガルテックを手がける「LegalForce」が選出された。100社は12カ国から選出され、米国からは昨年の65社とほぼ同様、2021年は64社が選出された(英国8社、中国とイスラエルが6社、カナダ5社と続く)。米国の調査会社ゆえに同国内からの選出が偏重する側面はあるが、AIスタートアップ勢力図が米国を中心としたものとして続くことは、実感としても間違いがない。

ClearUPのFDA承認 – 微弱電流で鼻詰まりを解消する小型デバイス

米Tivic Healthが開発するClearUPは、微弱電流によって副鼻腔の痛みを軽減するハンドヘルドデバイスとして、米食品医薬品局(FDA)の承認を取得済みである。このほどClearUPは、「アレルギー・インフルエンザ・感冒に伴う鼻詰まり」に対する追加承認を取得した。 Tivic Healthの最新プレスリリースによると、ClearUPは、デバイスを頬・鼻・眉骨に沿って滑らせることで同部に微弱電流を流し、皮膚直下の神経刺激によって症状緩和を期待するもの。同社による臨床研究では、ClearUP導入後10分程度で平均35%に症状の軽減がみられ、4週間に渡る定期使用では平均44%の症状緩和が報告されたという。昨年春段階でCEマークは取得済みであり、今回のFDA承認と併せ、ClearUPの取り扱いマーケットは190カ国以上にもなるとする。 Tivic HealthでCEOを務めるJennifer Ernst氏は「我々は薬や化学薬品に頼ることのないソリューションを、無数の人々に届けられることを誇りに思う」と述べ、デバイスの質的改良を継続すること、および他の炎症性疾患に対する効果検証にも積極的に取り組む姿勢を明らかにしている。 関連記事: スマートスピーカーを利用した心拍モニタリングシステム SpeechVive – 耳掛け型ウェアラブルデバイスでパーキンソン病患者の発声訓練 周囲の咳の音から感染症アウトブレイクを監視 – ポータブルAIデバイス FluSense 医療AIに参入する開発者がエッジAIを学ぶべき理由

Microsoft – 米Nuanceの買収交渉か?

AIと音声認識技術で知られる米Nuance Communicationsに対し、Microsoftが買収交渉を続けているという。 12日、Bloombergが報じたところによると、この協議がまとまれば買収額は160億ドルにものぼる可能性があり、Microsoftにとっても過去最大規模の買収劇の1つとなる(最大は2016年、LinkedInの240億ドルでの買収)。 MicrosoftとNuanceは2019年以来、医師・患者間の診察時音声から電子カルテ上への自動記載と情報分類を行うシステムについて、生産的なパートナーシップを維持してきた。近年、GoogleやAmazonなどのライバル企業がヘルスケア領域への投資を加速させており、Microsoftの動向にも大きな関心が集まっている。 関連記事: 米Nuanceが医療用文書作成自動化AIのSaykaraを買収 米Nuanceの医療用音声書き起こしAI – 米最大級医療グループProvidenceと提携 Ambient Clinical Intelligence – 医師を書類作業から救うAI環境開発

医療AI機器のFDA承認に潜む限界

米FDAが2015年から2020年までに承認した医療AI機器(130件)の評価プロセスを包括的に概観し、その限界について考察したコメンタリー論文が、米スタンフォード大学の研究者らによって学術誌 Nature Medicineに発表されている。 同論文によると、FDA承認を受けたAI機器のほぼすべて(130件中126件)は、FDAへの申請時には「後ろ向き研究」のみが実施された段階であった。特に高リスクの機器54件で「前向き研究」が実施済みのものは1件もなかった。また、検証された「施設数」が公表されていたのは41件のみで、そのうち4件は1施設のみ、8件は2施設のみでの評価であった。限られた施設のみで検証されたケースとして著者らは「X線画像から気胸を検出するAIモデル」を取り上げ、人種差などの患者属性によってモデルの性能が大幅に低下して格差が生じた点について考察している。 現状のFDA承認に対して、AIデバイスの性能を多施設で評価する観点や、標準治療と比較した前向き研究の実施について、著者らはより一層の拡充を期待している。そして、医療AI機器におけるFDA承認の限界を理解した上で、十分な市販後調査によって意図しない結果やバイアスについて理解を深め測定していくことを推奨している。 関連記事: FDAがアップデートした5つの方針「AI/MLベースSaMDへのアクションプラン」 FDA 医療AI開発に関する新たな規則策定へ FDA 医療におけるAIの安全な発展を目指したツールを発表

