健康状態を長期的にモニタリングするうえで、排泄物からのデータを分析する手法の有用性が模索されてきた。この数年「スマートトイレ」という構想が出されてきたものの、臨床との統合性が低いなどの理由から医療者にとって真に実用的なデータを生み出せずにいた。Natureの関連誌 Nature Biomedical Engineeringにスタンフォード大学医学部を中心とした研究グループが発表した「排泄物から個人の健康状態をモニタリングする装着型トイレシステム」では臨床応用を意識した最新のスマートトイレが検証されている。
同研究については英新聞社 The Guardianでも報道されており、既存のトイレにマウントして装着するセンサーと分析機器の有用性を紹介している。尿に対しては標準的な検査試験紙キットと同様に尿糖や血尿をスクリーニング、画像解析で尿流量を測定し前立腺肥大症などの排尿障害を鑑別する手助けも可能となる。便に対しては便秘や下痢の臨床診断項目として形状と固さなどを分類するブリストルスケールに準拠してディープラーニングの手法で分類させ、医療従事者と同等の識別能を持たせた。臨床的価値が得にくかった過去の高価なスマートトイレに比して、科学的な有意性と実用性が意識される。
同研究がさらにユニークなのは、水洗ハンドルに指紋認証機能を搭載、肛門のしわを画像認証することで個人を特定し、安全なクラウドサーバーで情報を保護しながら、個別の健康状態を長期にモニタリングできるところである。スタンフォード大学側で300人に意見を求めたところ、30%がプライバシーの問題から、特に肛門の画像認証に対する感情的な懸念を示したため、普及に際しては注意が必要という指摘もある。チームによると今後は、検査の誤検出を防ぐためのセルフクリーニング機能、違法薬物や性感染症の検出、腸内細菌叢の分析など機能拡充を目指したいという。排泄物検査の普遍的な重要性を感じている臨床医視点からも、研究チームの本気度が感じられる、史上最もスマートなAIトイレシステムではないだろうか。