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MyHealthTeams シリーズBで約10億円の資金調達

米サンフランシスコのスタートアップMyHealthTeamsは、ベルギーに本拠を置く世界的製薬メーカーであるUCBなどから、シリーズBラウンドにおいて約10億円の資金調達を実施した。 MyHealthTeamsは、慢性疾患を持つ人々を対象としたソーシャルネットワークサービスで知られる。現在33のネットワークを提供し、多発性硬化症・過敏性腸症候群・血友病・うつ病など疾患は多岐に渡り、13の国々から200万人を超えるユーザーを抱える。ソーシャルネットワークを介した心理的サポートや日常生活上のアドバイス共有などだけではなく、AIを活用したユーザー個々の需要に応じた患者教育も提供する。 同社による発表のなかで、CEOのEric Peacock氏は「慢性疾患と生きることは、世界の半数の人々が直面する現実だ。我々のサービスは適切な情報の共有とサポートを通して、患者のより良い病状管理につなげることができる」と述べる。

医療AI研究を守るのもまたAI – メリーランド大学のサイバーセキュリティ技術提携

個人情報の宝庫である医療機関の患者データに、サイバーアタックの脅威が迫っている(過去記事)。メリーランド大学は、ボルチモア校(UMB)とボルチモア郡校(UMBC)の間で協定を結び、医療データと医療機器をサイバーアタックから保護するためにAIを活用することを発表した。 Healthcare Innovationの報道によると、ボルチモア校の医学知識と、ボルチモア郡校のサイバーセキュリティ技術を組み合わせることで、医療データの安全性を高める計画が進められる。同大学の大規模データセットから機械学習モデルを設計する際には、関連する医療デバイスとシステム上のセキュリティリスク自体をAIが発見するという。 「今後の臨床研究プロジェクトは、その一部にサイバーセキュリティを含むものでなければいけない」と、ボルチモア校の担当者は述べる。医療AI研究のためデータ収集するデバイスやシステムの経路が増えるほどに、セキュリティに抜け道が生じることも自明である。従来のセキュリティホール探索に限界が生じたとき、そこにもまたAI活用の余地があるだろう。

誤警報がオオカミ少年にならないために – アラーム疲労を防ぐAI

病院内は患者の状態をモニタリングする電子機器で満たされている。無駄で頻繁なアラームに晒された医療者には、重大な知らせを見逃したり、判断が鈍くなるような反応が起きる。その現象は、通称 ’Alarm fatigue’(アラーム疲労)と呼ばれ問題視されてきた。特に集中治療室(ICU)ではアラームが救命に直結するリスクも高く、看護師らのストレスが高まり、医療の質を低下させる可能性が指摘されている。 米メディアNBCの報道によると、集中治療室へAI導入が進む中、アラームの質が改善されて、患者と医療者の双方にメリットが生じている。既存の単純なルールにしか従えない監視システムは誤検出率が高かった。とあるICUでは平均90秒ごとのアラームに看護師が反応し、アラームの3分の2が誤っている状況にあった。FDAは2005-2008年の間にアラーム関連の問題で500人以上の患者が死亡したと警告している。それらアラーム疲労の影響もうかがえる状況をAIアシスタントが改善しつつある。 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)は、医療AIを推進する現場のひとつである。学習を受けたAIアシスタントは、偽の緊急フラグを無視して、確実性の高い警告を出す。また、既に起きている問題の緊急警告ではなく、重大イベントを事前に予測して通知するメッセージならば、事態を穏やかに受け取れる。同大学の救急医Christopher Bartonは「誤ったアラームが減少し、仕事が速く効率化されていると、病棟の看護師から肯定的なフィードバックを受けている」と語った。

中国電子科技大学 機械学習による外傷性脳損傷の生存率予測

中国のIT研究・開発と人材育成を牽引する電子科技大学は、外傷性脳損傷患者の生命予後を予測する機械学習アルゴリズムを構築し、古典的な統計モデルとの精度比較を行っている。 チームが学術誌Journal of Critical Careに公表する研究論文によると、22の機械学習モデルと、オーソドックスな統計的回帰モデルであるロジスティック回帰モデルを利用し、重症の外傷性脳損傷患者の生存率予測における精度を比較した。ロジスティック回帰モデルにおけるAUCが83%であったのに対し、機械学習モデルにおいては86.3~94%とより高い精度を示した。他指標においても機械学習モデルの優位性がみられていた。 外傷性脳損傷の予後予測モデルには臨床利用可能なものが複数提唱されているが、機械学習アプローチによる新しい予後予測がより有効である可能性が示唆される。過去記事からも、機械学習モデルを活用した「高齢者の予後予測」、「乳がん患者の予後予測」なども紹介しているのでご覧頂きたい。

