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Innersight Labs – AIによる3Dモデルで外科医をサポート

英King's College LondonはAIホスピタル構想を強力に推進し、London Medical Imaging and AI Centre for Value Based Healthcareでは、国民保健サービス(NHS)との連携により医療画像を中心とした多彩なAI研究を展開する。同センターとパートナーシップを締結し技術提供を行うInnersight Labsは、独自の3D解剖モデルによって外科医の手術支援を行っている。 King's College Londonの6日付ニュースリリースによると、Innersight Labsが開発したInnersight3Dは、CTおよびMRI画像からインタラクティブな3D解剖モデルを構築できるAIソフトウェアで、既に複数の臨床導入を実現しているという。実際の構築済み3Dモデルはこちらから参照できる。サンプルは腎臓周囲の構造を示すが、血管走行や臓器間の位置関係などをあらゆる方向から観察することができ、事前の手術計画をより詳細かつ効率的に立案できることが分かる。 Innersight Labs CEOのEoin Hyde氏は「新型コロナウイルス感染症による危機拡大により、一部のがん手術は数ヶ月単位で延期され、この期間に腫瘍サイズは2倍になる可能性さえある。この深刻な遅れは手術の複雑化をきたし得るが、Innersight3Dは外科チームの行う手術治療を最適化するための豊富な情報を与え、困難を克服する手助けとなる」とし、COVID-19によってもたらされた「preventable deaths」(防ぐことのできる死)への現実的な対抗策ともなることを強調する。

アフターコロナの英国眼科検診はAIスクリーニング「EyeArt」でコスト削減へ

英国NHSでは糖尿病患者の網膜症をスクリーニングするため、年1回の眼科検診プログラム(DESP: Diabetic Eye Screening Programme)が設置されている。DESPではAIソフトウェアによる自動網膜画像解析システム(ARIAS: automated retinal image analysis systems)のひとつ「EyeArt」の評価が行われ、研究成果は学術誌 British Journal of Ophthalmologyに発表された。 EyeArtの開発元Eyenuk社のプレスリリースによると、同社の技術によってDESPに関わる人間の作業量は半減し、英国内で年間数百万〜1千万ポンド以上のコスト削減が見込めるという。網膜損傷の自動検出は、専門家への紹介が必要なレベルで95.7%の精度、視力低下につながるような重篤なレベルでは100%の精度をうたう。スクリーニング検査の大半は異常の兆候なし・追加処置不要となり、人間の評価者が診断するべき画像の数は、十分安全な範囲として全体の半数に削減可能であると研究成果から示された。 英国ではCOVID-19拡大に伴うロックダウンの影響から、眼科検診予約の未処理・積み残しが多数発生している。そのような過剰負荷となっている医療システムの正常回復へ、EyeArtのようなARIAS技術の貢献が期待されている。医療資源の不足が問題とされる諸国においても、視力低下を回避するための糖尿病患者の眼疾患スクリーニングの重要性は増しており、英国型のプログラムが世界に展開された場合、2030年には年間20億万枚の画像チェックが自動化される試算がなされている。

オランダ・アイントホーフェン空港内にCOVID-19検査施設がオープン

アラブ首長国連邦・ドバイに本拠を置くEcolog Internationalは、アイントホーフェン空港内にCOVID-19テストセンターを開設することを発表した。このセンターでは、飛行機の搭乗者だけでなく、市民・居住者までを対象としたPCRの実施施設となり、デジタルプラットフォームを活用した高度な最適化システムに注目が集まっている。 Ecolog Internationalが3日公表したところによると、本施設は同社のEco-Care Solutionに基づくもので、既にルクセンブルクへの導入ではCOVID-19の国家的検査体制の構築に役立てられているという。検査プロセスはワークフローにとって高度に最適化されており、検査希望者はDas-Labアプリを介した予約登録とスケジュール確認が可能であるほか、検査結果はセキュアなプラットフォーム上で迅速に確認することができる。 Ecolog International CEOのAli Vezvaei氏は「アイントホーフェンでCOVID-19のテストサービスを提供し、スクリーニングと診断ソリューションで人々の安全に貢献できることを誇りに思う。第二波リスクを最小限に抑え、さらなる経済的・社会的被害の回避に役立つだろう」とする。

