医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例説明可能AIが腰痛管理の複合的要因を明らかにする

説明可能AIが腰痛管理の複合的要因を明らかにする

腰痛の疼痛管理は、多様な要因に配慮した個別の対応が不可欠であるが、従来のアプローチでは単一の原因のみしか解明できず、複合的な要因を持つ患者への対処が困難である。米カルフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、非特異的慢性腰痛(ns-cLBP)の薬物処方における複雑に絡み合う生物学的要因と心理社会的要因の影響を、電子カルテ(EMR)データと説明可能AIを用いて明らかにし、Nature誌Scientific Reports報告した。

研究対象は、2012年から2024年までに腰椎MRIを受けた4,077人のns-cLBP患者で、無処方の患者(52%)、NSAIDsを処方された患者(37%)、オピオイドを処方された患者(11%)が調査された。研究では、臨床記録(年齢、診断名、社会的背景)、心理・社会的要因、MRIによる診断レポートなどを統合し、EMRデータを大規模言語モデル(LLM)プロンプト等で取り出して特徴量化し、これを基に、ツリー型分類AIアルゴリズムで処方薬を予測し、説明可能AIであるSHAPによる特徴量の重要度分析を行った。その結果、画像診断よりも患者報告や診断記録が処方判断に寄与することが示された。また、生物学的要因として、最初のMRIを受けた年、脊柱管狭窄症、変形性関節症等の疾患は薬剤処方の可能性を高めた。さらに、心理社会的要因として不安症またはうつ病患者、女性患者、パートナーを持つ患者には薬剤処方との関連がある傾向が見られた。

研究チームは「慢性疼痛管理の際の複雑な病態における意思決定を解釈可能にすることで、個別化医療や公正な薬物処方に向けたアプローチを推進できる」とコメントしている。今後の研究では、より詳細な処方内容や疼痛スコアなどの患者のアウトカムを含むことで、処方の適切性を評価するとのことだ。

参照論文:

Explainable AI reveals tissue pathology and psychosocial drivers of opioid prescription for non-specific chronic low back pain

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本吉絢
本吉絢
東京女子医科大学卒(MD)、同大学医学研究科博士課程修了(PhD)、米University of Washington研究員を経て、現在は神戸アイセンターにてリサーチアソシエイトとして眼科AI研究に取り組む。趣味は自然と猫や馬など動物たちを愛でて静かに過ごすこと。
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