放射線科医はその読影作業において、限られた時間のなかで緩急をつけた画像診断を行う。一見して「何かがおかしそうなもの」には時間を多く割く。一方で、自身の経験と高度専門知識に基づき、違和感を感じない画像は定式的な確認のみで済ませる。これはある意味で職人感覚に類するものだが、このような熟練医が抱くことのできる適切な「違和感」をモデル化する深層学習アルゴリズムが構築された。
権威ある学術団体「北米放射線学会(RSNA)」が21日公表したところによると、マサチューセッツ総合病院(MGH)やハーバード大学などの研究チームは、複数施設から収集された9,000を超える頭部MRI画像によって当該アルゴリズムをトレーニングしたという。畳み込みニューラルネットワークモデルはあえて「正常/異常」のみを識別するよう設計され、特定の候補診断名を挙げることはしない。これによってモデルのターンアラウンドタイムを大幅に改善するとともに、本来関心があるもの以外の所見を偶発的に捉える機会を逃さない(転倒に伴う脳損傷をチェックした際にも、脳腫瘍の存在を見逃さないなど)。また、このようにシンプルなアルゴリズムは放射線科医による画像読影への強力な支えとなる可能性もある。
同21日にRadiology: Artificial Intelligenceから公開されたチームの研究論文では、比較的良好なモデルパフォーマンスを示しているが、あくまで現時点では予備的研究成果と位置付け、さらなる精度向上と汎化性能の検証を続けるとしている。正常/異常のみを識別するアルゴリズムは興味深い視点であるが、所見に病的意義のないものも多く、異常の閾値をどこに設定するかによっては臨床フローを著しく阻害する可能性もある。「異常」に対しては臨床的重要度を付与して示すなどを考慮することが、臨床現場に受け入れられやすいスクリーニングシステムとしての発展の方向性かもしれない。
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