SwRI BIOCAP – マーカーを必要としない3Dモーションキャプチャ

米テキサス州サンアントニオに本拠を置くサウスウェスト研究所(SwRI)は、米国で最も歴史ある非営利研究開発機関の1つだ。同組織が開発した「BIOCAP」は、身体に何らかのマーカーを取り付けることなく、3Dモーションキャプチャによって「身体の動きに伴う生体力学的パフォーマンス」を定量することができる。 SwRIのBIOCAPでは、その高度なマシンビジョンおよび機械学習技術によって正確な評価を実現するほか、既存のカメラを利用するポータブルシステムとして実用性を高めている。同組織が7日明らかにしたところによると、「Markerless Motion Capture Joint Industry Project(M2CJ)」と呼ばれる新たな多企業プロジェクトでは、スポーツ及び医療用途でのマーカーレス生体力学分析を進めるための種々の開発・検証が行われるという。 特にスポーツチームに生体力学分析を提供する専門家はその詳細を秘匿する傾向があるため、特定の生体力学システムの精度を検証することは困難とされていた。M2CJではBIOCAPシステムの改良とともに、この課題のクリアが期待されており、生体力学およびスポーツ科学コミュニティにおける技術的相互作用の促進を狙っている。 関連記事: 医療技術教育はモーションキャプチャーからAIが評価 – 米国防総省 アスリート達のスポーツ外傷を予測するAI AIはドーピングを撲滅できるか?

英UCL – AIツールにより多発性硬化症の3つのサブタイプを特定

英国University College London(UCL)の研究チームは、独自開発のAIツール「SuStaIn(Subtype and Stage Inference)」を利用し、多発性硬化症における3つの新しいサブタイプを特定した。多発性硬化症は世界で280万人以上、英国では13万人以上の患者がおり、MRI画像所見や症状から、治療法選択とその導入タイミングが個別に判断されてきた。チームは「特定の治療法に鋭敏に反応するサブタイプがあるか」に強い関心を持ち、研究を進めている。 Nature Communicationsから6日公開されたチームの研究論文によると、SuStaInを利用し、6,322人の頭部MRI画像を解析したという。SuStaInはMRI画像の初期変化に基づき、これまで明らかにされてこなかった3つのサブタイプ(皮質型・正常白質型・病変型)を特定した。また、各サブタイプに分類される患者が「それぞれの治療にどのように反応したか」を遡及的に調べたところ、サブタイプ間で各治療への反応性と、時間経過に伴う障害の蓄積に有意な差があることを確認した。 著者らは「さらなる臨床研究は必ず必要だが、個別最適治療を実現し得る画期的なステップだ」として、本研究成果の重要性を強調する。チームは現在、画像変化のみに焦点を当てているが、他の臨床情報を含めたアプローチへの拡張を検討しており、疾患特異的な臨床ビッグデータとAIがもたらす成果への期待は非常に大きい。 関連記事: 多発性硬化症とベイジアンネットワーク 握力低下に苦しむ人々を手助けするAIグローブ スマートフォンで眼からパーキンソン病を識別するAIシステム

乳がん超音波検査でAIの可能性を示す新研究

乳がんの診断において、X線画像のマンモグラフィを補完する検査として、超音波検査の有効性が検討されてきた。AIツールによる乳がん超音波診断の可能性も拓かれてきたなかで、良性・悪性の診断からさらに踏み込み、炎症性腫瘤と腺腫を含めた4つのカテゴリに分類するアルゴリズムが研究されている。 学術誌 Chinese Medical Journalには、北京天坛医院などによる多施設共同研究として「ディープラーニングを超音波画像に適用し乳腺腫瘍の診断精度を向上させた」とする成果が発表されている。13施設、3623人から収集された乳腺腫瘍の超音波画像15,648枚から、良性・悪性・炎症性・腺腫の4カテゴリに分類する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が開発され、それぞれのAUCは0.90・0.91・0.90・0.89を達成した。 同研究において1cmを境界とした腫瘍の大きさによる分類性能は、良性腫瘍の分類には影響したが、悪性腫瘍の検出精度には影響しなかったことが示されている。また、超音波専門医の読影と比較した際には、精度と処理時間に大きな差があり、CNNモデルで精度89.2%・処理時間2秒以下、専門医らの平均で精度30%・処理時間314秒であった。同研究からはCNNを乳腺腫瘍の超音波画像に適用することで、専門医の診断を補強する大きな可能性が示されている。 関連記事: 米Koios 乳房超音波のAI診断システムでFDA承認を取得 乳がん診断のgame changerとなるか – AIによる超音波エラストグラフィの解析

