英NHSへのAIソリューション大規模実装に向けて

London Medical Imaging & AI Centre for Value Based Healthcareは、英国における医療AI開発の核を形成する主要センターで、NHSに向けたAIソリューションの開発・提供を行っている。臨床・研究の各セクターに区別なく、ヘルスケアエコシステム全体から専門知をプールする「高度に柔軟で学際的な」組織であり、医用画像解析AIを中心として多彩なソリューションを創出している。 同センターはこのほど、DXとITの専門コンサルティングファームであるAnswer Digitalと提携し、NHS内でAIを大規模実装するための新しいプロジェクトを開始した。本プロジェクト内ではまず、NHSに向けてFederated Learning(連合学習)を支援するオープンソースプラットフォームを提供する。連合学習ではデータの集約を必要とせず、各臨床施設にデータが分散した状態で単一の機械学習モデルをトレーニングすることができるため安全で、機微情報を大量に取り扱うヘルスケアとの親和性が高い。 同センターは昨年、Office for Life Sciencesから1600万ドル(約24億円)の助成金を受けるなど、急速な事業規模の拡大をみている(参照)。また、NHSはAIによる医療の質的向上・効率化を重要視し、先駆的な取り組みを多く示してきたことも成長の後押しとなっている(過去記事群)。"AI-enabled Hospitals"を目指す英国の動きには関心が尽きない。

2030年までに精密医療市場は7388億ドル規模に

個別最適治療を実現するPrecision Medicine(精密医療)は、深層学習技術の飛躍的向上を背景として広がりをみせる。究極のオーダーメイド治療を志向する当該領域のプレイヤーたちは、日々新たな話題を提供している(過去記事1, 2, 3, 4)。P&S Intelligenceが公開した最新の報告によると、この精密医療市場は2030年までに7388億ドル規模に成長するとしている。 P&S Intelligenceによる29日付ニュースリリースによると、世界の精密医療市場は2020年から2030年の間、CAGR 12.1%の急激な成長を見込むという。COVID-19のパンデミックは成長ドライバーとして重要な要素となっており、個別化された効果的な治療法への需要が急速に高まったことに言及している。実際、関連領域の研究開発は日々加速をみている。また、同レポートでは「今後数年間で、精密医療市場で最高のCAGRを記録するのはアジア太平洋地域」としており、領域における政府および民間資金の増加、医療インフラの改善、購買力の高まりが市場を推進するとのこと。 歴史的には、がん・心血管疾患・糖尿病・高血圧など、慢性疾患および生活習慣病の罹患率が高く、巨大な可処分所得を抱える北米が最大の精密医療市場であった。AIに関する高水準の技術ホルダーは、国・地域・組織規模を問わず散見されるようになり、技術が新たな医療需要を地域に創出する例もみられるようになった。日本発の取り組みが世に示され、アジアの成長を牽引することにも期待したい。

COVID-19画像診断の機械学習モデルは臨床レベルに達していない?

COVID-19を機械学習モデルによって胸部X線やCTから診断・予後予測する研究は、2020年に大量に発表された。しかしケンブリッジ大学を中心とした研究チームは、それら論文にはバイアス・再現性の欠如・不適切なデータセット利用といった理由から、臨床利用に適したものは乏しいと主張している。 ケンブリッジ大学のリリースでは、学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された「COVID-19画像診断の機械学習モデル研究に対するシステマティックレビュー」を紹介している。検索された同領域2,212件の研究論文のうち、タイトルと抄録から415報へ絞り込まれ、フルテキストで抽出された320報のうち、最終的には62報が採用基準を満たしてレビューに含まれた。精査の結論として、これら62報の多くには方法論上の欠陥あるいは根本的なバイアスという共通の落とし穴があり、臨床利用できる可能性が乏しいと研究グループは主張する。欠陥の一例には、機械学習のデータセットとして「非COVID-19群」に子どもの画像を使用し、「COVID-19群」では大人の画像を使用しているといった、大きな偏りが生じている研究もあった。またいわゆる「フランケンシュタイン(つぎはぎ)データセット」というような、複数のデータセットを組み合わせた結果による深刻なデータの重複問題もみられる。 研究チームでは「多くの欠陥が見つかるものの、重要な修正を加えれば、機械学習モデルはパンデミックに立ち向かうための強力なツールになる」と述べて、その潜在的な有効性には十分な期待を示す。「より質の高いデータセット使用」「再現性と外部検証を支える適切なドキュメントの付与」が、機械学習モデルの臨床利用を確立するための必須事項となることは変わらない。

多発性硬化症とベイジアンネットワーク

多発性硬化症は中枢神経における代表的な脱髄疾患だが、いまだ発症原因が明らかにされておらず、我が国でも厚生労働省が定める指定難病に該当する。過去数十年において、欧州・米国でも有病率の単調増加を認めており、神経内科領域の重要疾患と言える。近年は多発性硬化症に対するAIアプローチ研究が盛んとなり、研究者コミュニティは当該疾患に関する種々の問題解決の緒を機械学習によって捉えようとしている。 ベイジアンネットワークは多変数間の因果関係をネットワーク構造で視覚化し、任意の変数に対する条件を付与した際の他変数への影響として条件付確率を推論することができる。ベイジアンネットワークは多彩な確率シミュレーションを行えること、変数間の非線形性や非ガウス性、交互作用なども取り扱える柔軟なモデリングが特徴となる。ロンドン大学クイーンメアリー校の研究チームは、このベイジアンネットワークが多発性硬化症研究に有用である可能性を考え、詳細な文献レビューを行った上でその結果を報告している。 Computers in Biology and Medicineにこのほど掲載されたチームの研究論文によると、抽出された90の関連論文のうち、半数以上が定量分析のための多発性硬化症病変の検出とセグメンテーションに焦点を当てたものだという。研究チームは「リスクファクターの探索や発症予測という研究テーマが多分に見過ごされている」ことを指摘し、現行の疫学調査手法によるリスク測定の限界を克服するため、ベイジアンネットワークの活用が有効である可能性、およびこれによる既存観察データの有効活用を推進すべき点を強調している。 なお、ベイズ論と頻度論の違いについてはこちらの動画に詳しい。関心のある読者は参照のこと。

