慢性心不全の治療薬ジゴキシンは、最適な血中濃度の範囲が狭く、薬物同士の相互作用(DDI)を受けやすい性質から、臨床で強い注意を必要とする。特に高齢者では中毒症状などの有害反応で入院や死亡に至るケースが多く、課題とされてきた。
Journal of Healthcare Engineering収載の論文は、台湾の医療センター307名の患者でジゴキシンの初期投与量の適切さを機械学習で検討した。複数の機械学習手法を比較し、決定木(decision tree)ベースのランダムフォレスト(RF)や、多層パーセプトロン(MLP)の優位性が示された。血中濃度の測定前に、初期投与量の適切さを予測することは、臨床での意思決定に大きく役立つ。単一施設のデータであり研究の更なる発展が必要と著者自ら指摘するものの、AI応用の臨床研究モデルとしての方向性は興味深い。
ジゴキシン以外にも、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring, TDM)で血中濃度の解析を必要とする薬物は抗てんかん薬・免疫抑制剤・抗菌薬・抗不整脈薬など多岐に渡る。影響を与えるパラメータが複雑で、臨床面では扱いの難しい治療薬として認識されることも多い。特に初期投与のように個人の過去データがない局面では、AIによる予測モデル研究の発展の可能性が高い。