運動障害性発語障害のコミュニケーションギャップを埋めるAI

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運動障害性の構音障害(発語障害)をもつ人々にとって、他者とのコミュニケーションにはコンピュータによる音声出力を用いることが多い。しかし、たとえタイピングに問題がなくても、会話を成立させるには時間がかかりすぎる。その速度の差や内容の食い違いは「コミュニケーションギャップ(communication gap)」と呼ばれており一般に英語圏で毎分80-135語の差が生じているという。ケンブリッジ大学のチームはCHI 2020で「運動障害性発語障害患者のキーストロークを50-96%削減する文脈認識AI」について論文発表している。

ケンブリッジ大学のニュースリリースによると、システムはGPSによる場所・時間帯・顔認証カメラによる会話相手の特定など、さまざまな文脈の手がかりから、タイピング中に最も関連性の高い過去の文章を自動提案する。AIはユーザーが過去に入力した文章を高速で検索できるようにしている。音声合成に頼っている人も、通常の話者と同様に日常会話の中では同じフレーズや文章を多く再利用する傾向をもつという先行研究に基づき、その文の検索をAIに行わせることでコミュニケーションギャップを大幅に解消できるという。

タイピングからの自動予測変換自体は従来からあるシステムである。しかし同研究は対象を運動障害性発語障害者向けとして、音声生成装置と会話が行われている場面の文脈を意識した情報検索を統合したことで、圧倒的なキーストローク削減に貢献している。これは従来型のユーザーインターフェースに対するAI搭載システムによる革新的な挑戦であろう。

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TOKYO analytica
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The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。

1. M.Okamoto MD, MPH, MSc, PhD
信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(University College London)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員を経て東京大学特任研究員など。専門はメディカルデータサイエンス。

2. T.Sugino MD
防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。