医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例投薬自己管理のエラーを防ぐリモートセンシング技術

投薬自己管理のエラーを防ぐリモートセンシング技術

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所(CSAIL)では、無線装置で患者の動きを検知するリモートセンシング技術の開発を進めていた(過去記事)。その技術の発展として「患者がインスリン自己注射や吸入薬を正しい方法で使用できているか無線装置とAIで解析する」新しい研究成果が発表されている。投薬自己管理で起きている多くのエラーを、デバイス装着なく引っ接触で検出・監視し、治療の効率や安全性の向上につなげる狙いがある。

学術誌 Nature Medicineに18日発表された研究論文によると、このシステムはW-Fi装置に類する周波数帯の無線信号を患者の自宅内で発信し、人の動きに合わせて反射する信号にAIの解析を加えることで、投薬自己管理の動作が不適切な場合に警告を発することができる。不適切な動作として、インスリンペンの薬液内に気泡がないことを確認するプライミング動作を行っていないこと、吸入器を使用前に振っていないこと、十分な呼吸動作ができていないこと、などを捕捉する。これらの適切な手順を踏んでいるかをAUC 0.952という高水準で評価できることを、同研究は示した。

MITのリリース内で、論文著者のひとりでCSAIL博士課程学生のMingmin Zhao氏は「システムの優れた点として、患者がセンサーを装着する必要がないことや、Wi-Fiルーターが壁を越えて機能するのと同様に閉鎖空間でも作動できることです。非侵襲性という意味ではカメラの設置による監視方法もありますが、電波の使用は人の姿すら映さずに済み、さらに侵襲性は低いと言えるでしょう」と語っている。同技術はインスリンペンや吸入器以外の薬にも適用可能で、適切な動きを認識するようにニューラルネットワークを再訓練するだけで済むといい、その発展性は投薬自己管理の風景を一変させる可能性がある。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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