コロナ禍の医療者を芸術でサポートする研究プログラム

パンデミック下の医療スタッフには「PPE(個人用防護具)着用」「ソーシャルディスタンス」「デジタル診療」といった新たな課題が突きつけられた。そこでは医療従事者が孤立感・離別感を感じたり、ニーズに応えられない葛藤も多々見られる。それらコミュニケーション上の課題に対して、芸術のスペシャリストたちによるアイディアやテクニックを駆使した研究プログラムが今、英国で行われている。 ロンドン大学クイーンメアリー校のリリースによると、同大学は芸術ベースのヘルスケア教育と専門家育成を行う団体「Performing Medicine」らと提携し、「COVID下のコミュニケーション:ヘルスケア専門職の非言語コミュニケーションを芸術教育で支援」という18ヶ月の研究プログラムを遂行している。プロジェクトでは世界トップクラスのアーティスト・俳優・振付師・ボイストレーナーらの協力によって、英NHS職員のコミュニケーション上の課題に対応するためのトレーニングとサポート法がデザインされるという。 同プロジェクトの共同研究者Paul Heritage氏は「世界中の人々がパンデミックへの対応で、芸術が果たすべき重要な役割を理解しつつあります」と述べている。かつては不可分であった医学と芸術・人文科学が、双方の見識とアイディアを再び組み合わせようとする意欲的な取り組みは、コロナ禍にどのような成果をもたらすだろうか。

Tempus – 心房細動発症を1年前に予測する心電図分析プラットフォーム

AIによる精密医療の実現を目指す米Tempusは24日、Geisingerと共同開発した心電図分析プラットフォームが、FDAから「Breakthrough Device Designation」(ブレイクスルーデバイス指定)を受けたことを明らかにした。これにより、同システムはFDAによるレビュー・評価が優先的に行われ、重要性の高いシステムとして早期の市場展開が検討されることになる。 Tempusが24日明らかにしたところによると、このシステムは「心房細動の既往がない者の心電図波形から、将来的な心房細動発症を高精度に予測できる」ものだという。一般的な12誘導心電図波形を利用することができ、既存データからも重要疾患スクリーニングを実現するため、臨床インパクトは非常に大きい。先月、Circulationから発表された開発チームの研究論文では、160万に及ぶ心電図波形から学習したこの深層学習アルゴリズムは、心房細動の既往がない者において、今後12ヶ月以内の発症があるかを予測できることを報告している。 心房細動は血栓形成を促すため、脳梗塞をはじめとした塞栓症リスクを高める。心房細動高リスク者を日常臨床から早期に同定できることは、現行の疾患管理を大きく改善する可能性があり、患者予後の劇的な向上が期待されている。 関連記事: 凪いだ海から昨日の嵐を見分ける目 – 隠れた心房細動を識別するAI技術

ドミニカ共和国の子宮頸がん検診をサポート – MobileODTのAI診断ツール

イスラエルのフェムテック企業「MobileODT(過去記事参照)」は、子宮頸がん検診にAI駆動の携帯型コルポスコープ機器および診断ツールを展開する。同社の子宮頸がん診断ツール「EVA VisualCheck」は、ドミニカ共和国で政府が主導する大規模子宮頸がん検診プロジェクトをサポートしている。 MobileODTの25日付プレスリリースによると、同社とドミニカ共和国保健省の協力のもと、過去3ヶ月で同国9,000人の女性がEVA VisualCheckによる子宮頸がん検診を受けたという。プロジェクト初期の成功を受け、今後6ヶ月でさらに5万人の女性を対象とした検診が行われることが決定している。ドミニカ共和国では女性の子宮頸がん罹患率の高さが課題とされ、同国女性の人生に大きな影響を及ぼしていたことはもとより、治療に充てられる医療費も深刻なものとなっていた。 検診プロジェクトに参加した産婦人科医 Alfredo Levy氏は「子宮頸がんによる転帰不良の多くは、タイムリーなフォローアップが行われていないことに原因がありました。簡単な使用方法により、即座に検診結果を受け取れるEVA VisualCheckシステムは、完全なゲームチェンジャーと言えるでしょう」と語る。ドミニカ共和国における大規模な実証プロジェクトは、MobileODTが持つ世界戦略、つまり「女性の健康問題をAI技術で改善する」ための第一歩として注目を浴びている。