全ゲノムシーケンス分析 – 13の新しいアルツハイマー病遺伝子が明らかに

マサチューセッツ総合病院(MGH)、ハーバード公衆衛生大学院などの研究チームは、ゲノムデータ分析によって13の「新しいアルツハイマー病遺伝子」を特定したことを明らかにした。また、同研究内では、アルツハイマー病とシナプス・ニューロン・神経可塑性等の間に「新しい遺伝的リンク」を確立しており、未だ積極的治療手段の得られていない当該疾患において、新たな治療薬の開発に繋がる成果として大きな注目を集めている。 MGHがこのほど行ったプレスリリースによると、この研究ではヒトゲノムの全配列を調べ、これまでフォーカスを受けなかった「稀な」ゲノム変異を評価できるようにすることで得られた成果だという。30億塩基対に及ぶゲノムDNAのうち、ヒトは5000万から6000万の遺伝子変異を有し、そのうち77%が稀なものとなる。これまで見過ごされてきた遺伝子バリアントを明らかにするため、アルツハイマー病と診断された患者を含む605の家族、2,247名(および無関係な個人1,669名)のゲノムに対して全ゲノムシーケンス分析を行った。これによって、これまでアルツハイマー病との関連が指摘されていない13の新たな遺伝子変異が特定され、驚くべきことにこれらの遺伝子変異はシナプスの機能、ニューロンの発達、および神経可塑性との有意な関連を示していた。 研究チームは今後、3次元細胞培養モデルと脳オルガノイド(多能性幹細胞から人工的に導いたミニチュア器官)を利用し、今回特定した遺伝子変異がニューロンに挿入された際「実際に何が起こるか」を検証する予定という。世界的な高齢化の進展によって急速に影響度を高めるアルツハイマー病において、その治療管理を激変し得る極めて重要な研究成果と言える。 関連記事: 敵対的生成ネットワークによるアルツハイマー病識別パフォーマンスの強化 NIH – アルツハイマー病における精密医療への取り組み 血清ラマン分光法とAI – アルツハイマー病の新しいスクリーニング手法開発に向けて マウントサイナイ医科大学 – アルツハイマー病の3つの分子サブタイプを特定 アルツハイマー病に既存薬再利用を促進するAI研究

AIでコロナワクチン接種への躊躇と戦う – 米病院グループ AdventHealth

米国でのCOVID-19ワクチン接種状況は、カイザーファミリー財団の調査によると「接種済みorできるだけ早く」と回答する市民の割合が次第に上昇する一方で、「絶対に受けたくない(Definitely not)」と回答する人が約13%と、2020年12月以降ほぼ同じ割合で推移している。コロナワクチン接種をためらう市民の意識は各当局にとって重要な課題であり、フロリダ州に本社を置く病院グループ「AdventHealth」はAIを駆使してワクチン接種へのためらいを理解し分析するのに役立てている。 MedCity Newsでは、AdventHealthグループの取り組みを紹介している。同グループでは2020年10月から独自の調査プラットフォーム上で、機械学習・自然言語処理を利用したワクチン接種に対する患者意識調査を行ってきた。累計15万7千人あまりからの解析では、やはり副作用に対する心配が強く、特に持病のある人に顕著であった。また、女性・アフリカ系・ヒスパニック系の患者はためらう度合いが高いこともわかったという。 AdventHealthは2020年12月からフロリダ州でワクチン接種を行う最初の医療機関のひとつとして、州からワクチンの保管・管理を任され、延べ20万本以上のワクチンを受け取ってきた。同グループのAlric Simmonds氏は「ワクチン接種には信頼関係が重要であることを私たちは認識しており、草の根の努力とパートナーシップを活用し、多様なコミュニティから活動へ参加してもらっています」と語っている。一例としてノースカロライナ州ではアフリカ系住民が多い地域の教会と協力し、ワクチン接種を行ってきた。AdventHealthではワクチンへのアクセスに焦点をあてた学術的なタスクフォースを立ち上げており、市民ひとりひとりの懸念に耳を傾け、質問に答えていくため、さらなるAIの活用を進めていくという。

