医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例LLMのハルシネーションが新薬開発の手がかりとなり得る

LLMのハルシネーションが新薬開発の手がかりとなり得る

大規模言語モデル(LLM)のハルシネーション(事実とは異なる出力)が仮説形成に役立つ可能性が注目されている。LLMのハルシネーションは従来有害なものとされていたが、これを創発的仮説形成の手法として活用することで、従来人間では思いつかなかった有益な仮説を生み出す場合がある。このほど、ケンブリッジ大学の研究チームは、GPT-4を活用し、膨大な文献から得られる知見をもとに、乳がん治療において、FDA承認済みの非抗がん薬を対象としたシナジーの高い薬剤ペアを抽出する新手法を提案した。

Journal of the Royal Society Interfaceに掲載された本研究では、まずGPT-4に対してFDA承認済みの非抗がん薬からなる12組のペアを提案させ、乳がん細胞株(MCF7)および非がん細胞株(MCF10A)に対する細胞生存率アッセイを実施した。2剤併用時の効果を表すHSAシナジースコアを算出したところ、初回スクリーニングで3組の薬剤ペアが臨床で用いられる陽性対照を上回る相乗効果を示し、特にシンバスタチン+ジスルフィラムやイタコナゾール+ジスルフィラムがMCF7に対して顕著な選択的毒性を発揮しました。続いて、これらの実験結果をGPT-4にフィードバックして再度4組のペアを生成させたところ、うち3組が再び高いシナジースコアを記録した。こうして、AIによる仮説形成と閉ループ実験の組み合わせが、従来人力のみでは難しかった薬理機序の異なる薬剤の組み合わせ探索を可能とした。

ケンブリッジ大学のロス・キング教授は「LLMのハルシネーションを創発的仮説として活用することで、AIは人間の先入観を超えたまったく新しい研究パスを提示できる」と述べた。また、キングズ・カレッジ・ロンドンのヘクター・ゼニル博士も「AI科学者と人間研究者が反復的に協働することで、新しい発見までの時間を飛躍的に短縮できる」と強調した。今後は、厳選された文献や分子データベースを組み込んだプロンプト最適化手法の開発や、他のLLMとのアンサンブルアプローチの実用化が検討されている。

参照論文:

Scientific hypothesis generation by large language models: laboratory validation in breast cancer treatment

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1.片寄駿 旭川医科大学医学部卒(MD)、Columbia University研究員、Accenture, LPIXELにて機械学習エンジニア、医療AIスタートアップ経営など。
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