手術支援ロボットの市場規模は拡大し続けている。最大手メーカーIntuitive Surgicalのロボット da Vinci は1ユニット約150万ドルで、900ユニット以上を出荷してきた。手術ロボット全体の世界市場は2018年の54億ドルから、2025年までに240億ドルを超える予測がある。
米メディアUndarkでは手術ロボットとデータ分析の功罪を解説している。手術の機械化に伴い、切除・クランプ・縫合といったすべての手術データが収集され分析できるようになった。データは貴重なトレーニングツールとなり、術者は手術内容に詳細なフィードバックを受け取る。機械学習で初心者と経験者の手術手技を分類する研究や、AIが術者のレベルを判定する研究が進んできた(過去記事)。
一方で、手術手技を第三者視点から詳細にデータ分析されることは、既にストレスが多い外科医の労働環境に、新たな感情的ストレスを追加するかもしれない。極端な例として、AIアルゴリズムが「外科医として不適格」と判定したり、「慎重な手術を非効率」とみなしたらどうだろう。手術スタッフが不足する病院では、患者の回復期間よりも手術時間の短縮を優先するよう医師に要求するかもしれない。そのような未来予想図では外科医は簡単に燃え尽きてしまう。
ロボット支援手術によって集められたデータが、患者と医師の双方に利益をもたらすことはまず間違いない。ただし、データが多いほどにノイズも増え、追加情報がいつも知恵になるとは限らない。「外科学会のような機関が手術データの規制と結果の優先順位付けに責任をもつのが望ましい」と、ロズウェルパーク癌研究所のロボット手術グループを率いるGuru医師はインタビューで語っている。医療の普遍的な最優先事項「患者に害を及ぼすなかれ」に立ち返り、目の前の手術パフォーマンスと先端技術に魅了され過ぎないバランス感覚が求められている。