性別や人種、民族背景など、種々の属性情報に伴う労働市場における不平等が是正されていない。種々の社会疫学的研究より、職の安定度や給与額といった要素が疾病罹患、さらには個人の生命予後にまで影響することも明らかにされており、医学的観点からも不当な雇用差別は看過されるべきではない。スイス・チューリッヒ工科大学などの研究チームは、オンライン採用プラットフォームにおける「雇用差別を監視する機械学習アプローチ」の開発に取り組んでいる。
これまでのアプローチでは、ある項目(例えば黒人・白人などを想起させる名前)以外ほぼ同一の履歴書を送付し、雇用傾向を調査する手法などが取られてきたが、この場合限定的な状況において差別される「ごく少数の特性」のみしか抽出できないことが限界でもあった。権威ある学術誌・Natureから20日オンライン公開されたチームの研究論文によると、求人サイト上での採用担当者の検索行動のトラッキング、および採用担当者に可視化される求職者特性をコントロールする教師あり機械学習モデルを抱き合わせ、この雇用差別の新しいモニタリング手法を構築したという。
チームがこれを、スイスの公的雇用サービスにおけるオンラインプラットフォームに適用したところ、移民やマイノリティに当たる民族グループに属する個人は、採用担当者による接触が4-19%低下すること、男性または女性が支配する職業において他方の性別は、7%程度のペナルティを経験している事実などが明らかにされた。研究チームは「このアプローチは、政策立案者や研究者が雇用差別を継続的に監視し、差別の要因を特定した上で対策案を講じるために活用できる」ことに言及し、その広い適用範囲と高い費用対効果についても強調している。