MRI画像から腎容積を自動計算するCNNモデル

腎容積(TKV)は、腎疾患の検出とモニタリングにおける重要な指標である。英ノッティンガム大学の研究チームは、健常者および腎臓病患者におけるMRI(T2強調画像)からTKVを自動計算する深層学習モデルの構築を行った。 Magnetic Resonance in Medicineから23日公開されたチームの研究論文によると、30名の健常成人および同数の慢性腎臓病患者におけるMRI画像データから、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)のトレーニングを行ったという。腎臓セグメンテーションに用いた教師データは手動で構築され、CNNの精度は50のテストデータセットで検証された。結果、2D-CNNモデルはDiceとして0.93を示し、手動と自動でのTKV差は1.2mL程度であった。 著者らは「導出したCNNモデルが自動腎セグメンテーションとTKV算出に有用」と結論付けており、「標準的なオフィスコンピュータで10秒未満のTKV算出が可能」とする。なお、このCNNモデルに関するコードおよびデータは無償公開されている。

骨髄異形成症候群の診断にAIの目を

骨髄異形成症候群(MDS: Myelodysplastic syndrome)は、血液のがんとして骨髄機能の異常から造血に障害を来し、前白血病状態で知られる疾患群である。MDS疑い患者の骨髄を採取し塗抹標本から診断へと進むが、その形態異常の確認とグループ分類には検査を行う者の主観が影響するため、深層学習モデルの助けが期待されている分野のひとつである。 フィンランドのヘルシンキ大学では、患者の骨髄サンプルに対し、ルーチンのHE染色のもとで顕微鏡画像を解析する深層学習モデルが構築された。同大のリリースでは、米国癌学会(AACR)の学術誌 Blood Cancer Discoveryに発表された論文が紹介されている。その結果、MDSにおいて骨髄サンプルの形態観察から各種の遺伝子異常を識別する精度として、TET2遺伝子異常のAUCで0.94、スプライシング関連遺伝子変異で0.89、7番染色体モノソミーで0.89、などが達成された。 同研究では、深層学習モデルが「骨髄サンプル内で人間の目には識別が困難な特徴」を見出しており、骨髄細胞と周辺組織に及ぼす影響について新たな知見が得られている。研究グループのSatu Mustjok教授は「今回の研究成果は、MDS患者の骨髄細胞変化や予後との関連性を定量化するデータ収集にも役立つでしょう」と述べている。

遠隔医療を助ける新しい自律型ドローン

米国におけるケアアクセスの問題は依然深刻で、4人に1人は定期的な医療サービスを受けるためのかかりつけ医や保健センター等の窓口を持たない。健康増進と疾病予防のためには「日常的な医療アクセスを増やす」ことが欠かせないが、COVID-19の拡大はこのことへの重大な阻害因子ともなっている。こういったなか、遠隔医療の重要性が急速に増しているが(過去記事)、米シンシナティ大学の研究チームは遠隔医療向けのドローンを開発し、その有効性を検証している。 シンシナティ大学が明らかにしたところによると、研究チームが開発したドローンは半自律型駆動で、医薬品の運搬を可能としながら屋内移動に問題のない小ささを確保しているという。このドローンにはカメラとディスプレイが備わり、患者は自宅にいながら医療者とディスプレイ越しのコミュニケーションを取ることができる。現在のプロトタイプは医薬品の運搬とともに、血液などの生体試料を適切に運ぶための防水ボックスなどが搭載されている。 開発を主導するKumar教授は「ほとんどのドローンは無線通信で動作するコントローラーに依存しており、安全なリモート操作のためには見通し線が必要になる。一方、見通し外での制御にはやはり自律機能が欠かせない」とする。研究チームは、AIと一連のセンサーを組み合わせた自律システム開発に取り組んでおり、居間の入り口など屋内の雑然とした3次元環境をナビゲートすることができるようになった。今後、ドローンは遠隔医療の重要なファクターとなる可能性が高く、関連する技術開発への期待も大きい。

幼児期の喘息診断は一過性か持続性か? – 機械学習モデルによる予測研究

5歳より前に小児喘息と診断されるような症例では、成長後に症状が治まるケースもしばしばみられ、以後も症状が持続する個人を特定することには難しさがあった。電子カルテ(EHR)データからのAI/機械学習アプローチで「幼児期の喘息が一過性か持続性かを予測する研究」が米ペンシルバニア州のフィラデルフィア小児病院が保有する大規模データをもとに行われた。 オープンアクセスの査読付き科学ジャーナル PLOS ONEに発表された同研究では、2-5歳で喘息の診断を受けた9,934名の子どものデータセットが用いられ、その後に喘息関連の診察を受けていない一過性診断と、5-10歳で引き続き喘息関連の診察を受けた持続性診断を区別するため、5つの機械学習モデルが訓練された。なかでもXGBoostを用いたモデルが最良の予測指標(評価指標ANSA: average NPV-Specificity areaの平均で0.43)を示した。同研究の結果から、喘息症状が持続することへの重要な特徴として、喘息に関連した受診回数の総数や初期診断の年齢、アレルギー性鼻炎、湿疹などが確認された。 研究グループは「小児喘息の早期診断によって不必要な治療が継続されたり、子どもと家族の生活の質が低下する可能性もある。小児科医と親にとって、小児喘息が慢性疾患として持続するか、一過性の診断の可能性があるのか、機械学習モデルによって個別に予見できるようになれば価値のあること」と主張している。

