AI/機械学習アプローチに対する期待の高まりから、自殺リスクを予測する研究発表が各所から相次いでいる(過去記事)。しかし、臨床現場においてリアルタイムで機能するモデルの実装と検証は未知の部分が大きい。米テネシー州拠点のヴァンダービルト大学医療センター(VUMC)では、VSAIL: Vanderbilt Suicide Attempt and Ideation Likelihoodモデルと名付けられた自殺リスク予測アルゴリズムの実効性が検証された。同モデルは電子カルテ情報から「自殺未遂」と「自殺願望」による30日以内の再診リスクを算出するものである。
学術誌 JAMA Network Openに発表された同研究によると、2019年6月から2020年4月までの間、自殺リスク予測モデル「VSAIL」が医療センターに実装され、同施設を受診した77,973名の患者に対して前向き調査によるモデル性能の検証が行われた。アルゴリズムは自殺リスクをスコアに応じて8段階のグループに分類する。受診者全体では395名が自殺願望を示し、そのうち85名が少なくとも1回の自殺未遂を経験した。なかでもリスクが高い最上位のグループに分類された患者では23人に1人が自殺願望を示し、271人に1人が自殺未遂を経験した。
同研究で示されたNNS(number needed to screen)、つまり「1人の自殺未遂や自殺願望のある患者をスクリーニングするために必要となる対象者数」は、大規模な臨床システム内で導入するのに十分な性能を示したと研究グループでは主張している。NNSは生活習慣病スクリーニングや、がん検診の性能評価にしばしば取り上げられる指標である。医療施設における自殺リスク者への介入を考えたとき、頑健な既存手法による全体スクリーニングは労力・コストの面から現実的ではなく、今後VSAILのような臨床現場での有用性が期待できる「簡潔な層別AIアプローチ」の採用が検討されていくであろう。