医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例脳年齢ギャップが認知機能低下に与える影響

脳年齢ギャップが認知機能低下に与える影響

近年、脳の老化度合いと認知機能低下リスク因子(高血圧や糖尿病など)との関係に着目した研究が進んでいる中で、脳画像に機械学習を適用して「脳の生物学的年齢」を予測し、実際の年齢との差(脳年齢ギャップ:BAG)を算出する技術が登場している。シンガポール国立大学のチームはこのほど、BAGが認知障害リスク因子と記憶・思考能力の結びつきにどのように影響するかを調査し、その結果をNeurology誌公開した。特に、脳血管障害のマーカーが多い人ほど、その影響が顕著になるかを明らかにし、認知機能低下の早期発見に役立つ新たなバイオマーカーとしての可能性を示した。

本研究には、平均66歳の非認知症者1,437人を対象に、アンケート・面接・検査で得たデータと脳MRI画像を用いた。認知障害リスク因子(年齢・BMI・高血圧・糖尿病・うつ症状など)を点数化し、「実行機能」「注意」「言語」「記憶」「図形構成」「視覚運動能力」のテストで認知機能を評価した。次に、脳MRIの皮質厚・脳室容積など62項目を用いて機械学習モデルで脳年齢を予測し、BAGを計測。その結果、認知障害リスク因子が認知機能に与える影響の全体で20%、実行機能では34%、言語能力では27%がBAGに影響されることがわかった。特に脳血管障害を多く抱える群で顕著にBAGが介在していた。

「BAGは認知低下リスク評価の有望な指標になり得る」と著者は述べている。特に脳血管性リスクを抱える高齢者では、リスク因子が直接的に認知機能へ及ぼす影響に加えて、脳の“早期老化”が認知低下を加速させるメカニズムが浮かび上がった。今後は、多民族や運動・食事習慣、遺伝子マーカーを含む多角的データで検証を進め、認知症予防や個別化医療への応用が期待される。

参照論文:

Role of Brain Age Gap as a Mediator in the Relationship Between Cognitive Impairment Risk Factors and Cognition

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1.片寄駿 旭川医科大学医学部卒(MD)、Columbia University研究員、Accenture, LPIXELにて機械学習エンジニア、医療AIスタートアップ経営など。
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