医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例医療AIがもたらす影響・問題点患者がAI医療を信用しない理由 - 能力でもお金でもない答えは?

患者がAI医療を信用しない理由 – 能力でもお金でもない答えは?

患者がAI医療に対して拒否感を示すパリ第5大学の「AIに対する意識調査」を以前に紹介した(過去記事)。AIに対する不信感はなにが原因か。能力が医師に劣ると思うから?それともAIシステムを高価と感じるから?答えはどちらでもなさそうだ。AI医療の関係者たちは患者の不安感を克服するためどのようなアプローチを必要とするだろう。

Harvard Business Reviewは、ニューヨーク大学のチームがJournal of Consumer Researchに発表した、「医療AIに対する患者の受容性」研究を紹介する。医療が人間ではなくAIによって提供される場合、患者のサービス利用率が低下し、サービスへの支払額を抑えたい気持ちが働く。また、診断が不正確となることや、手術合併症の危険が増す場合でも、人間からのサービスを望む結果となった。そこから導き出される患者のAIに対する拒否感の理由は、「自分は他とは違うユニークさを持っており、AIは自分の特別な状況や特性を考慮してくれない」という思いから生じているということであった。そのユニークさには健康と病気が含まれ、たとえそれが風邪であっても、「私の風邪は特別だ、AIはきっとそれをわかってくれない」と思うのである。

調査法を変えても、AIに対する拒否の傾向が導き出される。診断の正確さ・手術の安全性という点で、人間の医師同士を比較するならば患者はパフォーマンスの高い方を明確に好む。一方で、高性能AIと劣る人間を比べると、AIを選ばず、人間からのケア提供を望むのであった。また、医療費の支払いについて、診断精度が同じ89%と示されたAIと人間医師という状況で、人間医師からAIに切り替えるため50ドル支払うよりも、AIから人間医師に交代するため50ドル支払う方が、支払う意思が強かった。

では、AI医療の提供者たちは今後どのようなステップをとるのが良いのか?例えば、AIが患者の個別性に合わせて特別に扱っているというアクションを示すことで、患者は統計的な平均として扱われる心配を和らげてゆく。また、AI医療を提供するときは、人間医師がAIを推奨している、最終責任者は人間であると明示されることで、患者の受け入れ度合いが大きく向上することも調査ではわかっている。技術が人々に受け入れられる段階で、論理的な正しさのみではなく、非合理的で感情的な選択がなされる。そのことを医療AIに携わる全ての人が今一度思い返すべきだろう。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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