Amazon Careの激震

先週、Amazonは独自の遠隔医療サービス「Amazon Care」の展開を明らかにした。昨年末頃より同事業に関連するトピックが市場を巡り、遠隔医療事業におけるライバル企業の株価が大きく下落したことは記憶に新しい。今回の発表直後からも、米最大手プロバイダーにあたるTeladoc Healthの株価は4%を超える下落をみた。 Amazonが先週明らかにしたところによると、Amazon Careはバーチャルケアと対面ケアを複合した医療サービスで、専用アプリを介した医師・看護師への相談のほか、必要時には医療従事者を個別に派遣する「往診」にも対応する。本年夏からのサービス提供を開始するとしており、当初はバーチャルケアの全米50州での展開を進める。対面ケアはワシントンDCなど主要都市に限定し、その後順次、提供エリアを拡張していくとのこと。 Frost & Sullivanによる直近の報告では、遠隔医療利用の堅調な拡大が明らかにされており、欧州における市場規模は2026年までに4.5倍以上、207億ドルに到達することが示されている。これはCOVID-19パンデミックを契機とするもので、市場の成長傾向は世界的にも変わらない。Amazonが見据える巨大市場は現在、多数の先行者が乱立しているが、ITの巨人は今まさにその勢力図を大きく書き換えようとしている。

COVID-19スクリーニングのアームバンド – 米FDAが緊急使用許可

COVID-19感染者に起きやすい「血液の凝固機能異常と炎症反応」を反映したバイオマーカーの検出によって、発熱のない無症候患者をスクリーニングする技術が期待されている。米FDAは機械学習ベースのアームバンド型COVID-19スクリーニング装置「Tiger Tech COVID Plus Monitor」に対し、同タイプの機器として初めて緊急使用許可(EUA: emergency use authorization)を発行した。 FDAのニュースリリースによると、同デバイスは光センサー内蔵のアームバンドで、脈波など生体信号を捉えるフォトブレスチモグラフィー(PPG)と解析用プロセッサを内蔵する。デバイスが上腕に巻き付けられると3~5分かけて特徴的な信号を抽出し、機械学習モデルによってCOVID-19患者の凝固機能異常と炎症反応に由来するバイオマーカーを検出する。検温の実施環境下で無症候性COVID-19患者をスクリーニングする目的として同デバイスは承認されており、診断目的の検査を代替するものではない。異常なしは緑ランプ、凝固機能異常などが示唆される特定の状態で赤ランプが点灯する。 Tiger Tech COVID Plus MonitorはCOVID-19陽性患者69名を含む467名の無症候者に対して病院環境で検証され、陽性一致率(PPA)98.6%・陰性一致率(NPA)94.5%を示した。学校環境での検証でも同等の検証結果が得られ、今回の緊急使用許可に至ったという。FDAのディレクターであるJeff Shuren氏は「FDAはCOVID-19のパンデミックと戦うため、革新的なスクリーニングツールを継続的にサポートします。新しいデバイスは医療施設・学校・職場・テーマパーク・スタジアム・空港といった公共の場における蔓延抑制の助けとなるでしょう」と述べている。

Viz.aiの脳卒中における「時間」への挑戦

国際脳卒中学会 2021(ISC: International Stroke Conference)が3月17日〜19日に開催された。同学会では、AIソフトウェアで脳卒中治療の時間的制約に挑むViz.ai社(サンフランシスコおよびテルアビブ拠点)の技術を裏付ける3報の臨床研究が発表された。 Viz.aiのプレスリリースでは、3報の研究を紹介している。 1本目の研究では、米テキサス州バレー=パプティスト=メディカルセンターのHassan氏らにより「Viz.aiのアプリケーション利用で一次脳卒中センター(PSC)から包括的脳卒中センター(CSCs)に転送されるまでの時間が平均45%(102.3分)短縮された」ことが示された。 2本目も同じくHassan氏らの研究で、「Viz LVO(large vessel occlusion: 主幹動脈閉塞を検出するソフトウェア)によって、CSCs入室から再灌流療法を開始する穿刺までの時間が平均86.7分短縮し、再灌流率が10.8%向上した」ことが示された。 3本目では、米ニュージャージー州クーパー大学病院のJankowitz氏らによる「Viz RECRUIT(臨床試験登録のスクリーニングソフトウェア)によって脳出血患者のスクリーニング率が41%、登録率が213%向上した」ことが示された。 Hassan氏は「時は脳なり(time is brain)という標語のように、脳卒中センターにおける医療提供方法の改善と時間短縮が、患者転機の向上・死亡率の低下・入院期間の短縮につながる可能性があります」と語る。Viz.aiのAI技術が挑む「時間との戦い」は実際に脳卒中患者の障害を軽減し、予後を改善するか、さらなる報告が待たれる。

血清ラマン分光法とAI – アルツハイマー病の新しいスクリーニング手法開発に向けて

アルツハイマー病(AD)の治療・進行抑制の観点から、最も介入効果が高いと考えられているのは病初期であり、ADの客観的な早期検出手法の開発は臨床的にも強く求められている。米ニューヨーク州立大学オールバニー校の研究チームは、ラマン分光法によって血液検査からADリスクを識別する機械学習アルゴリズムの構築を目指している。 ラマン分光法は、ラマン線の波長や散乱強度から物質の同定・定量を行う分光法で、赤外分光法では困難とされる水溶液スペクトルを、ごく微量の試料から測定することが可能となる。研究チームがこのほど、Spectrochimica Acta Part A: Molecular and Biomolecular Spectroscopyからオンライン公開した研究論文によると、高脂肪食によってアルツハイマー初期状態に誘導されたラットと、標準食で管理されたラットの血清分析を行った。ラマン分光法の定量結果に基づきトレーニングされた機械学習アルゴリズムは、外部検証用セットにおいても2群を100%の精度で識別することができた。 研究チームは「血清ラマン分光法とAIの組み合わせによって、ADの最初期ステージを把握することができる可能性がある」点を強調しており、将来的な早期スクリーニング手法としての潜在的有効性に言及している。

