AIは院内の敗血症を防ぐことができるか?

敗血症は、身体のどこかで発生した感染症が全身に広がって制御不能な反応を引き起こし、死に至る可能性も高い重篤な状態である。米国の病院で亡くなる患者の約1/3を敗血症が占めると言われている。多くの医師がその状態をよく知っていても、検出が難しい場合や、診断の遅れにつながることが繰り返されてきた。

米国バージニア州最大の地方紙Virginian-Pilotでは、サンタナ・ノーフォーク総合病院の「敗血症を予測するAIツールによる取り組み」を紹介している。同病院全体での敗血症死亡率9.5%に対して、入院中に新しく発症した敗血症患者は今年上半期で約1/3が亡くなったという。入院患者は既に別の合併症を抱えていることが、高い死亡率の原因と考えられている。導入されたAIツールは、電子カルテに記録される4500のデータを取得し、敗血症の発症リスクを評価する。高リスクの状態となった患者は電子カルテ上でアラートが出される。

敗血症予測AIツールは、ノースカロライナのデューク大学や、アラバマ州やボルチモアでも導入され、一定の成功を収めたと言われている。一方で、2016年のペンシルバニア大学病院での導入例では、医療スタッフが既に注意している患者を特定する結果に過ぎず、1年以内にシステムが停止された。サンタナ・ノーフォーク総合病院のMichael Hooper博士は「スクリーニングツールは完璧に設計されるのではなく、医師の見逃しを防ぐ役割がある」と語る。彼がICUで診療していると、一部の患者には有用でも、うまく適用されない症例もみられた。新しいAIアルゴリズムが、同院で統計的に有意な効果を持つか判断するには時期尚早だが、敗血症の症例数自体は減少傾向にあるという。現状の医療AIツールは、あらゆる施設に共通して効果を示すとは限らず、それぞれで有効性を検証する取り組みも欠かせない。

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TOKYO analyticaはデータサイエンスと臨床医学に強力なバックグラウンドを有し、健康増進の追求を目的とした技術開発と科学的エビデンス構築を主導するソーシャルベンチャーです。 The Medical AI Timesにおける記事執筆は、循環器内科・心臓血管外科・救命救急科・小児科・泌尿器科などの現役医師およびライフサイエンス研究者らが中心となって行い、下記2名の医師が監修しています。 1. 岡本 将輝 信州大学医学部卒(MD)、東京大学大学院専門職学位課程修了(MPH)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(PhD)、英University College London(UCL)科学修士課程最優等修了(MSc with distinction)。UCL visiting researcher、日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員を経て、現在は米ハーバード大学医学部講師、マサチューセッツ総合病院研究員、SBI大学院大学客員教授など。専門はメディカルデータサイエンス。 2. 杉野 智啓 防衛医科大学校卒(MD)。大学病院、米メリーランド州対テロ救助部隊を経て、現在は都内市中病院に勤務。専門は泌尿器科学、がん治療、バイオテロ傷病者の診断・治療、緩和ケアおよび訪問診療。泌尿器科専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。
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