血液脳関門の透過性を予測するリカレントニューラルネットワークモデル

計算手法の急速な発展と取得可能な化学・生物学的データの増加は、化学領域の成長にも多大な貢献をしている。情報処理技術を化学領域に応用する「ケモインフォマティクス」においては、その重要な研究ラインのひとつとして、中枢神経系への薬物の浸透を特定するため、血液脳関門(BBB)の透過性を予測するAIモデルが検討されている。

サウジアラビア・キングサウド大学の研究チームは、深層学習ベースのリカレントニューラルネットワークによって高精度なBBB透過性予測モデルの構築に成功した。査読つき学術ジャーナルであるComputational Biology and Chemistryに公開されたチームの研究論文によると、アルゴリズム構築に先立って既存のモデル分析を行っており、ここでは分類器のパフォーマンスに影響を与える3つの主要な課題を特定している。それぞれのソリューションを考慮した上で、シンプルなニューラルネットワークに対し、時系列データを取り扱えるように拡張したリカレントニューラルネットワークによって新しい予測モデルを構築したという。チームのモデルは96.53%と高い精度を示し、従来の予測モデルを大幅に上回っていた。

BBBは血中から脳内への物質移行を制限する生体機能で、バリア機構として重要な役割を果たす一方、中枢神経系への薬物送達を難しくしており、脳神経系疾患の治療を困難にする一因ともなってきた。AIによる高精度なBBB透過性予測は、薬剤設計と治療計画策定における大きな示唆を与えるものとして注目を集めている。

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TOKYO analytica
TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。
The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。

1. M.Okamoto MD, MPH, MSc, PhD
信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(University College London)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員を経て、東京大学特任研究員など。専門はメディカルデータサイエンス。

2. T.Sugino MD
防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。