投薬自己管理のエラーを防ぐリモートセンシング技術

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)では、無線装置で患者の動きを検知するリモートセンシング技術の開発を進めていた(過去記事)。その技術の発展として「患者がインスリン自己注射や吸入薬を正しい方法で使用できているか無線装置とAIで解析する」新しい研究成果が発表されている。投薬自己管理で起きている多くのエラーを、デバイス装着なく引っ接触で検出・監視し、治療の効率や安全性の向上につなげる狙いがある。 学術誌 Nature Medicineに18日発表された研究論文によると、このシステムはW-Fi装置に類する周波数帯の無線信号を患者の自宅内で発信し、人の動きに合わせて反射する信号にAIの解析を加えることで、投薬自己管理の動作が不適切な場合に警告を発することができる。不適切な動作として、インスリンペンの薬液内に気泡がないことを確認するプライミング動作を行っていないこと、吸入器を使用前に振っていないこと、十分な呼吸動作ができていないこと、などを捕捉する。これらの適切な手順を踏んでいるかをAUC 0.952という高水準で評価できることを、同研究は示した。 MITのリリース内で、論文著者のひとりでCSAIL博士課程学生のMingmin Zhao氏は「システムの優れた点として、患者がセンサーを装着する必要がないことや、Wi-Fiルーターが壁を越えて機能するのと同様に閉鎖空間でも作動できることです。非侵襲性という意味ではカメラの設置による監視方法もありますが、電波の使用は人の姿すら映さずに済み、さらに侵襲性は低いと言えるでしょう」と語っている。同技術はインスリンペンや吸入器以外の薬にも適用可能で、適切な動きを認識するようにニューラルネットワークを再訓練するだけで済むといい、その発展性は投薬自己管理の風景を一変させる可能性がある。

初期CT画像から急性呼吸窮迫症候群の発症を予測する機械学習モデル

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は敗血症や肺炎など多様な疾患を原因として、血管透過性亢進のために肺に液体が貯留し、血中酸素レベルが高度に低下するもの。死亡率は40%を超えるともされ、患者予後の改善のためには早期の治療介入が欠かせない。オーストリア・ウィーン医科大学の研究チームは、多発外傷で入院した患者の初期CT画像からARDS発症を予測する機械学習モデルの開発を行っている。 European Radiologyから17日公開されたチームの研究論文によると、外傷重症度スコア(ISS)が16以上の123名の患者データからモデル構築を行ったという。受傷後1時間以内に撮影されたCT画像を用い、ディープラーニングベースのアルゴリズムによって、エアポケットや胸水を含むエリアを自動的にセグメント化した。その後、ラジオミクスの特徴抽出を行い、勾配ブースティング決定木をトレーニングしてARDS予測モデルを導いた。結果、AUCは0.79となり、ISSの0.66を大きく上回る識別精度を示していた。 本研究が興味深いのは、実臨床に沿ったより現実的なスキャンプロトコルにも関わらず、導出されたモデルでは従前のスコアを精度として有意に改善する点である。多発外傷におけるCT撮影は一般的であるため、初期画像からARDSリスクを明らかにすることは治療管理計画の策定に大きく資する可能性がある。

住環境による健康被害を防ぐAI

生活の大部分を支える「住宅」が及ぼす健康被害は深刻なもので、住宅コード違反に基づく種々の健康被害は米国においても大きな問題となっている。化学物質、傾斜、換気不良、異常室温、土壌・水質汚染など、基準を満たさない劣悪な住環境が多様な疾患の引き金となる。米ハーバード大学ケネディスクールの研究チームは、健康被害のリスクがある住宅を特定する機械学習モデルを開発している。 Public Health Management & Practiceからこのほど公表されたチームの研究論文によると、この研究はボストン近郊となるマサチューセッツ州チェルシーで行われた。このエリアは住民背景が多様で、人口密度が高く、低所得であることが特徴となる。1,611の検査済み物件データを利用し、「住宅コード違反」および「健康被害の可能性」を識別する機械学習モデルを構築した。生成したモデルを市内全ての住宅に適用したところ、54%に住宅コード違反を認め、そのうち85%は高度の健康被害リスクを含むことを明らかにしている。 著者らは「都市データと機械学習技術により、追加検査リソースを必要とせず、住環境に伴う健康被害リスクを推定することができる」としており、住宅法の施行をより効果的かつ効率的とすることを通し、公衆衛生上の懸念を払拭できる可能性がある点を強調する。

ケニア農村部で検証したAI支援の子宮頸がん細胞診

子宮頸がんの検診プログラムの一環として、子宮頸部から採取した細胞診によるスクリーニングを行うことは、発生率と死亡率の低下に貢献してきた。ヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種が子宮頸がんの罹患率を大幅に低減できる可能性を示しているが、ワクチン接種プログラムが有効に機能していない国・地域では、多くの女性がリスクを抱え続けることとなる。そのため従来の細胞診は引き続き重要なスクリーニング検査となるが、やはり医療資源の限られた地域での一般検査化には困難があり、細胞診に対するAI支援の期待が高まっていた。 スウェーデンのカロリンスカ研究所からのリリースでは、「ケニア農村部で展開されたAIで子宮頸部の細胞診異常を検出する研究」が紹介されている。学術誌 JAMA Network Openに発表された同研究では、ケニア農村部の診療所の患者740人から採取された子宮頸部細胞診の塗抹標本をポータブルスキャナーでデジタル化し、モバイルネットワークでクラウドベースの深層学習システムにアップロードして解析した。標本の約半分をプログラムの学習、残りを精度評価に使用し、病理医の評価と精度を比較した。その結果、深層学習システムによる「前がん病変」の識別は感度96-100%を示し、「高悪性度の病変」で偽陽性は発生しなかった。また、病変がない陰性の識別に関しては78-85%が病理医の診断と一致した。 カロリンスカ研究所の国際公衆衛生学教授であるJohan Lundin氏は「携帯型オンライン顕微鏡によって、深層学習システムは子宮頸がんスクリーニングの『バーチャルアシスタント』として機能します。今回の方法により、病理医や検査機器が不足している低所得国において子宮頸がんを効率的に発見することができます。低コストの検診プログラムをそれらの国で提供可能となるでしょう」と語った。

