医療とAIのニュース医療におけるAI活用事例「聞きたい声だけ」を脳信号で増幅ー雑音下での会話理解を改善

「聞きたい声だけ」を脳信号で増幅ー雑音下での会話理解を改善

補聴器はすべての音を増幅するため、複数人が同時に話す環境では目的の会話を聞き取ることが難しい。聴取者の脳信号から注意対象の話者を検出し、その声だけを選択的に増幅する「聴覚的注意デコーディング(AAD)」はこの問題の解決策として期待されてきたが、リアルタイムで実際の知覚改善が得られるかどうかは未解明だった。米国の研究チームらは、高解像度頭蓋内脳波(iEEG)を用いたリアルタイム閉ループAADシステムを開発し、複数話者環境における音声知覚を有意に改善することを初めて実証し、Nature Neuroscienceに発表した。

研究では、てんかんの臨床モニタリングのため頭蓋内電極を埋め込み中の4人を対象に、iEEGを用いてAADを実施した。被験者には、左右に配置された2つの会話音声を同時提示し、注意を向ける話者を選択させ、脳波から特定の周波を取り出し、注意対象を推定したところ、精度は72.0〜90.3%に達した。対象話者の信号対雑音比が平均12dB改善し、全試行の75〜95%において「脳が制御する音声の方が聞き取りやすい」と好まれた。また瞳孔径解析では、聴取努力の有意な低下も確認された。さらに、40人の難聴者を対象とした検証では、通常条件よりも高い主観的満足度と音声明瞭度改善が認められた。

本研究では、対象話者の聞き取り精度向上、聴取負荷の低下、利用者満足度の改善が確認されたほか、自発的な注意の切り替えにも追従可能であることが示された。著者らは、「本技術は利用者の“聴きたい相手”を脳信号から推定し、その音声のみを強調することで、脳活動に基づくリアルタイム聴覚支援が実際の知覚改善につながることを初めて示した」と述べている。今後は、侵襲的iEEGに代わる非侵襲的脳波計測との統合、小型化、実環境での長期運用などが進めば、次世代補聴器や認知支援デバイスへの応用が期待される。

参照論文:

Real-time brain-controlled selective hearing enhances speech perception in multi-talker environments

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本吉絢
本吉絢
東京女子医科大学卒(MD)、同大学医学研究科博士課程修了(PhD)、米University of Washington研究員を経て、現在は神戸アイセンターにてリサーチアソシエイトとして眼科AI研究に取り組む。趣味は自然と猫や馬など動物たちを愛でて静かに過ごすこと。
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