肺がん領域では遺伝子検索と病理学が融合し、昨今研究の進歩が著しい。がんのタイプ別にどのような治療が最適か、どのような経過をたどるか、いわゆる個別化医療の最たる例となってきた。再発リスクが高い肺がん患者を特定する新しいAI研究が学術誌 Nature Medicineに発表されている。
Medical Xpressでは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとフランシス・クリック研究所の共同研究グループから発表された同論文について紹介している。研究内では小細胞肺がん患者の腫瘍検体に、AI病理画像マッピングと次世代シーケンサーによる遺伝子解析を組み合わせる手法が用いられた。その結果、肺がんの中でがん細胞に比較して免疫細胞が多い腫瘍の領域をマッピングし、免疫細胞が多く詰まった「hot(ホット)」な腫瘍領域と、完全に欠如した「cold(コールド)」な領域を識別することができた。「コールド」な領域が多い患者の経過を追跡したところ、がんの再発リスクが高いことが示されたという。同研究はTRACERxと呼ばれる英国の大規模肺がん研究の一環として行われている。
研究チームの考察では、免疫細胞が少ない領域のがんは、免疫系からの進化の圧力を受け、人間の身体ががんに対して持つ自然な防御メカニズムから隠れる能力を得たとしている。それらの仮説に対し、TRACERx研究を率いるCancer Research UKのCharles Swanton教授は、がん細胞の自然淘汰と適応についてダーウィンが提唱した進化論になぞらえたユニークな解説をしている。これからも腫瘍の多様性についてAIを応用した研究が進むことで、個々の肺がん患者に合わせた治療戦略の開発に役立つことが期待される。