敵対的生成ネットワークによるアルツハイマー病識別パフォーマンスの強化

ゲーム理論に基づく深層学習技術に敵対的生成ネットワーク(GAN)がある。GANは生成モデルの一種で、データから特徴を学習することで実在しないデータの生成までを実現する。アーキテクチャの柔軟性から広範な応用研究がみられるが、医学領域では医用画像の高解像度化などに大きな可能性を示している(過去記事)。 米ボストン大学の研究チームは、MRI画像など既存データでの診断精度を高めるため、GANを用いた分類モデルの構築を進めている。Alzheimer's Research & Therapyから14日公開されたチームの研究論文によると、151名の研究参加者から1.5テスラおよび3.0テスラのMRI画像を同時取得し、GANモデルの構築に利用したという。両MRI画像から学習したGANモデルは1.5テスラMRI単独に比べて、より高品質な診断用画像を生成していた。アルツハイマー病の識別には畳み込みニューラルネットワーク分類器を用い、他施設における検証データセットでは、このGAN生成画像による分類器は1.5テスラ画像単独から学習した分類器に比して、3%前後の有意な識別精度向上を確認している。 研究チームは「GANフレームワークによる画像品質改善は、アルツハイマー病の識別パフォーマンスを向上させる」としており、過去に1.5テスラMRIを利用した疾患コホートや、最新設備の導入が遅れる医療機関において特に、GANによる画像生成モデルが強力に機能することを指摘している。

COVID-19へのAI応用の倫理を問う研究

医療AIで新型コロナウイルスに立ち向かう最新テクノロジー(過去記事参照)は日々更新され、人類の英知が結集している。一方、ケンブリッジ大学拠点の研究機関 Leverhulme Centre for the Future of Intelligence(CFI)の専門家らは、拙速なAIアプローチの倫理的な課題に警鐘を鳴らす。CFIのニュースリリースでは、同研究所からBritish Medical Journalに新たに発表された2篇の論文を紹介している。 1本目は「COVID-19に取り組むための倫理的なAI活用」について述べた論文である。迅速で大規模なAIの展開の中で技術の利点が有害事象によって相殺されてしまう危険と、AIに対する社会全体の信頼が失われてしまう危険があるため、AI活用の当初から一貫した倫理的アプローチを採用する重要性を説いている。2本目は「AIがCOVID-19におけるヘルスケアで不平等を増大させる危険」について述べた論文である。AIの設計自体が、既存の不平等を助長してしまうようなバイアスの影響を受けやすいリスクについて主張している。 CFIのディレクターで論文著者のひとりであるStephen Cave氏は「危機的状況下で倫理的要件を緩和することは、意図しない有害な結果をもたらし、それはパンデミックの期間を超えて続くかもしれない」と述べ、大規模な危機であるからこその、AI技術適用の公平性と公正性の重要性を指摘している。

スマートフォンでの音声分析によるCOVID-19自動検出

オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学の研究チームは、スマートフォンベースの音声スクリーニングにより、COVID-19を検出するAIシステムの開発に取り組んでいる。 Journal of Healthcare Informatics Researchからオンライン公開されたチームの研究論文によると、母音やパタカフレーズといった短時間の音声セグメントから、音響特性(声門・韻律・スペクトルなど)を分析することでCOVID-19を識別するという。チームは特定タスクによって最大80%のCOVID-19を識別できるとし、簡易なスクリーニング手法としてその有効性を強調する。 COVID-19の簡便かつ非侵襲的なスクリーニング手法は、世界的ニーズとなって広く求められている。スマートフォンベースのスクリーニングシステムは、リモートプラットフォームであることのほか、利便性・追跡性・コストなどの観点からも多大な可能性を秘め、その期待は大きい。 関連記事: 周囲の咳の音から感染症アウトブレイクを監視 – ポータブルAIデバイス FluSense 新型コロナとAI:医療AIで新型コロナウイルスに立ち向かう最新テクノロジーまとめ

自殺リスクのリアルタイム予測モデルは臨床現場で性能を発揮するか?