COVID-19の第二波対策として求められる「遠隔医療の拡充」

フロリダアトランティック大学ビジネスカレッジの研究チームは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う遠隔医療の重要性が特に高まっている一方、その導入は米国内において地域差が非常に大きいことを示し、第二波に備えた地域的拡充の必要性を訴えている。 The Journal of Rural Healthに短報として公表されたチームの研究論文によると、American Hospital Association(AHA)が有する3,268の急性期病院データベースに基づき、今回の調査を行ったという。米国内の病院における遠隔診療システムおよびeICU(集中治療室を病院間でVPNによって繋ぐもの、フィリップスが展開する)の実装を目的変数として、組織的要因や人口、地域性などのうち、何が有意な説明変数となるかをロジスティック回帰分析を用いて解析した。結果、遠隔医療の提供体制構築には地域差が大きいこと、特に遠隔診療システムについてはより地方に所在する病院ほど、広範な導入につながることを明らかとした。 研究チームは「COVID-19によって大きな打撃を受ける地域は、遠隔医療機能をさらに拡張する必要性がある」ことを指摘する。COVID-19の感染拡大に脆弱なのは、必ずしも医療リソースの乏しい地域だけではなく、都市部においても医療的オーバーフローを見越したバックアップシステムとしての遠隔医療機能の拡充が欠かせないとする。日本国内においても第二波の兆しが見え隠れするなか、医療崩壊を免れるには適切な体制評価と見直しが欠かせず、ここでは「遠隔医療」が重要なキーワードとなることは間違いない。

妊娠高血圧腎症を血中RNAの機械学習で早期診断へ

preeclampsia:子癇前症(しかんぜんしょう)は、妊娠に伴う高血圧で発生し、痙攣や意識障害を起こす子癇のリスクが高い状態を示す。疾患の定義が曖昧との指摘から日本国内では「妊娠高血圧腎症」として主に呼称されている。同疾患を、妊娠中の母体の血液中に放出されるRNAから機械学習手法によって分類する研究が学術誌Science Translational Medicineに発表されている。 Medical Xpressでは、遺伝子解析装置を手がけるイルミナ社の研究者を中心として行われた同研究を紹介している。妊婦血液から機械学習手法によって高リスクの妊娠と関連するRNA転写物を49種類同定し、早期発症の妊娠高血圧腎症患者を85-89%の精度で分類することができた。 妊娠20週目以降に症状を伴って診断されることが多い妊娠高血圧腎症については、その後の持続的な悪影響に対処するため早期診断が望まれていた。今回の新しい取り組みによって、特定が難しいとされてきた妊娠高血圧腎症の早期リスク診断と発症予測が可能になることを同研究グループは期待している。

心臓のデジタルツインでカテーテルアブレーションを革新 – 仏 inHEART

心臓のリズム障害・不整脈は突然死の原因として積極的な治療の対象となりうる。治療法として薬物、ペースメーカー、そして近年では血管内を通じたカテーテルによる心筋の焼灼(アブレーション)で電気的な伝導路を調整する技術が急速に普及している。フランス発のスタートアップ「inHEART」は不整脈に対する手術前に心臓の仮想コピーモデルを3Dデジタルツインとしてクラウド環境に画像構築するソフトウェアを提供している。 inHEARTの2日付プレスリリースによると、同社は370万ユーロ(約4.5億円)の資金調達を発表し、欧州での商業開発と米国市場への進出などに資金を充当させるという。inHEARTの技術で構成されるデジタルツインは、心臓専門医の手術計画を支援し、手術器具の心臓内でのナビゲーションとなり、手術時間と治療不成功を減少させる。研究成果は同社のPublicationsから確認でき、学術誌Journal of Interventional Cardiac Electrophysiologyには画像統合型カテーテルアブレーションで手術時間の約30分短縮に貢献したことなどが発表されている。 inHEARTの技術は40施設・2000人以上の患者に使用され、専門家から支持されている。カテーテルアブレーションの安全性と効果を高める手法として、同様の技術は一層普及してゆくだろう。心臓電気生理学の市場は年50億ユーロ(約6000億円)として、inHEARTのCEOであるJean-Marc Peyrat氏は「主要プレーヤーであるヘルスケアの巨人企業と同じ野心を共有している」と語った。

米2大放射線学会「自律型AIの実装ストップ」を連邦政府に要請

米国の2大放射線学会である米国放射線学会(ACR)と北米放射線学会(RSNA)は共同し、「自律的に動作するAIアルゴリズムの追求を慎むよう」連邦政府に求めている。 Radiology Businessが1日報じたところによると、2団体の連名で米食品医薬品局(FDA)に火曜日送られた書簡の中で、現在のFDA体制とチェックシステムにおいては「自律型AIによる画像解析技術を正しく評価し、監視することができない」ことを指摘したという。この種のアルゴリズムを追求するのであれば、置き換え対象となる医師と同等の効果・安全性があることを一般市民に対して保証する必要があり、現時点での実装は極めて時期尚早である点を強調する。 ただし、これらの団体は「AI利用自体は有効」と捉えており、特に診断のない潜在的な慢性疾患の検出と管理に役立てることは、集団の健康管理に非常に有効と評している。また、将来的に適切な手順さえ怠らなければ「自律型AIを放射線治療に導入することさえ価値がある」ことも付記している。

