脳下垂体は大脳下部に存在し、生体における特定器官の働きを調整するホルモンを分泌する。この脳下垂体に発生した腫瘍の大半が腺腫(アデノーマ)であり、それ自体は良性腫瘍に分類される。下垂体腺腫には合併症としてホルモン分泌異常による種々の症状を引き起こすものがあり、手術による根治療法の対象ともなる。このような下垂体腫瘍の術中・術後における合併症予測において、AIの利用が急速に進んでいる。
米バージニア大学の研究チームはこのほど、ピアレビューの医学ジャーナルであるWorld Neurosurgeryに「下垂体腫瘍へのAI利用」についてをまとめたレビュー論文を公開した。同論文によると、過去10年間で下垂体病変の診断を支援し、経蝶形骨洞下垂体手術における術中・術後の合併症を予測するための機械学習モデルの数は、文字通り指数関数的に増加しているという。関連データの規模拡大に伴い、当該アルゴリズム群は従前ゴールドスタンダードとされた予測ツールの精度を既に上回っており、患者ケアの質と患者アウトカムの改善の観点からは今後最も重要なアプローチとなることを指摘する。
下垂体手術領域における人工ニューラルネットワークは、視覚誘発電位や脳脊髄液漏出などの術中変化を予測するもので一定の成果を示している。また、本領域で同様に脚光をあびるのはRadiomicsで、これは医用画像データに関する画像特徴量の網羅解析によって臨床情報との関連を探索するというもの。画像の定量化により、腫瘍の特徴を非侵襲的に正確な評価を加えることで術前生検を完全に回避することが期待されている。急激なエビデンスの集積と実臨床応用が進む「脳外科分野におけるAI利用」からも目が離せない。