医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例医療AIがもたらす影響・問題点従来型の医療データベースにAIを適用する限界 - 米イェール大学

従来型の医療データベースにAIを適用する限界 – 米イェール大学

医療データベースに対してAIを活用した分析を行うことは、医療の将来にとって重要な役割を果たすと考えられている。しかし、従来の標準的に登録された医療データベースにAIを適用する限界が、米イェール大学のグループによる最新の研究で示された。

イェール大学のリリースによると、学術誌 JAMA Cardiologyに発表された研究では、米国心臓病学会(ACC)の胸痛-心筋梗塞レジストリ(Chest Pain-MI Registry)が利用されたという。これは、米国1,000以上の病院に入院した急性心筋梗塞と心臓発作患者100万人近くが含まれるレジストリで、従来主力とされてきた医療データベースにあたる。そこに3つの機械学習手法を適用し入院後の死亡を予測したが、古典的な統計学的回帰モデルであるロジスティック回帰を用いた場合と比較して、機械学習モデルで得られる院内死亡率の識別力の向上はごくわずか(C統計量: ロジスティック回帰0.89 ・機械学習モデル0.90)という結果であった。

著者らは「医療の外で予測力に革命を起こした高度な機械学習手法も、大規模な全国レベルのデータベースでは死亡率予測を有意に改善できないことがある」とその限界について述べている。すなわち、従来型の限られた項目に対して手動で抽出されたデータベース形式では、高度な解析に必要な患者の特徴の多くを捉えきれていない可能性が高いということになる。AI/機械学習が可能性を発揮するかは「適切に構築されたデータセットかどうか」に強く依存するため、今後のデジタルデータ収集における方法を再考する必要があると、著者らは考察している。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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