手術後の傷は自宅でAIアプリが観察 – 国立台湾大学医学院附属病院

国立台湾大学医学院附属病院は医療AI導入に積極的な姿勢を示している。スマートフォンアプリによる皮膚疾患診断の取り組み(過去記事)を以前に紹介した。他にもユニークな実用例が登場している。AI-SWAS(Smart Wound Assessment System)は手術後の傷を患者自身が自宅でスマートフォンで撮影し、状態をAIが判定、必要に応じて主治医と連絡を取るアプリである。 台湾大学のプレスリリースによると、アプリはAndroidプラットフォームで、3年の期間を経て、46名の患者と131枚の術後の創部写真をベースに開発された。AIアルゴリズムは、傷の治る過程が正常か異常か判断し、紅斑・炎症・壊死・感染を91%の精度で識別できるという。アプリ内には画像の明るさや色を調整するソフトウェアも組み込まれ、診断精度を助ける。皮膚のタトゥーを除外することにも成功した。 Taipei Timesには、同大学担当者インタビューと、アプリのデモンストレーションの様子が取材されている。医療スタッフにとっては、AIがセカンドオピニオンとなって診断の時間と労力を削減する。患者は傷の自己管理にタイムリーなアドバイスを受けながら、主治医とのチャンネルを維持し、通院の負担を軽減できる。アプリはiOS向けにも開発中で、手術以外のあらゆる創傷に対して機能を拡張する計画があるという。台湾大学の医療AIに対する先進的な動きについては今後も注目したい。

外科手術後の合併症を予測する機械学習アルゴリズム

外科手術は、がんをはじめとした悪性疾患の根治療法ともなる、現代医療における大きな柱のひとつである。一方で、外科手術には一定の割合で合併症を伴うため、この発症予測と予防、早期治療が重要である。米オハイオ州立大学外科腫瘍学の研究チームは、外科手術後の合併症を予測する機械学習アルゴリズムを構築した。 学術誌Journal of Gastrointestinal Surgeryにて公表されたチームの論文によると、米国外科学会(ACS)の「手術の質改善プログラム(National Surgical Quality Improvement Program)」に集積されたデータベースを活用し、肝臓・膵臓・大腸のいずれかの外科手術を受けた患者データを抽出したという。これらから導いた機械学習アルゴリズムでは、合併症の発生をc統計量0.74と比較的高い精度で予測しており、合併症ごとの発生予測でも変わらない精度を維持していた。特に外科手術後の脳梗塞発症では、c統計量0.98と最も高い値を示した。 過去の検査結果を含め、無数とも言える患者ごとの背景データを全て把握し、合併症予測を適切に行うことは簡単ではない。電子カルテの一般化に伴い、AIを利用した自動予測とアラートシステムは、医師サポートの人工知能活用事例として期待が高まっている。

凪いだ海から昨日の嵐を見分ける目 – 隠れた心房細動を識別するAI技術

心房細動は不整脈の一種で、放置すると脳梗塞や心不全のリスクを高める。治療介入が必要となる重要な疾患だが、心房細動は不整脈の発現タイミングや持続時間がまばらで、平時には心電図変化がみられないことが診断の遅れを招いていた。米メイヨークリニックの研究チームは、非発作時の心電図からも心房細動の存在を識別できるAIアルゴリズムを構築した。 学術誌The Lancetに公表されたチームの論文によると、18万人を超える患者から約65万件の「不整脈発作のみられない心電図画像」を用いてこのアルゴリズムを導いたという。AIは、医師の目には正常所見にしか見えない心電図波形からも、潜在的な心房細動の存在を83%の正確性をもって識別できた。 非発作時にも心房細動を識別できるようになることは、診断の見逃しや遅れを直接的に予防する。持続的な心電図測定を実現するデバイスなど、比較的専門性の高い医療的設備の乏しい環境においても大きな助けとなるだろう。凪いだ海から昨日の嵐を見分ける目 - 医療AIの革新的なアプローチは他疾患にも拡張されていくに違いない。

予算は2億5千万ポンド(約320億円) – 英国NHSが国立のAI研究所を設立

英国民保健サービス(NHS)は高価値な患者データを大量保有し、AI時代のヘルスケア革命を主導する可能性が指摘されてきた(過去記事)。そのような情勢の中、NHSは2億5千万ポンド(約320億円)を費やして、国立のAI研究所を設立すると発表した。 BBCのインタビューに対して、保健大臣のMatt Hancock氏は「医療に対するAIの力は大きい。英国はこの技術で世界をリードするチャンスがある。AI研究所を通じてNHSは生命を救う識見を探究してゆく」と語った。NHSでの活用例に、ユニバーシティ・カレッジ病院(UCLH)が開発したAI「診療予約を逃す可能性の高い患者を予測して電話で通知するツール」がある。しかし、その一例もNHS全体で日常的に使用される段階には至っておらず、実用化の余地は多く残されている。 AIの利用拡大はNHSにとって挑戦すべき課題を増やすだろう。2017年、ロイヤル・フリー病院がGoogleのAI会社DeepMindと患者データ160万件を共有しているとして批判を受け、情報保護が不十分と裁定された。同じく2017年にNHSは受診予約を混乱させる大規模なサイバー攻撃に晒された。また、英国内の研究対象が白人中心に偏れば、訓練を受けたAIには多様性が不足する。保健大臣のHancock氏は「AIが適切に社会を反映することは極めて重要である」と特別に強調している。

AIは院内の敗血症を防ぐことができるか?

