運動障害性の構音障害(発語障害)をもつ人々にとって、他者とのコミュニケーションにはコンピュータによる音声出力を用いることが多い。しかし、たとえタイピングに問題がなくても、会話を成立させるには時間がかかりすぎる。その速度の差や内容の食い違いは「コミュニケーションギャップ(communication gap)」と呼ばれており一般に英語圏で毎分80-135語の差が生じているという。ケンブリッジ大学のチームはCHI 2020で「運動障害性発語障害患者のキーストロークを50-96%削減する文脈認識AI」について論文発表している。
ケンブリッジ大学のニュースリリースによると、システムはGPSによる場所・時間帯・顔認証カメラによる会話相手の特定など、さまざまな文脈の手がかりから、タイピング中に最も関連性の高い過去の文章を自動提案する。AIはユーザーが過去に入力した文章を高速で検索できるようにしている。音声合成に頼っている人も、通常の話者と同様に日常会話の中では同じフレーズや文章を多く再利用する傾向をもつという先行研究に基づき、その文の検索をAIに行わせることでコミュニケーションギャップを大幅に解消できるという。
タイピングからの自動予測変換自体は従来からあるシステムである。しかし同研究は対象を運動障害性発語障害者向けとして、音声生成装置と会話が行われている場面の文脈を意識した情報検索を統合したことで、圧倒的なキーストローク削減に貢献している。これは従来型のユーザーインターフェースに対するAI搭載システムによる革新的な挑戦であろう。