4月は「National Minority Health Month(NMHM)」という、マイノリティが直面する健康問題を啓発する全米キャンペーンが行われており、2021年のテーマは「#VaccineReady」となっている。マイノリティはCOVID-19の影響を強く受けた社会的弱者でありながら、ワクチン接種率が低い状況が報告されている。ワクチンへの不信・アクセスの悪さ・医療システムへの不信といった障壁に対して、デジタル技術はどのような役割を果たせるか。学術誌 LANCETに巻頭辞(エディトリアル)として問題が提起されている。
論説の中では、マイノリティがワクチン接種をためらう最も一般的な理由として「副作用への懸念」を挙げている。懸念される副作用の可能性に対して、迅速かつ透明性の高い報告を行い、コミュニケーションを改善することでワクチン接種に対する躊躇を減じられるのではないかと、著者は主張している。そのための技術の一端として挙げられるのは、米国疾病予防管理センター(CDC)が採用しているデジタルツール「V-safe」で、ワクチンの副作用報告を患者から直接聴取するものである。英国でも同様のアプリ「Yellow Card」が開発されている。患者個人が副作用の情報をリアルタイムで報告することで、ワクチンの安全性監視プログラムの確立に市民自身が貢献する仕組みができ、信頼感確立の一助となる。
英国の規制当局である「医薬品・医療製品規制庁(MHRA)」はワクチンの有害事象報告による膨大なデータを管理するAIの開発に、100~500万ポンドの予算を計上している。副作用の報告には因果関係が認められないものや、反ワクチン運動・政治的ロビー活動の影響を受けたものも多数混在してしまうことから、真の副作用を特定するためにデジタルツールの助けが必要となる。このような先進的アプローチにも、マイノリティに不利となりがちなバイアスが懸念されるため、コミュニティでの信頼を維持するための慎重な取り組みが必要となっていく。ワクチン接種率を高めるテクノロジーには、単に技術の問題だけではない多くの機微が求められている。