敗血症は、身体のどこかで発生した感染症が全身に広がって制御不能な反応を引き起こし、死に至る可能性も高い重篤な状態である。米国の病院で亡くなる患者の約1/3を敗血症が占めると言われている。多くの医師がその状態をよく知っていても、検出が難しい場合や、診断の遅れにつながることが繰り返されてきた。 米国バージニア州最大の地方紙Virginian-Pilotでは、サンタナ・ノーフォーク総合病院の「敗血症を予測するAIツールによる取り組み」を紹介している。同病院全体での敗血症死亡率9.5%に対して、入院中に新しく発症した敗血症患者は今年上半期で約1/3が亡くなったという。入院患者は既に別の合併症を抱えていることが、高い死亡率の原因と考えられている。導入されたAIツールは、電子カルテに記録される4500のデータを取得し、敗血症の発症リスクを評価する。高リスクの状態となった患者は電子カルテ上でアラートが出される。 敗血症予測AIツールは、ノースカロライナのデューク大学や、アラバマ州やボルチモアでも導入され、一定の成功を収めたと言われている。一方で、2016年のペンシルバニア大学病院での導入例では、医療スタッフが既に注意している患者を特定する結果に過ぎず、1年以内にシステムが停止された。サンタナ・ノーフォーク総合病院のMichael Hooper博士は「スクリーニングツールは完璧に設計されるのではなく、医師の見逃しを防ぐ役割がある」と語る。彼がICUで診療していると、一部の患者には有用でも、うまく適用されない症例もみられた。新しいAIアルゴリズムが、同院で統計的に有意な効果を持つか判断するには時期尚早だが、敗血症の症例数自体は減少傾向にあるという。現状の医療AIツールは、あらゆる施設に共通して効果を示すとは限らず、それぞれで有効性を検証する取り組みも欠かせない。

ピッツバーグヘルスデータアライアンスがAWSを活用へ

ピッツバーグヘルスデータアライアンス(Pittsburgh Health Data Alliance)は、ピッツバーグ大学メディカルセンター・ピッツバーグ大学・カーネギーメロン大学などの研究者からなる組織で、関連施設から集積したデータを健康増進や医学の向上に役立てることに主眼がある。同組織は、Amazon Web Services(AWS)を活用していくことを公表した。 7日、ピッツバーグヘルスデータアライアンスが公表したところによると、Amazonとの協力体制によりAWSを利用した機械学習アプローチを積極的に取り入れていくという。対象とする研究領域は、がん診断・個別化医療・音声認識技術・医療画像など広範囲に及ぶ。 ペンシルベニア州南西部を舞台とするこのコンソーシアムは4年前に結成され、ヘルスケア領域で構築されたビッグデータの有効活用で特徴的な成果を示してきた。AmazonでAI事業を率いるSwami Sivasubramanian氏は「機械学習が医学研究を飛躍的に向上させると信じている」と述べ、協力体制の展望に強い期待感を示している。

乳がんの新タイプをAIが発見

英ロンドン大学の公的研究機関であるThe Institute of Cancer Researchは、人工知能を利用し、乳がんの新しいタイプを発見したと公表した。これまで同一種と捉えられていた乳がんのうち、治療反応性の違いから再分類を行ったところ、新しい5種類の乳がんを同定したという。 ScienceDailyが報じたところによると、研究チームは乳がん細胞のゲノム配列と分子データから治療反応性の違いを推定する機械学習アルゴリズムを構築したという。これらの新しいタイプのうち、2種は他の乳がんに比べて免疫療法への反応が良く、1種はタモキシフェン(ホルモン療法に使用される抗悪性腫瘍薬)の使用で再発リスクが高まることなどを明らかにしている。 この研究チームは以前にも、同等の手法を利用して大腸がんの新タイプを示しており、現在は臨床試験において新タイプ分類の有効性を検証している。今回の研究成果はオープンアクセスジャーナルnpj Breast Cancerにて公開されており、リンク先から全文を確認することができる。

世界の精神科医たちは医療AIを強く疑っている? – SERMOの国際意識調査から

AIに対する見方は、医師の専門領域によって温度差があるか?自然言語と親しみが強いが、病気の診断では定量評価が難しい場面が多いとされる精神科ではどうだろうか?世界150カ国で医師向けのSNSを展開しているSERMOが、デューク大学とハーバード大学の精神科医たちと協力して、精神科医のAIに対する意識調査を行った。 Psychiatric Timesでは、22カ国791名の精神科医に行われた調査結果を紹介している。興味深い結果として「AIが精神科医の仕事を時代遅れにすると思う(4%)」「AIがヒトの共感的なケアを置き換えると思う(17%)」「男性(35%)よりも女性精神科医(48%)の方がAIの利点がリスクを上回るか不確かと思う」「他国(32%)よりも米国の精神科医(46%)の方がAIの利点がリスクを上回るか不確かと思う」といったものが挙げられる。多数が同意したAIにより代替されるタスクは2つのみ、「医療記録の更新など患者情報提供(75%)」「診断に至るための患者情報の統合(54%)」であった。 精神科医と他の専門領域を直接比較した調査ではないが、全般として非常に保守的な集団の意見を反映していると言える。調査からはAIに対する疑いと不確実とみなす思いが表れている。これは精神科医が人間同士の相互作用と、個別化された専門的分析に高い自負を持っている証拠でもある。しかし、一方で回答者が技術の進化するペースを過小評価している可能性も高いと、調査内では指摘されている。調査に関わったデューク大学医学部精神科教授のMurali Doraiswamy氏は「AIを、機械 対 ヒトの戦いとして考えるのはやめる時期だ」と語る。

