腫瘍の良悪性判断は、臨床医と医学研究者にとって長年の課題であり続けている。正確に見極めるには腫瘍組織を直接取ってくる「生検」が必要となることが多いが、患者にとってその侵襲性は多大である。一方で、診断の遅れや偽陰性は治療機会を逸することにもつながる。今回は、AIを利用し、非侵襲的で高精度の乳がん診断を目指す新しい取り組みを紹介する。
近年、超音波エラストグラフィという新しい画像技術が実用化されている。生体組織の柔らかさは病理的に決定していることが多いため、悪性病変(特にがん)を組織の柔軟性から画像的に評価できるだろうというものだ。具体的には、組織に振動を加えた際のせん断波の伝播速度を計測するものが知られている。乳がん診断にも実際に適用が始まっているが、エラストグラフィの画像読影は時間を要すること、複雑なプロセスを経ること、専門家間での評価の隔たりなどが問題となっている。そういったなか、米南カリフォルニア大学の研究チームは今月公開される論文中で、畳み込みニューラルネットワークを利用し、この超音波エラストグラフィ画像から乳房腫瘍の良悪性を判断する取り組みを示している。
チームは12000枚の画像をアルゴリズムに学習させ、8割程度の診断精度を実現しているという。現時点ではあくまで研究途上であり、実臨床利用のためにはさらなる精度向上が欠かせないが、この研究は非常に斬新な手法を取り入れている点にも言及しておく必要がある。それは、実はこのサンプル画像が実画像ではなく、合成画像であるという点だ。臨床的に有効性の高いAIアルゴリズムを導くためには大量の画像データが必要になるが、実際的にはこのようなデータベースの構築はきわめて難しい。アルゴリズムを大量の合成画像で導き、現実的な数での実画像で妥当性の検証を行うことができるのであれば、医療AI開発は一層の進展をみせる可能性があると言える。