睡眠中に脳波を記録する研究は多岐にわたるが、K複合(K-complexes: KC)とよばれる短い脳波のアップダウンの意義を探る研究がある。「K」に似た形と評されるその波形の出現が欠乏していると、アルツハイマー病や不眠症などの問題との関わりが示唆されてきた。
学術誌 Sleepに発表されたのは、オーストラリアのフリンダース大学のチームによる「KCをディープラーニング手法で検出する」研究である。KCは睡眠中2分ごとに半秒程度現れ、その項目を含めて一夜の睡眠時間からスコアリングするには、検査1件当たり専門技術者で0.5-1.0時間ほどかかるという。しかもスコアラーの間での一致度は50%程度とばらつきが大きかった。ディープラーニングアルゴリズムによってKCを自動スコアリングすることで、評価にかかる時間は1件当たり約3分間に高速化され、F1スコア0.78にまで検出精度への信頼が高まった(従来利用可能なアルゴリズムは0.2-0.6程度)。
KCの評価にかかる労力を大幅に削減することで、その意義・役割の研究が促進されるかもしれない。現状で有力な仮説として、睡眠中の感覚入力に対して起床するか睡眠を維持するかの意思決定処理を、KCは反映しているのではないかという。睡眠トラッキングは技術発展と製品の市販化が進む注目の領域である。AIが睡眠の謎の解明に重要な役割を果たすことが期待されている。