米国においてボトックス注射は斜視治療の目的に開発されたが、現在は偏頭痛治療のほか、しわ取りなどの美容目的にも活用されている。既存薬の他目的利用は「ドラッグ・リポジショニング」と呼ばれ、特にCOVID-19の拡大下において大きな注目を集めた。ただし、通常は多大な時間と費用を要するランダム化比較試験に加えて、一定の偶然性を要し、ドラッグ・リポジショニングへの道筋は必ずしも平坦ではなかった。
米オハイオ州立大学の研究チームが4日、Nature Machine Intelligence誌から公表した研究論文によると、電子診療録や保険請求記録など無数の実世界データを遡及的に分析することにより、転用可能な候補薬剤を示すことができる深層学習フレームワークを開発したという。また、同時に保険請求データベースを主軸としてランダム化比較試験をエミュレートすることにより、因果推論に基づく薬剤効果のテストまでを行うこともできる。当初、循環器領域の1薬剤を対象としたドラッグ・リポジショニングのための手法として構築したが、フレームワークの柔軟さのために、他領域他薬剤への利用拡大にも制限がないとする。
これらの実世界データは種々の診断名や処方記録、改善・増悪、追加検査やその結果など多岐に渡る医療記録を縦断的な観察データとして取り扱うことができるため、仮想的な検証モデルでありながら頑健な成果を導くことが期待される。研究チームは、個別検証に基づく手作業では処理不能な規模の交絡因子群を適切に処理できる点にも言及し、AIアプローチの有効性を強調している。