乳がん診断のgame changerとなるか – AIによる超音波エラストグラフィの解析

腫瘍の良悪性判断は、臨床医と医学研究者にとって長年の課題であり続けている。正確に見極めるには腫瘍組織を直接取ってくる「生検」が必要となることが多いが、患者にとってその侵襲性は多大である。一方で、診断の遅れや偽陰性は治療機会を逸することにもつながる。今回は、AIを利用し、非侵襲的で高精度の乳がん診断を目指す新しい取り組みを紹介する。 近年、超音波エラストグラフィという新しい画像技術が実用化されている。生体組織の柔らかさは病理的に決定していることが多いため、悪性病変(特にがん)を組織の柔軟性から画像的に評価できるだろうというものだ。具体的には、組織に振動を加えた際のせん断波の伝播速度を計測するものが知られている。乳がん診断にも実際に適用が始まっているが、エラストグラフィの画像読影は時間を要すること、複雑なプロセスを経ること、専門家間での評価の隔たりなどが問題となっている。そういったなか、米南カリフォルニア大学の研究チームは今月公開される論文中で、畳み込みニューラルネットワークを利用し、この超音波エラストグラフィ画像から乳房腫瘍の良悪性を判断する取り組みを示している。 チームは12000枚の画像をアルゴリズムに学習させ、8割程度の診断精度を実現しているという。現時点ではあくまで研究途上であり、実臨床利用のためにはさらなる精度向上が欠かせないが、この研究は非常に斬新な手法を取り入れている点にも言及しておく必要がある。それは、実はこのサンプル画像が実画像ではなく、合成画像であるという点だ。臨床的に有効性の高いAIアルゴリズムを導くためには大量の画像データが必要になるが、実際的にはこのようなデータベースの構築はきわめて難しい。アルゴリズムを大量の合成画像で導き、現実的な数での実画像で妥当性の検証を行うことができるのであれば、医療AI開発は一層の進展をみせる可能性があると言える。

手術の上手い下手 – AIが判定します

仮想現実(VR: Virtual Reality)を手術のトレーニングに用いることは、近い将来ごく一般的になるだろう。しかし、そのトレーニングをどのように評価し技術向上に結びつけるか、検討の余地がある。そしてついにひとつの方向性が打ち出された。『機械学習アルゴリズムが、脳神経外科医の手術の能力を正確に評価・クラス分けできる』という研究成果がカナダのマギル大学のグループによってJAMA Network Openに8月2日公開されている。 FUTURITYによると、同研究では脳神経外科手術のシミュレーター『NeuroVR』を用いて、技術レベルの異なる参加者50名(上級から順に、脳神経外科医・フェロー・シニアレジデント・ジュニアレジデント・医学生)に250の脳腫瘍切除を行ってもらった。手術器具の動きや強さ、腫瘍の切除の様子、出血の結果などによって、機械学習アルゴリズムが参加者の技術レベルを判定した。k近傍法によるアルゴリズムでは、90%の精度で参加者を正しく分類できたという。このことは、アルゴリズムが外科手術のレベルを正しく重みづけして、いわゆる上手い下手を判定できるようになってきたことを意味する。 同研究グループによると、開腹手術など別の研究モデルでは、技術レベルを分類する能力が実証できていなかったという。シミュレーターで正しく手術レベルを評価できるようになれば、やがて患者の安全性向上にも大きな役割を果たす。リーダーであるマギル大学のRolando Del Maestro氏は「医師とその教育者たちには、手術技術向上に対する時間的プレッシャーが増大している。オンデマンドで客観的な評価を得られるシステムが設計できれば、トレーニング成果の向上だけではなく、実際の手術中に用いてヒューマンエラーの可能性を減らせるだろう」と述べている。

肝移植のためにAIができること – 米スタートアップ『InformAI』のツール開発

米国での移植用臓器を配分する民間非営利団体『UNOS』によると、移植を必要として待機する人は全米で11万を超え、史上最高人数を更新しているという。肝臓は、腎臓に次いで2番目に多く移植されている臓器である。自然の再生力を持つため、健康な人から移植する生体肝移植がよく知られている。それでも、移植を待つ人が多数存在する状況であり、限られた資源の移植臓器を効率的に利用することは大きな課題である。ヒューストンのベイラー医科大学とシカゴのセントルークス病院の医師達が、スタートアップ『InformAI』と協力して、肝移植結果を改善するAIツール開発を進めている。 テキサス医療センターのニュースによると、InformAIは過去30年間の肝移植結果からAI予測ツールを開発している。患者とドナーの健康状態、提供される臓器の質に関するデータなど、移植の結果を左右する可能性のある変数は膨大で、どれが本当に重要な情報なのか検討が繰り返されてきた。そこに適切なAIツールが働けば、従来の統計分析では見逃されていたかもしれない、データ内の微細な相関パターンを抽出することが可能となる。UNOSに蓄積された300種類以上の予測変数だけではなく、今後は電子カルテから更に多くの変数を取り込むことで、AIツールの精度向上も期待されている。 「あるデータが医療の結果を改善するか?」一つひとつ仮説を立てて検討するという手法には、限界と飽和が近づいている。提供された臓器と移植が、患者にとってよいものになるか。ときに判断を惑わせる多くの材料を扱うためにはAIがひとつの可能性となる。InformAIが開発した基本プログラムが、早期に臨床現場で検証されていくことを研究グループは願っている。

大麻は毒か薬か?