デジタルリサーチプラットフォームのOwkin – 新たに1800万ドルの資金調達

研究者向けAIプラットフォームで知られるOwkinは、Mubadala CapitalやBpifranceなどから新たに1800万ドルの資金を調達したことを公表した。患者情報をローカル施設内に留めたままグローバルデータセットを構築できる同プラットフォームでは、多彩な研究コラボレーションが実施可能となり、新たな「医学研究エコシステム」の構築に大きな期待が集まっている。 Owkinの公表によると、今回の資金調達は本年5月に行われた2500万ドルの調達に続くもので、これによって2016年創業の同社は計7300万ドルを得たこととなる。追加資金は導入地域の拡張に主として充てられ、ドイツなどEUの一部地域や中東各国を主要なターゲットとしている。現在新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、関連した多数の臨床研究も同プラットフォームを活用して進められている。 一例として、ポルトガル・フランス・スペイン・オランダといった国々において、新型コロナウイルス感染症患者が重篤化するか否かを、CT画像から予測するモデルの構築を目指すものなどがある。Owkinは現在、製薬企業による技術利用やデータアクセスを有償で進める一方、アカデミアやそれに準ずる医学研究機関に対してはサービスを無償で提供している。

「救命救急で重大な4つの頭部CT所見」の診断AIで米FDA承認 – Qure.ai

画像診断AIスタートアップQure.aiが、胸部X線のAI診断システム「qXR」でインドの結核診断に取り組む様子を以前に紹介した(過去記事)。同社が展開する画像診断AIのラインナップでは頭部CT向けのツールも注目されている。 Qure.aiの6月30日付プレスリリースによると、頭部CTのAIツール「qER」で救命救急領域向けに4つの重大な異常を検出する機能で、米国FDAの承認取得を発表した。AIでトリアージされる4つの異常は、1.頭蓋内出血 2.マスエフェクト(血腫などによる脳組織の圧排効果) 3.ミッドラインシフト(脳組織の圧排で正中線が偏移する所見) 4.頭蓋骨骨折である。 qERの理論的背景は2018年にThe Lancetに掲載されており、そのディープラーニングアルゴリズムは広範な検証を経てきた。米国では年間7500万回以上のCTスキャンが行われ、1万人以上が救急外来ERから離れた7日以内に死亡しているといわれる。そういったなか、ERにおける診断時間短縮と精度向上に高品質なAIツールが求められている。業界初をうたう同時4機能、4-in-1のFDA承認は、患者の人生を変える貴重な診断プロセス短縮を救命現場にもたらすだろうか。

英国NHS – がん検出のための病理AIを臨床導入へ

病理AI開発で知られるIbex Medical Analyticsと、英国民保健サービス(NHS)に対してデジタル病理サービスを提供するLDPathは、臨床グレードのAIシステムとして初めて英国NHSにおける大規模展開を始めることを公表した。 Ibex Medical Analyticsが6月30日公表したところによると、Ibexが誇る前立腺がん検出AIを英国内に展開し、病理医の診断精度・効率の向上を目指すという。英国中のNHS病院に病理組織画像システムやレポートサービスを提供するLDPathのネットワークを活用し、IbexのGalen Prostateプラットフォームを病理ワークフローに統合することとなる。 英国では病理医の数が非常に限られており、前立腺生検によって得られた組織サンプルは宅配業者を使って専門医に配送し、診断が行われることも多い。過度なリソース不足は深刻な診断の遅れを招いており、現在は社会問題としても扱われる。CEマーク認証も取得済みの同AIシステムは、国民の切実な想いに向き合おうとしている。

