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プライマリケアよりも4年早くIBD患者を特定するAI

炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory bowel disease)は慢性的な下痢・腹痛・血便を起こす疾患群で、「最大23.5%もの患者が初期診断を誤って受け、治療の遅れにつながっている」との報告がある。AIソフトウェアによってプライマリケアよりも早期にIBDを検出することで、治療の遅れによる組織損傷を減らし、重症化抑制および手術回避につなげる試みが進む。イスラエル・テルアビブ大学およびSheba医療センター、また医療AIスタートアップであるPredicta Medらの協働により、電子カルテデータからIBD患者を特定する機械学習アルゴリズムが開発されている。

同研究の成果は、Inflammatory Bowel Diseases誌に報告されるとともに、2022 Crohn’s & Colitis Congressで発表された。本アルゴリズムの学習のため電子カルテから取得される変数には、症状・検査結果・医師記述・処置・処方・併存疾患・既知のIBDリスク因子などが含まれている。IBD診断を受けた1,214名の患者を対象としてアルゴリズムの有効性を検証したところ、プライマリケアでIBDが疑われる4年前に30.1%の患者を検出していた。また、IBDのなかでも特にクローン病については、プライマリケアで疑われる4年前に38%の患者を検出できたという。

IBD予測および診断における関連研究の促進は、プライマリケアにおけるIBDの認識をさらに高めることも併せ、診断・治療までの短縮に寄与することが期待される。米国で300万人規模と推定されるIBD罹患者数は、日本においても若年層を中心に増加傾向が続いている。早期発見の恩恵が大きい疾患として、研究開発の動向には一層の注目が集まる。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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