AI/機械学習アプローチに対する期待の高まりから、自殺リスクを予測する研究発表が各所から相次いでいる(過去記事)。しかし、臨床現場においてリアルタイムで機能するモデルの実装と検証は未知の部分が大きい。米テネシー州拠点のヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)では、VSAIL: Vanderbilt Suicide Attempt and Ideation Likelihoodモデルと名付けられた自殺リスク予測アルゴリズムの実効性が検証された。同モデルは電子カルテ情報から「自殺未遂」と「自殺願望」による30日以内の再診リスクを算出するものである。 学術誌 JAMA Network Openに発表された同研究によると、2019年6月から2020年4月までの間、自殺リスク予測モデル「VSAIL」が医療センターに実装され、同施設を受診した77,973名の患者に対して前向き調査によるモデル性能の検証が行われた。アルゴリズムは自殺リスクをスコアに応じて8段階のグループに分類する。受診者全体では395名が自殺願望を示し、そのうち85名が少なくとも1回の自殺未遂を経験した。なかでもリスクが高い最上位のグループに分類された患者では23人に1人が自殺願望を示し、271人に1人が自殺未遂を経験した。 同研究で示されたNNS(number needed to screen)、つまり「1人の自殺未遂や自殺願望のある患者をスクリーニングするために必要となる対象者数」は、大規模な臨床システム内で導入するのに十分な性能を示したと研究グループでは主張している。NNSは生活習慣病スクリーニングや、がん検診の性能評価にしばしば取り上げられる指標である。医療施設における自殺リスク者への介入を考えたとき、頑健な既存手法による全体スクリーニングは労力・コストの面から現実的ではなく、今後VSAILのような臨床現場での有用性が期待できる「簡潔な層別AIアプローチ」の採用が検討されていくであろう。

AIとコンピュータビジョンによる自律歩行型外骨格

カナダ・オンタリオ州に本拠を置くウォータールー大学の研究チームは、自律的に思考し、動くことのできる外骨格(パワードスーツに類する)や義足の開発に取り組んでいる。このシステムはAIとコンピュータビジョンによって支えられ、周囲の環境を捕捉し調整を加えることで、違和感のない歩行方法を再現するもの。 IEEE Transactions on Medical Robotics and Bionicsに掲載されたチームの研究論文によると、ExoNetと呼ばれるこのプロジェクトで開発する外骨格は、ユーザーにウェアラブルカメラを装着することで、コンピュータビジョンによって階段やドアなどの周辺環境を正確に認識するという。ロボットの脚は階段を上る、障害物を回避するなど、ユーザーの現在の動きや地形分析に基づいた最適なアクションを実行できる。 News-Medical.Netの取材に対し、システムデザイン工学の博士課程学生で、ExoNetプロジェクトを率いるBrokoslaw Laschowski氏は「我々の制御アプローチは必ずしも人間の思考を必要としない。自動運転車と同様に、外骨格と義足を設計している」と述べる。研究チームは現在、動きを利用してバッテリーを自己充電するシステムの開発に取り組んでおり、エネルギー効率の改善による実用性の向上を目指している。

AIの眼 – 膵神経内分泌腫瘍の転移リスク予測モデル

膵臓がんの1つ、膵神経内分泌腫瘍(PanNET)における患者予後は大きく異なり、その大部分が転移の有無に規定される。一方で、PanNETにおける病理学的な形態ベースの予後マーカーはないため、転移リスクを推定するモデル開発が求められてきた。米ジョージア州立大学の研究チームは、組織画像からPanNETの転移を予測する深層学習モデルを開発している。 Frontiers in Oncologyに収載されたチームの研究論文によると、89名のPanNET患者から外科的に切除された組織のデジタル画像を利用し、この深層学習モデルを開発したという。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)をトレーニングし、各タイルをPanNET・間質・正常膵実質・脂肪に識別させた。さらに、がんまたは間質タイルと患者の転移ステータスから、領域ベースの転移リスクスコアを算出させることに成功した。 研究チームは「PanNETスライドから高精度に転移リスクを推定できる。これは、PanNET組織における予後の形態学的パターンが存在することを示唆している」とした上で、研究成果はPanNET治療における臨床的意思決定を支援する指針となる可能性があることを強調している。

Twintの活用 – 新型コロナワクチンに対するインド国民の感情分析

インド政府はCOVID-19の危機を早期に終焉へと導くため、集団予防接種プログラムを展開している。一方で、予防接種自体は必須ではないため、プログラムの成功には国民感情が重要な鍵となる。南インドに所在する国立工科大学(NIT)の研究チームは、Twitterへの投稿データから新型コロナワクチンに対する態度と感情を分析する機械学習研究を行っている。 Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviewsに掲載されたチームの研究論文によると、PythonライブラリであるTwintを利用し、「COVIDワクチン」という単語を含むツイートを網羅的に抽出し、AIアプローチによる解析を加えたという。結果、47%が中立的なトーン、17%が否定的なトーンであったことが明らかにされ、ワクチンに肯定的な立場を取る人は全体の35%強にとどまっていた。このことから研究チームは「インド政府はプログラムの実施前にまず、ワクチンに対する恐怖に対処することが欠かせない」点を強調している。 ツイート内容をスクレイピングして、傾向分析によって有用な医学的知見を導出する研究成果が近年多くみられる。一般的にはTwitter APIによって抽出作業を行うが、申請時にやや煩雑な作業を要するため、APIを介さずにTwitterプロファイルからツイートをスクレイピングできるTwintの価値は高い。また、Twintには地理的フィルタリングのオプションがあるため、容易に発信地域を限定した投稿データ収集を可能とする。Twintを活用し、当メディアの読者からも積極的な近傍研究への参画のあることを期待したい。

