医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例Apple Heart Study と今後の課題 - The New England Journal of Medicine へ論文発表

Apple Heart Study と今後の課題 – The New England Journal of Medicine へ論文発表

Apple Watchで不整脈を判定する研究 Apple Heart Studyは、2017年に検証開始。2019年3月にACC 米国心臓病学会で心房細動に対する判定能力を発表。そしてついに2019年11月14日、検証の中心となったスタンフォード大学のチームから、The New England Journal of Medicine (NEJM)に論文が発表された。

NEJM 収載の論文では「心房細動を特定するスマートウォッチの大規模評価」と題し、Apple Watchの心電図機能が特定の不整脈を十分に検知できると結論づけた。画期的な研究成果が査読を経て、世界で最も権威と影響力をもつ医学雑誌のひとつに収載されたことは大きなインパクトである。一方で、その臨床試験の制約と課題も強調されている。

assumetech.comでも言及されているように、Apple Heart Studyには大まかに3点の課題があると考えられている。第一に、研究対象とした集団について。参加者の約半数が40歳未満、65歳以上が6%ということで、高齢ほど有病率が高い心房細動の研究に適切な集団であったかという課題が残る。第二に、研究からのドロップアウト率の高さについて。Apple Watchで不整脈が検知された2161人のうち450人から心電図解析用のパッチが回収され、約79%が検証未完了あるいは研究から除外されている。検知後の追加タスクが参加した人々に負担となったためと考えられ、この高い脱落率が記録されている。第三に、フォローアップの難しさについて。ほぼ完全にデジタル化された臨床研究で、医療従事者による被験者に対する監視がなく、患者が個別にフォローアップされにくい。行動を変容させるには、個人用デバイスによる早期警告だけではまだ不十分で、従来の人間同士の関わりを完全に代替するには至っていないと指摘されている。

以上のような課題を抱えつつも、Appleとその研究チームがひとつの革新的な研究成果をあげたことは間違いない。今後もヘルスケアにおいてAppleから何が生み出されてゆくのか、目を離すことができないだろう。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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