てんかん発作の脳波検出精度を高めるAI研究 – ワシントン大学

神経疾患である「てんかん」では、脳神経細胞の電気的な異常興奮により、痙攣をはじめとした諸症状を引き起こす。近年、脳波(EEG)によるてんかん発作の検出と予測に関して、AIの利用価値に注目が集まっている。ワシントン大学を中心とした研究グループによる「てんかん発作の脳波検出精度を高める機械学習技術」が学術誌 Scientific Reportsに発表されている。 ワシントン大学のニュースリリースによると、同研究では、23個の電極から取得される脳波に機械学習を適用し、てんかん発作の検出精度を高めたという。単一の脳波だけを見るのではなく、脳の各領域同士の相互作用を考慮することで効率的な計算処理が可能となり、発作の検出率は93.6%を達成している。 てんかん発作は、投薬や手術によって7割ほどがコントロールできるといわれる。しかし一部には難治性の患者が存在し、発作の個人差が大きいことから、その検出と予測は重要な課題とされてきた。同様の研究を通して脳機能ネットワークへの理解が進むことにより、発作の個別性に対応した臨床応用が期待されている。  

英PrecisionLife – 重篤なCOVID-19発症に関連する68の遺伝子を特定

英国に本拠を置くPrecisionLifeの科学者たちは、独自のAIプラットフォームを利用し、重度のCOVID-19発症に関連する68の遺伝子を特定した。バイオマーカーによる高リスク群の識別や、薬剤化し得る標的タンパク質と経路も示されており、COVID-19への抜本的対策を加速させる可能性がある。 研究チームが公表したプレプリント論文によると、新型コロナウイルス陽性で入院加療を要した976名の患者に対し、独自AIプラットフォーム上において遺伝子間相互作用(エピスタシス)を考慮したゲノム解析を加えたところ、68のタンパク質コード遺伝子にCOVID-19発症との高度な関連がみられたという。また、少なくともそのうちの9つについては、既に第I相臨床試験に達した薬物の標的となっていたとのこと。 PrecisionLifeは、利用したデータセットが英国白人に偏っていることを明言している。バイアスを排した強固なエビデンスを得るには、多様な背景の患者を加えた大規模な調査に結びつける必要があるが、今後世界各国における追試験が進むことも期待される。

Helfie.ai – 太陽を愛するオーストラリア人は皮膚がんをAIスマホアプリでセルフチェック

紫外線量の多さや人種要因もあり、オーストラリアは皮膚がんの好発地域として知られる。同国メルボルンを拠点として開発されたAIスマホアプリ「Helfie.ai」は、皮膚のほくろ・しみを撮影して病変リスクを分類する。 豪メディア 9Newsでは、アプリ開発を行った共同創業者であるNick ChangとMatthew Jonesにインタビューを行っている。同アプリでは、AI画像解析によりメラノーマ(悪性黒色腫)をはじめとした異常を識別し、皮膚病変のリスクをhigh・medium・lowとして評価する。結果を医師に転送し診断を受けることもできるほか、アプリ上でのチャットによる直接相談も可能とする。診断を担当する医師へ画像を送信した際、ユーザーが支払うコストは3ドルとなる。 一方で、皮膚がんの自己診断アプリを推奨しない専門家も少なくない。現状ではアプリでリスクチェックをした場合、GP: General Practitioner(初期診断を担当する一般開業医)への受診機会を設けて、皮膚科医への紹介を受けることが望ましい。皮膚がん早期発見へのアプリ利用は、ビクトリア州政府も支援する姿勢を示している。

東京工科大学 – がん幹細胞を識別するAI技術を開発

がんの発生起源において、正常細胞と同様に自己複製や様々な細胞に分化できる「がん幹細胞(CSC: cancer stem cells)」が関わると考えられている。近年、がん治療の重要な柱として応用が進む分子標的治療も、CSC研究を基礎とする。そのCSCを幅広く利用するため、CSCに特徴的な細胞形態を画像から評価する手法が模索されている。 東京工科大学の17日付プレスリリースによると、同大の研究グループは、がん幹細胞と非がん幹細胞を識別するAI技術を開発したことを発表している。ディープラーニング技術を基礎として、培養細胞またはがん組織の位相差顕微鏡画像に写るがん幹細胞の細胞形態をAIが識別して明示することができたという。 同研究は、東京工科大学が全学で取り組む「人工知能(AI)研究会」によるもので、研究成果はオープンアクセスの学術誌 Biomoleculesに掲載されている。特別な標識をされていないCSCをAIが検出できる可能性が示され、今後はCSCの存在を指標にする分子標的治療薬の評価や、病理組織診断などへの応用が期待される。