手術技量を自動評価する3段構えの機械学習アルゴリズム

手術技能の評価は、専門家の主観に大きく依存しており、評価を受ける機会やコストに課題があった。外科医の技術評価を自動化・客観化する試みとしてAIの応用が期待されている(過去記事)。スイスを代表する病院のひとつ、インセルスピタル(ベルン大学病院)では「3段構えの機械学習アルゴリズムで手術スキルを自動評価する研究」が行われている。 学術誌 Scientific Reportsに発表された同研究では、「腹腔鏡下の胆嚢摘出術におけるクリッピング操作」を技能評価に適した代表的手技として解析の対象とした。1段階目では手術動画から手術器具を特定するため、畳み込みニューラルネットワークによる学習を行った。2段階目では器具の動きを解析しパターンを抽出した。3段階目では器具の動きのパターンと専門家による評価との関連を、線形回帰によって調査した。同研究が捉えた手術技量の特徴として、熟練外科医は狭い範囲に集中して器具を動かしており、一方で未熟な外科医は器具が頻繁に方向転換し、広い範囲で遅く動き、震えを伴う傾向が確認された。結果として、同研究のアルゴリズムは手術技量の良し悪しを87%の精度で予測できたという。 研究グループは、今回の成果は手術支援システムの実現に向けた概念実証の第一歩と考えている。さらなる研究の発展により、術者の疲労を検知した際に警告を発して術中の合併症を予防できるような、エキスパートシステムへ発展していくことなどが期待されている。

ミシガンメディスン – 3MのAIソリューションを導入

ミシガン大学傘下の医療機関であるミシガンメディスンはこのほど、3M Health Information Systemsとの提携により、同社の強力なAIソリューションを全面導入することを明らかにした。これにより、3MのAIソリューションは関連する3つの病院と125の外来診療所に実装されることとなる。 3Mの10日付プレスリリースによると、今回導入されるものには音声認識システム、臨床文書の作成支援システム、バーチャルアシスタントなどが含まれるという。ミシガンメディスンのJeff Terrell氏は「ミシガンメディスンには、先端研究と高度治療の長い歴史がある。この使命をさらに推進するため、3Mテクノロジーにより、電子カルテ作業の合理化を通して文書作成の負担を軽減し、臨床医が患者ケアに集中できるようにしたい」と話す。 ミシガン大学、特に旗艦校となるアナーバー校はバブリックアイビーに数えられる名門で、米国で最も歴史ある公立大学である。医学領域では1955年のポリオワクチン開発など、長く医学および公衆衛生の向上に多大な貢献を重ねてきた。今回の取り組みは、高機能医療機関におけるAIスイート導入のモデルケースとして捉えられ、その動向は大きな注目を集めている。

PathoFusion – 豪州発の自律型病理診断AIフレームワーク

病理学におけるAI技術は加速する機運を見せ、日々新しい話題が提供されている(過去記事参照)。病理学AIの大規模な国際共同研究がオーストラリアからも広がっている。豪州核科学技術機構(ANSTO: Australian Nuclear Science and Technology Organisation)の支援のもと、シドニー大学主導により病理学AIアプリケーション「PathoFusion」が開発された。 ANSTOの11日付ニュースリリースでは、PathoFusionが可能とする自律型の病理診断機能について紹介されている。同技術の基礎的背景は学術誌 CANCERSに掲載された。PathoFusionはオープンソースAIフレームワークとして開発されており、BCNN: bifocal convolutional neural networkというアプローチによって、病理検体のスライド画像上の悪性所見を自律的に認識させる。その手法は、病理医が弱拡大・強拡大というような焦点の合わせ方で、組織の中にがんの形態的特徴を認識する方法に類似しているため「2焦点(bifocal)」と呼ばれる。HE染色及び免疫染色(CD276)で脳悪性腫瘍の膠芽腫を検出させマッピングする実験では、HE染色(AUC 0.985)・免疫染色(AUC 0.988)のいずれにおいても十分に高い精度を達成した。 研究グループのひとりでシドニー大学教授のManuel Graeber氏によると「今回の研究は、比較的少ない症例数でニューラルネットワークを効率的に学習させることが可能となりました。将来的なハードウェアの計算能力向上を想定すると、人間が行う顕微鏡での認識速度を数桁上回るはずです。開発したモデルによって顕微画像の分析が容易になれば、病理診断のワークフローを改善したり、診断サービスを受けにくい遠隔地の患者に恩恵が与えられるでしょう」と語っている。

スマートスピーカーを利用した心拍モニタリングシステム

米ワシントン大学の研究チームは、スマートスピーカーを利用することで、物理的な接触を持つことなく心拍をモニタリングすることのできる機械学習システムを構築した。研究成果はCommunications Biologyから9日、オープンアクセスの原著論文として公開されている。 チームの研究論文によると、スマートスピーカーから部屋に向けて「可聴域にない音波」を発することで、その反射音に基づいた心拍モニタリングを実現したという。スピーカーに心拍を把握させるため、あたらしいビームフォーミングアルゴリズムを構築しており、これが新技術の根幹をなす。興味深いことに、研究チームはアルゴリズムの構築をトレーニングセットから行うのではなく、オンザフライで学習する機械学習アルゴリズムを設計し、スマートスピーカーによる心拍識別を実現させている。当該システムはまた、規則的な心拍と不規則な心拍を適切に識別しており、不整脈の発現を捉えることも支援する。 著者らは「自宅で継続的に施行可能な低コスト検査であり、不整脈への早期の診断・介入を実現させる画期的技術となる可能性がある」点を強調する。今後、技術革新に伴って日常環境下における医学的スクリーニングは当たり前となる可能性が高いが、本システムはデバイスを身につけることさえ不要な非侵襲的かつ簡便な検査手法であり、特に大きな潜在的有用性を孕んでいると言えるだろう。