AIが糖尿病治療を変革するといわれてきたものの、当初の期待に応えられていない現状がある。その理由には、実用的データの不足・AIのコスト・糖尿病治療にあたる医療関係者とAI開発者との関連性の欠如などが指摘されている。内服薬で糖尿病コントロールの幅は広がったがインスリン注射の需要は一定続き、インスリン使用者は3つの障害(投与のサボりや忘れ・投与量調節の必要性・低血糖のリスク)に直面し続けている。従来のインスリンペンの延長線上でユーザーに馴染みやすいとされる「スマートインスリンペン」は糖尿病治療の景色を変えることができるか。
Entrepreneurの記事では、インスリンの投与量と投与タイミングを記録し、Bluetoothのような通信を介しワイヤレスで連携したモバイルアプリに情報送信する、スマートインスリンペンを紹介している。ペンに搭載された血糖値センサとリンクしてインスリンの適切な用量を提案できるプラットフォームが期待されている。その具体例としてHIT Consultantでは、アイルランドMedtronic社とデンマークNovo Nordisk社がスマートインスリンペンによるインスリン投与データを共有するシステム開発で協力している件を報じている。
米国を中心にインスリン投与法は、体内埋め込みタイプのチューブから持続的にコンピュータ制御で注入する「インスリンポンプ」が発展してきた。一方、日本ではインスリンポンプの普及度が相対的に低い。スマートインスリンペンは検証結果次第で、より低コストでインスリンポンプを代用し、市場に浸透する可能性がある。糖尿病も他の疾患と同様、新技術の採用に高齢者が適応できていないという課題にも立ち返る必要がある。次世代の標準治療技術として、スマートインスリンペンは机上の理論を越え、実用性・血糖値測定精度・コスト面でのメリットを証明していけるであろうか。