Agamon – 医療文書を構造化するAI技術

イスラエルの医療AIスタートアップであるAgamonは、独自のAIソフトウェアによって医療文書を構造化データに置き換えることで、容易なレポート解析の実現を目指している。 イスラエルのニュースメディア NoCamelsの報道によると、Agamonは先週、MMC Venturesが主導する同社のシードラウンドにて300万ドルの資金調達を行ったという。AgamonのAIソフトウェアは、高度な自然言語処理技術により、医療者が自由記述した医療文書を構造化データに置き換えることができ、データベースに自動蓄積することで患者の適切なフォローアップに繋げられるという。この技術は既に、米国・イスラエル・英国の複数の病院で実臨床利用されている。 今回の調達資金によってAgamonは、サービスのグローバル展開を加速させるとともに、更なるAIアルゴリズムのトレーニングを通した臨床スペクトルの拡張を狙うという。同社CEOのMichal Meiri氏は「臨床ワークフローにおいて自由記述欄は非常に効果的だが、作成後にコンピュータを用いた治療効果判定や経過フォローアップの自動化を行うことは非常に難しい。我々のAIソリューションにより、正確かつ迅速に臨床レポートを読み取ることができる」と自信を示す。 日本において同等の技術開発を進めるTXP Medicalへの取材記事も参照頂きたい。

イヌの血液検査にもAI診断を – 米UC Davisの獣医学応用

動物自身は症状を言語で訴えることはできない。獣医師が日常的に利用する各種検査で、診断の助けとなるAI技術を導入する動きがある。カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の獣医師らは、イヌのアジソン病(副腎皮質ホルモンの機能低下)を血液検査から機械学習アルゴリズムで診断する研究成果を学術誌 Domestic Animal Endocrinologyの2020年7月号に発表している。 米国の獣医学会(AVMA)のニュースリリースでは同研究を紹介しており、UC Davisではイヌの血液検査からアジソン病をAUC99%以上の精度で診断できる機械学習アルゴリズムを開発しているとする。アジソン病のイヌは獣医師にとって診断が難しく、血液検査を行ったとしても、消化器・腎臓・肝臓などの疾患にも解釈できてしまうという。症例経験の乏しい獣医師でもアジソン病のスクリーニングが容易に行えるようになることを研究グループは期待している。 同研究グループのKrystle Reagan博士は、ヒトと同様にイヌも感染するレプトスピラ症の診断にも応用範囲を広げて研究している。UC Davisでは医学・獣医学・看護学など垣根を越えた学術的コラボレーションが可能なデータサイエンスとAIの研究センター(CeDAR: Center for Data Science and Artificial Intelligence Research)が設置されている。これらの研究はイヌの命を救うだけではなく、人間の医療にも橋渡しとなる大きな可能性があり、今後の動向にも注目したい。

声無き声を聞き分ける – 肝細胞がんの予測モデル

肝細胞がんの主要な発生要因は、B型あるいはC型の肝炎ウイルスによる持続感染である。一方で「沈黙の臓器」とも呼ばれる肝臓は、初期の悪性腫瘍による自覚症状をほとんど引き起こさない。エジプト・カイロ大学などの研究チームは機械学習を利用し、C型慢性肝炎に伴う肝細胞がんの予測モデルを開発した。 Computer Methods and Programs in Biomedicineに掲載されたチームの研究論文によると、4,423名のC型慢性肝炎患者からなるデータセットを用い、肝細胞がんの存在を予測するための重要なパラメータ特定と実際の予測モデルの構築を行ったという。結果的に年齢・AFP・ALP・アルブミン・総ビリルビンが肝細胞がんの存在と統計学的に関連することを示し、予測モデルではAUCで95.5-99%と高い識別精度を導いた。 肝細胞がん患者において良好な予後を得るためには、早期発見と早期治療介入が欠かせない。がんの進展が局所に留まる小さなものであれば、手術や肝移植による治療で治癒を望むことができる。肝細胞がんのハイリスク者と言える「C型慢性肝炎患者における高精度なスクリーニング手法の開発」は、患者・医療者にとっての大きな助けとなる。

機械学習による「せん妄」予測

オーストリアの研究チームは、急性の意識障害である「せん妄」を予測するため、機械学習を用いた予測アルゴリズムの構築に取り組んでいる。 Studies in Health Technology and Informaticsに23日公開された論文によると、既存のせん妄スケールであるConfusion Assessment Method(CAM)およびDelirium Observation Screening Scale(DOSS)の測定項目に基づき、効果的にせん妄を検出するための機械学習アルゴリズムを構築したという。複数のモデルによる検討を行ったところ、典型的な不均衡データセットであったにも関わらず、ランダムフォレストによって十分に高い予測精度が導かれたとのこと。 せん妄は高齢者によくみられる一過性の意識障害で、入院中に突然暴れだすなど適切な治療への深刻な妨げとなることもある。早期のリスク検出は安全確保と治療予後改善の観点から重要となるため、高い精度と実用性を兼ね備えた臨床スケールが求められている。

