医療関連感染症(HAI)は、入院中の死亡率の上昇、入院期間の延長、多剤耐性菌の増加などにつながる重要な問題である。HAIのサーベイランスは予防的介入のために重要だが、従来のIPC(感染予防管理)専門家による手動のサーベイランスは多くの労力と時間を要する。この課題を克服するために、AIを用いたHAIサーベイランスが注目を集めており、現状の成果を評価することを目的として、イタリアの研究チームがシステマティックレビューを実施した。
Artificial Intelligence in Medicineに発表された論文によると、研究チームは2013年から2023年の間に発表されたAIを用いたHAIのサーベイランスに関する研究を検索した結果、249件の論文がレビューの対象となった。HAIの内訳は、敗血症が約半数を占め、手術創感染、中心静脈カテーテル感染など多岐にわたり、特にICUでのHAIに注目する論文が多かった。AIの学習に使われたデータは、電子カルテ上の血液データや時系列データ、文章、画像、センサー信号などで、AIの評価としてはAUCや特異度が平均0.80以上と高い一方、感度は0.37~0.88とばらつきが大きいことが明らかになった。その原因として学習データの偏りや各施設でのデータ品質の差異、さらには予測対象となる感染定義そのものの不統一が影響している可能性に言及する。また、外部検証がされている論文はわずか12%で、臨床試験や実運用テストは数%にとどまり、費用対効果や患者アウトカムへの影響評価も限られていた。なお、敗血症のサーベイランスにおいてはAIモデルが従来法より特に優れたパフォーマンスを示していた。
研究者らは、「AIによるHAIサーベイランスは優れた研究結果が出ている一方で、臨床現場への導入は、現時点ではほとんど行われていない。AIモデルの開発者と医療現場が協力し、臨床転帰、コスト削減、普及率など、AIモデルの実臨床への影響を評価することが極めて重要である」と述べている。
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