心疾患、特に冠動脈疾患(CAD)には、顔面にリスクを反映した一定の特徴が現れるという議論が続けられてきた。脱毛症・白髪・顔のしわ・耳たぶのひだ・眼瞼黄色腫・角膜環などがCADリスクと関連する例に挙がる。これまでそれら特徴のスクリーニング利用は容易でなかったが、AI手法、ディープラーニングアルゴリズムの進歩によって、顔貌の特徴がCAD検出に有望となる可能性が高まっている。
学術誌 European Heart Journal に発表されたのは、中国の清華大学を中心としたグループによる「顔写真を基にした冠動脈疾患検出へのディープラーニング利用の可能性」という研究である。中国8施設・5,796人の患者を対象とした同研究では、患者の顔写真4枚(正面・左右60°・頭頂部)の画像情報を、冠動脈造影検査・冠動脈CTによる冠動脈狭窄など心疾患の程度と照合し、ディープラーニングアルゴリズムの開発と検証が行われた。アルゴリズムは冠動脈疾患の検出において感度80%・特異度54%・AUC0.730という結果で、既存の心疾患リスク予測手法(Diamond-Forrester model および CAD consortium clinical score)を上回る可能性が示された。
用いられた顔貌の人種グループが制限される点など同研究の限界は数多く挙げられるが、顔写真というデータ入力は他の人種グループにも容易に適用可能な研究アプローチとなる。また顔写真という抽出しやすい個人情報・プライバシーに対しては倫理的に十分な注意が必要である。それら研究の制約を越えた先には、顔写真から心疾患リスクを大規模にスクリーニングする未来の青写真が描かれるだろう。