皮膚がん診断はヒトとAIが協働するのが最適か – Nature Medicine より

AIが医師の意思決定を支援することが徐々に浸透してきたが、そのパフォーマンスや臨床医がどのようにAIと付き合うべきか検証した研究はまだ少ない。「皮膚がんの診断でAIが臨床医を支援することが最も好ましい診断精度を達成できる」という可能性が、豪クイーンズランド大学を中心とした国際研究チームから学術誌 Nature Medicineに発表されている。 クイーンズランド大学のニュースリリースによると、同研究では色素性皮膚病変を診断する畳み込みニューラルネットワークが医師の意思決定を支援するパターンについて比較されている。その結果、質の高いAIが医師の臨床的意思決定を支援することが、AI単独や、あるいは医師のみでの診断よりも精度を向上させることが示された。また、経験の少ない臨床医がAI支援の利益を最も得られることも明らかとなったという。一方で、欠陥のあるAIは専門医にまで誤解を与える可能性も言及されている。 クイーンズランド大学のMonika Janda教授は「将来の臨床医にとっては、AIを用いたスクリーニングや診断サポートが日常的なものになることを意味しています」と語る。これまでの研究の多くは「AIが専門医レベルの診断精度に達するか」に主眼を置く一方、本研究は現実的な「AIの臨床活用のあり方」を踏まえた検討を行っている点で新規性がある。今後は、本研究のように臨床現場のワークフローを想定した改善効果を検証するものが存在感を増してくるだろう。

韓国VUNO – 5つの医療AIソフトウェアでCEマーク認証を取得

韓国で医療AIソフトウェア開発を行うVUNOは、5つの製品でCEマーク認証を取得した。これにより、27のEU加盟国、および中東・アジア・中南米・アフリカなどのCEマークが認められる国々への商業展開が可能となった。 VUNOが24日公表したところによると、今回認証を取得したのは、VUNO Med - BoneAge、VUNO Med - DeepBrain、VUNO Med - Chest X-Ray、VUNO Med - Fundus AI、VUNO Med - LungCT AI の5つの医療画像解析ソリューションであるという。同社の多岐に渡る臨床研究成果が、CEマークの定める厳しい要件をクリアする足がかりとなった。 VUNO CEOのHyun-Jun Kim氏は「5つ全ての製品についてCEマーク認証を取得することが非常に重要であり、これによってVUNO Medシリーズのグローバルな供給を加速させることができる」とする。VUNOはエムスリーとの提携を通じた、日本国内での販売計画も明らかとしており、今後の動向にも大きな注目が集まる(過去記事)。

RSIP Vision – 超音波検査用のAIモジュールをセットで提供

医療画像へのAI技術を幅広く展開する RSIP Visionは、イスラエルから米国へと事業を拡大してきた。同社は22日、超音波検査用のAIアプリケーションをセットで提供することを発表している。 RSIP Visionのニュースリリースによると、同社のAIベースの超音波用モジュールセットには、各医療領域での自動診断・測定・体積推定・術中ガイド機能などが含まれる。一例として、泌尿器科領域での前立腺がんに対する超音波ガイド下の針生検では、生検手順をリアルタイムでAIがガイダンスしたり、悪性所見が疑われる部位と正常組織を境界に分けて提示することができる。また、循環器領域での心臓超音波では、それぞれの心室を自動で境界分けして、駆出率(EF)などの重要な測定を自動化したり、弁や壁運動を評価し分類することができる。 超音波検査は、比較的低コストで侵襲が少ないため、多くの臨床分野で好まれる検査法である。一方で検査担当者への技術的な依存度が高く、結果の解釈の差について課題とされてきた。近年、AI技術ベースで超音波検査を一部自動化して均質化と迅速化を図ることは大きなトレンドとなっている。心エコーのAIガイドシステムでFDA承認を得たCaption Health(過去記事)のような競合についても参照いただきたい。

2026年までに医療AI市場は452億ドル規模へ

2020年段階で49億ドルと推算される医療AI市場は、2026年までに452億ドル規模までの急激な成長を見込んでいる。これは年平均成長率(CAGR)で実に44.9%にもあたる。 Research and Marketsの調査によると、このように急激な市場の成長を牽引する要因は、医療データの増加やデータセットの複雑さの加速、そもそものコンピューティング機能の改善といった技術的向上を背景とした需要の増加が主となる。他には、高騰を続ける医療コストの削減が急務であり、医療AI導入による医療経済システムの適正化に期待が大きいこと、業界を超えたパートナーシップが多くみられるようになり、資金の流入が加速していることもある。また、COVID-19の感染拡大は、世界中の製薬およびバイオテック企業を医療AIの活用へと走らせた背景もある。 同レポート内では市場力学における抑制因子として、1. 医療従事者間でのAI技術への抵抗感 2. 専門人材の不足 3. 曖昧な法規制 を挙げており、今後の医療AIにおける主要な解決課題を浮き彫りとしている。

