リキッドバイオプシー(liquid biopsy)は、血液や尿などの生体液体成分から腫瘍関連情報を取り出す低侵襲な診断技術で、近年急速な技術発達と知見の集積が進んでいる。リキッドバイオプシー検体に含まれるがんの遺伝子変異などを捉えることで、早期診断や個別化された治療薬選択に結び付けられる可能性が期待されているが、この分野においてもまたAIの果たす役割が大きくなろうとしている。
検体に含まれる複雑で微かなシグナルを正確に捉えることは容易ではないが、ここにAI活用の余地がある。DNAシーケンス技術をリードするIlluminaは、2016年に米GRAILと提携することを公表した。ビッグネーム協調の背景には、遺伝子スクリーニングとAI技術を用いて臨床データを解析し、ピンポイントにがん特異的なパターンを抽出する狙いがあった。実際、GRAILはSTRIVE Studyと呼ばれる約10万人の参加者を抱えた大規模臨床試験を展開し、複数のがん種を血液検査から早期発見する手法開発に取り組んでいる。
また、同様の技術開発への熱意はアカデミアにおいても変わらない。米Johns Hopkins Universityの研究チームは機械学習を利用し、血液から8つのがん種とその局在を捉えるアルゴリズムを導いている。CancerSEEKと名付けられたこの手法においては、がん種ごとに特異度のバラツキはあるものの押し並べて有用な結果を提示し、早期がん診断に新たな道筋を示した。研究成果は学術誌Scienceに公表され、大きな注目を集めた。
血液検体は情報量が多いため知見集積に先行するが、今後尿をはじめとした他の体液成分についても更なる研究が進むことは間違いない。世界的な高齢化の進展を背景に、がんは死亡のleading causeのひとつであり続けると考えられ、その早期診断と個別化治療への需要はとてつもなく大きくなっている。