放射線治療で対象となるがんや臓器の位置は、呼吸などの要素で動いてしまう。日本放射線腫瘍学会が公認している各種ガイドラインでは、より安全かつ治療効果を高めるために未解決の課題として生理的な臓器の位置変動に対する試行錯誤の経緯が紹介されている。人の身体はどうしても完全静止することができない事実に、AI技術による経時的な微小変動を画像同士で照合し一致させる取り組みが、解決の可能性を生むかもしれない。
オランダのアイントホーフェン工科大学(Technische Universiteit Eindhoven: TU/e)の公式ニュースでは、医療画像解析を専門とした博士候補者Koen Eppenhof氏のディープラーニングを基礎とした画像補正アルゴリズムを紹介している。彼は博士課程開始時より温めてきた、同一人物で別時間に撮影されたスキャン画像同士を照合させるAI技術に取り組んでいる。かつて計算の実行に数分かかったものをいずれ完全なリアルタイムで一致させることを理想としている。Eppenhof氏のアイディアには、MRIガイド下で前立腺がんの治療を行っているユトレヒト大学病院が関心を寄せている。治療直前にスキャンされた前立腺の位置は、放射線の照射中に、尿が膀胱に満たされるなどの要素でゆっくりと動く。Eppenhof氏の方法論はその動きを追跡するには十分高速に働き、治療の効果向上と合併症回避に役立つ可能性が考えられている。
呼吸性に変動する臓器の代表格である肺に対する臨床応用も大本命と考えられ、トレーニングを受けたニューラルネットワークは実用レベルとの期待がある。しかし、実際の臨床現場で正確に機能するかどうか、あるいは多くのAIアプリケーションと同様の課題である説明不能な部分を規制当局からどのように評価されるか、課題は少なくない。Eppenhof氏は「技術の完全自動化は決して許可されないでしょう。責任者による監視は必須となります」と説明している。