大麻に含まれる生薬成分を医療に利用する『医療大麻』は常に論争の種となっている。鎮痛や鎮静など薬として有益とする意見をもとに、「処方箋不要で合法」あるいは「医師の許可に基づき合法」とされる国や地域がある。一方で、大麻にまつわる負のイメージや、医療的な価値がないとして、使用・所持・流通を禁止する国も多い。日本も『大麻取締法』による医療利用を含めた規制が強い。そのような世界情勢のなか、植物由来の薬の分析に重点を置いた米国IoT企業『RYAH Group』が医療大麻データの分析にAIを使用する米国特許の取得を発表し、臨床試験を進めている。 GLOBE NEWSWIREによると、同特許はAIによるビッグデータプラットフォーム処理で、大麻の植物株と医療適応との相関を識別するものという。37種類の疾患を対象とし、匿名患者データを研究目的に利用できる。医療大麻の処方プロセスは、非効率で有益性が不透明との指摘が多い。医療大麻の市場はデータ主導型の意思決定に移行している途上である。医療者と患者の両方にとって合理化され、信頼を得ることで、規模の拡大と成長が起きるかもしれない。 オピオイド乱用(過去記事)の社会問題を抱える米国では、医療大麻の正しい利用でその隙間を埋める効果を期待する論調もある。一方、日本国内では、薬としての需要が未知である。そのうえ、強い法規制で医療大麻は研究目的でも壁が極めて高い。国内での臨床試験が皆無のなか、海外の成果によっては、治験に踏み切る可能性もわずかに残る。AIを核とした革新がひとつのきっかけとなるのか、それとも大麻の規制は妥当とするカウンター活動が起きるのか。医学の進展と医療政策をめぐる大局的観点からも興味が尽きない。

AI時代に求められるITリテラシー

機序の分からない薬を医師が処方できないように、学習データの質やアルゴリズム選択の妥当性を理解できなければ医療AIを適切に運用することは難しい。医療にAIが台頭する時代、医療者にも強力なIT知識が求められようとしている。一方、個人の医療情報の多くは既に電子化されており、これを取り扱う医療者に最低限の危機管理意識と周辺知識さえなければ、進展ははるか手前で大きく頓挫してしまう。 Press-Telegramが先週報じたところによると、米カリフォルニアの退役軍人病院に勤める医療スタッフたちが、社会保障番号を含む患者データを私用のEメールなどでやり取りしていたという。内部調査によると、安全性の低いデータ通信手段を利用していたことにより、133名の患者データが第三者に容易に盗み見られる状況にあった。事態は2013年から2017年まで継続していたとのこと。 この種のトラブルは、スタッフの危機管理意識の低さが問題の本質ではあるが、それと同時にデータの取り扱いに関する背景知識の欠如を伴うことが多い。医療AIが大規模な展開をみせるなか、まずは医療スタッフの最も根本的なITリテラシーに目を向けることが実は欠かせない。

ブラジル・サンパウロ – 高齢者の死亡を予測する機械学習モデル

ブラジル・サンパウロ大学の研究チームは、高齢者の死亡を予測する機械学習モデルを構築した。治療方針の決定など、医師の重要な医学的判断の助けとなる可能性が示唆されている。 7月29日に公開されたチームの研究論文によると、ブラジル・サンパウロに居住する高齢市民の研究データベース(the Health, Well-Being, and Aging Study)を利用し、アルゴリズムの構築を行ったという。2808名の高齢者のうち、423名が初期5年間に死亡しており、37の健康関連因子・社会経済的因子・基本特性などからこの死亡を予測する機械学習モデルを導いた。いずれのモデルにおいてもAUC 0.7を超える高い精度を示したが、LASSO回帰因子によるペナルティを加えたニューラルネットワークが最も高精度であったとのこと。 ヘルスケアにおけるAIの進展に伴い、自動リスク算定や自動診断モデルは大きな注目を集めている。これらは電子カルテとの親和性が高く、医師の自覚有無に関わらず、患者の将来的な病態変化や疾患発症を警告することができる。医学的判断を支えるサポートシステムとして、技術発達への期待は非常に大きい。

FemTech(フェムテック)が女性のほてりをクールダウン

女性(Female)の健康課題を解決する技術(Technology)を意味する『FemTech(フェムテック)』が注目を集めている。Apple Watchが参入する生理・月経周期トラッキング(過去記事)もひとつのFemTechと言える。例えば、閉経年齢前後の女性が抱える、不快なほてり・抑うつなどいわゆる更年期症状は健康課題とされて久しい。医学的根拠が不明にもかかわらず、更年期症状に効果を謳った磁気クリップがベストセラーとなってしまったことは、世界人口の半分に関わる問題に対して、解決法が未だに不十分な証明でもある。 Financial Timesから派生したメディアSiftedでは、FemTechの世界的な潮流を紹介している。新興企業と投資家が参入を続ける米国では、『Genneva』による更年期遠隔医療サービスの開始や、アンチエイジングに取り組むスタートアップ『Menopause.ai』の買収劇など、動きが盛んである。欧州でも追随する動きが見られている。例えば、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗症状の総称)を緩和する冷却装置が次々に開発されており、イギリス発のスタートアップではリストバンド型の『Grace Cooling』や、携帯できる石型の『PEBL』が話題となった。フランス発ではまくら型の『MOONA』もユニークである。 物理的な機器以外では、スペイン発のアプリ『B-wom』が、女性一人ひとりにパーソナライズされた健康指導を提供し、更年期に関するコンテンツを充実させている。極め付けとしては、イスラエル発のスタートアップ、XRHealthが提供する『Luna』によるVR体験「雪に覆われた風景」が更年期症状を軽減する認知行動療法としての可能性を示している。手始めのごく小規模な臨床試験ではあるが、顔面の紅潮と寝汗を50%減らしたと同社は発表している。これらの日々生まれ続けているFemTechが、大規模な臨床試験を越えたとき、更年期症状を本当にクールダウンする革新的な医療技術として世界の半分を席巻するかもしれない。

