多発性硬化症は中枢神経における代表的な脱髄疾患だが、いまだ発症原因が明らかにされておらず、我が国でも厚生労働省が定める指定難病に該当する。過去数十年において、欧州・米国でも有病率の単調増加を認めており、神経内科領域の重要疾患と言える。近年は多発性硬化症に対するAIアプローチ研究が盛んとなり、研究者コミュニティは当該疾患に関する種々の問題解決の緒を機械学習によって捉えようとしている。
ベイジアンネットワークは多変数間の因果関係をネットワーク構造で視覚化し、任意の変数に対する条件を付与した際の他変数への影響として条件付確率を推論することができる。ベイジアンネットワークは多彩な確率シミュレーションを行えること、変数間の非線形性や非ガウス性、交互作用なども取り扱える柔軟なモデリングが特徴となる。ロンドン大学クイーンメアリー校の研究チームは、このベイジアンネットワークが多発性硬化症研究に有用である可能性を考え、詳細な文献レビューを行った上でその結果を報告している。
Computers in Biology and Medicineにこのほど掲載されたチームの研究論文によると、抽出された90の関連論文のうち、半数以上が定量分析のための多発性硬化症病変の検出とセグメンテーションに焦点を当てたものだという。研究チームは「リスクファクターの探索や発症予測という研究テーマが多分に見過ごされている」ことを指摘し、現行の疫学調査手法によるリスク測定の限界を克服するため、ベイジアンネットワークの活用が有効である可能性、およびこれによる既存観察データの有効活用を推進すべき点を強調している。
なお、ベイズ論と頻度論の違いについてはこちらの動画に詳しい。関心のある読者は参照のこと。