COVID-19早期発見をスマートリストバンドから – Empatica社

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ発のスタートアップ Empaticaが開発した、スマートウォッチによるてんかん発作監視技術を以前に紹介した(過去記事)。同社のスマートリストバンド「E4」は皮膚末梢温度・心拍数・呼吸数などのリアルタイム情報を解析し、臨床症状が現れる前であってもCOVID-19感染パターンを特定する検証研究へ応用範囲を広げている。 Empaticaのニュースリリースによると、同社のCOVID-19早期発見システム「Aura」について、米国保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA: Biomedical Advanced Research and Development Authority)と検証研究での協力を発表した。医療従事者を観察対象としたシステムによるモニタリング結果を、日々行われているPCRのようなスワブ検査結果と比較しながら、アルゴリズムの検証と精度強化を行う。 システムはFDA承認を目標としており、医療製品として市民が通常生活に戻る手助けとなることを期待している。呼吸器感染リスクが高いかどうか毎日通知され、自宅で安静にしたり、人との接触を避けたりする判断を補助する役割を果たす。新型コロナウイルス感染の35%が無症状であるという米CDCの推計もあり、無症候感染者の早期発見はひとつの公衆衛生対策として鍵を握るだろう。

GE Healthcare – 胸部レントゲン写真から異常を検出するAIシステム

米国に本拠を置くGE Healthcareは、胸部レントゲン写真から異常影を検出する新しいAIシステムをリリースした。根幹となるAIアルゴリズムには韓国のスタートアップLunitが開発したものが用いられる。 GE Healthcareのプレスリリースによると、胸部レントゲン写真から主要な8つの病変を識別するAIシステムである「Thoracic Care Suite」では、異常結節や結核、心拡大、縦隔拡大、COVID-19を含む炎症所見などを適切に識別することができるという。同システムに関する研究では、97-99%の識別精度を示すとともに、放射線科医による読影時間を約3分の1に短縮できることを明らかにした。 Lunitは画像解析AIの開発に優れた技術を持ち、昨年11月にはCEマークを取得するなど、国際的に高い評価を受ける。同社のアルゴリズムは現在、韓国国内だけでなく、中国やタイ、メキシコ、アラブ首長国連邦において実臨床利用が既に行われている。

台湾Deep01 – Asus主導のラウンドで270万ドルを資金調達

医療画像に対するAIソリューションで知られる台湾スタートアップのDeep01は、世界的電子機器メーカーであるAsusTeKが率いるラウンドにおいて、270万ドルの資金を新たに調達した。 Tech in Asiaは22日、この資金調達ラウンドについて報じている。2016年に設立されたDeep01は、CT画像の解析AIを代表的プロダクトとしており、同社アルゴリズムは脳出血について93-95%の識別精度を有する。2019年には米食品医薬品局(FDA)の認証も取得しており、アジアの医療AI開発を先導する存在としても注目を集める。 Deep01のAIシステムは現在、台湾における6つの医療機関に臨床導入され、主として救急の場における画像読影をサポートしている。

アクションゲームがADHD向けデジタル治療としてFDA認証を取得

米食品医薬品局(FDA)は先週、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の治療を目的としたゲーム「EndeavorRX」について、デジタル治療として承認することを公表した。同ゲームはAkili Interactiveが開発したもので、ADHD患者に対する長期間の臨床試験を経てその有効性を示してきた。 FDAの公表によると、600人以上のADHD診断済みの児童に対して行われてきた複数の臨床試験の結果を踏まえ、今回の承認に至ったという。注意機能の改善が期待される同ゲームは今後、医師による処方としても患者に提供されることとなる。 ゲームベースで構築された治療法が、特定疾患に対してFDAの承認を受けるのは初めてで、今後同等の研究開発計画が加速することも予想される。成長分野として多大な期待を受ける「デジタル治療」における新たな旗手となるか、注目が集まっている。 なお、Akili Interactiveによるアナウンスはこちら。無作為化比較試験(RCT)の結果はThe Lancet Digital Healthにて公開されており、無料で全文を読むことができる。