ユニーク研究 – PCのマウス操作がストレスマーカーとなる可能性

アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルクはドイツ南西部に所在する国立大学である。同大学で職業特性や消費者心理を専門とする研究チームから、「PCのマウス操作をストレスチェック手段として活用する」というユニークな研究成果が公表されている。 Behavior Research Methodsから5日公開されたチームの研究論文によると、PCのマウス追跡によるストレス測定を実現するため、マウス使用データへの機械学習分析を行ったという。994名の研究参加者に対し、高ストレスまたは低ストレス下で4つのマウスタスクに取り組ませた。残念ながら、今回の研究デザインにおいては古典的統計アプローチ、機械学習アプローチのいずれでも、マウス操作とストレスレベルの間に明確で体系的な関係を明らかにすることはできなかった。 マウス追跡は、継続的な行動データを収集するためのシンプルで費用対効果の高い手法として知られ、特に心理学における認知プロセスの評価に利用されてきた。この潜在的適用性を拡張するチームの着想、および「ストレスがマウス使用に関与する感覚・運動に影響する」という研究仮説は斬新にして比較的妥当と思われる。チームは検証を継続する旨を明らかにしており、今後の進捗に期待したい。

AIと嘘つき教師 – 著名な公開データに多数のラベルエラー

米マサチューセッツ工科大学などの研究チームは、世界で最も使用されている10の機械学習向けデータセットを調査し、全体で3.4%のラベルエラーが含まれていることを明らかにした。データラベリングは、データサンプルに対して正解をタグ付けするプロセスで、機械学習、特に教師あり学習に関して重要な意味を持つ。ラベルエラーはモデルトレーニングおよび精度検証のいずれもを阻害し、結果を不安定にする可能性がある。 このほど公開されたチームの研究論文によると、データセットのバイアス問題は度々取り上げられるが、実はラベル自体にも多くのエラーが含まれていることを明らかにしたという。コンピュータビジョンアルゴリズムで最も一般的に利用されるデータセットであるCIFAR-10は、動物・乗り物など多くの物体カラー写真に正解ラベルを添えたデータセットであるが、カエルの写真が猫としてラベル付けされていた。また、ImageNetではライオンがパタスモンキー、犬がペーパータオル、ジャイアントパンダはレッサーパンダと、繰り返し誤ったラベル付けがなされていた。研究者らは、ImageNetで6%、QuickDrawで10%を超えるエラーを確認している。 著者らは「欠陥のあるテストデータのために、より複雑なモデルが求められている可能性」を指摘しており、実際は単純なモデルの方が修正済みデータではうまく機能していた点を強調する。機械学習向けデータセットに含まれる広範なエラーについて、その取り扱いと修正に関する議論が続きそうだ。

テクノロジーはCOVID-19ワクチン接種率を高められるか?

4月は「National Minority Health Month(NMHM)」という、マイノリティが直面する健康問題を啓発する全米キャンペーンが行われており、2021年のテーマは「#VaccineReady」となっている。マイノリティはCOVID-19の影響を強く受けた社会的弱者でありながら、ワクチン接種率が低い状況が報告されている。ワクチンへの不信・アクセスの悪さ・医療システムへの不信といった障壁に対して、デジタル技術はどのような役割を果たせるか。学術誌 LANCETに巻頭辞(エディトリアル)として問題が提起されている。 論説の中では、マイノリティがワクチン接種をためらう最も一般的な理由として「副作用への懸念」を挙げている。懸念される副作用の可能性に対して、迅速かつ透明性の高い報告を行い、コミュニケーションを改善することでワクチン接種に対する躊躇を減じられるのではないかと、著者は主張している。そのための技術の一端として挙げられるのは、米国疾病予防管理センター(CDC)が採用しているデジタルツール「V-safe」で、ワクチンの副作用報告を患者から直接聴取するものである。英国でも同様のアプリ「Yellow Card」が開発されている。患者個人が副作用の情報をリアルタイムで報告することで、ワクチンの安全性監視プログラムの確立に市民自身が貢献する仕組みができ、信頼感確立の一助となる。 英国の規制当局である「医薬品・医療製品規制庁(MHRA)」はワクチンの有害事象報告による膨大なデータを管理するAIの開発に、100~500万ポンドの予算を計上している。副作用の報告には因果関係が認められないものや、反ワクチン運動・政治的ロビー活動の影響を受けたものも多数混在してしまうことから、真の副作用を特定するためにデジタルツールの助けが必要となる。このような先進的アプローチにも、マイノリティに不利となりがちなバイアスが懸念されるため、コミュニティでの信頼を維持するための慎重な取り組みが必要となっていく。ワクチン接種率を高めるテクノロジーには、単に技術の問題だけではない多くの機微が求められている。

