過活動膀胱は頻繁で切迫する尿意と排尿パターンが日常生活を煩わせる疾患で、米国で3300万人、日本で800万人以上という有病者数の推定がある。薬物・運動・電気刺激・行動認知による治療が行われるが、決定的な改善が得られないケースもあり、次世代の治療法に対する期待は大きい。そのような中、2019年の学術誌Natureに、ラット体内に埋め込まれたLEDデバイスの光で膀胱の神経細胞を制御して排尿パターンを正常化させる、光遺伝学による新技術が発表されている。
Science Newsの報道では、米国イリノイ州のノースウェスタン大学から発表された同技術を紹介している。過活動膀胱を人為的に引き起こす薬物シクロホスファミドを注射したラットで、インプラントデバイスは試験された。ラットに無毒なウイルスが導入されることで、膀胱の神経細胞には光で活性化されるarchaerhodopsin(Arch)というタンパク質が生成できるようになる。そのタンパク質は膀胱の過剰な尿意が脳に伝達されるのを抑制する。光遺伝学的アプローチと呼ばれる手法が応用された同試験では、ラットの頻繁な排尿を膀胱に巻きつけられたセンサーが検出するとLEDが点灯、Archタンパク質が活性化され、ラットの排尿パターンは正常になった。
従来の治療法のひとつ、電気刺激療法もインプラントデバイスで活用されてきたが、膀胱以外にも周囲の神経を刺激してしまい、隣接する臓器の機能を妨げたり、継続する電気刺激による不快感が合併症となった。排尿に関わる神経のみを選別する新技術はそれらの欠点を改善するかもしれない。新しいインプラント技術は短期的な有効性で大きな感銘を受けるものだが、長期的な治療の合併症はこれから明らかになる可能性もある。やがて安全性が証明された場合は、過活動膀胱に苦しむ多くの人々に福音となるだろう。また、同様の光遺伝学インプラントは心臓・肺・筋肉の疾患に応用される期待も高まっている。