計算手法の急速な発展と取得可能な化学・生物学的データの増加は、化学領域の成長にも多大な貢献をしている。情報処理技術を化学領域に応用する「ケモインフォマティクス」においては、その重要な研究ラインのひとつとして、中枢神経系への薬物の浸透を特定するため、血液脳関門(BBB)の透過性を予測するAIモデルが検討されている。
サウジアラビア・キングサウド大学の研究チームは、深層学習ベースのリカレントニューラルネットワークによって高精度なBBB透過性予測モデルの構築に成功した。査読つき学術ジャーナルであるComputational Biology and Chemistryに公開されたチームの研究論文によると、アルゴリズム構築に先立って既存のモデル分析を行っており、ここでは分類器のパフォーマンスに影響を与える3つの主要な課題を特定している。それぞれのソリューションを考慮した上で、シンプルなニューラルネットワークに対し、時系列データを取り扱えるように拡張したリカレントニューラルネットワークによって新しい予測モデルを構築したという。チームのモデルは96.53%と高い精度を示し、従来の予測モデルを大幅に上回っていた。
BBBは血中から脳内への物質移行を制限する生体機能で、バリア機構として重要な役割を果たす一方、中枢神経系への薬物送達を難しくしており、脳神経系疾患の治療を困難にする一因ともなってきた。AIによる高精度なBBB透過性予測は、薬剤設計と治療計画策定における大きな示唆を与えるものとして注目を集めている。