中国平安「AskBob」 – 骨盤X線診断AIを革新

中国平安(Ping An)保険グループが展開する医学的判断支援AIツール「AskBob」を以前に紹介した(過去記事1)。AskBobは骨盤・股関節・大腿骨の外傷を骨盤X線画像(PXR)から診断する深層学習モデル「PelviXNet」を実装し、平安グループ関連医療施設や、台湾の長庚紀念病院などの実臨床現場で使用され、リアルワールドデータが集められている。このほど、PelviXNetの検証結果が学術誌 Nature Communicationsに発表された。 平安グループのプレスリリースによると、実装されたAIモデルはPXR全体から骨折や脱臼など網羅的な所見を複数かつ同時に検出可能で、その総合的な精度は92.4%を謳っている。それは大腿骨頚部骨折を単独で検出するような従来のAIシステム(過去記事2)の限界を克服しつつある。2021年3月までの約8ヶ月間、長庚紀念病院で同システムが使用された結果、骨盤の外傷に関してPXR画像での誤診率は、救急医で9.7%→0.7%、研修医で11.3%→1.58%、整形外科医あるいは放射線科医で6%→0.5%と、大幅に低下させる成果を示したという。 股関節・大腿の骨折は特に高齢者に頻発し、診断の遅れは機能予後のみならず生命予後にも影響する。平安グループが展開するスマートイメージングモデルは、同領域の医療AIにブレイクスルーをもたらすだろうか。 関連記事: 中国平安 医学的判断をサポートするAIツール「AskBob」をシンガポールに提供 画像から大腿骨頚部骨折を識別するAIアルゴリズム

牛肉の鮮度を推定する機械学習アルゴリズム

牛肉は世界で最も消費される食品の1つであるが、発展途上国を中心として地域によってはその鮮度管理が十分でなく、住民は健康被害のリスクに曝されている。一方、化学分析や専門家評価にはコストと時間がかかり過ぎ、人的リソースの確保も容易ではない。 韓国・光州科学技術院(GIST)の研究チームは、ディープラーニングと比較的安価な光学技術である拡散反射分光法(DRS)を組み合わせ、既存の近赤外分光法に基づく非破壊アプローチを代替し得る新たな検査手法の開発に成功した。Food Chemistryからオンライン公開されたチームの研究論文によると、DRS測定によって牛肉中のミオグロブリン形態を種々観察し、その比率を算出することでの鮮度推定を実現している。ミオグロブリンとその誘導体は、分解過程において主要な役割を果たすタンパク質として知られる。 研究チームは「他の分光法と異なり、DRSは複雑なキャリブレーションを必要としない。手頃な費用で構成できる分光計によっても、分子組成の一部を定量するために十分に利用できる」とする。チームは、誰もが自宅においてさえ鮮度評価を手軽に行えるよう、小型で持ち運び可能な分光装置を開発できるとも考えており、今後の展開に注目が集まっている。

Thirona – 嚢胞性線維症のAIソフトウェアを公表

オランダ・ナイメーヘンを本拠とするAIソフトウェア企業であるThironaはこのほど、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)をCT画像から自動スキャンするAIソフトウェアのリリースを公表した。嚢胞性線維症は常染色体劣性遺伝疾患で、日本においては非常に稀な疾患であるが、欧州ではその罹患率が300倍程度と、発生に人種差の大きい難病としても知られている。 Thironaが明らかにしたところによると、PRAGMA-CFと呼ばれるこのAIソフトウェアは気道の異常や虚脱肺組織など、嚢胞性線維症に関連する肺の不規則性をCT画像から検出することができる。現在、同等の作業を専門家によって行うと患者1人あたり最大数時間かかるとし、PRAGMA-CFによる解析処理が数秒で終わる点で優位性を強調する。 この新しいアルゴリズムは、Thironaの画像分析パッケージであるLungQの一部として提供され、見逃されがちな希少疾患検出のセーフティネットとなる。同社は昨年10月段階で胸部CTスキャンにおけるAIソフトウェアの特許を取得し、多数の競合企業がひしめく同領域で確かなポジション取りを進めている。

