英国NHSの病院では新型コロナウイルス感染症患者の治療優先度選別(トリアージ)のため胸部X線検査を主力としている。トリアージの特性である大量の患者を迅速にさばき、限りある医療資源を有効活用し、さらにコスト削減も達成するためには、正常画像を識別して除外する能力を強化するアプローチの有効性が高い。AI活用の視点において異常を検出することに焦点が当たりがちだが、臨床医の意思決定プロセスでは正しいものを正しいと後押ししてくれるAIのありがたみが分かる。
英国発祥のスタートアップ behold.ai のリリースによると、同社のAI画像診断プラットフォーム red dot は「胸部X線を正常と診断するAI技術」で英国とEUの技術適合CEマークを取得したことを発表した。この内容での認可は世界初といわれており、COVID-19のトリアージの迅速化に貢献しながら英国NHSに年間1億ポンド以上のコスト削減をもたらす可能性を同社は推算する。アルゴリズムの精度は経験豊富な放射線科医と同等とbehold.aiは公表しており、現在の感染拡大でNHSの放射線科医が自宅から診断報告している状況をAIが柔軟にサポートしようとしている。
学術誌Scienceにハーバード大のチームから発表された「社会的隔離が2022年まで必要となるシナリオの可能性」のような状況の長期化を危ぶむ予測が人々に大きな衝撃を与えている。そのようななか持続可能性に重点を置いた医療政策への発想のシフトが必要とされてくる。behold.aiのようなアプローチこそ、この局面でAIをよりよく活用する人の知恵のひとつではないだろうか。