新型コロナウイルスは人々の受診行動を変えた。医療崩壊という印象の一方で、日本の市中病院は患者であふれ返っているとは限らない。むしろ外出自粛・接触を忌避して、一過性に受診を控え処方日数を延長する傾向が強まった。閑散とした内科待合室と対照的に、精神科・心療内科の受診は他科に比べ減少していない印象が臨床医の間に巡っている。COVID-19による社会的ストレスがメンタルヘルスに強く影響してることは疑いようもなく、徐々に研究成果が発表されてきた。
都市封鎖 lockdownによる精神状態について初期の研究は、精神医学学術誌Psychiatry Researchに発表されたオーストラリアのアデレード大学とシドニー大学および中国の同済大学のグループによる、中国64都市の1ヶ月間のロックダウン生活後調査である。結果として、慢性的な健康問題のある人々では負の生活満足度となり、健康問題のない成人で満足度は低下しなかった。また、1日2.5時間以上運動した参加者らで生活満足度が悪化した一方、ロックダウン中に1日の運動時間を30分以内とした群では肯定的な結果となった。ロックダウンに順応して運動時間を減らした人々は制約を受けたライフスタイルを正当化し合理化できた可能性があるとして、著者らは結果に驚きを示す。その上で、身体的に活発な人々ほど拘禁的生活に強い不満を感じメンタルヘルスを悪化させる可能性に注意を払うべきと示唆している。
精神的な影響をAIによって研究する動きもある。自然言語処理を駆使するスタンフォード大学心理学科のJohannes Eichstaedt准教授は、Twitter内のCOVID-19に関連した200万以上のtweetを症例数・死亡者数などのデータセットと組み合わせ、米国の地域別に解析している。同大学のニュースで報じているEichstaedt氏の分析結果として、都市部ほど感染予防行動や生活変化への適応を重視、地方ほどその適応についての議論が少ない。高齢化地域ほどトランプ大統領と経済的な影響の話題となり、若年者率が高い地域ほど手洗いについてtweetしている傾向となった。都市部と地方との有病率の差や世代間格差がつぶやきという精神活動に影響したことを示すひとつの研究成果といえる。
ニュース・報道がCOVID-19一色となり扇情的な内容に振り回される状況が続いている。身体だけでなく心まで感染拡大してしまうことを、私たちはどう予防してゆくか。より一層の柔軟な精神とメディアリテラシーが試されていると自認したい。