Medtronic – 大腸ポリープ検出AI「GI Genius」の臨床試験

大腸がん罹患を低減するため、大腸内視鏡によるポリープ発見と除去が行われている。そこではリアルタイムのAI支援を活用する開発競争が進んできた(過去記事)。医療機器メーカー大手のMedtronic社も同領域へ参入しており、市販型大腸ポリープ検出AI装置「GI Genius」による英国初の臨床試験「COLO-DETECT」が開始されている。 国際標準のランダム化比較試験登録「ISRCTN」には、COLO-DETECTの概要が示されている。GI Geniusは既存の大腸内視鏡に接続するボックス型のAIデバイスで、カメラからのビデオ画像をリアルタイムで解析しポリープなど異常の可能性がある部位を緑のボックスで強調表示することができ、内視鏡医の評価と切除判断を支援する。COLO-DETECTではGI Geniusの使用で、使用しなかった場合と比較してより多くのポリープを検出できるか、内視鏡検査に悪影響がないか、被験者の使用経験を含み多面的にデータを収集する。 英国では4月にBowel Cancer Awareness Month(腸管がん啓発月間)が展開されている。キャンペーンの一環として学術誌出版社BMCの記事では、COLO-DETECTを主導するメンバーのAlexander Seager氏が同試験について解説する。Alexander 氏によると、試験は3月下旬に最初の患者を募集し、1年半で2,000人以上の患者を集めることを目標としており、COVID-19の影響で制約を受けた内視鏡検査分野における研究活動継続の重要性を訴えている。

クリーブランドクリニック – IBMとのAIパートナーシップ

米国屈指の医療機関であるクリーブランドクリニックは30日、IBMとの10年間に渡る新たなパートナーシップの締結を公表した。両者は、AI、ハイブリッドクラウドにおける高性能コンピューティング、量子コンピューティング技術などを通じたヘルスケアの向上を狙い、「Discovery Accelerator」と呼ばれるセンターの立ち上げを共同して行う。 30日付プレスリリースによると、このDiscovery Acceleratorでは、その高度なテクノロジーを利用したデータ生成・分析から、ゲノミクス・化学・創薬・公衆衛生・臨床医学などの各分野における知見導出を強力に推進するという。またこのパートナーシップにより、倫理性とプライバシー保護に資する「包括的なデジタルインフラストラクチャ」が構築されることも期待されており、臨床データの研究利用に新たな道筋を示すことになる。 クリーブランドクリニックのCEOであるTom Mihaljevic氏は「この革新的コラボレーションには、未来を生き生きとしたものにする独創的な芽がある。新しいコンピューティング技術がライフサイエンスにイノベーションをもたらすだろう」とする。同センターが医学領域における量子コンピューティングエコシステムの基盤となるか、大きな注目が集まっている。

次世代の子宮頸がんスクリーニングは細胞診を代替できるか?

子宮頸がんのスクリーニング検査は、1940年代から導入が進んだ古典的な子宮頸部細胞診による前がん病変の発見が長らく主流であった。しかし、低・中所得国における子宮頸部細胞診には、検査機会と医療資源の限界が指摘されてきた。そこに、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染による病態の発生が明らかになり、次世代の検査技術による補完と代替が期待されている。 マサチューセッツ総合病院(MGH)の研究チームは、学術誌 Biophysics Reviewsに「AIとナノテクノロジーによる細胞プロファイリングで子宮頸がん検診の格差是正を目指す」と題した論文報告を行っている。そこでは、次世代の子宮頸がんスクリーニング検査技術のひとつとして、「AIM-HPV: Artificial Intelligence Monitoring for HPV」というMGHが主導する深層学習技術が挙げられた。 同学術誌の出版元である米国物理学協会(AIP Publishing)のリリースでは、AIM-HPVについてを詳細に紹介している。この技術においては、子宮頸部のブラッシングで採取された細胞から抽出されたHPVのDNAが、生体に適合するシリカビーズと接触するとダイヤモンド型の物質を形成し、顕微鏡で視認できるようになる。顕微鏡観察が難しい環境では、スマートフォン上のAIアプリによる読み取りが可能である。AIM-HPVは従来のコルポスコピー下細胞診に付随する主観性を回避しながらも、その検査結果は十分な精度を示したため、医療資源の乏しい環境を想定した臨床試験が続けられている。 研究チームは「素晴らしい技術があっても、国と地域によってはそれが十分に機能していない。だからこそ次世代の安価な技術を見つけることに対する大きなモチベーションがある」と主張する。新しいスクリーニング技術は子宮頸がん検診の民主化とがんの予防促進を実現できるか、その成果が待望されている。

GE – ウィズコロナに最適化する「AI搭載ポイントオブケア超音波」(POCUS)

