人によって作り出される数多の候補化合物のうち、実際の医薬品となるのは極めて少数である。中枢神経系に作用する薬剤においては、初期の創薬プロセスとして、血液脳関門(BBB)を化合物が通過できるかが大きなポイントとなる。近年、AIを利用したBBBの透過性予測が注目を集め、多くの研究者がこのテーマに取り組んでいる。
BBBは血中から脳内への物質移行を妨げる機能だが、脳毛細血管のトランスポーターなどによってその透過選択性(どの物質を通過させ、どの物質を通過させないか)は複雑に制御されている。AIによる正確な予測を実現させるにはバランスの取れた学習データを用意する必要があるが、2018年以前は比較的偏った学習データに基づく知見が多く、偽陽性割合の高い可能性が指摘されてきた(参照)。2019年、研究報告の質はより洗練され、各予測モデルを比較・検証することも可能な段階に入っており、適切なレビュー論文の発表が待たれている。
これまで、BBBの精緻な分子機構解明でしかアプローチできなかった透過性予測は、深層学習技術の高まりにより、機序の明確化さえ後回しにし得る大胆な予測ツールを得ようとしている。脳透過性分子の設計における新しい戦略として、創薬業界からの期待も非常に大きい。