電子カルテから急性腎障害発症を予測するAIテクノロジー

患者の状態悪化を事前に予測し対処することは非常に大切だが、現実的には非常に難しい。院内死亡の11%が「患者の状態悪化を迅速に捉えることの失敗」によるとの報告もある。2014年Googleによって買収されたAI企業DeepMindの研究チームは、電子カルテ記録から急性腎障害の発症を予測するAIアルゴリズムを開発した。 7月31日、学術誌Natureに公開されたレター論文によると、電子カルテ記録から生命を脅かすような深刻な病状の悪化や疾患発症を予測することができるという。チームは一例として急性腎障害を挙げ、70万例を超える患者データから疾患発症予測AIを構築した。アルゴリズムは入院中の急性腎障害発症エピソードの55.8%を予測し、引き続いて透析が必要となる重篤な急性腎障害の90.2%を予測することができた。 AIによるハイリスク患者の同定は、これまでにない迅速な治療介入を実現できる可能性があり、臨床現場からの期待も大きい。適用疾患には拡大できる余地が多分にあり、これまでの患者管理を激変させるテクノロジーとさえなり得るだろう。

そこは本当にやけどですか?- 『DeepView』 皮膚の壊死組織を見極めるAI

熱傷(やけど)の診断と治療では、死んだ皮膚組織と正常な部分との境界を見極めることが重要となる。壊死した組織は十分に取り除き、皮膚移植がどれくらい必要になるか計算しなければならない。テキサス州ダラスを拠点とするSpectral MDは、AIで熱傷と創傷を画像評価するシステム『DeepView』を開発している。 VentureBeatが7月24日に報じたところによると、Spectral MDは『DeepView』の研究開発に、米国保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA)から2700万ドルの助成を受けたと発表した。子どもの熱傷を対象とした臨床試験を進め、最大9200万ドルの追加資金を得る可能性がある。 DeepViewは、皮膚の画像において反射光の波長をAIアルゴリズムがIBM Cloud上で解析し、熱傷部位と正常組織をリアルタイムで判別する。従来の診療では熱傷面積の約30%が正しく診断されていないとする報告があり、DeepViewはその割合を5%まで減らせるという。その結果、皮膚移植のサイズを減らし、手術結果の改善と入院期間の短縮が期待されている。Spectral MDは巨額の助成を受け、「外傷による切断」「血流不足による壊死」「糖尿病の皮膚潰瘍」での臨床試験も強化すると表明し、この分野で圧倒的なリードを得ようとしている。

ヘルスケアプロバイダーの情報格差を埋める米国の新しい取り組み

米連邦政府機関のひとつメディケア・メディケイドサービスセンターは、ヘルスケアプロバイダーがclaims data(請求データ)に容易にアクセスできることを目指すパイロットプログラム「Data at the Point of Care」を公表した。 claims dataは、医療機関が保険者に医療費を請求する際のデータで、疾患名や治療内容などの診療情報を多く含み、場合によっては患者転機までを確認することができるなど、医療の質向上に直接的に役立てられるデータベースと言える。Healthcare IT Newsが報じたところによると、このパイロットプログラムでは、ヘルスケアプロバイダーが対象患者の既往歴や過去に受けた処置、治療薬リストにアクセスできるようにすることで、正確な患者情報の把握を行なうことを期待しているという。 米国においてはヘルスケアプロバイダーの情報格差が深刻で、医療の質と患者アウトカムの明確な差に繋がる現状がある。現時点でプログラムはパイロットフェーズにあり、プロバイダーと協調してシステムの調整を行なう段階だが、2020年の1月には全てのメディケアプロバイダーが患者のclaims dataにアクセスできる環境の構築を目指している。

胸のドキドキが顔に出る? – 『FaceHeart』顔から心拍数と血圧を測定

「あなたの胸の鼓動は顔から読み取れる、そして血圧上昇も」 流行のApple Watchを筆頭に、ウェアラブルデバイスにとっては、身体からの信号をどのように検出するかが課題となる。共通の欠点として、接触型のセンサーは激しい運動で不正確になる。また、デバイスのためにユーザーの行動を変える要求が強いと、やがてデバイスを使わなくなってしまう。それらの課題を克服する方法として、非接触型の画像による生体信号検出システムが注目されている。 DIGITIMESによると、台湾の国立交通大学(NCTU)のBing-Fei Wu教授に率いられたFaceHeart Inc.は、カメラを通じて顔の情報を取得し、独自開発のアルゴリズムで心拍数と血圧を表示するシステムを開発した。例えばトレッドミルで走っていても情報は検出可能であり、心拍数だけならばカメラが高精度の必要もなくフレーム速度が30fpsあればよい。血圧の検出には高精度カメラを用いるが、ハードウェア大国の台湾では製造メーカーには事欠かない。電子製品に慣れない高齢者のために用意したウェアラブルデバイスが結局使われなくなってしまうことはよく聞く話である。それが、テレビの前に設置したカメラで血圧と心拍数を計測するならば、抵抗なく受け入れられるだろう。 Wu教授は2つの方向のビジネスモデルを考えている。ひとつはFaceHeartのシステムをカメラに組み込むため、ソフトウェアを認証させること。もうひとつが、既存のカメラ会社と提携することという。AI技術をビジュアルに組み込むのはトレンドだが、FaceHeartは、大衆的な顔認証システムではなく、医療用に使えるほどの正確な生体信号検出を追求したことで、競合と差別化した新しいビジネスチャンスを目指しているという。例として金融機関の顔認証セキュリティは、単に顔のビジュアルを高精度に認識するだけでなく、FaceHeartのような個人の生体信号を組み合わせる方法が標準的になってきている。

