世界保健機関(WHO)は、薬剤耐性菌の脅威に対して、新しい抗菌薬の必要性を緊急度別にリスト化している。「Acinetobacter baumannii」は、新規抗菌薬の開発で優先度1「CRITICAL」に位置付けられる3種の細菌の1つである。英マクマスター大学の研究チームは、「A. baumanniiに対するAI手法を用いた新規抗菌薬の発見」を研究成果として発表した。
Nature Chemical Biologyに発表された同研究では、約7,500種の薬剤化合物ライブラリに対し、A.baumanniiの成長を阻害できるか評価する機械学習モデルを用い、「abaucin」と命名された新規の抗菌性化合物を予測している。従来型アプローチでは、A.baumanniiに対する新規抗菌薬発見は困難であったが、最新のアルゴリズムは化合物の迅速な探索を可能にし、新しい抗菌性化合物の発見確率を大きく高めた。また、本研究で同定されたabaucinは、マウスにおける創傷モデルでA.baumanniiの増殖を抑制することも示されている。
abaucinはA.baumanniiへの殺菌能力を持ちながら、緑膿菌・黄色ブドウ球菌・カルバペネム耐性腸内細菌など他の菌種には効果を示さず、「狭いスペクトル」の殺菌能力を持つことから、新しい耐性菌の発生リスクを最小限に抑えることができる。著者でマクマスター大学のJonathan Stokes氏は「病原体の進化は、我々が投げかけるあらゆる手段に適応できるため、我々は広域スペクトルの抗菌薬が最適ではないと知っている。AIを用いることで、新規抗菌薬の発見速度を大幅に向上させ、しかも低コストで実現できる。これは新規抗菌薬探索のための重要な手段だ」と語った。
参照論文:
Deep learning-guided discovery of an antibiotic targeting Acinetobacter baumannii
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