韓国Vunoとエムスリー – 日本国内での胸部CT診断支援AIの販売へ

韓国で医療用のAIソフトウェア開発を行うVunoは、医療情報サービスのエムスリー(M3)を通じた日本市場への参入計画を明らかにしている。 韓国の日刊紙 The Korea Heraldが18日に報じたところによると、Vuno社の胸部CT診断支援システム「LungCT AI」が日本国内での販売許可を取得し、エムスリーがその配給を行うという。肺の結節病変を検出・報告する同システムは、充実性結節で感度100%、すりガラス状結節で感度97.3%、過去1万件のCTで「未検出だった肺結節」を3%検出したスクリーニング性能をうたう。 Vuno社は胸部CT診断AIの他にも、胸部X線・眼底検査・認知症などの診断システムを提供している。それら技術に関する研究報告はVuno社のPublicationsで閲覧可能である。エムスリーは海外との医療AI関連事業の提携を多方面で進めており、中国アリババとの共同開発については過去記事を参照いただきたい。

50歳以上が直面する健康格差に立ち向かうプロジェクト – 米ハワード大学とAARP

米国 AARPは50歳以上を入会要件とした、約3800万人の会員数を擁する米国最大級の非営利・超党派団体である。かつては定年退職後の生産的な老後生活を支える目的の協会であったが、現在では退職後に限らず、壮年以降の高齢者の社会問題に取り組んでいる。同団体は米ハワード大学と提携して、高齢者が直面している健康格差に取り組む2つの臨床試験を実施している。 ハワード大学のニュースリリースによると、2つの臨床試験として「糖尿病管理と服薬状況の改善」「健康問題を抱えた人たち同士をつなげるオンラインコミュニティ」が実施されている。新型コロナウイルスのパンデミックによって、高齢者・慢性疾患患者・医療アクセスが不十分なコミュニティでの圧倒的な重症化および死亡リスクが浮き彫りとなった。2つのプロジェクトはこれら地域社会のヘルスケアを向上させる目的を有する。1つ目の糖尿病については、顔認証技術から投薬を促す音声優先型の技術。2つ目のオンラインコミュニティでは高血圧・心血管疾患・遺伝性疾患・がん・神経変性疾患などを対象として、社会的なつながりを向上させる。 AARPとハワード大学は問題解決のために、モバイルアプリ・医療用センサー・ARとVR・AI・ウェアラブルデバイス・顔認証と音声認識・データ解析といったあらゆる先端技術を用いるという。COVID-19をきっかけとして立ち上がったプロジェクトによって、最も弱い立場にあるコミュニティへ最も革新的な手法を届けるという取り組みが今後どのような成果を発揮するか注目したい。

ネット情報からCOVID-19アウトブレイクをリアルタイム予測

インターネット上の情報に基づき、COVID-19のアウトブレイクをリアルタイムに予測する機械学習アルゴリズムの開発が進む。中国の研究チームによるこの成果は、プレプリント論文としてArXivに収載されている。 チームの研究論文によると、中国最大のインターネット検索エンジンである百度(Baidu)におけるCOVID-19関連検索アクティビティ、中国CDCによる公式レポート類、ニュースメディアのレポートアクティビティなどから、2日後の正確なアウトブレイク予測を行う機械学習アルゴリズムを構築したという。本アルゴリズムは中国各省における高い精度を確認しているが、他地域への拡張も容易に可能であるとし、政策における意思決定者を支援するツールとしての重要性を強調する。 COVID-19を巡り、プレプリントを中心に多くの独創的研究が日々公開されている。この難局にあっては研究の質を慎重に見定めながら、有効な知見の蓄積と活用を迅速に進めていかなければならない。プレプリントに関する前提知識としてこちらも参照頂きたい。

BioSerenity – COVID-19に伴う脳波異常を報告

フランス・パリに本拠を置くBioSerenityは、生体センサーを活用した遠隔診断・患者モニタリングソリューションを展開する研究開発型スタートアップとして知られる。このほど、同社の研究チームは「重症のCOVID-19患者において珍しい脳波が計測されている」とする研究結果を報告した。 Annals of Neurologyに公開されたチームの論文によると、COVID-19の一部重症患者において、説明のつかない精神状態の異常・意識消失・覚醒遅延・反応不良などがみられることから、探索的な脳波測定を行ったという。調査された26名の患者のうち5名の脳波には、前頭葉に定常的な異常発火を確認しており、これが中枢神経障害との関連を示唆するものであるとする。 本研究はケースレポートに近く、以後のさらなる知見集積が望まれているが、近年における生体センサーの利用拡大はこの種の新たな病態・病因の解明に繋がり得るメリットもある。BioSerenityは保有するデータを患者治療に活かすため、医療者への提供も検討している。