AIを利用したMRI高速化 – ニューヨーク大学とFacebookが共同研究

MRIは放射線被曝のない一方、どのような断面でも自由に撮像できる"情報量の多い"医療画像検査のひとつである。全身の骨・関節から、脳実質・脳血管、腹部各臓器、眼窩や眼球内部に至るまで、非常に幅広い画像的評価を実現している。しかし、一般的なMRI検査は20分〜1時間程度と検査時間が長く、姿勢保持が困難な患者や小児にとっては大きな障壁となっていた。 2016年、米ニューヨーク大学はデータ取得の高速化によって省かれた画像データを、深層学習を利用して再構成を図る技術を初めて公開した。現在MRIの高速化技術は世界各地でAIを利用した研究がなされているが、その多くは、機械的に撮影プロセスを高速化しようとするのではなく、撮像範囲を適宜省略しAIで画像の再構築を行なうことで、検査時間を大幅に短縮しようとするものとなっている。AI in Healthcareが行なった、ニューヨーク大学で同プロジェクトを率いるDaniel Sodickson医師へのインタビューでは、現在はFacebook Artificial Intelligence Researchグループとの共同研究を進めており、研究手法や利用するアーキテクチャ、ベースとなるデータセットまでをオープンソース化する予定だという。 MRIの高速化は患者体験の改善と同時に、MRIの利用促進・撮像可能部位の拡大・画像の質向上に繋がる可能性が指摘されている。当該技術で先行するニューヨーク大学とFacebookによって、研究のオープンソース化が進めば、関連研究は世界的にも一層の加速をみせることになるだろう。

巨大な金塊に腰掛ける英国 – NHSが保有する患者データは年100億ポンドの市場価値

英国は日本と同じく、国民全員が保健医療サービスを享受するユニバーサルヘルスケア(国民皆保険)を達成している。幅広いリスクに単一の制度で対応する英国国民保険においては、多数が乱立する日本とは異なり、支払者もまた単一であるという大きな特徴を持つ。このことは、英国民保健サービス(NHS)が、非常に大量かつ高度の医療関連情報を集約的に保有することを意味する。 ロンドンを本拠とする世界的会計事務所Ernst & Young(EY)が公表したレポートによると、NHSが保有する患者データはおよそ年100億ポンド(約1兆3300億円相当 - 為替レートは今日現在)の市場価値を持つという。患者個人情報の保護がNHSにとって最大級と言える懸念点で、一部のデータ共有は学術的研究目的などに限定して進められてきた。 NHSの患者データには、5500万人分のプライマリケアデータ、2300万の単回受診記録、がん患者や希少疾患患者など10万名分のDNAデータなどが含まれている。巨大な金塊に腰掛ける英国は、それが世界にも類を見ない輝きを放つものであることにもちろん気付いている。患者データの電子化を急速に進める一方、データ共有ポリシーに対する議論も大きい。AI時代のヘルスケア革命はビッグデータ保有者から起こる可能性が高く、英国の挙動には大きな注目が集まる。

IBM – がんと闘うAI 三種の神器をオープンソース化 – ISMB/ECCB 2019より

テック企業の巨人であるIBMは、医療AIのがん分野で、業界を高みへ導く環境づくりを行なっている。IBMのプレスリリースによると、スイスで2019年7月に同時開催された2つの学術会議ECCB: European Conference on Computational Biology(計算生物学の欧州会議)およびISMB: Intelligent Systems for Molecular Biology(分子生物学向けインテリジェンスシステム)で、三種のAIプロジェクトをオープンソースとして発表した。 まずひとつ目はPaccMann(あのパックマンを意識?)で、ディープラーニングによって化合物の抗がん剤としての可能性を予測。医薬品開発の合理化に大きな役割を果たす。次にIntERAcT、医学雑誌から重要な最新情報を自動で解析する。特にタンパク質間相互作用といわれる、単体ではなく複数で機能を果たすタンパク質の仕組みを解析し、がん治療と創薬の理解に必要な多大な労力を削減する。そして最後に紹介されるのがPIMKL、がんの組織サンプルの分子データから患者を分類・個別化する。より効率的な治療を計画する助けとなる。 これらは三種の神器とも呼べそうな、ビッグプロジェクトの集体である。オープンソースとすることは、分野を主導するIBMの強い意志がうかがえる。「ソースコードを多くの研究者が利用して、潜在的な可能性が最大限になることを望む」とIBMからは声明が出されている。