超音波装置の小型化・携帯型への進化により、ポイントオブケア超音波(POCUS)という概念が浸透してきた。それは超音波診断を専門にしない臨床医でも、観察する所見の焦点を絞ることにより、ベッドサイドで積極的に超音波検査を実施する臨床風景の到来を意味する。またPOCUSは現場で簡易に実施できる性質上、ウィズコロナ時代のベッドサイド診療に適している。 GEヘルスケアは30日付ニュースリリースで、同社の最新POCUSシステム Venue Fit、およびシリーズ製品のVenueとVenue Goに対して、心臓超音波用AIツール「RealTime EF」の搭載を発表している。RealTime EFは、心臓が血液を送り出す効率を示す駆出率(EF: ejection fraction)を、スキャン中にリアルタイムで連続的に自動計算する業界最先端のAIツールである。また今回の発表で紹介された同時搭載ツールには、「Lung Sweep(肺全体のダイナミックなパノラマビューを迅速に視覚化)」「Renal Diagram(腎臓の超音波画像にラベル付けするドキュメントツール)」が挙げられている。 COVID-19の拡大を背景として、病棟内外でPOCUSに対する需要は高まり、GEヘルスケアでは既存製品Venue Goの受注が2020年、前年比で5倍以上に増加したという。GEヘルスケアのPOCUS部門でジェネラルマネージャーを務めるDietmar Seifriedsberger氏は「この1年でPOCUSは、直感的な製品デザインとAIによる診断能力で、臨床医のベッドサイド診療で重要な位置を占めるようになった」と語っている。

英NHSへのAIソリューション大規模実装に向けて

London Medical Imaging & AI Centre for Value Based Healthcareは、英国における医療AI開発の核を形成する主要センターで、NHSに向けたAIソリューションの開発・提供を行っている。臨床・研究の各セクターに区別なく、ヘルスケアエコシステム全体から専門知をプールする「高度に柔軟で学際的な」組織であり、医用画像解析AIを中心として多彩なソリューションを創出している。 同センターはこのほど、DXとITの専門コンサルティングファームであるAnswer Digitalと提携し、NHS内でAIを大規模実装するための新しいプロジェクトを開始した。本プロジェクト内ではまず、NHSに向けてFederated Learning(連合学習)を支援するオープンソースプラットフォームを提供する。連合学習ではデータの集約を必要とせず、各臨床施設にデータが分散した状態で単一の機械学習モデルをトレーニングすることができるため安全で、機微情報を大量に取り扱うヘルスケアとの親和性が高い。 同センターは昨年、Office for Life Sciencesから1600万ドル(約24億円)の助成金を受けるなど、急速な事業規模の拡大をみている(参照)。また、NHSはAIによる医療の質的向上・効率化を重要視し、先駆的な取り組みを多く示してきたことも成長の後押しとなっている(過去記事群)。"AI-enabled Hospitals"を目指す英国の動きには関心が尽きない。

2030年までに精密医療市場は7388億ドル規模に

個別最適治療を実現するPrecision Medicine(精密医療)は、深層学習技術の飛躍的向上を背景として広がりをみせる。究極のオーダーメイド治療を志向する当該領域のプレイヤーたちは、日々新たな話題を提供している(過去記事1, 2, 3, 4)。P&S Intelligenceが公開した最新の報告によると、この精密医療市場は2030年までに7388億ドル規模に成長するとしている。 P&S Intelligenceによる29日付ニュースリリースによると、世界の精密医療市場は2020年から2030年の間、CAGR 12.1%の急激な成長を見込むという。COVID-19のパンデミックは成長ドライバーとして重要な要素となっており、個別化された効果的な治療法への需要が急速に高まったことに言及している。実際、関連領域の研究開発は日々加速をみている。また、同レポートでは「今後数年間で、精密医療市場で最高のCAGRを記録するのはアジア太平洋地域」としており、領域における政府および民間資金の増加、医療インフラの改善、購買力の高まりが市場を推進するとのこと。 歴史的には、がん・心血管疾患・糖尿病・高血圧など、慢性疾患および生活習慣病の罹患率が高く、巨大な可処分所得を抱える北米が最大の精密医療市場であった。AIに関する高水準の技術ホルダーは、国・地域・組織規模を問わず散見されるようになり、技術が新たな医療需要を地域に創出する例もみられるようになった。日本発の取り組みが世に示され、アジアの成長を牽引することにも期待したい。

COVID-19画像診断の機械学習モデルは臨床レベルに達していない?

