血管から採血し点滴することは、診断と治療に重要な最初の一歩である。検査・輸液・薬物投与・ステント留置・モニタリングといった医療行為がそこには含まれる。しかし、血管へのアクセスが決して容易ではないことに、医療現場を知る者は同意するだろう。学術誌 Nature Machine Intelligenceに発表された「ディープラーニングロボットのガイド下での自動血管アクセス」では、デバイスによる自律システムが人の手による血管アクセスを上回るパフォーマンスの可能性が示唆されている。
科学メディアScienceDailyでは、Nature Machine Intelligence収載の米ニュージャージー州ラトガース大学の研究チームが開発した採血ロボットに関する研究成果を紹介している。同ロボットはディープラーニングを赤外線および超音波イメージングと組み合わせ、組織内の血管を特定・分類・深さの推定を行う。その後モーショントラッキングなど複雑な視覚タスクを実行し、針を血管に穿刺する。静脈が浮き出ていないような条件の悪い血管でもロボットによる血管アクセスは88.2%の初回穿刺成功率が得られているなど、人の手技と同等あるいは超えることが期待されている。
小児・高齢者・血管の状態が悪い慢性疾患患者らでは、初回穿刺の成功率が50%未満となったり平均5回以上の穿刺が必要といった報告もある。医療従事者は冷や汗をかき、一方で患者は痛みと不安に耐えながら日々の血管アクセスを確保している。血管アクセスがうまくいかないことは、人々の時間とエネルギーを拘束し、現場の医療資源を損なっている。そのような現場の風景にAIとロボティクスによる変革が訪れるのはさほど遠くはなさそうだ。