中国のメンタルヘルスケア – 流行の最先端はVR療法

仮想現実『VR: Virtual Reality』の医療応用(過去記事)は可能性を秘めている。なかでも精神疾患への利用が注目されるものの、研究の多くは小規模で質が保証されていなかった。ようやく今年3月、JAMA Psychiatryに「高所恐怖症へのVR療法がランダム化比較試験で、効果的・安価・患者に好評」との良質な報告がなされた。世界の医療現場でVR療法が求められる理由は様々だが、中国ではメンタルヘルスケアにおいて革新の動きを見せている。 Scientific Americanには、中国のメンタルヘルスケアでVR療法が流行する様子が報じられている。理由のひとつは、広大な国と人口に対する精神科医の不足である。米国の10万人あたり精神科医10.5人と比べ、中国では2.2人に過ぎない。また、精神的な問題を抱える人の90%が治療を受けていないと推定される。 受診率が低い理由には、精神科医不足だけではなく、文化的背景も指摘される。他国に比べ、中国では精神疾患を汚点とする向きが強いと言われる。マサチューセッツ大学医学部の精神科准教授で中国精神保健プログラムの責任者Xiaoduo Fan氏は「精神科の利用ができても、助けを求めることに消極的なことが多い」と述べている。医学の成熟と、精神疾患の社会的オープンさは関係が強い。精神疾患を抱えた親族を閉じこめて隠す、いわゆる座敷牢のような話は、世界各国どこでも抱えてきた歴史である。 中国では急進した技術と合わせ、メンタルヘルスケアにVR療法の需要が高まった。医療資源の不足と、精神疾患を汚点とする消極的な姿勢、両方に役立つと考えられたためである。VR療法は、自宅で・プライバシーが守られ・ニーズに合わせ簡単に拡張できる。メンタルヘルスに焦点をあてる国際的VR企業Cognitive LeapのCEO、Jack Chen氏は「中国では精神疾患患者を犯罪者同然に見なした歴史から、精神医療の提供者への信頼が低い。一方でテクノロジーへの信頼は高い。VR療法はとても科学的と思われて偏見が少ない」とユニークな分析をする。 メンタルヘルスにVRを活用する企業は、前述のCognitive Leap以外にも、Oxford VR、Shanghai Invision Digital Technologyがあげられ、大学の支援を受けて精神保健プログラムを展開する。中国が精神科医療の不足を技術革新で乗り越えたとき、小売や金融のAI開発競争と同じように覇権を握るのだろうか。

AIを利用したパーキンソン病の診断と評価

パーキンソン病は振戦(ふるえ)や姿勢の保持困難など、運動障害が特徴的な神経変性疾患のひとつである。認知機能低下で広く知られるアルツハイマー病と並んで頻度の高い神経変性疾患で、日本においては特定難病に指定されている。 セルビアに所在するベオグラード大学の研究チームによると、適切なAIアルゴリズムを利用することでより効率的なパーキンソン病診断と評価が可能であるという。同チームがClinical Neurology and Neurosrugeryに公表するレビュー論文では、2007年から2019年に出版された48の関連論文を分析したとのこと。特に初期のパーキンソン病診断にアルゴリズムが有効であること、症状の重症度予測にはサポートベクターマシン(パターン認識能に優れる学習モデル)が最も価値ある成果を示していること、研究は互いに対象者・方法論・アウトカム測定で大きく異なっていること、アルゴリズムの妥当性を高めるには積極的な共同研究が好ましいこと、などが示されている。 パーキンソン病は40代頃の中年発症も多くみられるが、長く自立した生活を送るためにも、治療の有効性を高める早期発見が肝要となる。手の震えや動きの鈍さだけでは、パーキンソン病が強く疑われづらいことと、CT・MRIの一般脳画像検査では初期に著明な変化を伴いにくいことも、診断の遅れにつながっている。AIを利用した効果的なスクリーニング・診断・予後予測には、臨床医たちからの期待も大きいと言えるだろう。

脳波からADHDを診断できるのか?

ADHD(注意欠陥多動性障害)は、落ち着きのなさや集中力の欠如を主体とする発達障害のひとつ。問診や症状の推移、神経心理学的検査などを組み合わせて診断を行っている。したがって、単一で診断に結びつく客観的な評価尺度はなかった。 Journal of Clinical Medicineに19日公開されたドイツからの研究では、脳波検査単独からADHDを識別する深層学習アルゴリズムを構築している。事象関連電位と呼ばれる、内的・外的刺激に応じた電気生理学的反応を測定したもので、チームのアルゴリズムでは、健常者とADHDを持つ患者とを最大83%の正確性で識別できたという。一方、ADHD患者におけるサブタイプに関しては、AIを利用して互いに識別することはできなかった。 ADHDと脳波については非常に多くの先行研究があり、疾患固有の脳波特性もいくつか指摘がされてきたが、現時点で脳波検査は他疾患を除外する目的での利用が主となっている。今回の研究成果は、深層学習アルゴリズムによって脳波からADHDを診断できる可能性を示唆するものではあるが、研究者らも論文中で述べるように「今後、信頼性の向上のためには多くの追試が必要」であることは間違いない。

中国平安 医学的判断をサポートするAIツール「AskBob」をシンガポールに提供

中国の大手総合金融グループである中国平安(Ping An)は、医師による医学的判断のサポートを行うAIツール「AskBob」を展開している。このほど、同ツールをシンガポールの医療機関へも提供することを公表した。 AZoRoboticsが24日報じたところによると、中国平安が展開するAskBobは、シンガポール最大の医療機関SingHealthに提供され、臨床利用されるという。数百万の臨床ガイドライン、匿名化済みの患者データベース、各種医療統計などを組み込み、1500を超える疾患の正確な診断と治療方針のアドバイスを行えるものとしている。 中国平安は、強固な医学系ナレッジグラフと高度の自然言語処理技術を持っており、AskBobに大きく活用された。シンガポールの大学病院やアカデミアとも共同研究を行うなど、幅広い展開をみせる同グループは医療AI開発における存在感を一層高めている。