COVID-19を機械学習モデルによって胸部X線やCTから診断・予後予測する研究は、2020年に大量に発表された。しかしケンブリッジ大学を中心とした研究チームは、それら論文にはバイアス・再現性の欠如・不適切なデータセット利用といった理由から、臨床利用に適したものは乏しいと主張している。 ケンブリッジ大学のリリースでは、学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された「COVID-19画像診断の機械学習モデル研究に対するシステマティックレビュー」を紹介している。検索された同領域2,212件の研究論文のうち、タイトルと抄録から415報へ絞り込まれ、フルテキストで抽出された320報のうち、最終的には62報が採用基準を満たしてレビューに含まれた。精査の結論として、これら62報の多くには方法論上の欠陥あるいは根本的なバイアスという共通の落とし穴があり、臨床利用できる可能性が乏しいと研究グループは主張する。欠陥の一例には、機械学習のデータセットとして「非COVID-19群」に子どもの画像を使用し、「COVID-19群」では大人の画像を使用しているといった、大きな偏りが生じている研究もあった。またいわゆる「フランケンシュタイン(つぎはぎ)データセット」というような、複数のデータセットを組み合わせた結果による深刻なデータの重複問題もみられる。 研究チームでは「多くの欠陥が見つかるものの、重要な修正を加えれば、機械学習モデルはパンデミックに立ち向かうための強力なツールになる」と述べて、その潜在的な有効性には十分な期待を示す。「より質の高いデータセット使用」「再現性と外部検証を支える適切なドキュメントの付与」が、機械学習モデルの臨床利用を確立するための必須事項となることは変わらない。

多発性硬化症とベイジアンネットワーク

多発性硬化症は中枢神経における代表的な脱髄疾患だが、いまだ発症原因が明らかにされておらず、我が国でも厚生労働省が定める指定難病に該当する。過去数十年において、欧州・米国でも有病率の単調増加を認めており、神経内科領域の重要疾患と言える。近年は多発性硬化症に対するAIアプローチ研究が盛んとなり、研究者コミュニティは当該疾患に関する種々の問題解決の緒を機械学習によって捉えようとしている。 ベイジアンネットワークは多変数間の因果関係をネットワーク構造で視覚化し、任意の変数に対する条件を付与した際の他変数への影響として条件付確率を推論することができる。ベイジアンネットワークは多彩な確率シミュレーションを行えること、変数間の非線形性や非ガウス性、交互作用なども取り扱える柔軟なモデリングが特徴となる。ロンドン大学クイーンメアリー校の研究チームは、このベイジアンネットワークが多発性硬化症研究に有用である可能性を考え、詳細な文献レビューを行った上でその結果を報告している。 Computers in Biology and Medicineにこのほど掲載されたチームの研究論文によると、抽出された90の関連論文のうち、半数以上が定量分析のための多発性硬化症病変の検出とセグメンテーションに焦点を当てたものだという。研究チームは「リスクファクターの探索や発症予測という研究テーマが多分に見過ごされている」ことを指摘し、現行の疫学調査手法によるリスク測定の限界を克服するため、ベイジアンネットワークの活用が有効である可能性、およびこれによる既存観察データの有効活用を推進すべき点を強調している。 なお、ベイズ論と頻度論の違いについてはこちらの動画に詳しい。関心のある読者は参照のこと。

コロナ禍の医療者を芸術でサポートする研究プログラム

パンデミック下の医療スタッフには「PPE(個人用防護具)着用」「ソーシャルディスタンス」「デジタル診療」といった新たな課題が突きつけられた。そこでは医療従事者が孤立感・離別感を感じたり、ニーズに応えられない葛藤も多々見られる。それらコミュニケーション上の課題に対して、芸術のスペシャリストたちによるアイディアやテクニックを駆使した研究プログラムが今、英国で行われている。 ロンドン大学クイーンメアリー校のリリースによると、同大学は芸術ベースのヘルスケア教育と専門家育成を行う団体「Performing Medicine」らと提携し、「COVID下のコミュニケーション:ヘルスケア専門職の非言語コミュニケーションを芸術教育で支援」という18ヶ月の研究プログラムを遂行している。プロジェクトでは世界トップクラスのアーティスト・俳優・振付師・ボイストレーナーらの協力によって、英NHS職員のコミュニケーション上の課題に対応するためのトレーニングとサポート法がデザインされるという。 同プロジェクトの共同研究者Paul Heritage氏は「世界中の人々がパンデミックへの対応で、芸術が果たすべき重要な役割を理解しつつあります」と述べている。かつては不可分であった医学と芸術・人文科学が、双方の見識とアイディアを再び組み合わせようとする意欲的な取り組みは、コロナ禍にどのような成果をもたらすだろうか。